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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、弟の出生を知る

「なんなんだ、一体?」


 クリスからの脈絡のない質問と反応。その様子を訝しく思って答えを促すと、彼は困ったように頭を掻いた。


「……この魔法薬と『おぞましきもの』には、どうも因縁があるみたいで……。ええと、今日仕入れたばかりの情報で、まだ私の中でもまとまっていないんだ。ごめん、これに関してはちょっとの間忘れて」

「『おぞましきもの』と『アンブロシア』に因縁?」


 そういえばアンブロシアは世界樹がもたらした、この世界の理から外れた存在だ。そして『おぞましきもの』も、世界樹がもたらすという得体の知れない何か。

 共に世界に大きな影響を与えうる、善悪の概念がない存在。


 クリスは忘れてと言ったが、レオはその内容に食い付いた。


「あんた、今俺たちがアンブロシアを持っていることに『やはり』と言ったよな? この世界にただ一つのアイテムを、なんで俺たちが持っていると考えていた?」

「……んー、ひとくちに答えるのは難しいんだよ。あの文献の内容が正しいとも限らないし……」

「あの文献とは何だ」


 レオはさらに食い付く。その鋭い視線に、クリスは困ったように俯き、眉間に指を当てた。


「……私が今まで読んできた魔界の歴史書を覆すものだったから、にわかには信じられないんだよなあ。最終戦争ハルマゲドンを実際見ていた魔族が書いたとはいえ、これに関しては推測と考察だし……」

「通説とは違う上に、確証のない情報ということか? じゃあただの妄想じゃないのか」

「でも、荒唐無稽だと斬り捨てることもできないんだ。……その書物を書いたのが魔界図書館の管理者である魔族だったからね」

「……魔界図書館の管理者……ルガルが?」


 なるほど、その名前で書かれた文献なら、確かに無視はできない。

 あの魔族はおそらく知識だけなら魔界一、おまけに魔界の理を覗ける権限を持つ稀有な存在だ。

 下らない書物を捏造するような小さな男ではないし、実際最終戦争の時代を生きていたというのなら信憑性も増す。


「つか、あいつ前時代から生きてんのか。超ジジイじゃねえか」

「上位階級の爵位を持った魔族は特に長命だからね。……とは言え、あれが本当にルガルが書いた書物なのかは分からないけど」

「……誰かがルガルの名を騙って書いた本かもしれないってことか?」


 レオが訊ねると、クリスは軽く頷いた。


「可能性のひとつとしてね。魔界にいるはずの魔族の本が、どうして王宮の魔法研究機関の本棚なんかにあったのかも気になるし」

「……確かに、あいつの書いた文献がこっちの世界にあるのは違和感があるな。死んだ魔族の遺品として流れてきたならまだしも」

「うん。だから内容自体はきっちりしているんだけど、もう少し確証が持てるまでは保留にしておきたいんだ」

「……分かった」


 やはり自身が納得するまでは、その詳細を語りたくないらしい。

 まあその情報自体クリスしか仕入れられないのだから、彼が告げてくれるまで待つしかないのだろう。

 レオはため息と共に了承した。


「そっちの話はある程度あんたの中で情報がまとまったら、早めに報告をくれ。……じゃあ、次はユウトの話だな」

「そうだね。レオくんにとってはこっちがメインだろうし」

「……魔法学校で、どんな話をしてきた?」


 魔法学校から戻ったユウトは、すでに朝の悩みを払っていたようだったけれど。

 それでもレオは、弟が何かを隠している感を拭えていなかった。


 もちろんこのクリスが、ユウトの秘密を全て晒してくれるとは思っていない。そんな口の軽い男ならレオだって信用しないし、そもそも仲間にしていない。


 現状、兄も弟も双方で秘密を抱えているのだ。

 その両方を尊重し、仲立ちをして情報の調整をしてくれるクリスの立ち位置は、酷く難しいことも理解している。


 だから力任せに聞き出そうなどとは考えないが、しかしやはりそのヒントくらいは欲しかった。


「大精霊と何か話をしてきたのか?」

「魔法学校にはディアさんしかいなかったよ。マルセンさんは講義で、大精霊はどっかに行っちゃったって言ってた」

「どこかに……って、どこに?」

「それが、ディアさんにも分からないみたいでさ。ただ、世界を救うために動き始めたとは言ってたけど」


 大精霊がユウトやディアから離れてひとりで動き出したということは、力が完全に回復したということなのだろう。……となると、ユウトに今まで付いていた精霊の加護は消えてしまったのかもしれない。


