表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

359/766

兄、弟と朝食をとる

 もえすでぐったりと疲れたレオたちは、リリア亭に戻るとそのまま解散して、翌日のことを示し合わせることもなく各部屋に散った。


 その翌朝、レオは少しだけ遅めの起床をして食堂へ行く。

 クリスはすでに食事を終えて食後のコーヒーを飲んでおり、ユウトとエルドワはレオを待ってテーブルに座っていた。


「何だ、待ってたのか。先にクリスと一緒に飯食ってて良かったのに」

「うん。だけど、レオ兄さんと食べたいから」


 兄に気を遣ったわけではなく、本当にそう思っているのだろう。ユウトはにこにことしながら、レオが来たことを厨房の奥にいるダンに告げに行った。

 ちなみにエルドワも食べずに待っていたのはレオに関係なく、ユウトが食べていないからだ。律儀な忠犬である。


 唯一マイペースにスタンスを崩さないクリスだけが、食休みをしながらゆったりと微笑んだ。


「ユウトくんは可愛いねえ。本当にレオくんのことが好きなんだね」

「当然だ。俺はユウトに好かれるためなら何だってするからな。ユウトに嫌われたら、俺に生きている価値はない」

「……レオくんのユウトくん愛も常軌を逸してるよねえ」


 クリスがその微笑みを、肩を竦めつつ苦笑に変える。そんな彼の向かいに座ったレオは、鷹揚に足を組んだ。


「……今日は調子を取り戻したようだな? もえすではミワ相手にだいぶペースを乱された様子だったが」

「うん、昨日はだいぶ衝撃的な夜だったけど、精神的なダメージはできるだけ引き摺らないようにしているんだ。覚えていると辛いことは、忘れるに限るからね。……いちいち思い出していると脳の一部にその記憶が巣くってしまう。そしてやがて、心の底に澱のように黒いものが溜まっていくことになるから」


 反射的に、昨晩のミワとのやりとりがどれだけ辛かったんだ、と突っ込んでやろうかと思ったが、レオはそこで思いとどまって「そうか」とだけ言って頷いた。

 その言葉が昨日の出来事を通り越して、おそらく彼の重たい過去に直結していくものなのだと気付いたからだ。


 別にそこに至るクリスの心情を慮ったわけじゃない。レオが掘り下げることでもないし、彼も聞いて欲しくないに違いない、そう思っただけのこと。


 すぐにテーブルにユウトが戻ってきて、その話はそこで終わった。


「レオ兄さん、今日はラダに行くんだよね?」

「ああ。そろそろ本格的にイムカの復帰を考えなくてはならんし、話し合うべきことは多いからな。そういや、アシュレイの家の内装も出来ているんじゃないか」

「あ、そうだね。アシュレイの家楽しみだな」

「レオくん、ラダにロジー爺のお店があるって言ってたよね。挨拶に行けるかな?」

「まあイムカの家に行く通り道だから、顔を出すくらいなら構わん」


 アシュレイの馬車なら、ラダから王都まで半日掛からずに着ける。それくらいの時間の余裕はあるだろう。


 テーブルに朝食が運ばれてきて、レオたちはそれを食べながら話を続けた。


「リーデンさんって、イムカくんが生きてるの知ってるんだよね? ラダにはよく来るの?」

「以前は3日に1回来てたようだが、今はどうかな。狐の話によると、ジラックでは呼び出された時以外は家にこもりきりらしい。口も完全に閉ざしているようだし、会ったところで意味はなさそうだがな」

「……良くない兆候だね。立場的にもだいぶ鬱屈しているんだろう。彼は今、かなり『魔』が降りやすい状態かも」

「魔が降りやすい?」


 妙なことを言い出すクリスに、レオは怪訝な顔をする。

 ユウトも首を傾げつつ彼に訊ねた。


「魔が差す、みたいなことですか?」

「うん、まあ、それの重くて酷い状態。魔が差すっていうのは、一瞬の思考が悪いものと同調してしまって起こる一時的な悪心の状態なんだけど、魔が降りるっていうのはもはや思考や身体に悪いものが融合してしまって、悪心に支配されているような状態だね」

「精神的にやられると悪いことばかり考えてしまう、そこにつけ込む魔か。だから精神的なものは常態化すると厄介なんだな」


 さっきのクリスの話にも通ずるものがある。

 そういう状態を回避する手段として、彼は「辛いことは忘れる」という方法をとって心を護っているのだ。それはきっとクリスなりの自衛なのだろう。


「魔が降りるというのは、内的要因によるものなのか? それとも、外的要因?」

「どっちもあるよ。そもそもリーデンさんみたいに真面目な人の方が内的要因から魔は降りやすいんだ。ただ、ジラックの今の環境からして、彼を利用するために外的に魔を降ろす可能性の方が高い。それを出来る人間がいるからね。そうなる前に、戦線からさっさと離脱させてあげるのが、彼のためかもしれないね」


 クリスがさらりとすごいことを言う。

 リーデンを戦線から離脱させるということは、つまり彼を戦えない身体にするということだ。それは軍人としての彼を殺すに等しい。

 一見、かなり荒っぽい。が、レオはその提案を酷いとは思わなかった。これはクリスが考え得る一番手堅い解決策、延いてはリーデンをジレンマから救う一手。彼なりの優しさがあるからこその提案だ。


 魔を降ろされて利用されるより、あの男にとってはずっとマシなはず。


「イムカは自分でどうにかすると言っていたが、リーデンのことはきっちり話さんといかんな。……これから色々動くなら、今のうちにイムカの装備もロジーの爺さんのところで作っておいた方がいいだろう」

「そうだね。できることは早めにしておくべきだ」


 何につけ、イムカと対面で話さないと決まらないことばかり。

 あのスーパーポジティブは、今後どう動くつもりなのか。彼らの挙動はこれからの世界の存続に大きく関わってくる。

 ユウトとの穏やかな生活を手に入れるためにも、ここで間違えるわけにはいかない。


 ユウトに幸せな未来を。

 これはレオにとって何よりも重要な使命。そのためならどんなことだってしよう。


 レオたちは食事を終えて支度を調えると、ネイのアジトに向かい、そこからラダに飛ぶことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