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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】アレオンのジレンマ

 はたと目を覚ますと、腕の中にウサギの抱き枕がいた。


 どうやらアレオンは、そのけしからん手触りを確認している最中に寝落ちしてしまったらしい。

 チビはまだくうくうと気持ち良さそうに眠っていて、目を覚ます様子はなかった。


(ゲートの中だというのに、ものすごい熟睡をしてしまった……)


 寝不足と子どもの癒やし効果と見張りがいることへの安心感で、今までにないほどぐっすり眠ってしまったようだ。

 おかげですっかり頭は冴え、身体のだるさも取れている。


(どれくらい眠っていたんだ?)


 子どもを起こさぬようにモフりながら外に気を配るが、感じるのはカズサの気配だけ。アレオンたちが眠っている間も特に問題はなかったようだ。


 アレオンはひとつ欠伸をして、チビを残してテントの外に出た。


「あ、お目覚めですか、殿下」


 そこでは調理台を前に、カズサが釣った魚を捌いていた。おそらくこれが次の食卓に乗るのだろう。


「……俺はどれくらい寝てた?」

「んー、六時間ほどですかね。てっきりもっと遅くまで寝るんじゃないかと思ってたんですけど」

「それだけ寝たなら十分だ。……まだチビは眠っているから、貴様も休むなら今のうちに寝ておけ。見張りは俺がする」

「おチビちゃんはまだ体力がないから休息が多めに必要なのかな? じゃあ俺も魚を全部捌き終わったらちょっと休ませてもらいます」


 カズサはそう言うと、再び魚を捌き始めた。

 丁寧に三枚におろし、切り身を調味液に浸けている。マメな男だ。


 まあどうせ今日はこのフロアでゆっくりするつもりだし、手間が掛かることも許容できる。

 アレオンはだいぶ余裕のある心持ちで、近くにある岩場に腰を下ろした。


「……ところで殿下、訊いていい? いつも単独攻略の剣聖様が、何で今回はおチビちゃんを連れてんですか?」

「貴様には関係ない」


 不意に、こちらに視線を向けぬまま訊ねられて、アレオンも視線を向けずに即答する。

 正直、あまり向き合いたくない質問だ。

 しかしばっさりと斬り捨てたというのに、カズサは続けて訊ねてきた。


「あのおチビちゃん、魔研の管理下の子ですよね。あそこから借りてきたんです?」

「……違う。要らないようだからもらってきたんだ。返すつもりはない」


 魔研から借りてきた、という言葉を流せずについ言い返す。そもそも奴らはチビを捨てる気満々だったのだから、わざわざ返す義理はない、とアレオンは思っている。

 するとカズサはその返答に、不思議そうに首を傾げた。


「要らない……? でもあの首輪、魔研が組んだ特殊術式が掛かってますよね。それをみすみす捨てるとは思えないんですけど」

「何……?」


 そのカズサの言葉を聞いて、今度はアレオンが反応する。


「あの首輪のこと、何か知っているのか」

「何かってほどじゃないですけど……。あれって、使役と感情抑制の術式が付いてるでしょ。魔研はあの術式が欲しくて、大枚はたいて設計図を手に入れたらしいんです。だから、それを使った特別な魔道具を易々と手放すとは思えないんですよね」

「……確かに奴らは、その『特別な首輪』を取り戻したがっている。チビが魔力を使い切って役立たずになったら、見殺しにして首輪だけ持って帰れと言われたからな」

「え、何ですか、そのヘビーな話」


 その内容に、さすがにカズサも手を止めてアレオンを振り返った。


「つまり、おチビちゃんは要らないけど、首輪だけ必要ってこと?」

「……そうだ」

「でも、別に首輪を外すだけなら殺す必要ないですよね。……外した瞬間に来るおチビちゃんの報復が怖いとか? もしくは、殺す以外に首輪を外す方法がないとか……? でもそもそも、あれだけ強力な魔法を操る子を処分する意味が分かんないな」

