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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、ルアンにクリスのことを話す

『ユウト、おもてにルアンが迎えに来たようだ』

「あ、ほんとだ」


 それからしばらくマルセンたちと魔法談議をしていると、ルアンの来訪を感知した大精霊がユウトに教えてくれた。

 魔法学校の門のところに立っていた彼女は、ユウトが窓から覗いた途端に気が付いて、こちらに向かって手を振る。ユウトも応えるように手を振り返した。


「ルアンくん、よく僕がここにいるの分かるなあ。魔法学校の教室の窓はいっぱいあるのに」

『あの子は自分に向く視線に対して敏感なんだ。元々の素質に加え、良い師匠に恵まれたことと真面目に学ぶ姿勢が相乗効果となって、ぐんぐんと能力を上げている。あと数年もすれば王宮付きになってもおかしくないぞ』

「あら、べた褒めですわね」

「大精霊もあの子のこと褒めてんの? 兄ちゃんもユウトの護衛として重用しているようだし、よほど能力のある子なんだろうな」

「うう……そう考えると、歳下の女の子に護衛されてるだけの僕がちょっと情けないかも……」


 ルアンは本当に強くなった。最近は朗らかないつもの様子でありながらも、落ち着きや思慮深さを感じさせることもある。

 ネイの指導の賜物だろうが、精神的に成長しているのだ。


 その点、ユウトは常にみんなに護られるばかりで、自分でもあまり成長を感じられない。

 使える魔法は増えたけれど、それだけだ。

 それを恥じ入ると、ディアに頭を撫でられた。


「ふふ、いらない悩みですわ。ユウトくんはみんなから護りたいと思われることが重要なんですもの。……それがどれだけみんなを救っているか、あなたには実感しづらいでしょうけれど」

「まあ、成長したいと思うのは良いことじゃねえの? ただ、適材適所っつーものがある。他人と比較せずに、ユウトはユウトのやり方でやって行きゃいいのよ」

「僕のやり方……」


 確かに、自分がルアンを護る側に回ろうと身体を鍛えても仕方がない。だったら、他にユウトができることを頑張った方がいい。


「そうだわ、ユウトくんなら可愛らしさに磨きを掛けたら良いんじゃないかしら。こう、愛らしく感謝を述べたり甘えたりすれば、きっとみんなの日々の疲れを吹っ飛ばして差しあげられますわよ」

「ああ、それ結構効きそう。確実にひとりには効果覿面だな」


 ディアとマルセンは真顔で普通にそんなことを言う。

 いや、からかうならもうちょっとそういうテンションで来て欲しい。……ん? まさか本気じゃないよね?

 最近さらに、18歳男だということを周囲に忘れられている気がするが、言うだけ無駄だろうか。

 考えた挙げ句、ユウトは流してしまうことにした。


「とりあえず、もう行きます。マルさん、ディアさん、お邪魔しました。転移魔石、よろしくお願いします」

「ああ。次に来る時までには準備しとく」

「ユウトくん、また来てね」

「はい。失礼します」


 笑顔で手を振られ、エルドワを抱えたユウトは一礼して部屋を後にする。大精霊も付いてきたけれど、彼はすぐに建物を突き抜けて上空に移動してしまった。


 大精霊は、普段はこうしてユウトのずっと上から周囲を見渡している。そして用事のある時、意見のある時、ユウトに呼ばれた時だけ降りてくるのだ。あまり干渉しないようにということなのだろう。


「お待たせ、ルアンくん! 今日はお迎えありがと」

「いいって。オレもユウトに会いたかったし。ちょうど2日前に親父たちとランクAゲートを強行軍で攻略してきたとこでさ、修練も休みなんだ」

「あ、ランクAゲート攻略行ってきたんだ。どうだった?」

「イレーナさんに比べたら、魔物が可愛く見えるって親父たちは言ってた。イレーナさんに失礼だよな」


 ルアンはそう言ってケラケラと笑った。強行軍と言うものの、どうやら楽勝だったらしい。


「ユウトの方はどう? 何か変わったことあった?」

「うん。僕たちのパーティに新しい仲間が入ったよ」

「……えええ!? 2人のパーティに!? うっそ、レオさんってユウト以外が仲間になることは認めないと思ってた! あ、とりあえずお茶しようぜ。師匠からはしばらく自由にしてて良いって言われてるから。そこで続き聞かせて」


