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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、兄にあーんする

 港に戻ったレオたちは、昼食をとるために近くにある海鮮食堂に入った。

 6人掛けのテーブル、レオの両脇にクリスとユウト&エルドワが座る。そして何故か向かいに、アイクとエリーがいた。


 クリスとアイクが窓際に向かい合わせになる形。

 せっかくだから何か話せばいいのに、アイクは何故か下を向いたままぼそぼそと小さな独り言を呟いている。正直異様だ。


「……おい、ちょっと」

「はい」


 レオはその空気に居たたまれなくなって、エリーを呼んで一度店の外に連れ出した。


「……何なんだ、あれは」


 主語がなくても、何のことを訊いているかは明白だ。エリーも問い返すことはせずに答える。


「村長がクリスさんに告白を試みると言うので同行を命じられました」

「告白とか誤解を招きそうな言い方すんな。……つうか、それならクリスだけ連れ出して2人で話せばいいだろう。何で昼食のテーブルに同席して来んだよ。すげえ微妙な空気になってんじゃねえか」

「おそらくレオさんのフォローを期待しているのかと」

「何で俺があいつのフォローしなきゃなんねえんだよ!」

「どうやら村長はレオさんにシンパシーを感じている模様です」

「そんなもん勝手に感じんな! 迷惑極まりない!」


 レオは頭が痛くなった。

 どうにもアイクの姿が昔の自分と重なって、見ていられないのだ。

 あの醜態をユウトの前で晒すとか、マジやめてくれ。


「大体あの野郎、クリスの目すら見ないじゃねえか。せめてそれクリアしてから来い。クリスからしたら、目も合わせたくないほど嫌われてるとすり込まれるだけだぞ」

「現在、勇気を出すための自己暗示の真っ最中なんです。まあ、そのうち何か言います」

「何かって何だよ。居丈高に『親友になってやってもいい』とか言い出すんじゃないのか」

「私は逆に暗示が強すぎて『好きだ』とか『結婚してくれ』とか明後日のことを言い出すんじゃないかと密かに期待しています」

「怖えわ、やめてくれ。その場にいる俺たちの身にもなれ。飯食ってる最中にそんなこと言われたら、全員で飯噴くぞ」

「噴く時は村長の方を向いてどうぞ」


 どうやらエリーは面白がっているようだ。

 レオはうんざりとしたため息を吐いた。

 もう、勘弁して欲しい。


 今のアイクは、日本に転移した後にユウトを見つけ出し、引き取った後の自分を見ているようなのだ。

 自分のプライドや捻くれた思考と、相手への愛情のせめぎ合いの中、心の内に抱える葛藤にだいぶ悶々として、ユウトを怖がらせることも多々あった。


 でも仕方がないと思う。それまで他人に愛情を伝える方法なんて知らなかったのだ。おかげで最終的に酷く悩んだ挙げ句、見当外れなことを言った記憶がある。

 それが必要なプロセスだったと今では思えるが、それでも出来れば思い出したくない過去の痴態。そんなもの直視させないで欲しい。


「誤爆した上に盛大に振られてくれると面白いんですが」

「……やめてやれ」


 冷静な顔で酷いことを言うエリーを、レオは自己擁護するような気分で窘めた。




 仕方なく席に戻ると、テーブルに料理が運ばれているだけで、状況は全く変わっていなかった。

 自分たちがいない間に何か進展しててくれ、と思ったレオの薄い期待は全く叶っていない。分かっていたことだけれども。


「レオ兄さん、もうご飯来てるよ」

「ああ、悪い」


 兄が戻ってくるまで手を付けずに待っていた弟に詫びて、その隣に座る。正直ユウトの方だけ向いて食事をしたい。


「じゃあ頂きます」


 手を合わせて頂きますをして、シーフードドリアをふうふうしながら食べ始める弟を眺めて和む。

