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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、パーム工房でアイテムを受け取る

 タイチ母が取り出した木箱を開けると、そこには何故か二つのアイテムがあった。


 細い組み紐に、魔石とレリーフの付いたペンダントがひとつ。

 それから、大きな魔石の填まった可愛らしいブローチがひとつ。


 ペンダントは男物のシンプルなデザインだが、ブローチの方は明らかにレオが着けることを想定したものではないだろう。

 どういうことかと怪訝に思い、首を傾げた。


「……依頼したアイテムは俺の分だけだったはずだが」

「ええ、もちろん分かってるわ。でもお兄さんと弟さんで持ってたほうがいいから」


 それはつまり、兄弟分のアイテムを作ったということか。せっかく作ってもらっても、半魔のユウトには必要ないのだけれど。


「ユウトの分まで瘴気無効のアイテムを作ったのか……。だがあいにく、こいつの分は不要だ。まあ、引き取っても良いが」


 作ってしまったのなら、いっそデザインの是非は考えずにクリスにでも着けさせればいい。

 そんなことを考えていると、レオの推察に反して向かいのタイチ母は笑顔をたたえたまま首を振った。


「弟さんのは瘴気無効は付いてないわ」

「……は? じゃあ、これは何だ」

「まあまあ、そう急がないで。まずは、はい、これがお兄さんのアイテム」


 困惑したレオをよそに、彼女はペンダントを取り出すとこちらにそれを差し出した。

 こっちは紛れもなく瘴気無効のアイテムだろう。

 レオはペンダントを首に掛けると、邪魔にならないようにヘッドをシャツの内側に入れ込んだ。


「これは瘴気のある場所では常時首に掛けておくようにしてね。手に持っていても意味がないから気を付けて。呼吸と共に入ってきた瘴気を首元で無害化するものだから」


 どうやらこれは、首に巻かれた組み紐の部分で、喉を通過する瘴気を除去する仕組みらしい。フィルターのようなものか。

 そしてこのペンダント部分で、組み紐が絡め取った瘴気を変換するわけだ。


 依頼通りのアイテム。これがあれば魔界も問題なく行ける。


 しかし、だとするともうひとつのアイテムの必要性が謎だ。

 意味が分からんと眉を顰めたレオの隣で、同じように不思議に思ったユウトが目を瞬いた。


「……このアイテム、これだけで完結してるみたいですけど……。タイチさんのお母さん、こっちのブローチは何のためのものですか?」

「このブローチは弟さん用。特上魔石寄りの純度の高い上魔石を使った、魔力タンクみたいなものね」

「魔力タンク……ですか?」


 さらに意味が分からない。

 魔力タンク、ということはこのブローチに魔力を溜め込むということなのだろうが、瘴気を無効化するアイテムと何の関係があるのか。


 兄弟二人で怪訝な顔をしていると、タイチ母はそのブローチをユウトに差し出して見せながら説明を始めた。


「今回は初めて作るアイテムで、瘴気のこととかだいぶ勉強したのよ。こんなの王宮図書館まで行かないと資料がなくてかなり難儀したけど、おかげで色々分かったわ。お兄さんに渡したそのペンダントだけでは、魔界で動くには何かと不都合があるということも」

「魔界での不都合?」

「そう。で、それを解消して尚且つ有効利用するために、この弟さん用のブローチを作ったの」


 そう言ったタイチ母は、珍しく職人の顔をした。


「とりあえず簡単に説明すると、そのペンダントは瘴気の成分を組み替えて、魔力に変換する仕組みになっているの」

「瘴気を魔力に……って、そんなことが可能なんですか?」

「ええ。調べてみると瘴気と魔力は、構成している成分がとてもよく似ていてね。……まあそれでも、こんなことが可能なのはこの超稀少素材があるからこそだけど」

「とにかく、それで瘴気が無害化されるわけだな」


 特に不都合もなさそうだが、何が問題なのか。

 レオは一度シャツの下にしまったペンダントのヘッドを引っ張り出した。


 そう言えば、瘴気の変換・無害化がバンマデンノツカイ素材の効果なら、この填まった魔石は何のために付けているのだろう。

 よく見ると、ペンダントの裏にもぎっしり術式が書いてある。


 それを一瞥してから、レオは再び視線をタイチ母に戻した。


「で、不都合って?」

「それは、瘴気と変換した魔力は同じ容量で周囲に放出されるということよ」

「魔界で呼吸したのと同じ分だけ周りに魔力が排出されるってことですか。……それのどこが問題なんですか?」

「魔界の魔物って、魔力の匂いにとても敏感なんですって。周囲に魔力をばらまきながら歩いていたら、すぐに魔物に見付かるのよ。呼吸を止めるわけにもいかないし、魔界にいる間は常時魔物に囲まれているような事態になりかねないの」

