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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】ボスドラゴンの撃破

 ボス部屋の扉をくぐると、そこには大きな空間が広がっていた。

 フロアにはまだ誰もいない。おそらくボスは上から来るのだろう。


 アレオンはドラゴンキラーを取りだして右手に構えた。


「狐はチビを連れて後方へ。キイとクウは今のうちに融合変化をしろ」

「了解。おチビちゃん、後ろに下がるよ」

「うん」

「「我々も変化を開始します」」


 それぞれに指示を出し、アレオンはつかつかとフロアの中央に向かって歩いていく。

 この中央のサークルは、ボスが侵入者を感知するスポットだ。だいたいどのゲートも作りは同じ。戦闘開始のタイミングはこちらで計れる。


 アレオンがそこに足を踏み入れると、途端にはるか頭上から大きな咆吼が響き渡った。


「……来るぞ」


 上空に現れた大きな魔物の気配。それがまっすぐにアレオンのいる場所に向かってくる。

 すぐにバックステップで飛び退いたそこに、次の瞬間には地響きと砂煙を立てて、重量のある巨体が舞い降りた。


「グレータードラゴンか……!」


 目の前に現れたのは、ドラゴンの中でも最上位クラスである、グレータードラゴン。

 炎、氷、風の属性のブレスを吐く難敵だ。

 物理防御、魔法防御共に高く、ドラゴンキラーのような特効がなければとてもじゃないが戦えない。


 おまけにこいつはドラゴンでありながら、ドラゴン特効を持っている。下位のドラゴンを裁く裁量を持つドラゴンゆえに、偉大な(グレーター)ドラゴンと呼ばれているのだ。


 これはさすがにキイとクウには分が悪い。

 今回は自分とチビの魔法でどうにかするよりないだろう。


 アレオンは即座にそう判断して、キイたちを振り返った。


「おい、キイ、クウ! 今回お試しは無理だ! 俺とチビで……あ?」


 しかし、後ろで融合変化したキイとクウの姿を見、目を丸くする。


 そこにいたのは、ボスのグレータードラゴンよりも小柄だが、しかし紛れもないグレータードラゴンだったのだ。


「キイとクウもグレータードラゴン……!?」


 アレオンの呆然とした言葉に、キイクウは返事をするように咆吼を放った。それぞれ単体だった時の少し高めの鳴き声ではなく、強者の貫禄のある声だ。


 翼と尻尾を振って、やる気満々に見える。


 ……彼らにはドラゴン特効があり、やる気がある、ならばいいか。

 今はあれこれ考えている時間はないのだ。

 アレオンはすぐに意識を前方に向け直した。


 まずは今にもブレスを吐こうとしている敵のグレータードラゴンに一撃を加えに行く。

 初撃で剣をかわされるのは織り込み済み。その上でブレスのキャンセルを狙って首元を思い切り蹴り上げれば、ドラゴンは逆流したブレスに驚いてまんまと上空に退避した。


「あーくっそ、固え」

「殿下、ナイスキャンセル」

「キイ、クウ。あいつを追っていけるか?」


 訊ねたアレオンに一声鳴いて頷いたドラゴンは、すぐに翼を広げて舞い上がる。


 敵のグレータードラゴンより小柄と言っても、その体長は六メートルはあるようだ。

 おそらく羽ばたきだけで、チビ辺りは支えが無いと吹き飛ばされるだろう。


「よし、行け」


 アレオンの合図で、ドラゴンは一気に上昇していく。

 その姿はすぐに小さくなり、敵ドラゴンに肉薄した。


「ドラゴン特効持ち同士かあ。キイとクウ、大丈夫ですかね」


 それを見上げながらカズサが心配をしているが、まあ平気だろう。

 パワーはあちらの方が上だろうが、小回りの利く機動力と、戦略立てる思考能力はこっちの方が断然上だ。


 とりあえず敵の体力をあらかた削いで地面に叩き落としてくれれば、後はアレオンが始末する。


 大きなブレス攻撃をまともに受けたりしない限り、苦戦はしても勝利できるに違いない。


「……チビ、あそこまで魔法届くか?」

「うん、大丈夫」

「もしもあいつらがブレスを食らいそうになったら、マジックシェルターを掛けてやれ」

「わかった」


 キイとクウには真下に向かってブレスを吐くなと命令してある。

 もしも敵が下に回り込んでブレスを吐いてきた場合、彼らは反撃が出来ないのだ。

