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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】ルウドルト怒り心頭

 竜人たちを魔研に送り届けた後、アレオンは急ぎ王都に戻った。


 チビは先にカズサに連れられて王都に入っている。

 アレオンはそれを迎えに、待ち合わせ場所の公園のベンチに向かった。


「あ、こっちこっち。お疲れ様です」


 公園に入るとすぐに木陰のベンチから声を掛けられる。

 見れば、のんびりとくつろぐカズサと、その隣で鈴カステラをもらって頬張る子犬がいた。全くチビは子犬の姿でも激可愛い。


 子犬はこちらに気がつくと耳をぴんと立て、尻尾を振ってアレオンの元に走ってくる。

 そのまま足に擦り寄ってキュンキュンと鳴いた。


 なんだこれ、癒やし爆弾か。可愛いが詰まり過ぎだろう。


 思わずそれを抱き上げて、腕の中に収めて撫で回した。


「殿下、仏頂面だから可愛い子犬が似合わないですね」

「ほっとけ」


 アレオンはそう吐き捨てて、自身もベンチに座る。

 そして鈴カステラの袋からひとつ取りだすと、膝の上に置いたチビの口元に持って行って食べさせた。


「おチビちゃんはその姿だと首輪も違和感ないし、街中でも顔を出して歩けるからいいですね。言葉が分からないのがちょっと不便ですけど、その時はこっちの手で犬耳着けてやれば問題ないし」

