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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】ぼくを忘れないで

 こんな小さな子どもを凶悪な魔物と戦わせて、見世物にしていたなんて。

 アレオンは改めて魔研に強い敵愾心を抱いた。


 魔物の研究と称して生体実験を繰り返していることは知っていたが、そうして作り出された半魔や捕らえられた魔物が奴らの遊興の玩具になっていたとは思いもしなかった。


 しかしこの非道を国に訴えたとて、そのトップである国王と魔研がズブズブなのだからどうしようもない。

 ……やはり、根本から首をすげ替えるしかないのだ。


 いつか、この子どもと安寧な生活を送るためにも。


「……あんたはこの首輪の術式を書き換えることはできないのか?」


 ただそれまでは、チビを魔研から隠し通さなくてはいけない。

 アレオンは無理だと知りつつも一応の確認をした。


「わしには無理だ。魔道具は基本的に使用者が設定した解除コードが必要になる。制作者が設定することもあるが、どちらにしろ書き換えは他の人間では無理だ。力尽くで破壊すると精神に異常をきたすこともあるしな」


 やはり駄目か。

 だが、今魔工翁は『わしには無理だ』と言った。つまり彼には無理でも、出来る者もいるということだ。そして、『他の人間では無理だ』とも。


(人間じゃなければ、書き換えが出来る者がいる……?)


 そう考えたところで、ふと対価の宝箱の妖精もどきが、そのためのアイテムを出せると言ったことを思い出した。


(術式はほぼ魔界語だと考えると、書き換えができるのは高位魔族か……。アイテムとして出てくるとなれば、魔族封印の禁書……呼び出しにはかなりリスクがあるが、俺なら……)


「……いてっ!」


 黙り込んで思考を巡らせていたアレオンの脇腹に、隣からカズサが肘を入れてきた。結構強烈なやつだ。

 思わず身体を屈めて睨むと、ジト目で返された。


「……今、良くないこと考えてたでしょ」

「っ……してねえ」


 反撃と反論をしようとして、しかし図星を突かれた自覚があるから視線が泳ぐ。

 アレオンは結局そのまま押し黙った。自戒の念も込めてだ。


 それをやれやれといった態で横目に見ながら、カズサは再度魔工翁に魔石加工の話を振った。


「首輪の術式をいじれないとしても……どうですか? 特上魔石を何とか加工して、この子が探知魔法に掛からないように出来ます?」

「そうだな……わしもこんな子どもが魔研に利用されるのを見過ごせん。加工を引き受けよう」


 魔工翁がチビの頭を撫でて請け合う。

 それにガラス玉の瞳を大きく見開いた子どもは、またぺこりと頭を下げた。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「ああ、任せておけ」


 これで直近の気掛かりはなくなるはず、なのだが。


「……出来るのか? どうやって?」


 依頼を受けてもらったのはいいが、その方法が分からず、アレオンは首を傾げた。


 地面どころか家具・建物、人をも伝ってくる探知魔法。

 それを遮断するために、たとえばチビの靴底に魔石をはめ込んだとしても、移動中はいいが椅子に座ったりベッドに横になったりすれば意味はない。


 周囲のものを触ることだって危ない。子どもがアレオンのマントを掴んでいればそれを通して探知されてしまう。

 何かあった時に、とっさに子どもを抱き上げることだって難しい。


 そういう接触は、全て何か絶縁体を介するようにするのだろうか。

 だとするとこれからの生活が窮屈になりそうだ。


 そんなことを考えたアレオンに、魔工翁は苦笑した。


「あんたは心配性だな。だが大丈夫だ、わしに考えがある」

「魔工翁、先に特上魔石を預けてましたけど、あれで足ります?」

「まあ、問題ないだろう。魔石それぞれの持つ石の核ももうチェックしてあるし、新たな術式を組み込むわけでもないからな。加工中に割れてしまわなければ十分足りる」


 まあ何にせよ、後は魔工翁を信じて任せるしかない。

 どうせ彼以外に特上魔石を託せる人間はいないのだ。


「……そのアイテムは、どのくらいで出来る?」

「必要なのは採寸と設計と加工だが、ほぼわしの頭の中で完成形は見えている。今日を含めて三日ほどでどうにかなるな」

「三日か」


 思ったよりはかなり早い。

 その間チビと離れているのが不安ではあるが、どうせ魔研で預かった半魔を連れてゲート攻略していればあっという間だ。


「うん、じゃあ魔工翁、お願いします。工賃の方は言い値でお支払いしますので」

「まあ、材料費は掛かっておらんし、適正価格で請求書を出しておこう。……では、採寸をするから子どもを一旦奥に預かるぞ。狭いところだからな、あんたらはここで待っていてくれ」


