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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、最近のベストバイ

 野営地に着くと、夜の食事はクリスが作ることになった。

 どうやらベラールの去り際に漁師たちからたくさんの魚介をもらってきたらしい。せっかくだから新鮮なうちに頂こうということになったのだ。

 その間にレオは焚き火用の薪を取りに行き、ユウトはアシュレイとエルドワの身体を小川で洗った。


 そして夜の帳が降りてきた頃には準備も終わり、焚き火を囲んで食事が始まる。

 すでにアシュレイもエルドワも人化しているが、クリスは普通にその姿に接していた。


「アシュレイくん、魚介の味噌汁おかわりいる?」

「ああ、ありがとう」

「クリス、この鯛飯美味い!」

「エルドワはいっぱい食べて大きくならないとね」


 何だかまるで母親のようだ。

 まあとりあえず、あっさり馴染んでくれそうで良かった。


「ええと、今さらだけど一応紹介しておくね、クリスさん。彼が僕たちの馬車を引いてくれてるアシュレイ。戦うこともできるし、足も速いし、頼りになるんだ」


 ユウトも改まっての紹介は必要ないと思ったのだろう。食事をしながら簡単に説明する。


「アシュレイ、クリスさんはこれから僕たちのパーティに入る人なの。今後はずっと行動を共にするから、仲良くしてね」

「分かった。よろしく」

「こちらこそ、よろしくね」


 まあ、紹介なんてこの程度で問題ない。一緒に旅をしていればすぐに性格や考え方は分かってくる。レオは特に口を挟むことなく焼きサザエに齧り付いた。


「ところで、君たちは野営でテント立てないんだね。馬車で寝泊まりする感じ?」

「はい。この馬車は隠遁術式が掛かっていて、周囲に同化することが出来るから夜も安心なんです。敷物も寝心地抜群ですし」

「へえ、隠遁術式か。それは色々使えそうだね」

「隠れちゃうと外から入れなくなるのがちょっと不便なんですけどね」


 クリスとユウトが馬車の話を始めて、レオははたと思い出す。そうだ、アシュレイに言うべきことがあったのだった。


「アシュレイ、お前はどのくらい寝れば平気だ? 今回はできるだけ早い出立をしたい。深夜からでも」

「ここ2日間はずっと休んでいたし、3時間も寝れば問題ない」

「じゃあ、少し余裕を持って深夜2時に出立しよう。魔物避けも付いてるから、邪魔もないだろうし」

「ええ、そんなに早く?」


 ユウトが目を丸くするが、初めての土地へ向かう行きと違い、王都までの帰りの移動を3日まるまる掛けていられない。アシュレイの足なら急げばその半分、1日半くらいで行けるとレオはふんでいる。

 転移魔石はザインとラダへの移動で使うつもりだし、この王都までの移動期間を使ってクリスへの事情説明やアイテムの整理、今後の段取りを先に済ませるつもりだが、それも1日半あれば十分だ。


「ユウトはエルドワと寝ていて構わん。馬車が寝床になっているのはそういう利点もあるからな」

「それじゃ、御者席はレオくんと私の交代でいこう。3時間交代でいいかな?」

「ああ、頼む。俺が最初に行くから、その後に」

「待って、それなら僕も」

「じゃあユウトくんは私の後にお願い」

「はい」


 自分も加わりたがるユウトに、クリスは軽くお願いする。彼が終わった後だと、午前8時。もうみんなが起きている問題ない時間だ。3時間交替という上手い配分。これならユウトがレオから駄目だと言われて拗ねることもない。


「途中で2回ほど休憩を挟むが、明日の夜には王都に着きたい。アシュレイ、行けるか?」

「もちろん、大丈夫だ」

「王都に着いたら俺たちは用事を済ませた後、転移魔石でザインに行く。アシュレイは一度ラダに戻って休んでいろ。その後にまたラダで合流する」

「分かった」


 ラダにはアシュレイの家もあるし、周りも半魔ばかりだから気が楽だろう。御者がいない状態で走っても、王都との行き来をするのも半魔ばかりだからすれ違いざまに訝しがられることもあるまい。


 そこまで話して、ふとクリスに確認する。


「そういえばクリス、あんたは転移魔石は持ってるよな?」


 定期再生魔法リジェネレイトの魔石や魔法解除アンチスペルの魔石を持っているから、おそらく転移魔石もひとつくらいは持っているだろう。

 そう思って訊ねると、クリスはあっさりと頷いた。


「あるよ、昔使ってたのが4つくらい。私は魔法が使えないから、色んな魔石を大量に持ち歩いてるんだよね」

「とりあえず転移魔石を持っているならいい。4つもあるなら、ザインで注文した商品を受け取りに行く時なんかはあんた1人で行けるな」

「お遣いもできるよ。一応昔はあちこちに行ってたから、国中に点在する村はおそらくほとんど飛べる」

「ほう、それはありがたい」


 正直、一番時間が掛かるのが移動だ。アシュレイのおかげでほぼ半分くらいの時間に短縮出来ているが、それこそアイテムを取りに行って帰ってくるくらいの用事なら魔石で済ませたい。