 しかし、そうやっていつまでもユウトを眺めているわけにもいかない。

 正面がエリーなだけまだマシかと考えて、レオも食事を始めた。

 逆隣でクリスもシーフードフライの定食を平気で食べているが、向かいで闇の呪文みたいな自己暗示を唱えているアイクのことは気にならないんだろうか。


 ……一応アイクもエリーも食事を頼んでいるが、アイクの方は全く手を付ける様子がない。こいつ、いつまでこうしてるつもりだ。

 クリス同様、アイクを気にせず食事をしているエリーに、レオはどうにかしろと目配せをした。それに彼女はひとつ頷く。


「……社の解放をされてきたそうですね。レオさん、ちょうどいいのでこの場で村長にご報告を」

「……は?」


 ……何で俺に振るんだこの女。こんなアイクを前に今する話じゃないだろう。つうか、俺を巻き込むな。

 こいつ、冷静な顔をしながら絶対面白がってる。性格悪すぎる。


「……特段報告するようなことはないぞ。扉を封じていた魔物を倒して、社を解放しただけだ。マナが流れ始めたから、すぐに魚が戻って来るだろう。……ほら、あんたの上司聞いてねえぞ」

「大丈夫です。そのままお話を。次は例のゲートを攻略に行かれるのですよね?」


 レオの報告に何の反応も示さないアイクをよそに、エリーが話を促す。


「ああ。とりあえず今から攻略計画を立てて準備をして、アタックするつもりだが」

「今からですか?」

「午後から突入しても、今日中にクリアできそうだからな」

「……今日中!?」


 唐突に、アイクが反応した。一応は話を聞いていたようだ。


「クリスがすでに65階まで踏破済みなんだ。後は最大でも5階分降りればボス戦だ。多分問題なくいけると思う」

「待て待て待て。早い。早すぎる。せめて、漁場に魚が戻ってくるまでは……」

「さっき戻ってくる時に海の上から見た感じ、もう魚がいっぱい来てたよ。ベラール村にはもうゲートがなくても大丈夫」


 アイクの思惑も知らないクリスが、横からあっけらかんと言う。


「それで、ゲートの攻略が終わったら私は用なしになるし、レオくんたちと一緒に王都に行こうと思っているんだ」

「なっ……!?」


 あ、言ってしまった。

 さらっと言われた爆弾発言に、アイクが愕然とした顔をしてレオを見る。やめろ、こっち見んな。


 関わりたくないと視線をそらして、レオはユウトの方を向いた。

 正直おっさんの拗らせに付き合っているより、ユウトを見て癒されていたい。

 そんな視線に気付いた弟が、スプーンにドリアを一掬いして、兄に差し出した。


「レオ兄さんも食べる? 美味しいよ。はい、あーん」


 うわ、何だこの天使。

 特にそんなつもりではなかったが、微笑みをたたえた可愛い弟に小首を傾げながらあーんされて、食べないという選択肢はない。

 レオは躊躇いなくぱくりと食い付く。


「……うん、美味いな」

「海老もあげる。レオ兄さん好物でしょ」


 続けて海老ももらって食べた。

 料理の味以上に、弟にあーんしてもらっただけで味が数段上がる気がする。素晴らしい愛情調味料。

 ああ、このまま後ろ振り返らずに帰りたい。


「レオくん、海老好きなんだ。じゃあ私の海老フライ1本食べない? 私も好きなんだけど、最近油ものを食べ過ぎると胃もたれするんだよね。はい、どうぞ」


 しかし、それを見ていたクリスが無自覚に状況を煽った。

 途端にアイクが色めき立つ。


「ランチのおかずをシェアだと……!? 貴様、やはり……!」

「やはりじゃねえよ。もう、俺を巻き込まずにそっちで終わらせてくれ、マジで」


 全くもって鬱陶しい。

 こっちに嫉妬しているよりも、とっとと自分で親友になりたいと告ってしまえばいいのだ。

 レオはクリスが寄越した海老フライを食べながら、顎をしゃくってアイクに行動を促した。


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