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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】何故か犬耳

 ボスのグレータードラゴンを倒し終わると、フロアの奥にある宝箱の部屋の扉が開いた。

 これでこのゲートはクリアだ。


「グレータードラゴンの素材かあ。取っていきたいけどさすがに出所が分かりすぎるかな。こんなの、絶対他のルートでは出回ってないもんね」

「まあ、取っておいてほとぼりが冷めた頃に出したらどうだ。そのうち兄貴が王座を奪えば、その後は売りさばいても問題ない」

「そうですね。取っておく分にはいいか」


 後のためと割り切って、カズサはドラゴン素材を捌き始める。

 それを眺めるアレオンの横では、小ドラゴンに戻ったキイとクウがチビに傷薬を塗られていた。


「ぼくに治癒魔法があれば良かったんだけど……」

「問題ありません、チビ様。キイたちは大した傷を負っていませんし、回復力も強いので軽い応急処置で十分です」

「クウたちはチビ様にこんなふうに愛情ある手当をしてもらえて、とても嬉しいです」


 こっちは何だかすごくほのぼのしている。

 そして確かに、治癒魔法で回復するよりも、こうしてチビに手ずから傷薬を塗られている方が嬉しそうで、うらやましく感じる。


 アレオンはしばらく黙ってその様子を見ていたが、彼らの手当が終わったのを見計らってチビに近付いた。


「……チビ、俺の怪我にも傷薬を塗れ」

「えっ? お兄ちゃんも怪我してたの?」

「ここだ」


 手の甲にある、少し血がにじむ程度の浅い傷を見せる。

 いつもなら放っておくようなものだが、単にチビに傷薬を塗って欲しいだけなので有効利用だ。


「殿下のそれ、さっき倒したドラゴン確認する時に、自分で勝手に鱗で切ったヤツでしょ」

「うるせえな。傷は傷だ。貴様は黙って素材剥いでろ」

「じゃあ、お兄ちゃんにもお薬塗るね。痛いの痛いの飛んでいけ~!」


 小さな手で薬を塗りながらおまじないを唱える子ども。

 その可愛らしさに、つい頬が緩みそうになる。

 しかし寸でで堪えて顔を押さえると、チビが心配そうにこちらの顔をのぞき込んできた。


「アレオンお兄ちゃん、大丈夫? お薬しみた?」

「……っ、いや、大丈夫だ」


 とりあえず顔を押さえたまま、薬を塗ってもらった方の手で褒めるようにチビの頭をめちゃめちゃ撫でる。


「アレオン様はチビ様が本当に可愛くて仕方が無いのですね」

「チビ様がいない時は、ウサギのぬいぐるみをモフってもずっと不機嫌でいらっしゃったのに」

「……お前ら、余計なことは言わんでいい」

「ちょwww想像に難くないwww」

「貴様は殺されたくなかったら黙って骨の肉削いでろ」


 あの時はキイとクウの意思が戻るなどと考えていなかったら、モフりを見られていることに全く警戒していなかった。不覚。

 次は気を付けよう。


「……そんなことより、報酬部屋に行くぞ。宝箱と脱出方陣があるはずだ」

「宝箱はまたおチビちゃんに開けさせます? 俺もセットにすれば武器防具系が望めますけど」

「今回はドラゴンキラーが手に入ったからいい。それよりもチビに着ける装具アイテムが欲しいんだ」

「あー、護符とか指輪とか? だとするとやっぱりおチビちゃんが取った方がいいですね」

「……というわけだ、チビ。宝箱開けてこい」

「うん!」


 指示をすると、子どもはすぐに走り出し、先んじて報酬部屋に入っていった。


「ランクSSゲートのボス宝箱だから、良いもの出そうですね」

「俺が一人でこのランクに来ていた時は、大体無属性の高ランク武器とかだったがな。普通に高くて良いものって感じで特別感はなかった」

「まあ、殿下はね……。でもおチビちゃんなら面白いもの引き当ててくれそう」


 そんな話をしながら、チビに続いて報酬部屋に入る。

 すると、すでに子どもは大きな宝箱を開けて、その中に上半身を突っ込んでいるところだった。


「取れるか、チビ」

「ん、大丈夫」


 今回も小さなものばかりのようだ。

 チビは宝箱の底から拾い上げた物を抱えて、上体を起こした。


「アレオンお兄ちゃん、見て」

「どれ。……宝石の玉とアミュレットと犬耳か。……犬耳? ……犬耳!?」


 思わず三度見した。


「何これ、初めて見た! あは、おチビちゃんすげえ!」

「これって何に使うのかな? お兄ちゃん、分かる?」

「いや、特殊すぎてわからん……。とりあえず、頭に着けるんだろうな」


 カチューシャの形をした犬耳。とりあえず呪いなどは掛かっていないようだ。それを試しに子どもに着けてみる。