「ディアとはどんな話を?」

「んーと、ね……」


 レオが訊ねると、クリスは少しだけ言い淀んだ。しかしそのまま口を閉ざすことはせず、苦笑混じりに頭を掻く。


「レオくんにとっては、ちょっと複雑な心境になるかもしれないね……。ユウトくんの出生について聞いたよ」

「は……ユウトの出生……!?」


 何でこの段でそんな話に。

 予想外の話題が出たことに、レオは目を丸くした。


「ユウトくんの両親が誰か分かったんだ。……まあ、君が聞きたくなければこれは割愛するけど」

「ユウトの両親……」


 それを聞いたレオが眉を顰める。

 薄々勘付きながら気付かないふりをしていた事実を、直視する時が来たのだ。

 その両親をユウトが知ってしまったのなら、レオが知らないふりをしてももはや意味がない。


「……構わない、話せ。もう見当は付いてる」

「だろうね。……ただ、予想外な話もあるけど」

「予想外?」

「レオくんは、ユウトくんの母親がディアさんだというのは想定内でしょ?」


 ディアがユウトの母親。そう明言されて、しかし衝撃はない。

 レオは小さくため息を吐いた。


「ああ……。やはりそうだったか、という感じだ。初めて会った時からユウトと似ていると思っていたし、彼女も初見からユウトを特別視していたしな」

「父親の方は?」

「……ディアとの関係性や、やたらとユウトを可愛がる様子からして、あいつしかいない。ユウトが聖属性持ちなんだからほぼ確定だ。……大精霊だろう?」


 もう分かっている答えを確認するようにクリスに訊ねる。

 しかし、すぐに肯定の返事が来ると思ったのに、彼は一旦間を置くように紅茶をひとくち啜った。


 二人の間に妙な沈黙が生まれたことに、レオが目を瞬く。

 なんだ、この違和感。


「……もしかして、違うのか?」

「いや、間違ってはいないよ。ただ、ユウトくんの父親はもうひとりいるんだって。……ほら、彼は闇属性も発現したでしょ」

「は? 待て、父親がもうひとり……?」


 常識的にあり得ない展開に困惑する。

 だが確かに、大精霊とディアだけなら闇属性など発現するはずがないのだ。


 だとしたらもうひとりの父親とは。


「魔王……」

「そう。ご名答」


 魔界の高位魔族には闇属性持ちが極少数いるらしいが、大精霊と揃いでユウトの父親となるのなら他にいまい。

 そう思って発した言葉に、クリスが今度こそすんなりと頷いた。


 ……ユウトが大精霊と魔王の子ども。

 それだけで、弟がどれだけこの世界にとって重要な存在か思い知らされる。一体どんな意図のもとにユウトは生まれたのだろう。

 もちろん彼らがユウトをこの世界に生んでくれたことには感謝しかないけれど、もっと平凡な存在にしてくれれば良かったのに。


 そんな詮無いことを考えているレオに、クリスは説明を続けた。


「ディアさんの強力な魔力で造った卵に、大精霊と魔王の力で生命を宿したらしいよ。ただ卵が孵る前にディアさんも大精霊もゲートに閉じ込められちゃったし、魔王も行方不明だしで、ユウトくんの昔のことは誰も分からないみたいだけど」

「……卵? ユウトが、卵から生まれたって?」


 ふと、その内容に引っ掛かりを感じて訊き返す。

 別に半魔ならそういう種族がいても何もおかしくないのは分かっているのだけれど、そういう意味で気になったわけではなかった。


 どちらかというとその逆で、弟が卵から生まれたと聞いたことで、レオの中の何かが繋がったような気がしたのだ。

 それははっきりと意識出来るものではなくて言葉にするのが難しく、すぐにレオの思考は別の記憶に逸れてしまった。


「……そういえば、魔界に飛ばされた時に大精霊に会ったルガルが、そんな話をしていたな」

「魔族が卵の話を?」

「ああ。……卵が無事孵っていて良かった、あの方も喜ぶ、と」

「あの方っていうと……おそらく魔王だよね。その『卵』はユウトくんを指すに違いないし、その魔族も何か訳知りなのかな。……魔界図書館を管理していて、大精霊と魔王とも繋がりがある魔族……。そう考えると、やはりあの文献は無視出来ないか」

「あいつが俺とユウトに『ルガルの魔鈴』をくれたのも、ユウトが特別な存在と知っていたからだとすれば納得がいく」


 ルガルはヴァルドがユウトに付き従っていることも歓迎していた。何かを知っているのは間違いないだろう。

 もし魔界に行けるのなら、話を聞いてみたいが。


「その魔族は、他に何か言っていなかった?」

「他に……?」


 クリスに促され、レオは記憶を辿る。

 そこでふと、自分には意味の分からない会話がなされていたことを思い出した。


「そういえば、魔界を歩いている時に俺はツノと翼を付けていたんだが、俺を見たルガルが大精霊に何かを確認していた」

「何かって?」

「俺のことをだ。よく分からんが、『ツノと雰囲気からそうかと思った』と言っていたから、もしかすると俺の存在を事前に知っていたのかもしれん」

「うん? けどレオくんって、その時初めて魔界に行ったんだよね? ……あ、でもその言い方からするとレオくんを知っていたというよりは、まずそういう存在がいることを知っていて、それがレオくんだと気付いたという感じかな」


 微妙な違いだが、確かにニュアンスはそちらの方が合っている気がする。

 だがどちらにしろ、レオとしては全く意味が分からない。


「……考えてみたら、大精霊も妙なことを言っていたな。俺がツノと翼を付けた姿を見て、『これほどあいつの形状を引き継ぐとは』『だからこんなにいけ好かんのか』と」

「え? 大精霊が言う『あいつ』って……? 形状を引き継ぐ……? ええ、ちょっと待って、まさか」


 レオの言葉を聞いたクリスは、驚愕と困惑の入り交じったような顔をした。


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