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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、誘拐を計画される

『もえす』を出てもまだ街には人が溢れていた。


 時間はちょうど夜の9時を回ったところ。公園の祭りでの催しも続いている。

 浮かれて仮装のような格好をしている人たちも多い。

 店を出た時には周囲の目が気になったものの、おかげで新たな装備になったユウトたちがそれほど悪目立ちすることもなかった。ちょっと一安心。


 再び公園に戻った2人はゆっくりイルミネーションを見て回り、ベンチでたこ焼きとチョコバナナを食べていた。

 異世界にはこうやって、日本と似たものがよくある。迷宮から出るジャンク品といい、何か繋がりがあるんだろうか。

 まあともかく、美味しい。


「飲み物を買ってくる。何がいい?」


 先にたこ焼きを食べ終えたレオが立ち上がった。

 近くにドリンクの屋台が見える。そこに行くのだろう。


「ん、ありがと。お茶でいい」

「分かった」


 颯爽と屋台へ行くその後ろ姿を見送る。

 うーん、飲み物買いに行くだけなのにカッコイイ。あの上着が風をはらんで揺れる裾とか、あの裏地の赤がちらっと見えるとことか。

 ミワが執心してた身体のラインとかかっちり感とか。

 萌えのこだわりってすごい。


 当然レオも、ユウトは座ってるだけなのに可愛いと同じようなことを考えているのだが、弟は自身のことには無頓着だった。


 人波に消えたレオから視線を戻し、チョコバナナを食べながらひとりベンチで待つ。

 すると不意に、ビアガーデンの方から喧嘩腰の会話が聞こえてきて、ユウトは眉を顰めた。この聞き覚えのある声。あいつらだ。


「お前が下手なことするから、こんなことになったんじゃねえか!」

「いや、俺はちゃんとやったんだって! あのガキが俺に何かしたんだよ!」

「お前を釈放するためにいくら罰金払ったと思ってんだ。借金作っちまってよ。金返しきるまでお前ただ働きだからな」

「あーくそ、あん時みたいに楽に大金稼げねえかなあ!」


 盗賊が捕まって3人に減ったはずだが、釈放されたらしい。

 その会話が近付いてくる。これは鉢合わせると面倒だ。ユウトは見つかる前にレオの方に行ってしまおうと立ち上がった。


 しかし、移動する前に人混みを抜けた男たちに見つかってしまう。


「あっ、てめえ、このガキ! 見つけたぞ! 何だ、ふざけた格好しやがって!」

「この間はよくもやってくれたな!」


 ユウトは何もしていないのだが、そんな理屈は彼らには通じない。


「落とし前は付けてもらわねえとなあ」

「痛い目に遭いたくなければ有り金出しな。そうすりゃ今日のところはそれで許してやる」

「……あなたたちに許してもらわなければならないことなんて、何もしてませんけど」


 ここでレオの方に逃げると、大惨事になる可能性がある。

 ユウトは観念して男たちに向き直り、反論をした。兄が来る前に見回りの憲兵あたりが来てくれると助かるのだけど。


「貧弱野郎がいきがってんじゃねえぞ! 一発食らってみるか、ああ!?」


 こちらの態度が気に障ったのだろう、ニールが手を伸ばし、ユウトの胸ぐらを掴もうとした。


 しかしその直前に後ろから伸びてきた腕がユウトを抱き込み、ニールの手から遠ざける。

 驚いて振り返ると、まだドリンクの屋台に並んでいると思ったレオが、ユウトを腕の中に収めたまま男たちを睨めつけていた。


「レオ兄さん」

「に、兄さん……!?」


 ユウトが呼ぶと、ニールは掴みそびれて空振った手をそのままに、驚愕したように目を見開いた。ニールだけではない、後ろの3人も驚いたように固まっている。


 てっきり彼らは相手が誰だろうが喧嘩を吹っ掛けてくるものだと思っていたが、何故かレオに食ってかかろうとする様子はなかった。それにユウトが首を傾げる。

 知り合い……ということはないだろう。兄が弟を馬鹿にするパーティと付き合うわけがない。互いに夜狩りをするから、単に顔を見知っているだけだろうか。レオも彼らの存在を知っていたし。