「魔力の匂い……」


 そういえば、半魔のヴァルドやエルドワも、滲み出るユウトの魔力の匂いに惹かれていた。

 半魔ですらそうなのに、魔界で魔力を垂れ流しで歩いていたら、どこに居たって見付かるに違いない。確かにそれは不都合だ。


「それを解消するためのこの魔石か」

「そうよ」


 レオの言葉に、タイチ母は少し自慢げに口端を上げた。


「ペンダントで変換された魔力を放散させずに封じ込め、こっちの魔石を経由してこのブローチの魔石に溜めるの。そうすれば、周囲に魔力の匂いを気付かれることはないわ」

「なるほど、それなら安心だな。……だが、だったらこのブローチの魔石をそのままこっちのペンダントに付ければいい話じゃないのか?」

「それだと、魔力は溜まる一方でしょ。魔石が満タンになったら溢れてしまうわ。お兄さんは魔法使えないから消費出来ないし」

「あ、そっか。だから僕が兄さんから送られてきた魔力を消費して魔石に空きを作っておけばいいんですね」

「そういうことね。お兄さんは魔物に気付かれなくなるし、弟さんはある程度自分の魔力を消費せずに魔法を使えるようになるし、一石二鳥でしょ?」

「確かに」


 タイチ母の説明を聞いて、レオはようやく得心が入った。そしていたく感心した。やはりパーム工房を継ぐ者、よく考えている。


 レオはふたたびペンダントをしまうと、タイチ母が差し出していたブローチを受け取って、ユウトのブラウスのリボンの結び目に取り付けた。


 それを眺めるタイチ母の瞳は、いつものキラキラに戻っている。


「うーん、その兄弟にあるまじき近さがたまらない……! このセット感、萌ゆる……!」

「セット……って、この二つのアイテムのことですか? そういえば、こんな特上魔石に近い純度の上魔石を二つも使って、手に入れるの大変だったんじゃ……?」

「ユウトが心配することはない。金は言い値で払う。問題ない」


 弟が言うように、この魔石を手に入れるのは大変だったろう。

 当然レオとしては働きに見合う金を払う心づもりだ。


 しかし、そんな二人にタイチ母はひらひらと手を振った。


「大丈夫。この魔石、元はひとつだったのが割れちゃったものでね、上魔石にしては安く買えたの。割れた魔石って製品に使えないから」

「製品に使えない?」

「純度の高い魔石って不思議でね、割れてもひとつ扱いなのよ。欠片のひとつに魔法を込めれば、全ての欠片に同じ魔法が込められ、ひとつの欠片から魔法を消せば、全ての欠片の魔法が消える。ひとつの欠片が砕ければ、全部砕ける。そんな感じで多人数で持つには向かないし、かと言ってひとりで持つなら割れたものなんて選ばれないし」


 その点、レオとユウトが持つなら魔力を送り込む兄と魔力を使う弟で分担がはっきりしているから、使用に問題はない。

 どちらかの魔石が砕けてしまっても、相手を責めることもない。


 そう言ったタイチ母は、さらに力強く言い放った。


「何よりラブい兄弟がニコイチのアイテムを使ってるのが萌えるわ~! 想い合う二人が離れていても繋がっているとか、滾る!」

「まあ俺としては、アイテムをユウトと共有するなら大歓迎だ」

「僕もレオ兄さんと繋がってるなら嬉しいし、安心する」

「くうっ、デレしかないこの兄弟め! 好き!」


 レオは萌えている彼女に代金を払うと、再びユウトと手を繋いで店を出た。

 何故だか頬を染めたタイチ母に店の外まで見送られたが、まあそれはどうでもいい。


 ユウトと繋がっていられるアイテムが増えた。それだけで少しほっとしているレオだ。

 何があっても護りたい弟。ユウトとの接点は多いほど良い。


(……これでユウトに何があってもどこへでも追いかけていける)


 レオは胸元にあるペンダントをシャツの上から撫でた。

 今後このアイテムが果たす役割を知りもせずに。


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