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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【五年前の回想】アレオン暗殺計画に乗る

 王都の南西には、鬱蒼とした広大な森がある。


 この辺りは街村から遠く、滅多に人の立ち入らない未開の地だ。

 故に、ここには大小数多のゲートが存在し、魔物がたくさん闊歩している。

 帰らずの洞窟も、そんな森の一角にある魔物の吹きだまりのひとつだった。





「目印は崖の手前の大きな一本杉……あそこか」


 地図と大体の情報を元に、僅か半日ほどでアレオンは目的の場所を見つけた。

 しかし直接その場所には降りず、幾らか離れたところで着地する。

 ランクも分からない状態では、さすがにたむろする魔物のど真ん中に降りるわけにはいかなかった。


 それに、突入する前にキイとクウにいろいろ話をする必要がある。

 その時間を取るためもあって、監視たちをぶっちぎってきたのだ。

 魔物退治は一旦後回し。

 アレオンは魔物がいる場所から十分な距離を取って木陰に身を隠し、キイとクウも小ドラゴンに戻させた。


「さすが、お前たちの翼があればひとっ飛びだったな。ご苦労だった」

「アレオン様、監視の者はあのままでよろしかったのですか?」


 ここまでの飛行を平然と労うアレオンに、キイが不思議そうに首を傾げる。奴らがゆくゆくは追いついて来てしまうことを懸念しているようだ。


 しかしアレオンとしては、逆に監視者を利用する気満々だった。


「いいんだ。あの辺りで殺すとすぐにバレて次の監視が来るだけだし、とりあえず俺たちがゲートに着いた報告を魔研に入れてもらわないとならんからな」

「では、あの者たちがやってくるまではゲートに入らず、地上で待機ですか?」

「そうだな。ただ、奴らに特効武器なんかを持っていることを知られると厄介だから、今のうちにゲートの外にいる魔物は倒しておく。お前たちのことも当てにしているぞ」


 そう言うと、竜人二人は声を揃えた。


「「お任せ下さい、アレオン様」」


 良い返事だ。

 これは、あくまで使役でなく、彼らの意思。大いに信用できる。

 しかしまだ、このまま戦いに赴くわけにはいかなかった。


「……さてその前に、必要な話を済ませておく必要がある」

「もちろん、キイたちも承知しています」

「クウたちにも、アレオン様にお話ししなければいけないことがありますので」

「まあ、だろうな」


 アレオンは大木に寄りかかると、腕を組んでまずは話を聞く体勢を取った。


「先にお前たちの報告をくれ。どうせジアレイスから事前に何か命令を下されてるんだろ?」

「さすがアレオン様、もうお察しですね」

「では、クウがご報告いたします」


 クウは小さく咳払いをして、報告を始めた。


「クウたちは今回の同行で、アレオン様が危機に陥っても助けないように、と命令されています。そしてアレオン様が状態異常などになって動けなくなったら、処分して帰ってこいとも」

