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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】二つ目の対価の宝箱

 アレオンが呟いた言葉に、カズサが頷いた。


「その可能性が大きいと思います。実際興亡史の中でも、絶望で死んだ者の代わりに王位に就くのは、同時期に同様に台頭してきた別の実力者でした。……呪いの主は対価の宝箱を数人に与え、その中でも一番欲望に弱く自分の都合のいい人間を選んで、契約をしたのではないかと」

「……いや、だがエルダールの王家の中では、王位を取れる立場で自死をしたような奴はいないぞ。宝箱が複数あるなら、何人か死んでもおかしくないと思うんだが」

「その点は、新興国を作る時の無作為な宝箱のばらまきとはまた違うようなんです」


 現王国を潰して新興国を作る時は、実力のある人間が潜る高ランクのゲートに宝箱を隠し、見つけた者に願いを叶える権利を与える。

 そうして欲望に負けて宝箱を使った人間に、重ねて権利を与えて洗脳し、最終的にその中から一人を選び呪いの契約をするのだろうというのがカズサの見立てだった。


 だが、王族内となると話は別だという。


 呪いは代替わりしても継承されていくが、途中で呪いを解消しようという王が現れると、その王を廃して次の王位を継げる立場の人間の前に、対価の宝箱が現れる。


「王族内でも王位継承権を持たない者では契約する意味がないですから。次代の王位に一番近く、対価の宝箱になびいた者が選ばれるんだと思います」

「……王族の場合は最初から狙いをつけられているということか。まあその方が確実だろうな、対価の宝箱も一個で済むし。……ってことは、今は俺のとこにある一個だけだろう」


 わざわざ対価の宝箱が二つ以上ある可能性を説くから面食らったが、王族内では一個しか現れないなら後はアレオン次第だ。

 未だ破壊することは敵わないが、二年近く放置していられたのだ。

 後もう少し、ライネルが王位を取るまで我慢すれば、きっと心置きなく破壊できる。


 しかしそう言ったアレオンに、カズサは顔を曇らせた。


「その対価の宝箱放置の状態が、どう作用するかなんですよね……。おチビちゃんに聞いた話だと、殿下が宝箱に反応しない場合、エルダール王家そのものを潰すべく他の者の前に対価の宝箱が現れるんじゃないかということなんですけど」

「それは……俺のところにあるにも関わらず、王族外に次の対価の宝箱が出現するってことか……?」

「そうです。可能性として、の話ですけど」


 現在、エルダール直系の人間は父王とライネル、そしてアレオンしかいない。そして他の親族は父王の猜疑心によって王宮から遠ざけられていた。

 そうなると、アレオンと契約が難しいなら、王族の外で契約相手を捕まえようとするかもしれないということなのだろう。


「王族外に、対価の宝箱か……」

「殿下、何か心当たりが?」

「……ちょっとな」


 考え込むようにそう呟くアレオンの脳裏には、キイとクウの姿があった。

 以前彼らに聞いた話を思い出していたのだ。


 二人の竜人に合成されたドラゴンの心臓。

 それをキイとクウは討伐したものでなく、ジアレイスが『宝箱から出した』ものだと言っていた。


 今までアレオンが知る限り、ボスの討伐報酬以外ではどんなレア宝箱からも、加工されていない魔物素材がそのまま出たことはない。

 万が一出たとしても、それは『出た』のであって、『出した』のではない。


 つまり、自らそれを欲して願わなければ、『宝箱から出した』とは言えないのだ。


 あの時はまさか、ありえないと思っていたけれど。


「……すでに王族外で……ジアレイスが対価の宝箱に憑かれているかもしれない」

「は!? ジアレイスですって!?」

「キイとクウに合成されたドラゴンの心臓は、おそらく対価の宝箱を使って出したものだ」

「キイとクウに合成されたって……ちょっと待って。それって殿下が対価の宝箱を手に入れるよりもっと前の話でしょ。時期がおかしくないですか?」

「おかしかねえよ。その通り、俺より先にジアレイスの方に対価の宝箱が現れてたんだろ」


 アレオンは時系列に話を並べてみた。


 多分だが父王が後継をライネルに決め、その権限を幾らか彼に渡した頃が始まりだろう。

 ライネルが一八歳の頃だから、すでに七年前になる。


 当然その頃から『呪い』の存在は知っていて、彼はその解消に動き出したに違いなかった。

 と考えれば、ライネルに王位が継がれる前にと、すぐに呪いの主は動き出したはずなのだ。彼が力を付けてきた今になって慌てて動き始めたわけではあるまい。


 おそらくその時はまだ次なる直系の王族として、呪いの主はアレオンを狙っていたのではなかろうか。

 その当時は十三・四歳だったが、すでに高ランクゲートをひとりで歩き回るだけの実力があった。


 ただ、厭世家だったアレオンは希望も欲も持たず、宝箱に一切興味を示さなかったのだ。もしかすると何度か対価の宝箱には遭遇していたかも知れないが、アレオンがその釣り糸に引っかかることはなかった。


