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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、最後の祠に挑む決意をする

 ユウトを魔法学校に送り届けたレオは、その足でまず迷宮ジャンク品の店を訪れた。

 カウンターに行けばすぐに店員が気が付いて、入荷したフィルムをバックヤードから出してきてくれる。大変ありがたい。


 以前は使用目的が分からずゲートでフィルムを捨ててくる冒険者が多かったらしいが、最近はこの系列店で良い価格で買い取ってくれることが広まって、行く度にそれなりの在庫ができている。

 あるだけ全部購入して、レオは満足げにそれをポーチに入れた。


 ふと店の片隅にある例の禁書が並ぶコーナーに、サングラスとマスクをして大量の薄い本を抱えた怪しいぽっちゃり女性を見掛けたが、見なかったふりをして外に出る。多分これがお互いのためだろう。


 レオはその場を離れると、冒険者ギルドに向かった。


 時計を見ればまだ午前中。

 それなりに冒険者ギルドは忙しい時間だが、ウィルの受付を指名して高ランクゲートを攻略するようなパーティはもう出立している。

 受付で順番待ちをすれば、それほど掛からずに鑑定結果くらいは聞けるはずだ。


 果たして冒険者ギルドに着いてみると、そこそこ人はいるものの、ウィルの順番待ちをしている冒険者は一組だけだった。

 上位ランクにはすこぶる重宝されているウィルだが、その無表情と助言の厳しさから、大半を占める下位ランク冒険者からは敬遠されがちなのだ。彼の的確なアドバイスに従えばおそらく最短でランクアップできるのだが、まあそれができないから下位ランクなのだろう。


 少し待てばレオの順番が回ってきて、後ろに誰も並んでいないことを確認してからウィルの正面に座った。


「……例のものの鑑定はどうなった」


 相変わらず前置きもなく単刀直入に訊ねる。

 しかしもちろんウィルもすぐに応じて、無表情のままカウンター机の下から書類を取り出した。


「そろそろいらっしゃるだろうと思って、鑑定書を作っておきました。さすが超激レア素材、難儀しましたがやりきった感でいっぱいです。しばらくどんなレア素材を見てもどうってことない気がします」

「そりゃ良かった。この鑑定書があれば、アイテムが作れるんだな?」

「パーム工房なら大丈夫かと。こういう未知のものはタイチの母親が加工を得意としていますので」

「あー……確かに、通信機とかも普通に作ってたしな」

「妄想力……いや、創造力がすごい方なんです」

「分かる」


 とりあえず、ユウトを迎えに行った帰りにでもアイテム依頼をしに行くとしよう。どうせ今行っても禁書を読んでいて仕事をしてくれない。


 レオは受け取った鑑定書をポーチに入れ、再び後ろに人が並んでいないのを確認してウィルに訊ねた。


「……ところで、最近どうだ?」


 何が、とは言わない。それでもこの青年はきちんと理解する。


「魔研の人間からの接触は多いですね。ルアンさんが最近ずっとここを離れているのも大きいですが、回数自体が増えている気がします」

「……イレーナに言って、しばらく内部業務に回してもらうか?」

「自宅も知られているようなので、あまり意味はないかと。でも今のところは術に掛けて連れて行こうとするような素振りはありませんし、もう少し様子を見ます」

「……建国祭まではもうひと月もない。くれぐれも気を付けろよ」

「はい」


 手短に話を済ませ、レオは立ち上がる。

 特に挨拶もなく、ウィルが軽く会釈だけしたのを見届けて踵を返した。


 ……ルアンを当てておくことができないなら、ライネルに言ってウィルの護衛を付けさせるべきだろうか。

 彼には敵を論破する知識はあるだろうが、こと攻撃力や防御力に関しての能力は皆無だ。今後力尽くで来られた場合、個人で対応するには無理がある。


 必要ならば魅了、混乱、支配をブロックするアイテムを作って渡しておいてもいいかもしれない。

 レオはそんなことを考えながらも、ひとまずはガントに行くための食料や水を買い出しに向かった。






 同じ頃、ユウトは魔法学校の実習準備室にいた。


「……あの精霊ひとはどうしましたの?」


 こちらを見たディアは不思議そうに首を傾げる。マルセンはそもそも精霊が見えないから、まずは話の前にと転移魔石を渡してきた。


「ユウト、これ転移魔石な。……大精霊がどうかしたのか?」

「ありがとうございます、マルさん。……ええと、精霊さんが今行方不明なんです」

「行方不明ですって?」


 ディアは目を丸くした。まあ、普通はないことなんだろう。


「何がありましたの?」

「ユグルダでの精霊の祠開放の時、敵と戦っている最中に精霊さんがネイさんの身体を借りたそうなんです。で、何かの魔法を唱えていたみたいなんですけど、それを敵に強制キャンセルされたらしくて……。その後、いなくなっちゃったんですって」

「身体を借りる? 精霊ってそんなことできるんだ」

「ネイさんの身体を借りて世界への半介入ですって……!? そんなルール違反ギリギリのことをするなんて、一体何があったのかしら……」

「……ディアさん、精霊さんがどこに行ったか、心当たりありますか?」


 眉を顰めたディアに、ユウトは不安げに訊ねる。

 思っていたよりずっと大ごとなのだろうか。

 しかし、ディアはユウトの心配そうな顔を見ると、努めて安心させるように微笑んだ。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。ルール違反『ギリギリ』であって、ルール違反ではありませんの。ただ代償は大きくて、おそらく詠唱時に失ったマナを取り戻しに、竜穴に潜っているのだと思いますわ。……次の精霊の祠を解放すれば、一気に世界にマナが満ちるはず。そうなればあの精霊ひとも戻って来れるでしょう」

「そうなんですか? 良かった……」

「ただ、そこまでするに至った経緯が気になりますわ……。あの精霊が復帰したら詳しく訊かなくては」


 確かに、どういう経緯なのかは気になるところだ。ネイは身体を貸しただけでその魔法がどんなものか知らなかったようだし、そもそもどうして大精霊がそこまでしたのかも分かっていないようだった。

 理由は直接大精霊に訊くしかないだろう。


「じゃあとにかく、ガントの精霊の祠を開放しなくちゃですね。ディアさん、そこの祠について何か知っていることあったら教えて欲しいんですけど」

「そうですわね……私が知っているのは『魔力』を封じ込めた祠だということと、解放に魔法のコントロール力が必要になるということですわ」

「魔法のコントロール力ですか?」

「封印を解くのに、様々な魔法の機関を解除しなくてはいけないようですの。もちろん、ユウトくんが適任ですわね」

「機関の解除……。はい、それなら僕でどうにかできそうです」

「最後は封印者の魔族を倒さなくてはいけませんわ。そちらの対策も立てておいて下さいな」


 魔族対策か。敵が魔法だけで戦ってくれるならユウトにも十分勝機があるが、そこまで優しくはないだろう。

 レオとクリスが一緒に行ければいいけれど、無理ならエルドワ、誰も一緒に連れて行けないならヴァルドを呼び出せばどうにかなる。


「……大丈夫。僕が精霊さんを完全復活させてみせます」

「ええ、頼りにしてますわ」


 これが最後の祠。大精霊を、延いては世界を救うためにも、自分が解放しなければ。


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