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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、クリスの見解を聞く

すみません、かなり理屈っぽい回です。

さらりと流して下さい。

「……あんたの策は確かに悪くない。一応、ひとつの案としてもらっておこう」

「私の案ではまだ何か問題がありそう?」

「俺の生存は王宮の中の力関係を大きく揺るがす。本来なら俺は権力争いに巻き込まれるのはまっぴらごめんだが……とりあえずは兄貴に相談してからだ。それに、イムカの意向もある」

「イムカくんの?」

「あいつも俺と同じで、今後生きていることを隠していくかもしれない」


 イムカは、王都でジラック奪還を願い出ている元臣下たちに、その後の街をどうしたいか自分たちで考えるようにと伝えている。

 彼らの選択次第では、イムカは身分を隠してジラックを支える裏方になるつもりでいるのだ。

 その場合、彼が先頭切ってジラックに向かい、現領主や偽アレオンと直接対峙するということはなくなるだろう。


「王都にいる元ジラック臣下たちは、イムカくんが生きてることは知らないの?」

「ああ。知っていたらイムカを担ぎ上げるの一択だろう」

「……その方が早いのに……あの子はそういう思考の楽をさせるの嫌いなんだよね。自分たちで考えさせてこそ、大きな力が発揮出来るって信条だから」

「そういや使用人たちもそういう考えに慣らされているのか、イムカに言われて何かをするんじゃなくて、自発的に動いてる感じだな。だからあんなに能動的で元気なのか」


 レオが納得したように言うと、クリスは「そう」と頷いた。


「君や陛下のように傑出した力があるわけじゃないけど、イムカくんは間違いなく人を導く資質がある。彼は人が持つ『自己肯定感』や『自己効力感』を高めさせるんだよ。その下に付くと、自分で考える力が身につき、失敗からのリカバリー、予想外の事態への対処がとても早くなる」

「そうして有能に育った臣下が、こぞってあいつを支えてくれるわけか。……なるほど、『人は宝』とはよく言ったものだ」

「おまけにポジティブで褒め上手、感謝も忘れない上に、ちょっとアホで甘え上手だから皆から可愛がられるんだ」


 クリスは彼をアホ呼ばわりしつつも手放しで褒め称える。しかしそこまでの資質があるのなら、イムカが裏方に回ることになったら大きな損失ではなかろうか。

 もし臣下たちが奪還したジラックを自分たちで統治すると言ったら、イムカはただの一般人になってしまう。……いや、マッスルヒーローみたいなものになってジラックで復興に動き回りそうな気もするが。


 しかし、クリスはそれを心配する様子はなかった。

 どこか確信を持ったように微笑む。


「まあ、元臣下たちが奪還後のジラックの街をどうしたいか考えろと言われたなら、私の予想だけど、おそらく9割くらいの確率でイムカくんを領主に据える計画を練ると思う」

「はあ? 確率高えな。……その指示でイムカの生存がバレるとでも?」

「陛下とイムカくんではそもそも人の導き方が違うからね。ライネル陛下は民や臣下のことを考えた上で事の成就に導いてくれる安心感が持ち味だ。片やイムカくんは、共に考え、難関を打破していく力を与えてくれる切磋琢磨感が強い。……今回、陛下にジラック奪還を請願した臣下たちは、策も兵もジラックのその後の復興についても、全て陛下が決めてくれると思って安心していたはずだ。しかし、思いも掛けず自分たちで決めるよう指示された」

「確かに、兄貴だったら先に一番最善だと思う策を考えて導くとこだからな。自分たちで考えろと言われたら違和感はあるだろう。……だが、それだけでイムカに繋がるか?」


 この指示がライネル以外の誰かの進言だと気付いたとしても、それがイムカの指示であると見抜くのは難しい気がする。もう死んでいるとされる男なら尚更だ。

 けれどクリスはその言を翻さない。


「前領主と彼が亡くなったと言われた時に、ジラックを脱出して王都に身を寄せた臣下は、おそらく皆イムカくんに付いていた者たちだ。……自分たちで考えろなんて言われたら普通、陛下に見放されたような気分になって途方に暮れると思うんだけど。私は逆に思考を促すその言葉で、彼らがジラックにいた時のスイッチが入ったんじゃないかと思うんだよね」

