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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】ルウドルトのアイテム回収

 王都の自室に戻ったアレオンは、早速部屋中に超聖水をまいてチビの居場所を確保した。


 ゲートクリアの光の柱は上がったから、アレオンたちがここに戻ったことはルウドルトにも伝わっているはずだ。

 彼が戦利品の回収に来るのを待ちつつ、アレオンは先にチビと一緒にシャワーを浴びた。


(……傷ややけど痕がだいぶ消えてきたな)


 狭いシャワールームで、子どものシャンプーを洗い流しながらその身体を確認し、ほっと息を吐く。

 まだまだ細くて軽いけれど、血色もずいぶん良くなった。


 チビにとって、どこよりも自分の側が居心地良くあるといい。

 そう願いながら子どもの頭からバスタオルを掛け、丁寧に拭いてやる。その後自分の身体も粗く拭くと、手早く着替えて部屋に戻った。


「アレオンお兄ちゃん、ウサギさん」

「ん? ああ」


 ソファに座ってようやく一息吐くと、すぐに隣にくっついてきたチビがウサギのぬいぐるみを要求する。

 アレオンはテーブルの上に置いてあったポーチからそれを取り出した。


 ゲートで結構使ったわりに、ウサギはあまり汚れていない。

 おそらく防汚と防水が付いているのだろう。これならブラシでほこりを落とし、固く絞ったタオルで表面を撫でただけで十分。


 手早く処理をして、アレオンはきれいになったウサギを子どもに渡した。


「後はもう寝るだけだし、先にベッドに行っていいぞ」


 まだ魔力も体力も回復しきっていないチビに、そう告げる。

 どうせアレオンも、後はルウドルトが来るのを待つだけなのだ。


 しかし、そう言ったアレオンにチビはふるふると首を振った。


「お兄ちゃんの側がいい」

「……っ、そ、そうか」


 ウサギを抱えて見上げてくる子どもに、思わずきゅんとする。

 もちろん無理にベッドに追い立てるわけもなく、アレオンはそのまま心地よい子どもの体温を隣に置いた。


 やがて王宮内から唯一つながっている扉の向こうに、ルウドルトの気配がやってくる。

 それに気がついて、アレオンは少し緩み掛かっていた表情を引き締めた。そんな顔を見られるのは、やはり何だかバツが悪い。


 少し居住まいも正したところで、扉がノックされた。


「失礼します。……ゲート攻略お疲れ様でした、アレオン殿下」

「ああ。ポーチはここにある。中身を検めて持ってけ」

「はい、ではさっそく」


 部屋に入ってきたルウドルトは一礼して、勝手知ったるで向かいのソファに座る。しかしふと何かを気にするように周囲を見回し、それからゆっくりと、テーブルの上にあるポーチを手にした。


「……この辺り一帯に清浄な空気が漂ってますね。もしかして超聖水を手に入れたのですか?」

「……あ、ああ、ひとつだけな」


 その指摘に僅かに動揺する。

 このことに関してはあまり話したくないのだ。

 ポーチからアイテムを取り出し始めたルウドルトに気取られないよう、アレオンは話を変えた。


「探知魔法の絶縁体として特上魔石を十二個ほど手に入れてきた。今後はこれでどうにかするつもりだ」

「特上魔石を十二個も……!?」

「言っとくが、これは親父の方には一個も納めねえからな。どうせもうここにはないし」

「ここにはない……ということは、同行していた元『死神』に託したのですか?」

「ああ。そいつをしばらく仮で使うことにした。オネエたちとも顔見知りだし、そっちとの連絡もしやすくなるしな。兄貴に隠密たちと連携させる許可を取っておいてくれ」

「かしこまりました」


 ルウドルトは頷いて、再びアイテムのチェックを始めた。


「まあ、ここにない品物は私もあずかり知らぬ事。殿下は普段魔石を拾ってくることすら稀なのですから、特に陛下も気になさらないでしょう」

「……そういや、親父はもう豪遊から戻って来てんのか?」

「ええ。その時点でアレオン殿下がまだ戻っていなかったことにだいぶ疑念を溜めていましたので、次回のゲート攻略支度金は減らされるかもしれません」

「けっ、長年未攻略だった難解ゲートを、そんなに簡単にクリアできるわけねえだろうが。自分で入ってみやがれってんだ、クソ親父が」


 金に関しては次回からはカズサが当てにできるからどうでも良いが、自分は遊びほうけていてその言いぐさなのがムカつく。

 その豪遊の金だって国民から搾り取った税金と、アレオンが高ランクゲートから持ち帰った戦利品を売った金だ。


「ここに居りゃ鬱陶しがるし、ゲートに入ってりゃ疑うし、どうしろってんだ。全く、疑念も何も俺は親父のことなんか何の興味もないっての」

「陛下のように権力を笠に着ている者は、それを失うのが何よりも恐ろしいのですから仕方ありません。彼らにとって権力は、誰もが羨み欲しがるものだという認識なのです。もちろん貴方がその権力を狙っていると思い込んでいますし、実際アレオン殿下にはそれを力尽くで奪う力がある。だから貴方を警戒しているんでしょう」