 急を要する時のためにもできれば使用回数は確保しておきたいが、クリスに転移魔石が4つもあるならお遣いを頼むのもありだろう。


「俺たちもあとひとつずつくらい転移魔石が欲しいところだな」

「そうだね。僕とレオ兄さんで1個ずつだとちょっと心許ないかも」


 これから建国祭までの間、あちこちを移動する羽目になることを考えると、レオたちも転移魔石はもう少し欲しい。

 6つ持ち歩いているネイから取り上げたいが、奴は奴で仕事で使っているから難しい。ライネルに相談しても、おそらく王宮にも余剰はそれほどないだろう。


 だとすると自分たちで特上魔石を手に入れて、マルセンに転移術式を封入してもらうしかないか。

 そんなことを考えていると、ユウトの隣で口元に米粒を付けたエルドワが、耳をピンと立てて反応した。


「ユウト、転移魔石なら、特上魔石があるからそれで作ればいい!」

「え? 特上魔石があるの?」

「昨日の海のゲートで魔物を倒した時、手に入れたから首輪にしまってある!」

「ああ、深海の俺たちの見えないところで戦ってた時か。そういや生きたままの魔物から魔石を剥ぎ取ると、特上魔石が出る確率が高いんだったな」

「うん! 2個取った!」

「2個!? すごい、エルドワ!」


 ユウトがエルドワの口元を拭いてきれいにしてあげて、それから褒めるように頭を撫でた。それだけで彼の尻尾がぴるぴると振れる。

 エルドワはドヤ顔で首輪に付いた石のひとつを撫で、その手の中に特上魔石を取り出した。


「はい、ユウト」

「ありがと、エルドワ」


 こうなると王都に行ったら、魔法学校にも行かねばなるまい。

 用事を済ませてザインに飛ぶのは夜になりそうだ。まあ、もえすもロバートのところも、夜に行くところだから問題はないか。


「これからしばらくは忙しくなる。休める時は休んでおこう。飯を食い終わったら全部片付けて、出立するだけの状況にしてから寝るぞ」

「残った鯛飯はおにぎりにして明日の朝ご飯にしようか。味噌汁が少し余ってるけど、エルドワ食べる?」

「食べる!」

「アシュレイは明日頑張ってもらうから、ご飯食べたら休んでて」

「ああ。ありがとう」


 エルドワが味噌汁を食べている間にユウトとクリスがおにぎりを作って、レオはかまどなどの料理器材を片付ける。

 アシュレイは馬車の隠遁術式を発動する準備だけして、荷台に入った。


 すぐにエルドワも食べ終わり、テーブルも食器も片付ける。

 最後に焚き火も消した。途端に周囲が真っ暗になって、クリスが反射的に辺りを見回した。


「うわあ、野営で夜に焚き火消しちゃうのって勇気いるなあ」

「馬車が隠れるのに焚き火だけ残ってる方が不自然だろ。荷台に乗ってしまえば中は明かりが点いているし、過ごすに問題はない」

「ユウト、中に入ろう! あのクッションに乗る!」

「あれね……僕ダメにされちゃうんだよなあ」


 慌ただしく荷台に乗り込むエルドワに、苦笑するユウトが続く。

 それを見送ってから、レオは術式を発動するためにひとつだけ立てられたままの手すりを倒しに向かった。


「あんたもさっさと中に入れ」

「んー、馬車がどんなふうに見えなくなるのか、ちょっと興味あるんだけど」

「……術式が発動した時に外側にいると、自力では入って来れんぞ」

「ってことは、他力では入って来れるんでしょ? やって見せてくれないかなあ」

「……まあいいが」


 自分でその作用を確認しないと安心して休めないのだろう。レオも同じだったから分かる。

 レオは仕方がなくそのまま術式を発動した。


「うわ! 本当に周囲に同化した! ただの岩にすり替わったみたいだ」


 内側からは薄い膜が張ったくらいにしか見えないが、クリスはそれをぺたぺたと触る。


「すごい、手触りも岩にしか感じない……。気配もほとんど遮断してるし、魔物避けを付けてればほぼ襲われることはないね」


 どうやらその効果に納得したようだ。

 膜の外側をノックするようにトントンと叩くと、彼は苦笑して依頼した。


「ごめん、レオくん。私のこと内側に入れてくれる?」


 まあ、こうなるのは分かっていたこと。レオは手を伸ばしてクリスの腕を掴むと、そのまま内側に引き込んだ。


「……っとと、ありがとう」

「どうだ。納得したか?」

「うん、これなら心配なさそう。許可した味方だけでも通れれば、もっと使い勝手良さそうなのにね」

「今、そう術式を改造出来ないか、製造元に相談中だ」


 レオはそう言うと、さっさとユウトたちの待つ荷台に乗り込む。クリスも続いて上がってきた。


 荷台の中ではアシュレイが奥にゆったりと座っており、そしてユウトとエルドワはやはり例のクッションの上にいる。スペースを広く使うためか、エルドワはすでに子犬に戻っていた。


「わあ、ユウトくんとエルドワ蕩けてるねえ」

「このクッションは最近俺がユウトに買い与えたものの中でも、最大のベストバイだった」


 この短時間で、すでにユウトはふにゃふにゃで夢見心地だ。エルドワも完全に埋まっている。

 ああ、弟の寝姿が激しく可愛い。一晩中見ていられるわ、コレ。


「……レオくん、ガン見してないで。君も深夜から御者席に行かなくちゃならないんだから、寝なくちゃ駄目だよ?」

「睡眠とユウトを眺めること、どっちの方が疲労回復に効くかと言われたら、ユウトだと思う(キリッ)」

「おお、真顔で」


 クリスが若干引いているが気にしない。


 そうして兄はそのまましばらく弟の寝顔を眺めていたが、しかし結局クリスに明かりを消されそうになって、仕方なくユウトを寝袋に運ぶと抱き枕にして寝ることにしたのだった。


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