 そう言うと、ルアンはユウトを連れ立って歩き出した。すでに行き先は決まっているらしい。確かな目的を持って通りを渡り、近くにある噴水公園の縁に沿って並木道を進む。

 そしてちょうど噴水が見える開けた場所に出たところで、彼女はその一角にあるカフェに入った。


 いかにも甘い物を扱っていますという感じの、ピンク基調で可愛らしいお店だ。

 ルアンは店員に声を掛けるとテラス席を選んで、そこに座った。


「ここ、パイが美味しい店なんだって。ウィルさんに聞いて一度来てみたかったんだ」

「ウィルさんって、こんなお店まで知ってるんだ」

「何か、頭使うこと多いからよく糖分欲しくなるんだって。結構甘い物食べるらしいよ」

「ああ、なるほど」


 確かにあの頭脳を駆使していれば、エネルギーの消費は半端ないだろう。


「オレはピーチパイと紅茶。ユウトは?」

「僕はアップルパイで。紅茶はさっきマルさんにご馳走になったから、飲み物はソーダ水にしようっと。エルドワはミートパイ?」

「アン」


 店員を呼んでオーダーをすると、パイを待ちながら2人はまた話し始めた。


「んで、新しくパーティに入ったのって男? 女?」

「男の人だよ。すっごく強いけど穏やかで、頭も良くて頼りになる人」

「へえ、師匠みたいだな」


 どうやらルアンの中では、ネイはそういう印象らしい。クリスとネイは全然違うタイプなのに、こうして言葉にまとめると特徴が似ているなんて面白いなあとユウトは笑った。


「その話からして、大人の男の人だよな。レオさんより歳上?」

「うん。ずっと上。ダグラスさんよりも上だよ」

「え、親父より? ……もしかして結構なおっさん?」

「見た目は若いけどね。一度冒険者を引退してたんだって。冒険者だった当時のクリスさんはあちこち行ってたみたいだから、昔ダグラスさんと会ってるかもね」


 ユウトの科白に、ルアンがぱちりと目を瞬く。


「クリスって? その新しい人の名前?」

「そう。えっと、本名はクリスティアーノエレンバッハ、だったかな。長いからクリスさんって呼んでるの」

「何かその印象的な長い名前、親父から聞いた気が……。確か、親父が駆け出しの冒険者だった頃にすげー世話になったって……」

「そうなの? 昔は『白銀隊』っていうパーティの隊長をしてたらしいけど」

「……白銀隊!!」


 それまであやふやな記憶を辿って視線をさまよわせていたルアンが、その名前を聞いた途端にはたと視点を定めてこちらを見た。

 どうやら何かを思い出したらしい。


「そうだ、白銀隊! 親父が危ないところを何度も助けてもらったり、色々アドバイスもらったりしてたって言ってた! その人たちをリスペクトして、親父も若い冒険者の面倒をみるようになったんだって!」

「へえ、そうなんだ。白銀隊って有名なパーティだったの?」

「もちろん! その強さもさることながら、街村を護るためなら安い報酬でも高難度のゲート攻略クエストを受けてくれる、弱者の味方だったみたい。隊長の髪が銀髪だったことから『白銀』隊って呼ばれるようになったらしいよ」

「あ、確かにクリスさんは銀髪だ」


 白銀隊とは、昔はだいぶ知られたパーティだったようだ。

 ダグラスからその逸話を色々聞かされていたらしいルアンは、興奮気味に身を乗り出した。


「今日会えるかな? オレがクリスさんに会ったと知ったら、親父羨ましがるだろうなあ~」

「クリスさんは今レオ兄さんと一緒にいるはずだし、用事が終わったらおそらく会えるんじゃないかな」

「そうか! うわー、楽しみ!」


 話をしている間に運ばれてきたパイを頬張る彼女は、すっかりご機嫌だ。

 それを微笑ましく思いながら、ユウトもアップルパイを頂く。

 うん、甘さ控えめでとても美味しい。エルドワもものすごい勢いで食べている。


 これは思ったよりも早く食べ終えてしまいそうだ。

 だったら少しお腹がこなれたら、早めにレオに連絡を入れてクリスとルアンを確実に引き合わせてあげよう。この2人、何となく相性が良さそうな気がする。

 ユウトはそう考えながら、グラスに汗をかいたソーダ水をストローで啜った。


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