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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【七年前の回想】『死神』現る

 当然だが、暗殺者たちの個々の力はアレオンに全く及ばない。


 しかし、さすがにランクSゲートをこの階まで下りてきただけのことはある。

 その力不足をカバーする手腕・連携力・状況判断力が、その辺の冒険者より格段に長けていた。

 先程の強気な発言も、この実力に裏打ちされたものだろう。


 暗殺者から代わる代わる繰り出される剣撃と飛んでくる弓矢。

 それをかわし、時には剣で受け止めながら、アレオンは焦りを感じていた。


(くそっ、こいつら……!)


 戦い方が上手すぎる。

 あと一歩踏み込めばこちらに傷を付けられるところを、攻めてこない。刹那の誘い込みに乗ってこないのだ。

 かと言ってこちらが踏み込もうとすると弓矢が牽制する。


(俺の状況を分かって、確実に仕留められる一発を狙ってやがる)


 戦況を鳥瞰する人間が敵にいるとアレオンにはかなり不利だ。こちらは外からの視点を持っていない。

 いや、とりあえず子どもが外野にいるけれど、どちらにしろ関わらせたくなかった。


 子どもがこうしておとなしくしているからこそ、その標的にならずにいられるのだ。そこにこいつらの気を向かせるわけにはいかない。

 アレオンは敵の剣を勢いよく弾き返した。


「はっ、さすがの剣捌きだな。だが、どこまで保つかな?」


 多少息を切らしてはいるものの、暗殺者たちはまだ余裕だ。


「チッ……」


 その男たちの言葉に、アレオンは大きく舌打ちをする。

 こいつらがこちらの限界を待っているのは、体力ではなく集中力の方なのだ。


 さっきから、絶妙なリズムを作って攻撃を仕掛けてきている。これがかなりタチが悪い。

 ともすれば戦い慣れたアレオンの身体は、そのリズムに乗っかってしまうのだ。

 するとどうなるか。


 集中力を切らしても、手癖で対応出来てしまう。つまり、疲弊した脳がこれ以上の摩耗を防ぐために、勝手に集中力のスイッチを切ってしまう。意思では抗えきれない、身体の防衛本能が働くのだ。

 そのタイミングを狙って、意図的にリズムを崩した一撃が来たら。


 完全に、対応出来ずに終わる。


(こいつらの狙いは分かっている。が、意思だけで集中し続けるのはそろそろ限界に近い……)


 自分が死ぬことは仕方がないと割り切れる、けれど子どもはどうなるか。

 ここに残されるのも、魔研に連れ戻されるのも、死んでしまうのも許せない。そうとなれば、やはり自分が生き残るしかない。


 しかしもはや打開策を講じるだけの精神的な余裕はなく、すでに戦闘中に思考が揺れている時点で集中力は切れていた。

 それに気付いたのは、自身の胸元にタイミングをずらされた一撃が来た時だった。


「もらった!」

「っ、しまっ……!」


 狙い澄まされた、回避不能の攻撃。

 敵が勝利を確信し、アレオンも死を覚悟した。


 しかし。


「うわあっ!?」

「何だ!?」


 突然、アレオンの目の前で猛烈な熱が発生する。


 一体何が起こったのか。

 爆発的な熱量と風圧を受けて、アレオンと一人の暗殺者は数歩後退し、そこでようやく事の全景を見ることとなった。


「な、何だこれは……!?」


 アレオンに剣を突き刺そうとした暗殺者が火柱に包まれている。

 煉獄の火柱(バーニング・ピラー)だ。


 誰の仕業かなんて考えるまでもない。

 反射的に振り返ると、子どもがこちらに両手をかざし、正に魔法を放ったところだった。


(まずい!)