「……イムカがいた頃の感覚がよみがえったということか?」

「まさしくそれだよ。たとえその指示がイムカくんのものでなかったとしても、その感覚を思い出した時点で彼らの中で彼はよみがえる。実際に生きているかどうかは問題じゃないんだ。要は彼らの理想とするジラックはイムカくんを領主とするジラックであり、だからこそそれを念頭に置いた計画を立てるだろうってこと」


 クリスの説明に、レオは怪訝な顔をした。

 イムカが実際生きているかどうかに関係なく、彼を領主とする計画を立てるという意味が分からない。領主不在の街が出来上がってしまうだけだと思うのだが。


 そんなレオの考えを察したクリスは、肩を竦めて苦笑した。


「レオくんは、ユウトくんのこと以外には合理的な考えが優先なのかな? 例えばユウトくんが突然いなくなってしまったとして、君は新たな魔法使いを入れて妥協したパーティを組み直すか、という話だよ」


 唐突に問われて、レオは即座に首を振る。例え話と言われても、考えたくもない。


「無理だ。ユウトのいないパーティなんてあり得ない」

「そうだろう? きっと家ではユウトくんの部屋をいつでも使えるようにしておいて、パーティには空きを作ったまま、一切妥協をしないで彼が戻ると信じる。そうすることが君の心に一番沿っているからだ」


 実際ユウトが突然いなくなったらレオの行動ははるかに酷いことになると思うが、今はそこに言及する場面ではないだろう。

 ただ、彼の言わんとしていることは分かった。


「……つまり、ジラックの元臣下たちも、妥協をするのではなく自分の心に沿った計画を立てようとするだろうということか」

「そういうこと。他の領主を擁立したり、王都に政を委譲したりするよりも、彼らはイムカくんを領主としたジラックを作ることを選ぶ。そうして心に沿った行動の方が、モチベーションも高くずっといい結果を生むことをイムカくんにすり込まれているんだ」

「何というか、イムカ軍団はなかなか暑苦しい集団だな……。ともすれば無軌道になる危険もあるが、しかしそこがイムカの存在で上手くまとまっているわけか。……もしかすると思いの外使える軍団になるかも知れん」


 もしもクリスの言う通りの展開ならば、ジラックの臣下たちがその計画をライネルに提出した時点で、イムカの領主就任は決まったも同然。きっとジラックには、彼ら中心で乗り込むことになる。


 レオとしては、本当に臣下たちが死んでいるはずの男を領主に据える計画を立てるだろうか、と未だに思わないこともないのだが。

 ……しかし、元々彼らがイムカが生きてるという希望を持っていたとしたらどうだろう。

 当たり前だがイムカの死体は出ていないし、何より当時からリーデンがずっと『世界樹の葉の朝露』を探して国中を奔走していたのだ。もしも臣下たちがそれを知っていたなら、領主一族を護るあの男が、それで誰を治そうとしていたのかは薄々勘付いていたのではなかろうか。


 そうして少しずつ見えていた片鱗がまとまり、今それが彼らの中で結実したというならば、やはりイムカはジラック領主になるべき機運を持った男なのだろう。


「……とりあえず王都に行ったら、その辺りも確認しよう。となるとザインに行った後、ラダにも行くべきか」

「ラダの村?」

「そこにイムカを匿っている。……先に言っておくが、ラダは今半魔の住む村だ。普通の村と大して変わりはないが、一応知っておいてくれ」

「へえ、半魔の村かあ。イムカくんとも会えるんだね、何年ぶりかな。楽しみだな」


 クリスはのほほんと笑っているが、ここから先は強行軍だ。

 アシュレイの馬車と転移魔石を駆使して動かねばならない。


 Xデーは確実に近付いているのだ。


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