 膠着した空気の中で、ついっとレオが大事な宝物を扱うようにユウトの頬を撫でた。その手の動きは優しいが、冷たく鋭い視線は男たちに向けたまま。


「……やるか? 俺と」


 彼らに向かって放たれた静かで端的な言葉は、低く重たい殺気をはらんでいる。その一言で、4人はいつかの村ネズミのようにビクッと竦み上がった。

 レオの大事な物に手を出していたことを知ったのだ。


「……い、行くぞ!」


 リーダーの戦士が、慌てたように仲間に声を掛け、それを切欠にパーティは怯えたようにも見えるていで雑踏の中に消えていく。

 ユウトはあまりにあっさり彼らが引き下がったことに、拍子抜けした。


「レオ兄さんと会わせたらとんでもないことになるかと思ってたのに。こんなあっさり引き下がってくれるなら、最初から兄さんのとこに行けば良かった」

「……そろそろ、あいつらをどうにかするか。ユウトに危害が及ぶ前に」

「えっ!? ちょ、いいよ、結局何もされてないし。以前も制裁はしないって言ったじゃん?」


 何だか物騒な表情をしたレオに気付いて、ユウトは驚いてそれを制止した。しかし彼はふん、と鼻を鳴らす。


「俺は『制裁に猶予を与える』と言っただけだ。しないとは言ってない。改心すれば話は別だが……奴らの性根に改善の余地は無し。もういいだろう」


 レオは独り言のようにそう呟いて、ユウトを腕の中から解放し、ベンチに座らせた。

 そこにはいつの間にか飲み物が置いてあって、隣にちょこんと鈴カステラも置いてある。それを挟んでレオも腰掛けた。


「そういえば、ドリンク買って戻ってくるの早かったね。わ、やった、おまけに鈴カステラまで。僕これ好きなんだ」

「……ユウトが絡まれているのに気付いて、代わりに知り合いに買ってきてもらった。……鈴カステラ……手懐けの様子見に来たな」

「また知り合い?」


 無愛想で人付き合いが好きじゃない兄が、頼み事をできるような相手を持っているなんて驚きだ。でも、とても良いことだと思う。


「今度紹介して」

「嫌だ」

「えー? 何で?」


 むう、と膨れて見せるが、レオにはまるで効かない。代わりにこしょこしょと顎を擽られた。


「素直なユウトにはあんまり会わせたくないタイプなんだ。抜け目がないし、したたかだし」

「でも兄さんが知り合いと認めてるなら、絶対悪い人じゃないでしょ。今度紹介して」


 もう一度言うと兄はとても嫌そうな顔をした。しかし、じっと見つめる弟の視線にため息を吐いて、ぼそりと言う。


「……どうせ、そのうちすぐに会う」

「ふうん?」


 その意味するところは分からないけれど、ユウトは一応そこで納得した。



**********



「……あのガキがまさかあの男の弟だったとはな」


 レオに追い払われた後、ニールたちのパーティは路地裏にある自分たちのボロ宿に戻っていた。

 レオのおかげで羽振りの良かった頃はずっといい宿に泊まっていたけれど、今や金は尽き、盗みや詐欺でちまちまと日銭を稼ぐことしかできていなかった。


 ずっとランクAのクエストを最高評価で達成して来ていたのだ。今さら実力相応のランクC依頼なんて受けられない。プライドが許さない。


 さらに先日の盗賊の失態で借金まで背負い、4人は何か大きく一儲けできることはないかと毎日街を徘徊していた。

 そこで、久しぶりに会った男。その実力を知っているからこそ、喧嘩を売るなんて無謀なことはできなかったわけだが。


「そもそも、あの男が今まで通り夜狩りをしてれば、何の問題もなかったんだ」

「だよな。あの頃が一番楽に稼げて、周りの冒険者からは一目置かれて、酒場ではねーちゃんたちにもモテて、すげー良かった」

「だったらよ、あいつにまた俺たちのために夜狩りさせれば良いんじゃねえ?」


 ニールが薄暗い部屋の中でにやりと笑った。


「え、あんなバケモンみたいな男、どうやって言うこと聞かせんの?」

「あの貧弱な弟を使うんだよ。兄貴と違って、杖はミドルスティックだし、力はなさそうだし、すぐにとっ捕まえられそうじゃん。あれを人質にする」

「あー、確かにあの男、弟のことすげえ大事にしてる感じだったもんな。あのガキを盾にして、奴にランクAの依頼をガンガンこなさせようって魂胆か。さすが魔法使い、頭良い~」

「だろ? これでこんな貧乏生活とはおさらばだぜ」


 4人は顔を突き合わせながら、下卑た笑い声を上げる。


「誘拐を決行すんなら感謝大祭3日目が狙い目だな。衛兵たちはみんな国王の方の警備に行く。街中は手薄になるし、国王が絡むイベント中に問題が起こるのを嫌がって見ぬふりをしてもらえることもある」

「じゃあ、あのガキを閉じ込めるとこ準備しとかねえとな。あの男の見えるとこに置いといたら、為す術なく力尽くで奪い返されるかもしんねえ。俺たちに危害を加えたら弟が死ぬっていう状況を作っとかねえと」


 そう言ってリーダーの男が盗賊に向かって外を指さした。


「とりあえずお前は公園に戻って、あいつらの後をつけて宿を割り出せ。ガキが1人で出掛ける時を狙うからな、明後日は朝から張り込むぞ」

「了解」

「あと、さらう時に騒がれると面倒だ。ニール、状態異常付与の魔法持ってたか?」

「んなだせえの持ってねえよ。魔法は火力が第一だろ。……あ、アレあるわ、魔物素材の睡眠粉。ランクD相手なんてそれで十分だ」

「よし、それでいい。拘束具は……まあ、ロープでいいか」


 男たちは着々とユウト誘拐の計画を立てる。

 過去、別の街で良家の子息を誘拐して、まんまと身代金を手に入れてトンズラした実績もある。彼らは皆、これが絶対に成功すると確信して疑わなかった。


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