 仲間の一人が一瞬で消し炭になり、暗殺者たちも即座に魔法の出所となった子どもに目を向ける。

 これだけの実力がある暗殺者だ。この魔法がどれだけ危険なレベルのものか、間違いなく知っているはず。


 この瞬間、暗殺者たちにとってはアレオンより子どもの排除の方が優先事項となった。


「このガキ……!」


 さっきの子どもの攻撃が暗殺者に当たったのは、全く警戒されておらず、完全な不意打ちだったからだ。

 ここからの魔法攻撃はこいつらに全く当たらないと考えていい。

 もう子どもが戦う術はない。


「避けろ!」


 離れたところにいる盗賊の弓が、子どもを狙っている。

 助けに行くにも、攻撃を阻止するにも、巻き込まないためにと距離を取り過ぎたことが仇になって間に合わない。

 アレオンはとっさに出たこの命令が、いくらか効力を持ってくれることを願った。


「貴様も死ねっ!」

「うるせえ! 邪魔するな!」


 すぐに子どもの元に向かおうとしたアレオンに、後ろから残った暗殺者が襲いかかる。

 しかし、一対一になればアレオンの強さは圧倒的だ。

 二回ほど切り結んだ後に、怒りに任せてその身体を斬り捨てた。


 だがそれとほぼ同時に背後で弓の弦が鳴り、アレオンは子どもに向かって矢が放たれた事を知る。

 駄目だ、どうにもならない。


 絶望感と共に急いで子どもを振り返った、ところで。

 不意に、そこを黒いものが横切ったのをアレオンは見逃さなかった。


 次の瞬間、子どもがいた場所で爆風が巻き起こる。おそらく弓矢に爆裂魔法エクスプロージョンが掛けられていたのだ。万が一にも子どもを討ち漏らさないためだろう。


 ……けれど、盗賊は結局子どもを討ち漏らした。

 直前に、黒いものが子どもをそこから攫ったからだ。

 それはアレオンが見覚えのある、黒尽くめの男だった。


(……さらに最悪なのが出てきた……)


 思わず顔を顰める。

 こいつは、今回の暗殺者とは全然強さのレベルが違う。

 万全のアレオンとタイマンでやり合って、死ななかった唯一の男。

 今は違うが、その界隈から『死神』と呼ばれ、恐れられていた男。


 本当にここまで復讐リベンジしに来るとは。


「あは、良いもの手に入れちゃった」


 黒尽くめの男は、子どもを抱えてへらへらと笑っている。

 それを見て、慌てたのは盗賊の男だった。


「て、てめえ、元『死神』……!? 何でこんなところに!」

「ゲートの入場定員がちょうど一人分空いてたから。俺、アレオン殿下に会いたくてずっと探してたとこだったんだよね~」

「何だと……? てめえ、後から来て美味しいとこだけもらっていく気か!?」


 こいつらの言う美味しいとこというのは、おそらく暗殺者最高位『死神』の称号のことなのだろう。

 とりあえず黒尽くめの男はそれを取り戻しに来たということか。


 しかし子どもを抱えた男は、ふふんと鼻で笑った。


「別に、美味しいとことか興味ないし。邪魔立てする気はないから、どうぞアレオン殿下と決着付けなよ。殿下を倒せれば、『死神』の称号はお前のもんだぜ」

「……お? おう、そ、そうか」


 思わぬ返しに、盗賊の男は戸惑いつつも頷く。しかしちらりとこちらを見て、すぐに自分が一対一でアレオンと戦えるわけがないと思い直したのだろう、元『死神』に話を持ちかけた。


「あ、あんた、ここまで来たなら俺と組まないか。一緒に殿下を倒して、二人で『死神』の称号を付けようぜ」

「お前、俺の話聞いてた? 俺、興味ねえの『死神』の称号とか。そっちが終わるの待っててやってんだから、とっとと用事済ませてくれねえ?」


 ……何だろう、このやりとりは。


 まあとりあえず、この黒尽くめの男が今すぐアレオンを殺したいという感じでないのは分かった。

 子どもに危害を加える様子もなさそうだ。


 どちらかというと彼の殺気は、盗賊の男に向き始めた。


「あーもう、もたもたしてねえで、さっさとしろ。有り体に言えばさっさと殿下に殺されろ。お前には万が一の勝ち目もない。……グズグズしてっと俺が殺すぞ」

「ひっ……!」


 前衛二人を失った後衛に、もはやどうすることも出来ない。

 その上、元『死神』に凄まれて、盗賊の男は竦み上がった。

 完全に呑まれている。


「あー……めんどくせ……」


 もう結果の見えたやりとり。どうでもいいから終わらせて一息吐きたい。

 気が抜けたのと頭がうまく回らないので、アレオンは考えるのが面倒になった。

 とりあえず、この盗賊の男を殺せばもう子どものところに行ける。

 だから殺す。


 アレオンは億劫そうに剣を構えて、無造作な足取りで男に近付いた。


「くっ、来るな!」


 盗賊が慌てて弓を構える。

 だが、直接やりあえば力の差は歴然だ。

 放った弓矢はたたき折られ、次の瞬間には弓ごと男の身体は両断された。


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