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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、アイクと対峙する

 エリーに連れられて、レオはクリスの家を出た。


 行くのはレオひとりだけだ。エリーの勧めにより、ユウトとエルドワはクリスのところに置いてきた。

 どうやら村長のアイクは有能だがかなりのひねくれ者で、同等に反撃の出来る者でないと相手にならないらしい。レオとしてもユウトを泣かされたら村長を殺しかねないから、渋々ひとりで来ることになったのだ。


「……おい」


 レオは仏頂面のまま、エリーに声を掛けた。


「はい、何でしょう」

「女だったクリスが男に戻った時、特に問題はなかったのか?」

「そうですね、数人の男性が自棄酒を飲んで暴れたくらいで、特には。クリスさんがもっと若い頃だったら、反応も酷かったでしょうけど」

「やっぱりモテてたんだな」

「強いのに穏やかで性格も良く、いつもにこにこ器量よしのナイスバディですよ。家庭的ですし、当時は掛かった罠のせいとかでアホ可愛かったですし、ドジというかちょっと……いや、かなり不運なところも放っておけない感じで」


 それは確かにモテそうだ。


「……で、村長もそれに引っ掛かったひとりか」

「そうです」


 エリーは隠すことなくあっさりと頷く。


「クリスさん本人は自分が男のつもりだし、そう公言もしていましたから、周囲の男性たちにそういう感情を持たれていることに全く気付いていませんでしたけど」

「あいつは人間相手だと鈍感ぽいな。警戒心も薄いし」

「女性だった頃も警戒心が薄くて、結構大変でした。周りが」

「……まあ、本人が分かっていないんじゃあな」

「ただクリスさん自身がバカ強いので、力尽くでどうこうということが無かったのは幸いでしたけどね」


 自身の想い人がそんなタイプだと、心配で却って執着が増しそうだ。ひねくれ者なら自分から好意を見せたりしなかったろうし、村長は平静を装いつつも内心でだいぶ気を揉んでいたに違いない。

 それが、このくらいの歳になってようやくライバルが減ってきたと思ったら、なんとクリスが男に戻ってしまったわけだ。

 気の毒ではあるが、最初から失恋確定だったのだから相手が悪かったとしか言いようがない。


「……クリスひとりにゲートの魔物退治させてるのは、村長が失恋した腹いせか?」

「いえ、ゲート自体はクリスさんが女性だった頃からありましたし、そういうわけではないんですけど……」


 話しているうちに、館の玄関に辿り着く。

 エリーはそこで一旦話を切って、扉を開けた。


「……後のお話は村長のところで。レオさんを執務室にお連れする許可を頂いてきますので、ここで少々お待ち下さい」


 エントランスにある椅子にレオを座らせると、エリーは正面にある階段を上がっていった。

 まあ、面会を断られるということはないだろう。

 精霊の祠の解放は、村としても絶対に必要なことだ。その辺りはエリーが上手く話してくれるに違いない。


 問題はゲートを潰すかどうかというところだが、その話は一応最後にすることにしよう。

 もちろん、危険を承知なら本当は祠を解放した後もゲートだけ残していたっていいのだ。しかし、冒険者を引退したとはいえ、あの強さを持つ男がそれだけのためにベラール村に縛られているのは、かなりもったいない。

 レオはこれからの事を考える。


 ジアレイスたちとの戦いには、いくらでも強い仲間が必要だ。

 クリスはディアとマルセンが認める人格者であり、実力も申し分なく、自由に動かせる新たな別働隊として期待出来る。

 是非彼もこの村から解放して、こちら側に引き入れたい。


 そのためにも、まずはここで捻くれ村長を何とかしなければ。


「お待たせしました、レオさん。村長の元にお連れしますので、どうぞこちらに」


 少ししてエリーが現れ、レオを先導して階段を上り始めた。

 それについていくと、3階の一室に案内される。ここが執務室か。

 まず秘書のエリーが扉をノックして開け、中に向かってお辞儀をした。


「村長、お客様をお連れしました。王都からいらしたレオさんです」

「ああ、入れ」


 男の声がして、レオは部屋に通される。

 そのまま中程まで進むと、正面のデスクに座っていた男が立ち上がった。


「……お初にお目に掛かる。私はベラールの村長をしている、アイクだ」

「……レオだ」


 短い挨拶を交わすと、レオは応接セットのソファに案内された。村長のアイクもデスクからそちらに移動してくる。

 2人はテーブルを挟んで無言で相対した。


 ……てっきりクリスと同年代なのかと思ったが、想像したよりずっと若い。おそらくまだ30代。

 眼鏡を掛け、いかにもインテリっぽい見た目だ。そして目付きが悪く、無愛想。まあ、これはレオも人のことは言えないけれど。

 しかし、決して悪印象というわけでもなかった。


 アイクを観察しているとすぐにエリーがお茶を運んできて、それから彼の後ろに控える。

 するとそれが合図のように、村長が口を開いた。


「エリーから話を聞いた。沖合の社に行きたいそうだな」

「ああ。今は封印されて開かないと思うが、そこを解放しに行きたい。あそこには竜穴があり、マナと精霊の力が閉じ込められているんだ」

「社を解放すれば、ベラールの村周辺にマナが満ち、海に豊かさが戻る……」

「そうだ」


 この話はすでにエリーが正確に話していたのだろう。彼は祠の解放で何が起こるか把握している。

 だが、アイクはすぐに許可を出すことはしなかった。


「君の話が本当なら、もちろん願ってもない話だ。しかし、ベラールに縁もゆかりもない一介の冒険者たる君たちが、社を開放する理由は? クエストでもなく報酬もないだろうに、何の利がある?」


 疑っているというよりは、慎重なのだろう。あの精霊の祠が重要な場所であることを理解している証だ。さすが、ライネルが選んだ人間だけあってしっかりしている。

 テムとラダは元々こちらに信用を置いてくれていたけれど、初見ならこれはしかるべき反応だ。邪なものを安易に通す軽率な者よりずっといい。


「正直、俺たちはベラールを助けるのが目的じゃない。社を開放して精霊の力を取り戻すのが主で、ベラールのマナ回復は副次的なものだ」

「……精霊の力を取り戻す? 何の目的で?」

「俺の弟が精霊使いなんだ」

「精霊使い……? それは珍しいな。だがまあ、それなら納得はいく」


 アイクはレオたちの目的とその理由をはっきりさせて、そこでようやく頷いた。


「ならば社への進入を許可しよう。船を使いたければ事前にエリーに相談しろ。漁師を紹介する」

「分かった」


 何だろう、予想外にちゃんとした村長だ。特に捻くれたところも見えないが。

 しかし、そう思ったレオにアイクが続けた。


「ところで、社を開放したらもうここに用はないな? 君たちはクリスと接点があるようだが、あまり彼に関わらずに王都に引き上げてくれ」


 ……拗らせているのは、やはりクリスに関してのことらしい。

 正直2人の関係にあまり首を突っ込みたくないが、今後のことを考えるとここで戦っておくべきなのか。

 アイクの後ろでエリーも『言ってやれ』と目で訴えてくる。

 ……面倒臭いが仕方がない。


 レオはアイクに宣言した。


「社を開放した後は不漁が解消するし、海中にあるゲートも不要になる。クリスの力も借りて、そこまで始末していくつもりだ。……俺たちはあそこのゲートを潰す」


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