 待っていろと言われたものの、ここからは自分がいたところで何の役にも立たない。そろそろ時間的にも限界だ。

 とても気は進まないが、アレオンは仕方なく、渋々魔研に飛ぶことにした。


「……すまんが、俺はこの後用事があるからここで失礼する」

「あ、そうですね、行ってらっしゃい。後でおチビちゃん連れてそっちに向かいます」

「えっ、お兄ちゃん、行っちゃうの?」


 一度魔工翁と奥に行こうとして、しかしアレオンの言葉に反応したチビが近くにやってくる。

 子どもにこちらの袖口をきゅっと掴まれると、さらに魔研に行きたくない気持ちが強まった。


「……すぐに戻ってくる?」


 無表情なのに上目遣いが可愛いとか何なんだ、クソ可愛い。


「……いや、俺は用事があるから……アイテムが出来たら、そいつと一緒に俺のとこに来い」

「アイテムが出来るの、三日後……」

「ちょっともう、俺に預けて途中で一人で抜けていくっておチビちゃんに先に説明してなかったんですか? 突然言われたら可哀想でしょ」


 隣からカズサに怒られた。

 ……そういうものなのか。いつも単独行動で、対人スキルがきわめて低いアレオンは思い至らなかった。


 考えてみれば留守番を言い渡した時もそうか。どうやらきちんと事前に説明して、納得する時間を与えてあげた方がいいらしい。


「おチビちゃん、この人の残念な対人スキルは今度俺が鍛えておいてあげるからね。今回は我慢して。三日後にはちゃんと連れて行くから」

「うん……」


 うなだれる子どもの旋毛を見て、なんとも言えない罪悪感に駆られる。

 ……カズサの言いぐさはイラッとするが、確かに対人スキルは少し磨いた方がいいかもしれない。せめてチビ相手の時くらいは。


「ええと……ウサギ、置いていくか?」

「ううん。お兄ちゃんのとこに行った時にもらうからいい」

「そ、そうか……」


 拗ねてしまったのだろうか、と少し落ち着かない気持ちになっていると、子どもは掴んでいたアレオンの袖をくいっと引っ張った。


「ぼくがいない代わりに持ってて」

「……お前の代わり?」

「ぼくのこと忘れないで」


 チビはそう言うと、ぱっと手を放して魔工翁の方へ行ってしまった。小さな身体がそのまま扉の奥に消える。

 残されたアレオンは、最後の子どもの言葉にしばしぽかんとしていた。


「……忘れないでって、どういうことだ?」


 隣にいるカズサに訊く。

 いくら何でも三日くらいでチビに関する記憶がなくなるわけもないのだが。まあ、そういうことじゃないんだろう。


「忘れないで、か。……何となく意味深ですけど」


 カズサは少し思案していたけれど、すぐに肩を竦めてちらりとアレオンを見た。


「もしかしておチビちゃん、殿下がこの後魔研から半魔を連れて行くの知ってます? ……だとしたら、ヤキモチかも」

「ヤキモチ?」

「『ぼくを置いて、他の半魔とゲートに行くなんて! ぼくのこと忘れてそっちに乗り換えたら許さないから!』みたいな」

「は?」


 確かにルウドルトとの話はチビも一緒にいる部屋の中でしていたから、半魔のことも聞いていたかもしれないが。


「いや、チビはそんなタイプではないだろ」

「まあ感情封じられてますから、そこまで強くはないと思いますけど。でも不安にくらいは思ってるんじゃないかな~。忘れないようにウサギを自分の代わりだと思って持ってて欲しいって、控えめな自己主張で可愛いじゃないですか」

「可愛……まあ、確かに、それはちょっと、かなり可愛いかも、しれ……くっ、可愛……!」


 そう考えるといじらしくてたまらん可愛い。悶えるほど可愛い。

 思わず緩みそうになる表情筋を、左手で押さえて耐える。

 そして隣でニヤニヤしている男を右手でぶん殴った。


「ちょ、もう、痛い! 本気で頬骨砕きにくんのやめて下さいよ!」

「うるせえ、そう言いつつまだニヤニヤしてんじゃねえよ!」


 文句を言っているが、こちらの攻撃を上手にいなしたカズサには、ほとんどダメージは行っていない。

 それに舌打ちをして、アレオンはどうにか表情筋を引き締めた。


「……まあいい、とりあえずこっちの方は大丈夫そうだし、すごく嫌だがもう魔研に行く。すごく嫌だが」

「二回言った。気持ちは分かりますけど」

「ゲートでは、一応貴様とチビが合流するまではフロア全ての敵を排除しながら進むつもりだ。俺のところに来る前にチビに何かあったら大変だからな」

「なら、進むスピードもそれほど早くないですね。すぐに追いつけそう。……あ、宝箱は残して行ってくれていいですよ。俺とおチビちゃんで回収して行きますから」

「そうだな。その方が実入りがいい」


 そう示し合わせると、アレオンは転移魔石を取り出した。


「じゃあチビのことは頼んだぞ。……あーくそ、行くか。すごく嫌だが」

「三回言った。はい、行ってらっしゃい」


 軽いカズサの挨拶に見送られて、アレオンはようやく渋々魔研に飛んだのだった。


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