 そこで一度見切りを付けて、王族外へと手を伸ばしたのだろう。


「……それで対価の宝箱に当たった次の実力者がジアレイスですか? ひょろひょろの研究者だし、個人として全然実力があるってイメージないんですけど」

「あいつ、権力がある上に魔物や半魔を使役できるだろ。俺はジアレイスがその使役する魔物たちを連れて、地下のランクSSSのゲートに潜ったことがあるんじゃないかと思ってる」

「ランクSSSゲートに……!? あ、でもそこで対価の宝箱と遭遇したと考えればつじつまは合うか」


 ジアレイスたちが地下のゲートの封印を解いていると聞いてから、奴らがそこに潜った可能性はずっと考えていた。

 ……チビが魔研に捕らえられた場所が、そこしか思いつかなかったからだ。


 あれだけの魔力を持つ子ども、地上にいたら誰にも見つからないでいられるわけがない。当時は羽もあったようだし、間違いなく目立ったはずだ。


 となるとやはり、ジアレイスたちがランクSSSゲートに潜り、チビを捕らえ、対価の宝箱と遭遇したと考えるのが妥当だった。


「ジアレイスが遭遇した宝箱を開けないはずがないし、欲望を満たしてくれる誘惑を払いのけるはずもないだろ」

「まあ、操って契約に持ち込むには打って付けな相手かもですね」


 欲望の強いジアレイスは、対価の宝箱の格好の獲物だったに違いない。

 現在どこまで洗脳されているのかは分からないが、かなりズブズブになっていることだろう。


「……でもそうすると、何で今さら殿下の前にも対価の宝箱が現れたんでしょうね」

「……おそらく俺に以前はなかった欲が出たからだろ。まんまと対価の宝箱に引っ掛かってしまうくらいの」

「ああ、おチビちゃんと一緒にいたい欲ね! おかげで殿下、ずいぶん変わっちゃいましたもんね」


 そのまんま言葉にされて、不愉快げに眉を顰める。


「うるせえな。……とにかく、王族に継がせた方がいいと思ったのか、ジアレイスの方に何か問題があるのか、もしくは候補が二人いた方が都合がいいのか分からねえが、今は対価の宝箱が二つあると考えて良いと思う」

「そうですね。……しかし、ジアレイスのところに対価の宝箱があるとして、陛下はそのこと知ってるのかなあ。エルダール王家存亡の危機ですけど」

「知らねえだろ。歴代の王は隠された初代の真実も、対価の宝箱の役割も分かってるはずだし。知っててあいつを親友だと言うなら頭おかしい」

「あー、まあ、それもそうですね」


 カズサは苦笑をすると、テーブルについていた肘を外して椅子に身体を預けた。


「じゃあ、これまでの話を踏まえて今後はどうして行きましょうか」

「チビがどこから対価の宝箱の話を手に入れてきたのかが気になるが、それは後にするか……。とりあえず、俺が今のゲートをクリアしてくるまでは待機だ」

「ジアレイスのところに対価の宝箱があるかもしれないこと、ライネル殿下にも連絡しときます?」

「……いや、いい。ジアレイスは俺が殺すし、俺の宝箱も……最後に自分で壊す」


 ジアレイスのところにも対価の宝箱があるのだから、対抗するのにこちらにも宝箱が必要になるかも知れない。壊すのは魔研を潰し、ライネルが王位を取った後、最後の最後でいいだろう。

 アレオンはそう自分に言い訳する。


 それに対価の宝箱さえなくなってしまえば、呪いの解消はライネルに任せてしまえばいいのだ。注力するのはそこだけでいい。


「何にしろ、親父やジアレイスが動き出すのは俺が死んだと確認できてからだろう。とりあえず兄貴の方からは、親父たちの動向を連絡してもらってくれ」

「了解です」


 予想外の報告があったものの、結局やることは魔研を潰し、ライネルを即位させることで変わりない。

 ただ、対価の宝箱のせいで一筋縄では行きそうにないことだけが気掛かりだった。


 もしもライネルが父王を討とうと兵を挙げた時、ジアレイスはどう動くのか。

 アレオンが攻めてきた時、何を使って対応するのか。

 想像がつかない。


 だがそれでも、チビとの平穏な日々を勝ち得るためには、何としてもやるしかないのだ。

 アレオンはそう心に決めて、再びチビのいる寝室に戻った。


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