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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】正当な評価

 その日の夜はチビを抱き枕にして眠り、翌朝にはアレオンは帰らずの洞窟のテントに戻った。

 本格的なゲートの攻略はここからだ。


 だがその前に、転移してきたテントの中から外の様子を窺う。

 薄暗い洞窟の中、本来は自分と竜人たち以外はいないはずの空間。そこにかすかな別の気配を見つけて、思惑通り昨晩のうちに監視者が例の岩場に隠れたのが分かった。


 奴らがいるからだろう、キイとクウもぴたりと動きを止めている。

 意思があることを覚られないように、アレオンが命令をするまでは動かないつもりなのだ。


(ふむ、三日と少しで追いついてきたということは、監視の奴らは途中ほとんど休まずに来たはずだ。今は疲労困憊だろうし、この時点で俺が油断してると思って何かを仕掛けてくることはない。だったら二人を連れて、とっととゲートに入ってしまおう)


 ひとまず、ここでは自分たちが確かにゲートに入ったことを監視者に見届けてもらえばいい。

 アレオンはテントを出ると、一度わざとらしく背伸びをした。


「さてと、周辺にいるのが面倒な敵ばかりで苦労したが、ようやく昨日で倒しきったし、今日こそゲートに入るか。おい、お前ら。ガキを探しに行くぞ、しっかり働けよ」


 テントを手早く畳んでポーチにしまい込み、少々大仰にキイとクウに声を掛ける。

 もちろん、監視者にも聞こえるようにだ。

 与える情報はこれだけで十分。


 岩陰に隠れる奴らのことは完全に気付かないふりをして、アレオンは竜人二人を引き連れ、ゲートに向かった。






 帰らずの洞窟のゲートは周囲にいた魔物と同様、アンデッド、吸血鬼、霊魂、魔術師などなど、物理主体で戦うアレオンとは相性の悪い敵ばかりがいた。


 一応ヘアピンを着けていれば状態異常と即死は無効にできるのだが、当然攻撃はそれだけじゃない。

 このランクともなれば属性魔法攻撃はそれだけで威力が強いし、何よりドレイン系の魔法を食らうとかなり痛い。


 それを回避するためには特効武器での奇襲攻撃が肝心。

 しかし、この不死者関係は首を落としても心臓を貫いても死なない奴がいるのが厄介だった。


「……この帰らずの洞窟のゲートは、俺一人だけだったら確実に攻略できないな。今までずっと範疇外だったから、これ系の魔物知識も全然足りないし」


 一日目、どうにか20階下ったところで野営をする。

 いつもの食事は干し肉を囓るだけだが、今日は劣化防止BOXにチビが作ってくれたおにぎりとカズサの入れたおかずが入っているのでちゃんと座って食べた。


 その後魔法の蛇口から水を飲んで一息つく。

 同じように汲んだ水をキイとクウにも飲ませつつ、アレオンはため息と共に肩を竦めた。


 一応自分が敵の急所を見つけられなくても、竜人二人がいてとどめを刺してくれるから、そのフォローで事なきを得ている。キイクウ様々だ。

 もしもジアレイスの思惑通り、彼らが操られていてここでいきなり裏切ったら、いつ帰らぬ人の仲間入りをしてもおかしくはなかった。


「人間がここを攻略するのなら、本来は十分な装備をして、かなりランクの高い魔法使いがいないと無理だと思います。アレオン様はどうしても近距離になりますし、攻撃を当てる場所も限定的になりますから難しいはずです」

「上手く急所に当たってる時は一撃だからさくさく進めるんだがな。手応えがないとイライラするし、ここは精神的な疲弊が大きくて参る」


 まあ今後、父王や魔研の指示でこんな不得手なゲートに入る必要はなくなるのだから、今だけの我慢だ。

 アレオンはそう割り切って竜人二人を見た。


「ここではお前たちのブレスに頼りきりだが、体力の方はどうだ? こっちで飯の準備をしなくて平気か? アンデッド系だと食うとこないだろ」

「平気です。キイたちには魔力もご飯になりますから、霊魂やリッチなんかは栄養になりますよ」

「……人間の飯は食わんのか?」


 アンデッド関係を食べると腹を壊しそうだなと思いつつ、訊ねる。


「クウたちも人型に変化した時は食べます。ただ摂取できる量が少ないので、一日二・三食になりますが」

「俺たちと同じ頻度になるってことか。……まあ人間の食事でも過ごせるなら、お前たちは魔研から解放された後は普通に街で暮らせるな」


 食事のたびにいちいち魔物肉を探しに行くのでは面倒だろうけれど、人間の食事でも平気なら問題なさそうだ。

 しかしそんなアレオンの言葉に、キイが小さく唸った。


「んー、どうでしょう。一応人間の生活や経済活動の知識はありますので、街の暮らしに参加はできるかもしれません。……ただ、キイたちは一度竜の谷に行ってみたい気もしているのですが」