「何か既視感のある内容だな。……まあ、おおむね想像通りだが」


 元々、アレオンは父王ともジアレイスとも折り合いが悪い。

 それでも今まで父が息子を排除しなかったのは、アレオンに国民人気の高さと高ランクゲートでの稼ぎの良さがあり、そして不仲でも明確な叛意を示さなかったからだ。


 しかし最近はさすがに父王も不穏な空気を感じているらしく、その原因がアレオンにあると思い込んだようだった。


 まあ、裏ルートで高ランク魔物素材が出回るようになったり、アレオンのゲート滞在期間が妙に長くなったりと、疑われる要素を作った自覚はある。

 だったらこのまま誤解させておいた方がいいだろう。

 ライネルほどではないが叛意があることも事実だし、わざわざ弁解する必要もないのだから。


 どうせ、いままで幾多の修羅場をくぐってきたアレオンを、奴らの思いつきの暗殺計画ごときでどうにかできるわけがない。


「チビのことは何か言っていたか?」

「はい。チビ様を見つけることがあったら、連れ帰るようにとも言われています。その際、生きていれば状態はどうでもいいと」

「……やっぱり、俺をここに向かわせるためのただの口実ってわけでもないんだな。明らかにチビを生きたまま捕えたがっている……」

「ここでアレオン様が死んだ後は、キイたちが他の未開の場所を探索するよう指示されています。チビ様のことはどうしても捕まえたいようですね」


 どうやらジアレイスたちは、今までアレオンにさせていた仕事を全て竜人たちに肩代わりさせようとしているようだ。

 疑いの件もそうだが、これもアレオンを殺しても問題ないと判断した一因だろう。


 アレオンほどではないにしても、今のキイとクウの強さなら高ランクゲートを十分歩き回れる。

 宝箱を開ける事はできないだろうが、そもそもアレオンも進んで宝箱を開けるタイプではなかった。だったら敵からのドロップ品を集めるだけでも、アレオンと同等に稼げると考えたに違いない。


 そして彼らがクリアしたゲートを『アレオンが攻略した』と吹聴すれば、姿を知られていないアレオンの代わりなどどうとでもなる。

 ただでさえ低い王宮の支持を、これ以上下げることもない。


 ……ここまでお膳立てをされたのなら、チビと離れて王宮にいるよりは、消えてしまった方が都合が良いかもしれない。


「……ジアレイスは、俺が死んだ証に何か持ってこいと言っていたか?」

「はい。クウたちはジアレイスと会話をしませんから、口頭による報告はできませんので。……彼はアレオン様が死んだかどうか判断するために、剣とポーチを持ってこいと言っていました」

「ああ、これか。まあ、俺の腕とか首とか持って行っても損傷が激しいと誰だか分からんしな。その点、剣とポーチは王宮から支給されたもんだし、ゲートでこの二つを取り上げられるのは死と直結する。俺が生きている間は手放すわけがないと考えれば、これを持ち帰るのはイコール俺が死んだ時ってわけか」


 アレオンは先ほど魔研に顔を出した時も、この剣とポーチを身に着けていった。

 これを基準に考えようとしているなら、おそらくジアレイスはそれをチェックしていたはずだ。


 その後まっすぐここに向かったのだから、アレオンにそれをすり替える暇はない。後からやってくる監視者もそれを裏付けてくれるだろう。

 これを逆手に取れば、上手くやれるかもしれない。


「よし、俺は一旦死ぬことにする。死人になった方が今後自由に動き回れそうだからな」

「……ジアレイスたちに、アレオン様が死んだと思わせるのですね?」

「そうだ。俺が死んだと思えば、気を緩めて親父も王宮を出るかもしれん。そうすれば兄貴がすぐに兵を挙げるだろう」


 それに合わせて、当然アレオンも魔研潰しに参戦するつもりだ。

 おそらくこの王位簒奪は短期決戦になる。

 それが済めば、国のことはライネルに任せて、チビと二人で街外れ辺りに居を構え、平和に暮らそうとアレオンは考えている。


「まあ何にせよ、とりあえずはこの帰らずの洞窟の、ゲート周りの魔物を排除するところから始めないとな。監視者が到着するまでまだまだ間があるから、手前の敵からゆっくりやっていこう」

「了解です」

「お任せ下さい」


 返事をした竜人二人が翼竜に変化した隣で、アレオンも気が乗らないながらヘアピンを着ける。ちなみにハイソックスとワッペンはもう装備済みだ。


 そしてポーチから、アンデッド特効のある火炎属性の剣を取りだして構えた。


「今日のところは日没までな。離れた敵まで呼び寄せるような派手な攻撃はするなよ」


 アレオンの指示に、翼竜たちがキイキイ、クウクウと鳴いて頷く。

 それを確認して、アレオンはまず視界に入った大柄なリビングデッドに向かって走り出した。


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