兄、タイムアップを告げる
本日体調不良のため、文章少なめです
ユウトとクリスに問われて、アイクはとうとう追い詰められた。
とはいえ、本来は悩むことでも何でもない。
ユウトの言葉に乗っかって、クリスと仲良くしたいと言えば済むことだ。ここで否定するのは馬鹿でしかない。……が、この男は、こと人付き合いに関してはかなりの馬鹿。
どう答えるかは、レオやエリーでも分からなかった。
みんなの視線に晒されたアイクは、変な汗をかきつつ何やら逡巡している。
しかししばらくすると、ようやく口を開いた。
「……あの家は特に使う予定もないから、クリスを追い出すつもりはない」
「あ、そうなの? でも、私がベラールに残る意味もないしなあ。それだったら、私を必要としてくれているユウトくんたちと同じところに居を構えた方が、色々都合が良いし」
「もう、村長さん、もっとちゃんと言わないと伝わりませんよ! ホント、昔の兄さんみたい」
煮え切らない男に、ユウトが厳しくダメ出しをしている。どうも完全にアイクを昔のレオと同一視しているようだ。兄としては非常に微妙な気分なのでやめて欲しい。
「自分の本当の気持ちを隠したまま好いてもらおうなんて、絶対無理ですからね! 愛情は自分から最初に与えないと返ってこないんです! ね、レオ兄さん?」
「……ユウト、ちょっとおとなしくしてなさい」
あまり思い出したくない自分の姿をアイクと重ねる弟に、レオはたまりかねてやんわりとその口を塞いだ。
これ以上精神的な辱めを受けるのは勘弁だ。
レオはうんざりしつつ、アイクに最後通牒を突きつけた。
「……おい、俺たちにも今後の予定があるんだ。このままだらだらとあんたに付き合ってられん。あと3分で店を出るから、それまでに話を済ませろ」
「さ、3分……!? 短いだろう、それは!」
「すでにどれだけあんたの決心待ちをしてると思ってんだ。これで言えないなら、今後いくら時間を掛けたって言えん。あきらめろ」
レオはそう告げると時計に目を落とす。
ここから3分。それ以上譲る気はない。ついついアイクに自己投影してしまうものの、そもそも2人がどうなろうと知ったことではないのだ。とっとと玉砕しろ。
「3分……」
時間を制限されたアイクは、眉間に手を当てて悩む。そのまま3分経ってしまいそうだがどうでもいい。
そう思っていると、予想外にもエリーが助け船を出してきた。
「クリスさんは村長のことをどう思っているんですか?」
「え? アイクさんを? まあ、頼りになる管理人さんかな。お金の管理してもらってるし、大家さんだし」
「そういうのではなく、感情的に。好きか、嫌いかで言うと?」
「え? 好きだよ」
クリスはエリーの誘導にあっさりと答える。
……まあ彼の場合、きっと対象がエリーだろうが、その辺の漁師だろうが、全く同じ返事をするのだろう。
しかしその言葉を向かいで聞いたアイクは、俄然勇気をもらったようだった。
さっきまで眉間に寄っていたしわがなくなり、顔を上げる。
これは、もしかすると上手い具合に話が進むかもしれない。
「そ、そうか! やはりな! そうでなければ、タコ飯なんて作って寄越さないだろうしな!」
だがアイクは、若干ドヤ顔で言い放った。
……あ。これは逆効果だったかも。
好かれている=アイクの勝ちという勝ち負け思考に戻ってしまった感じがする。
助け船を出したエリーも、口を塞がれたまま成り行きを見守っていたユウトも、少し良い展開を予測していたレオも、冷めた目で思った。
駄目だこりゃ。
「クリス、お前がそうしたいなら、ベラールで私のために働いてもいいんだぞ? 何なら、友……」
「あ、アイクさんに気を遣ってもらわなくても大丈夫。冒険者に戻ってレオくんたちと戦うの楽しみなんだよね。ゲート攻略終わったら早めに荷物まとめるから気にしないで」
結局アイクは少々喰い気味にクリスに断られ、玉砕した。
「はい、3分終了~」
そこでタイムアップをレオが告げる。
慢心から繰り出したパンチをカウンターで返されて、アイクはテーブルに突っ伏したのだった。