「竜の谷って、魔界の? そうか、もし半魔でも受け入れてもらえるならそっちでも良いかもな。だがどちらにしろ、お前たちが自由になった時に使える金は準備しておいたほうがいいだろう。このゲート攻略で手に入る金目の物は、お前たち用に換金しておくか」


 すぐに魔界に行けるなら良いが、そういう伝手などがあるのかも分からない。

 しばらくこの世界に留まるならば街の外で魔物として闊歩するよりは、クエスト対象にならない分街中の方が安全だ。衣食住に困らない程度の金があれば大丈夫だろう。


 そう告げると、竜人たちは驚いたようだった。


「クウたちが魔研から逃げた後の資金を?」

「チビ様との生活資金にしなくてよろしいのですか?」

「俺たちの分は十分あるし、足りなかったら今後もゲートで稼げば良い。それに、どうせこのゲートではお前たちに頑張ってもらうことになるんだ。相応の報酬だと考えて受け取っておけ」


 良い働きには良い報酬があってしかるべきだ。

 優しさというよりは、ドライで合理的だからこそアレオンはそう考えている。

 素直な労いの言葉を掛ける優しさ、柔軟さが足りない分、こうしてきちんと働きを認め、評価する。今まで正当な対価を受け取ってこなかった竜人たちだからこそ、これは必要な対応だ。


「金は狐にカードを作らせて、魔研を脱出できた時に渡す。それでいいか?」

「もちろんです、アレオン様! そんなふうに評価して頂けるなんて……! キイたちはこれからも頑張って働きますね」


 感激して喜ぶキイの隣で、けれどクウは軽く首を傾げた。


「……しかし、アレオン様。相性の悪い敵ばかりのこのゲートを、わざわざ貴方様が攻略して進む必要はないのでは? どうせ死ぬふりをするのでしたら、この辺りの階で死んだと思わせてゲートを出てしまってもいい気がするのですが」


 クウは、快活で素直なキイより少しだけ冷静で思慮深い。彼の指摘はもっともだ。

 アレオンはその言葉に、腕を組んで答えた。


「まあ、確かにな。だが死んだ証としてこのポーチを魔研に渡すには、代わりのポーチを準備しないといけない。代わりの転移魔石もだ。それを狐に指示してきたが、どうせ出来上がるまでに時間が掛かるんだ」

「時間があるからゲート攻略を進めてしまおうと? でもわざわざ危険を冒さなくても、この階で待てばよろしいかと」

「もちろんそれも考えたが、問題なのは待ち時間だけじゃない」


 と言うか、どちらかというとこちらの方が問題だ。


「ゲートが残ったままだと、万が一、監視者たちが俺の死体を確認するよう魔研から指示を出された場合が面倒なんだ。お前たちが途中階の脱出方陣を使って出れば何階まで下っていたかバレるし、隠密は敵から姿を隠して階を降りていけるからな」


 下り階段につながる通路の敵は全てアレオンたちが倒していった後なのだから、奴らはおそらくさほどの苦もなく該当階に着くだろう。

 そこで死体どころか、自分たちが争った形跡も血の跡もないのが見つかると厄介だった。


 監視者はともかく、報告を受けた魔研は実力を知っているからこそ、アレオンが何の抵抗もなくやられるはずがないと訝しむだろう。

 最悪キイとクウに疑念が向く可能性もあるし、これは避けたい。

 それに、ここでさらに父王とジアレイスに警戒を強められたら本末転倒なのだ。


 ならばゲートをクリアして、証拠を消してしまうのが一番手っ取り早い。


 どちらにしろキイとクウはチビを探して後々ここをクリアするよう言われているのだから、アレオンはボスを倒した後にキイとクウに倒されたということにしてしまえばいいだろう。


「……なるほど。ゲートの中にアレオン様の死体がないことを、クリアすることで完全に隠すのですね」

「お前たちも二度手間にならないし、ちょうどいいだろ」


 ただその後は竜人二人との接点がなくなるから、それまでに色々示し合わせておかねばならないけれど。


「お前たちにはまだ魔研にいてもらわなくちゃならないが、おそらく後少しの辛抱だから我慢してくれ」

「大丈夫です、アレオン様。キイたちはこの鬱憤をジアレイスたちに叩き付けることを楽しみにして溜めておりますので」

「クウたちはいつでも暴れる準備はできております」

「それは頼もしいな」


 アレオンの死は、この腐った王政の大きな転機になるはずだ。

 まずはここで上手く姿を消すのが肝要。


 さらにやる気を出したキイとクウを従えて、アレオンは今後のことに思いを巡らせた。


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