 ……うん、普通に可愛い。尻尾も着けたいくらい可愛い。


 しかし、アレオンと同じような反応をすると思ったカズサたちは、ぱちくりと目を瞬いただけだった。


「えっ……あれ、殿下。おチビちゃんが子犬にしか見えない」

「ん?」

「本当です。キイにはとても可愛らしい子犬にしか見えません」

「どうやら、その犬耳には視認変換の術式が掛かっているようです」

「何? 俺には普通にチビに見えているが……」

「ということは、装着させた殿下には効かないのかも。殿下、それおチビちゃんから一回外してみて」


 言われて、子どもの頭から犬耳を外す。するとそれをカズサが横からかすめ取っていった。


「じゃあ、俺がおチビちゃんに着けてみますね」

「おい貴様、勝手に……お?」

「どうですか、殿下。おチビちゃんが子犬に見えます?」

「見える……」


 チビがいきなり子犬になってしまった。小さくてころころもふもふで激しく可愛い。


「今、俺にはおチビちゃんは普通に犬耳着けたおチビちゃんに見えてます。やっぱり装着させた人間には効かないみたいですね」

「これは……めちゃくちゃ便利じゃないか?」

「ええ。これがあれば、おチビちゃんを連れて堂々と街中を歩いても子ども連れだとはバレません。魔研の目を欺くにも最適かと」


 そうだ。普通にチビを連れ歩いているとどこかから魔研にバレる可能性があるが、これなら見られても問題ない。


「……しかし、視認阻害系の装備は今まで見たことあるけど、こんな術式と見た目のものはほんと、初めてですよ」

「俺もだ。遊び心ありすぎだろ」

「こういう特殊な宝箱にはクリエイションの側面がありますので、チビ様の幸運に感情、現在の状況などを反映したアイテムが出来たのかもしれません」

「つまり、幸運が高いほど、宝箱から今必要な物が生成される可能性が高くなると言うことですね」

「なるほど。チビがいると都合の良い特殊アイテムが出るのは、やはりこいつの幸運のせいなんだな」


 そう考えると、チビ(+カズサ)の幸運でドラゴンキラーが出たのも、必然だったのかも知れない。


「その他のアイテムはどうだ?」

「アレオン様、キイが思うに、宝石の玉はドラゴンオーブかもしれません」

「ドラゴンオーブ?」

「世界に穴を開けると言われている物で、クウたちも詳しくは知らないのですが、魔界との行き来に使ったりするらしいです」


 意思を取り戻したばかりだというのに、キイとクウはこれらのことに対してずいぶん博学のようだ。

 人間だった頃の知識は残っているという話だったから、もしかするとこういう勉強を必要とする家柄だったのかもしれない。


「魔界との行き来……。俺たちには特に必要ない気がするが、王宮に取り上げられるのも後々問題になりそうだな」

「ジアレイスあたりに渡って、悪用されそうですよね。ザインの拠点に保管しておきましょうか」

「……そうだな、その方が安心かもしれん」


 アレオンはドラゴンオーブをカズサに渡した。


 そして最後はアミュレットだが、これらは入っている術式が違うだけで見た目が似ていて、自分たちではどうにもならない。

 これは早々に考えるのをあきらめた。


「アミュレットは見た目だけじゃ分からん」

「これは俺が鑑定に出してきます」

「ああ」


 これでゲート攻略は完了。

 後は、王宮に取り上げられたくないものをカズサに渡して、チビにも犬耳などいくつかのアイテムを持たせることにした。


 ルウドルトも、さすがに子どものポーチを漁ろうとはしないだろう。もちろんポーチの存在には気付くだろうけれど、元々チビがいない態で、見て見ぬふりをしてくれるはずだ。


「さてと。殿下、じゃあゲートを出ますか」


 全てのアイテム仕分けが終わったところで、カズサが脱出方陣に向かう。

 このゲートには、もう取り残しも何も無いのだから当然だ。


 しかし、まだ出るわけにはいかなかった。

 重要な秘密の話をするのなら、絶対に邪魔が入らず他人の目も無い、ここが最適なのだ。

 アレオンはすぐにカズサを呼び止めた。


「……待て。最後に、重要な話が残っている」

「重要な話?」

「今後のキイとクウのことについてだ」


 そう、これから起こるであろう、ライネルの王位簒奪、汚職貴族の粛正、その時のことだ。当然、キイとクウが今から戻る魔法生物研究所も排除対象。

 その時に攻め込むことになるだろうアレオンに合わせ、竜人たちにも魔研の中から内応させたい。


「これは命令じゃない。……俺とチビのために働けるか?」


 アレオンは、キイとクウに静かに訊ねた。


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