「……まあ、そもそも権力が欲しくて親殺しをした男だもんな。そりゃ息子も疑うか」


 アレオンは呆れたため息を吐いた。


「兄貴は?」

「ライネル殿下は通常の政務に戻っています。さすがに陛下がいるとアレオン殿下のための調べ物などできませんから」

「そりゃそうか。……なら俺も少し、自分で本を読んで色々調べてみようと思うんだが、兄貴経由で本を持ち出せないか?」

「……おや。珍しいですね、アレオン殿下が本を読みたいなんて」

「茶化すな。この間の兄貴の話を聞いてて、やっぱり知識は必要だと感じたんだよ」


 今後も子どもを守るには、様々な知識が要る。魔法や術式はもとより、魔道具や薬学などに関する知識もだ。


「まあ、良い心がけです。ライネル殿下に話をしておきましょう。何かご希望の本はございますか?」

「希望の本……」


 ルウドルトに問われて、ふと『エルダール王家初代の歴史書』が脳裏に浮かんだ。……チビの首輪の術式を書き換えるためのアイテム、それを得る対価だ。


 その名前を口にしかけて、しかしすぐに我に返り、慌てて思いとどまる。

 目に見えなくてもつながっている、『対価の宝箱』に思考が引っ張られかけたことに気付いたのだ。


 その本を手にしたらきっと、アレオンは宝箱を呼び出したい欲に負けてしまう。それは避けなければいけない。

 アレオンは思考を払うように頭を振った。


「……本の選択は兄貴に任せる。俺に必要そうなものを見繕ってもらってくれ。……歴史関係はいらねえ」

「かしこまりました。……ところで本と言えば、珍しいものをお持ち帰りですね、殿下」


 話しながらもずっとアイテムを仕分けていたルウドルトが、三冊の本をテーブルに積んだ。

 ゲートの宝箱で手に入れたものだ。


「ああ。今回はいつもより宝箱を開けてきたからな。そこから出てきた迷宮ジャンク品だ」

「我々の文化とは違うどこか異国の様式の本……。相変わらず、ゲートからは不思議なものが出ますね」

「見てみるとなかなか面白いぞ。礼儀作法なんかは結構俺たちと似たやり方だったりするんだ。この『ビジネスマナー』っていう本とか」


 他にも鉄でできた乗り物の本もあり、それはチビが食い付いていた。もう一冊は架空の物語だ。


「多少楽しめるようでしたら、それは置いていきましょうか。どうせ迷宮ジャンク品としての本は二束三文にしかなりませんので」

「……そうだな」


 子どもと眺めて楽しむにはいいかもしれない。アレオンは本をそのまま引き取った。


「……では仕分けはここまでですね。回収して陛下に報告します」


 やがて回収用のポーチにアイテムをしまい終わったルウドルトが立ち上がる。父王がいるときは、彼もここに長居はできないのだ。

 話していられるのはアイテム仕分けの間だけ。

 その線を引くように、ルウドルトは恭しくお辞儀をした。


「アレオン殿下、それではまた」

「……ちょっと待て」


 しかし、それを呼び止める。

 彼が立ち去る前に、アレオンには訊いておかねばならないことがあった。


「……魔研はまだこいつを探してるのか?」


 その問いに、ルウドルトは少々曖昧に頷く。


「おそらくは。子どもの捜索は私たちの手を離れてしまったので詳しくは分からないのですが、魔研が王都周辺の数多のゲート攻略依頼を出しているんです。もしかすると子どもが逃げ込んだゲートを特定しようとしているのではないかと」

「……そうか、やはりゲートに逃げ込んだと見てるのか。まあ、探知に引っかからないからな。……結局見つからないんだし、とっととあきらめてくれればいいが」

「どうでしょうね……私は次にジアレイスが陛下に泣きついて、面倒事になることを危惧しているんですけど」

「あー……」


 子どもを逃がした(ということになっている)のがアレオンだということもあるし、確かに父王に泣きつかれると面倒なことになりそうだ。


「とりあえず何かあれば私がご報告に来ることになると思いますが」

「そうだな。……こっちも先回りして打てる手は打っておく」

「それが良いと思います」


 何にせよ、何があろうとチビを魔研に渡す気はない。

 出来うる手は何でも打とうと考えて、アレオンは隣に静かに座っている子どもの頭を撫でた。


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