 そこだけチビにカバーさせれば、後は待つだけ。


 アレオンもドラゴンキラーを構えたまま上空を見上げた。


 ……それにしても、さすがドラゴン同士の空中戦、離れていてもかなりの迫力がある。

 爪や牙でやり合うだけでも空気が振動するようだ。

 力で劣るキイとクウは真正面から敵に当たることはないけれど、それでもここまで衝突の余波が来る。


 あれをチビの側でやることになっていたら、カズサに護らせているとはいえアレオンも気が気でないところだ。

 今回ばかりは竜人二人を付けてくれた魔研に感謝をしておこう。


「……お互い結構ダメージ食ってますね。一応上手く背後に回れるキイクウの方が優位ですけど」

「どっちも攻撃が当たれば特効ダメージが来るからな。だが今は双方ブレスのタイミングを見計らっているところだろう」

「ですね。ブレスを当てれば圧倒的に有利になるけど、外すと反撃を受けちゃうし、次のブレスを吐けるようになるまで一定の時間が掛かるから不利になるし。見極めどころですね」


 頭上で戦うドラゴンをそうして見上げていると、不意にチビが魔法を放つようなしぐさで彼らに向かって両手を上げた。


「……どうした、チビ」

「ん、こうすればキイさんとクウさんが気付くかなと思って」

「気付く……?」

「ぼくが魔法掛けようとしてること。……あ」


 子どもが上げた両手を彼らに向かって振る。


「良かった。気付いたみたい」

「あれ、おチビちゃんに気付いたら、キイクウの動きが悪くなった? ……もしかして、そういうこと?」

「……ああ、なるほど」


 チビが魔法でバックアップしようとしていることに気付いた途端に、キイとクウの動きが鈍った。

 一見、攻撃を食らって翼に損傷を負ったかのように見えるけれど。


「チビのマジックシェルターが護ってくれることを見越して、傷を負ったふりをして敵のブレスを誘っているのか」

「そのブレスも俺たちの方に向かないように考えながら動いてる。賢いなあ~」


 傀儡のままだったら絶対無理な動きだ。

 それどころか、おそらくここで敵のドラゴン特効にやられて死んでいただろう。

 そう考えると、やはり意思や思考能力を取り戻した彼らは、今までの何倍も強くなっていると言えた。


「……次のブレスで勝敗は決するな」

「そうですね。落ちてきたドラゴンに潰されないように、おチビちゃん抱えとこうっと」


 ブレス攻撃は、魔力を吐き出した後に必ず僅かな硬直時間が出来る。敵のブレスをやりすごせば、ほぼ100%攻撃は当たる。

 後は攻撃を食らって落ちてきたドラゴンの首を、アレオンが落とせば終わりだ。


 その予想通りの展開は、それほど間を置かずにやってきた。


 体内炉に魔力を集中したボスドラゴンが、キイとクウに向かってクワッと口を広げる。ドラゴンのブレスの予備動作だ。

 それを確認したチビは、カズサに抱えられたまますぐに魔法を展開した。


「マジックシェルター!」


 目には見えない魔法の壁がキイとクウの周囲を覆う。

 そして次の瞬間には、その姿が見えなくなるほどの大きく激しい炎のブレスが彼らを襲った。


「うっわ、何あれ。えげつない威力」

「あれをこっちに向けて吐かれてたら、絶対巻き込まれてたな……」


 キイたちは敵を誘導し、上手く斜め上を向けてブレスを吐かせている。その場所から彼らが反撃のブレスを吐いても、こちらには向かない絶妙な位置だ。


 やがてそのブレスが収まると、炎の中からやにわに小柄なグレータードラゴンが現れた。

 これはもう、敵に為す術は無い。回避も不可能。

 彼らは間髪入れずに、反撃のブレスを吐いた。


「グギャアアアアアアア!」


 キイとクウが放ったのは、空気の刃をはらむ、激しい風のブレス。

 それによって皮膚と翼を切り刻まれたボスドラゴンは、風の威力に逆らいきれず、バランスを失って落下した。


「狐、チビを連れてもっとフロアの端へ行け!」

「了解!」


 チビたちをその場から離れさせて、アレオンはドラゴンキラーを構え直す。


 落下の衝撃と立ち上る砂煙は攻撃の邪魔になる。 

 落ちてきたその巨体が地面に接する前に首を落とそう。


 そう決めると、アレオンは悶えながら落ちてくるドラゴンを目がけて、その真下に入り込んだ。


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