「……魔研の人間は、チビが『壊れかけている』と言っていたが」

「じゃあ、それが理由かな? 壊れかけている、ねえ……」


 カズサは他人の命を狩ることを生業にしていた男だが、特に生死に関して無情というわけでもないようだ。

 そういえば死神が子どもを手に掛けたという話は聞いたことがないし、チビに接する様子から見ても、結構な子ども好きなのかもしれない。


「殿下はどう見てもおチビちゃんを死なせて首輪を外そうなんて思ってないですよね」

「当然だ」

「魔研から寄越せって言われたらどうすんです?」

「……そんなもん、何を言ってこようが無視だ。とりあえず、今は俺が連れてることは知られていないしな。チビのことは森の中に放ってきたと言ってある」

「そうなんですか? でも、探知魔法とか使われたら……あ、だからこのゲートか」


 カズサは何かに勘付いたようだ。

 ……少し内情を話しすぎてしまったかもしれない。


「殿下、おチビちゃんが探知されないようにこんな面倒臭いゲートに入ってたんですね。ここなら比較的長く滞在してても不思議じゃないし。俺も仕事中に、暗殺ターゲットの探知の目を眩ますためによくゲートに身を隠してましたよ」


 アレオンがここにいる意図を読み取ったカズサは、そう言って腕を組んだ。


「でも、いつまでもここにいるわけにはいかないですよね~」

「……ゲートの中まで探知が及ばないというのは、結構知られているのか?」

「それほど公ではないけど、俺みたいな生業の奴やゲートに精通してる人間なら知ってますね。魔研あたりも、探知に引っ掛からなければおチビちゃんがどこかのゲートに逃げ込んだと考えてるかもしれません」


 どこだか分からなくても、ゲートに逃げ込んでいることはバレているかもしれないのか。

 だとすると、この王都周辺のゲートのある区域は、しばらくの間は探知でチェックされていると考えていい。


 このゲートから出た時に、アレオンの帰還と首輪の探知が重なれば、その所在はすぐに知られてしまうかもしれない。


「厄介だな……」

「いや、でも首輪さえ外して魔研に戻せば問題ないでしょ?」

「……それは……」


 カズサのシンプルな提案に、しかしアレオンは渋い顔をした。


「……首輪を外すと、チビが勝手にどこかに行ってしまうかもしれん」

「ん? ……んん? 何て?」


 まさかアレオンが首輪を外すことを渋ると思っていなかったらしいカズサが、思わずといった態で二度訊き返す。

 そこに多大なる私情が挟まっているアレオンは、つい自己弁護をするように言葉を足した。


「あれだけ強い魔法を使う子どもだし、どこかに消えてしまったら色々危険だろう。悪い輩に捕まって利用されるかもしれないし……、俺の命令下にあった方が絶対都合がいい」

「おチビちゃんは首輪を外したからって、無謀なことをする子には見えないですけど。それに、あの感情に蓋をされた状態、俺はあんまり歓迎出来ないなあ」

「それは、そうなんだが……」


 確かにあの感情を閉じられた状態は解除してやりたい。

 しかしそうなると首輪を外さなくてはいけないわけで、アレオンはジレンマに陥った。


 命令がなくてもチビがアレオンと一緒にいる選択をしてくれるのなら、もちろん何の問題もないのだけれど。

 未だに命令でしかコミュニケーションを取れないアレオンは、それに関して全く自信が持てないのだ。


「おチビちゃんが首輪をしている限り、魔研に探されるんでしょ? 厄介なことに魔研のバックには国王陛下がいるし……。殿下がこんな激強半魔を内緒で連れ歩いてるなんて知れたら、すげえ面倒臭いことになるんじゃないですか?」

「……それが一番の問題なんだ。親父は俺が今以上の力を持つことを警戒してるからな」

「それじゃあどうすんですか」


 カズサは呆れたように肩を竦めた。


「首輪は外したくない、でも魔研には見付かりたくない。かと言っていつまでもゲートにこもっているのも不自然……。打てる手はほとんどないですよ」

「分かっている。……まあ、今は良い案が出るまでの時間稼ぎみたいなものだ。貴様に心配されなくてもどうにかする」


 とりあえず今、当てに出来るのは色々調べてくれているライネルの策だ。あの兄が何か解決策を見付けていてくれるといいのだが。


「良い案ねえ……そんなのがあれば良いですけど」


 アレオンがそこで話を切り上げてしまったので、カズサも大きなため息と共にそこで作業を切り上げた。

 調理道具を片付け、捌いた魚を劣化防止BOXに入れる。


「まあいいや。俺も一旦休みますね。おチビちゃんが起きてきて余裕があったら、山菜や果物採ってきておいてもらえます? 俺は三時間程度で起きてきます」

「……分かった」


 アレオンが請け合うと、カズサはようやく自分のテントへと入っていった。


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