「ああ。これは本当に助かる。……おそらく、アミュレットも良い効果が付いているだろうな」

「ええ、期待できそうです。俺はこれからザインに飛んで、この鑑定をしてきますね」


 チビをアレオンに引き継いだカズサは、早速立ち上がる。

 そして子犬の頭を撫でて立ち去ろうとして、しかしその前にはたと何かを思い出したように動きを止めた。


「あ、そうだ。もう使う危険がないだろうから、一応これ渡しておきます」

「……何だ? 本?」

「例の、エルダール初代の歴史書です」

「あー……」


『対価の宝箱』から、チビの首輪の術式書き換えの対価に求められていた物だ。

 確かにもう対価としての価値は無い。手渡されたところで、心に何の波風も立たなかった。


「必要かどうかは分かりませんが、とりあえず読んでおいた方がいいと思いますよ」

「……分かった。目を通しておく」


 この中には、チビから託された隷属術式に関する記述がある。知識として入れておいて損は無い。

 アレオンはそれをポーチに入れた。


「ザインでの鑑定が終わったらまた連絡します」

「ああ」

「じゃあまたね、おチビちゃん」

「キュン」

「うはあ、もう子犬の鳴き声って何でこんなに萌えんだろ、可愛いなあ~」

「……いいから早く失せろ」

「出た、癒やしの対極、デスボイス。はいはい、邪魔者は消えますよ」


 カズサは肩を竦めると、周囲に人の気配が無いことを確認してザインに転移していった。


「……俺たちも部屋に戻るか」

「キュン」


 膝の上でぴるぴると尻尾を振る子犬。くっっっっそ可愛い。

 それを鈴カステラの袋と一緒に抱き上げて、アレオンは墓地に向かって歩き出した。






 アレオンの部屋に着くと、腕の中にいた子犬は犬耳を取ってチビに戻った。


「やっと帰って来れたね。アレオンお兄ちゃん、お疲れ様でした」


 子犬の姿でも可愛いが、こうして労ってくれる笑顔も可愛い。

 その身体を床に降ろして、鈴カステラの袋はテーブルの上に置く。


「まずはシャワー浴びて着替えるぞ。すぐにルウドルトが来るだろうからな」

「うん」


 マントや鎧を外したアレオンは、子どもを連れてさっさとシャワーを浴びた。自分の身体はタオルで適当に拭いて、先に着替えさせたチビの髪の毛を拭きに行く。

 二人だけだと、こうして世話をしてやれるのがいい。野営中は、大体カズサが手際よく済ませてしまうから。


「お兄ちゃんの髪はぼくが拭いてあげるね!」


 チビがソファの後ろに回って、アレオンの頭にタオルを被せる。小さな手でせっせとこちらの髪を撫でてくれるのが至福だ。

 子どもは背後にいるから、ちょっと表情が緩んでも問題ないのもありがたい。


 しかしこういう時間は長く続かないもので、それからほどなく、覚えのある気配が扉の向こうにやってきた。


「殿下、№8ゲートの攻略お疲れ様でした」

「来んの早えな、クソ。……チビ、もういい」


 軽く舌打ちをして子どもを止め、ソファの自分の隣に座らせる。

 そしてテーブルに自分のポーチを乗せた。


「勝手に漁って持ってけ」

「では、中を検めさせて頂きます」


 ちなみに、ドラゴンキラーはチビのポーチの方に入れてある。他のレア装備は全部渡すのだから、これくらいは問題ないだろう。


 ルウドルトがアイテムを一つ一つ取り出しながら確認するのを眺めつつ、アレオンは足を組んだ。


「……兄貴に伝言があんだけど」

「はい、聞いておりますのでどうぞお話し下さい」

「兄貴が旗揚げした時、魔研で内応してくれるヤツを手に入れた」

「……ほう。それはそれは」


 思いも掛けない話だったのだろう。ルウドルトは一旦顔を上げ、こちらを見た。


「もしかして、今回魔研に借りた半魔ですか?」

「そうだ。竜人二人。かなり強い」

「……ジアレイスの使役が掛かった半魔ですよね? 信頼できるのですか?」

「それは大丈夫だ。とりあえず魔研に掛かった防御術式なんかを内側から破壊してもらう手はずだから、術式処理班とかは必要ないって言っとけ」

「かしこまりました」


 ライネルは父への謀反の計画を綿密に立てている。

 その計画を遂行出来る仲間を秘密裏に獲得するのが今の課題で、一番の難題だ。その必要人数が減ることは歓迎されるだろう。


「特殊技能者を準備するのはかなり難しいので、それが必要なくなるのは助かります」

「……兄貴の計画の進捗はどんな感じなんだ?」

「まだまだですね。狸貴族どもを弾劾するためのネタ集めなんかはほぼ終わっているのですが、やはり陛下に隠れて人を集めるのが難しいので。純粋に戦力が足りない感じです」


 国のトップの対立が長引けば、王都の市民はどんどん疲弊する。

 だからライネルは一気に王位を簒奪し、汚職貴族を抑え込めるだけの戦力を欲しているのだ。


「騎士団と憲兵は?」

「騎士団は団長が陛下の息の掛かった者ですから、今は引き込むのが難しいです。……まあ、彼は裏でいろいろやっているので、そのうち現場を捕まえて追い落とすつもりですが」

「憲兵の方は? あっちはイレーナがいるだろ」

「そうですが、イレーナは憲兵の教官であって、憲兵総長ではないですから。……とはいえ、彼女が号令を掛けてくれれば半数はついてくると思いますので、そっちは当てにしています。どちらにしろ、今後の手回し次第ですね」

「そうか」


 ルウドルトはそこまで言うと、アレオンが頷くのを見てから再び視線を落としてアイテムの確認を始めた。

 ……いや、これで話が終わったわけではないのだが。


「もう一個話がある」

「はい、どうぞ」

「魔研の地下にあるランクSSSのゲートなんだが、ジアレイスたちが封印解いたらしい」

「…………は?」


 告げた言葉に、ルウドルトは再度顔を上げた。


「……今なんとおっしゃいました?」

「ランクSSSゲートの封印、魔研の奴らが解いてんだって。今はそこから魔物が排出されてもすぐに術式で押さえ込まれるから、外にはバレていないみたいだが」

「待っ……は!? 何ですって!? ランクSSSゲートの封印を解除した……!? 正気の沙汰じゃないのですが!?」

「俺もそう思うが、事実らしい」


 アレオンがそう言うと、彼は頭を抱えて俯いてしまった。


「……となると、ゲート封印のために施術要員を準備しないと……! くそ、奴ら余計な仕事を増やしおって……許しがたい!」


 本来なら一日も早くライネルを王位に就かせたいルウドルトだ。そのための手間が増えて、怒りに震えるのはもっともだろう。

 だがそれよりも、アレオンとしてはもっと根本的な疑問を解決したかった。


「一体何のためにあんな危険なゲートを開放したのか分かんねえんだけど……。わざわざ魔研をあのゲートの上に建てたってことは、最初からそのつもりだったと思うんだよな」

「あ……確かに」


 その疑問に、すぐにルウドルトもはっとした様子で頷いた。


「あの場所への設置許可を出したのは陛下ですね。……ジアレイスが封印のパスワードを持っていたとすると、陛下も魔研の思惑を知っていて渡したと考えていい」

「これも兄貴に伝えて、当時の資料や書類が残ってないか探ってもらってくれ。……さすがに奴らも、ただ面白半分で半魔の材料にするためだけに、そんな危険は冒さないと思うんだ」

「……かしこまりました」


 ルウドルトは大きなため息を吐く。

 おそらくまた新たに見つかった父王と魔研の悪だくみに、辟易しているのだろう。


「……ああ……早くこのフラストレーションを陛下に向かって、烈火の如くぶちまける日が来て欲しいものです……」

「……そうだな」


 今度こそアイテム確認に入ったルウドルトのこめかみには、ビキビキと青筋が立っている。怒りでアイテムを握り潰しそうだ。


 隣でそれを見かねたチビが、彼に向かってそっと鈴カステラを差し出した。


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