兄弟、『もえす』で装備を手に入れる(一着目)
『もえす』は本日も通常作業中。
感謝大祭は最終日だけ2人一緒に行くそうだ。ミワが国王のイケボに萌えたいらしい。タイチは食べ歩き専門。
2人で並んで街中を歩く姿はなんとなく想像しがたいが、相変わらず仲が良さそうで何よりだ。
そんなわけで、こっちが2人で訪れたら、向こうも2人で店頭に出てきていた。何とも絵面が濃ゆい。
「今日はちょうどいいところに来てくれたよ~! 実は一着目ができあがったんだ! ちょっと着てみて! サイズとかはきっちり測って作ったから、大丈夫だと思うけど」
「え、もう? 想像以上に早いんですね」
「そりゃあ、毎日2時間睡眠で没頭したからね!」
「……それで何でそんなに元気なんだ……。ここの姉弟は化けもんだな」
「うむ! 私たちは客からモンスター級の職人とよく言われるぜ!」
そのモンスターには色々含まれるんだろうなと考えつつ、ぐいぐいと差し出される衣装を受け取った。
少し光沢のある滑らかな生地は、上質であることがすぐに分かる。そして金属が織り込んであるのが分からないくらい軽い。
ローブを少し広げてみると、想像以上に可愛らしかった。
「……今が感謝大祭の最中で良かったかも……。仮装って言えば、とりあえず袖を通す勇気も湧くというか……」
「着てみたらすげえ可愛いから大丈夫だって! 絶対レオさんも太鼓判!」
「あの、僕が18歳男だって覚えてます……?」
「俺のはずいぶんダークネスなんだが……」
「兄の雰囲気でスタイリッシュと言ったら黒一択じゃね? でも裏地は赤だぜ。こう、ひらりと翻った時に見えるのが萌えるよな。このレザーパンツもさ、ラインに拘ったんだよ。普段は上着で見えないけど、ちらりと見えた瞬間の尻のライン? これ、最重要。目の前で見れたら白飯10杯はいける」
「……絶対に何が起こっても貴様には見せん。絶対にだ」
何となく着替えた後の2人の反応が怖いけれど、ユウトたちは工房の奥の部屋を借りて装備を着けてみることにした。
何にせよ一度は通らなければならない道だ。仕方がない。
不安に思いつつも袖を通して、最初に驚いたのはやはりその軽さだった。
本当に、普通の衣服と変わらない。だいぶ着慣れた軽鎧がとても重く感じるほどだ。
そして、蒸れない。動きを妨げない。そして何か属性が付いているのだろう、身体が軽く動き、感覚が研ぎ澄まされている。
確かにこの装備を着けたら、普通の金属鎧はもう着けられないというのも納得だ。着心地が雲泥の差なのだ。
……しかしいかんせん、デザインが可愛すぎる。
ふんわりとした白いローブに犬耳、くるりと巻いた尻尾。ブラウスは控えめなフリルが付いていて、首元の赤い紐でリボン結びをする仕様だ。そしてベージュの膝上丈ハーフパンツにハイソックス。
革のショートブーツは革のベルトと合わせて、少しだけかっちり系だが。
とにかく18歳男が着るにはかなり痛い。
兄の方はどうだろうと振り返ると、こっちはめっちゃダークネスだった。
詰め襟のシャツにレザーパンツ、ロングブーツ、革手袋。そしてロングコートのような上着に至るまで、黒一色。そこに差し色で赤が映えて、スタイリッシュカッコイイ。露出が少なく、ミワの狙った軍服らしいかっちり感もある。
「……ユウト、とんでもなく可愛くなってるぞ。あいつらに見せたらどうなるか心配だ……。とりあえず帰ったら写真撮らせてくれ」
「レオ兄さんもすごく格好いいけど大丈夫? ミワさんに超セクハラ発言されそう」
「あの女の言葉は右から左に流す。……まあ、何にせよここから出ないわけにはいかないからな」
2人は意を決して姉弟のところに戻った。
……ユウトたちを見た彼らの反応は、まあ予想通りというか、酷かった。
「くっはああ! 萌えが3Dで存在する尊さよ……! 萌え袖からの指先ちょこんを生で見られるとは……!」
「兄の前開きの上着からちらりと見える、タイトなパンツの腰から尻へのラインたまらん……! くそっ、上着の裾をめくりたい……! いや、駄目だ、踊り子さんには手を触れないのがウチのポリシー! あ~、どっかから風が吹かねえかな! 来い、神風!」
「誰が踊り子さんだ。貴様には何があっても見せん」
レオがミワの言葉を流しきれずに突っ込んだ。これは仕方ない。
ユウトはこちらをガン見しつつ悶え転げる2人が怖すぎて、兄の後ろに隠れた。
「ハァハァ。この絶妙なペアルック感もいいでしょ? ベルトは同じ型の色違い、ブーツも同じスタイルのショートとロング。あとユウトくんのローブとレオさんの上着の裾に、鈎型の赤いラインが入れてあるんだよね」
「あ、ほんとだ。ペアになってる」
「他にも使ってる金具を同じにしたり、パーツの色を合わせたり、ちょこちょこお揃いにしてある。うん、並べると同じ型でもこの大小の差が萌えだよな~」
「ペア……うむ」
お揃いに関しては、兄は満足そうだ。
「はあ~ハーフパンツから覗く生足も見れて、さらに完徹できそう。ふつうの装備でこれなら、魔女っ子装備はとんでもない萌えの嵐だよね!」
「背広の方ももう仕上げ段階だからな。スリーピーススーツに黒縁眼鏡……! やっべえ、完全に萌えしかねえ! 明日の夜にはできるからな、取りに来い! 明後日は国王のイケボ聞きながら公園で一仕事終わった後の麦酒だぜ!」
「え、早っ! 二着目も!?」
「ほぼ同時進行だったからね。素材の集まりも早かったし、俺らもほぼ寝ずに萌えエネルギーの全てを注ぎ込んだし。まあおそらく、感謝大祭終わったあとは10日くらい店を休むことになるけど。超激しく寝る予定」
さすがにこのパワーも無尽蔵というわけではないようだ。
いや、この時点でもまだこんなに元気なのだから、やろうと思えばまだまだ行けるのかもしれないが。
「……休み明けでいいんだが、タイチ。もし素材を持ってきたら、空間魔法付きのポーチを作ることは可能か?」
彼らの予定を聞いたレオが、タイチに訊ねた。
そういえば、今回ここに来た本来の目的はこれだった。
「空間魔法? もちろん、萌えを実用化するために超難関術式までマスターしたから作れるよ。高ランクのお客さんからは結構リクエスト多いんだよね。なかなか流通しないし。やっぱり欲しいのは転移ポーチ?」
「ああ」
あっさり『作れるよ』などと言うが、これってすごいことなんじゃなかろうか。
仕事も早いし、萌えにさえ拘らなければ今頃ここは街一番の工房になっていたに違いない。……だが、萌えがなければ術式をマスターなんてしなかったのだろうし、人生って難しい。
「素材さえあればいつでもいけるよ。2人分?」
「できるならそうだな。圧縮ポーチは運べる重さに上限があるから」
「そうなると、やっぱり見た目は装備と合わせたいよね。ユウトくんのは可愛いふわもこポーチがいいかな~。肩から斜め掛けするポシェットタイプでもいいよね! 絶対可愛い! レオさんのは黒レザーのウエストポーチかな。姉貴、それでいいだろ?」
「おう。パーツはミスリル銀でな」
何だかとんとんと話が進んでしまった。多分さっき露店で見たポーチより大きな金額が動いたはずだが、ここだとまるでコスプレ衣装の付属アイテム作ってみましたみたいな軽い扱いになる。いいんだろうか。
「転移ポーチって、高いんじゃないの? 圧縮ポーチよりも便利なものなんだよね?」
「まあ、値段は圧縮ポーチの倍額くらいだな。ポーチの中に物を入れると、指定した場所にそれを転移できる。自分の部屋に送ったり、知り合いの家に送ったり、使い勝手がいいんだ」
「想像したより高い……でも確かにすごく便利そう。それって、一度転移したものってポーチから取り出せるの?」
「その辺には条件がある。今後手に入ったら設定しながら教えよう」
思ったより複雑なアイテムのようだ。
そうして2人が話しているうちに、タイチがデザイン帳にポーチの素案を描き込み、必要素材を書き出した。
「レオさん、ポケットは両方とも2つでいい?」
「いや、ユウトのは2つでいいが、俺のは4つにしてくれ」
「了解。その分金額と素材がかさむけど、いいよね」
「構わん」
レオの返事を受けて、タイチが素材を追加する。
最後にそれをメモ用紙に写して、レオに渡した。
「これが必要素材。今回はランクS級が入ってるから時間かかるだろうけど、どこかで手に入れたら持ってきて」
「分かった」
ランクS級。兄はそれを簡単に請け合ってしまった。
「じゃあ、俺たちはこれから二着目の仕上げに入る。明日の夜、忘れず来てくれよ」
「今日以上の眼福を楽しみにしてるぜ! 絶対来いよ! 来なかったらこっちから押しかけるからな!」
「僕たちの宿、知ってるんですか?」
「知らん! 街中で訊きまくりゃ、分かんだろ」
「やめろふざけんな一般人にお前らとの関わりなど知られてたまるか。……ちゃんと明日来る」
「あざっす! 待ってるよ、魔女っ子ユウトくん!」
「うう……はい」
何だかウキウキした様子で声を掛けられて、ちょっと明日が憂鬱になるユウトだった。




