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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、熱烈にユウトを護りたい

 翌日レオは、ユウトを魔法学校のディアたちに預けて、ひとり王宮に来ていた。


 向かいにはいつも通りライネルが座り、その後ろにルウドルトが控えている。そしてレオの後ろには、まだジラックに行っていなかったのか、ネイが控えていた。


「あの禁書に、魔界の公爵の能力が封じられているだって?」

「おそらくな。俺たちがいじったところで解析出来ないのも当然だ。あれを扱うには、同等の公爵以上の力の持ち主が必要になるそうだからな」

「その能力譲渡の儀式のために、魔研が大精霊を閉じ込めていたというのも驚きだが……。その大精霊に大事に護られているユウトの存在とは、どれだけ世界にとって重要なのだろうな」


 闘技場からチャラ男が取ってきた禁書は、王宮内の魔法研究機関で未だ解析されずに保管されている。そのことを結局ヴァルドに告げることはしなかった。個人に所有させるには、これはあまりに危険だ。


 禁書の件と一緒に、ユウトに付いている精霊が大精霊だったことも合わせてライネルに報告すると、彼は難しい顔をした。


「……アレオン」

「断る」


 兄に名を呼ばれて、レオは即座に切り捨てる。

 それにライネルは苦笑をした。


「まだ何も言っていないんだけど」

「危険だからユウトを王宮に置いて行けというんだろう。断る。あの子を護るのは俺だ。他の誰にも譲らん」

「意固地だねえ。大事な子なら安全な場所で待っててもらった方が良くない?」

「本当に命の危険のある場所に行く時、一時だけなら構わん。だがそれ以外は駄目だ」

「陛下、無駄ですって。レオさんはユウトくんがいないと人間としての感情を失っちゃうから。もう獣ですよ。いや、怪獣かな?」


 背後からネイも口を出す。

 この男は実際にユウトを失ったレオを見ているから、知っているのだ。

 弟を失った兄が、どれだけこの世界にとって危険な存在かを。


 その言葉に誇張がないことを正しく読み取ったライネルは、やれやれと肩を竦めた。


「まあ、ユウトを護ろうとする者たちはたくさんいるし、アレオンと大精霊とカズサが付いていれば大丈夫だろうけど。万が一ってこともあるぞ?」

「万が一はどこに居ても起こり得ることだ。ただ、その時に何を措いても……それこそ世界と天秤に掛けても、ユウトを優先出来るのは俺だけだろう」

「はは、熱烈だねえ」

「ルウドルトも俺と同類だぞ、兄貴」

「あれ、そうなのか?」


 ライネルが少し面白そうに後ろを振り向く。

 それに対して、ルウドルトは僅かに眉を顰めた。


「殿下とは少々主旨が異なります。私は陛下に腹黒でワガママのクソ野郎と思うことが多々ありますし。ただ、唯一無二のお方であることは確かですので、何にも措いてお護りしているだけです」

「あれ、何か貶されたんだけど」

「熱烈というのなら、そこの狐の方が殿下と同類でしょう」

「あー、そうですね。俺レオさんのために死にたいっすもん」

「その辺で勝手に死ね」

「レオさん、相変わらずひどいなあ」

「カズサ、お前アレオンに冷遇されて嬉しそうな顔すんのやめなさい」


 何だか話が脱線した。

 まあとりあえず、ライネルはユウトを王宮に留め置こうとするのは諦めたようだ。

 長兄はゆるりと話を戻した。


「それにしても、魔研が禁書で吸血鬼兄弟たちを釣っているなら、それがもう手元にないことを知られたら大変なことになるんじゃないのかな」

「確かにそうだな。ん……? ……ああ、そうか……! 何だか変だと思っていたんだ」


 ライネルの指摘に、レオはふと自身が感じていた違和感の正体を見付けて嘆息した。その眉間にきつくしわが寄る。


「どうした?」

「……今、俺たちは精霊の祠を解放して大精霊を完全体に戻そうとしているわけだが、魔研の企みの妨害になるはずなのに、奴らが全くこちらに注意を向ける様子がないのが気になっていた。てっきりジラックの方に掛かりきりになっているからかとも思っていたんだが……」

「あー、実は魔研は吸血鬼を釣るための禁書を失ってたわけですもんね。それを彼らに知られてもめる前に俺たちが倒してるから、逆にラッキーだと思ってるかも」

「なるほど……それに禁書がなければもはや大精霊を閉じ込めておく意味もない。精霊の祠を解放されたところで、奴らには大してダメージでもないわけだしな。だから阻止してこないのか」


 そう考えると、祠の開放に伴う吸血鬼討伐は、魔研の思うつぼということだ。

 もはやあの異世界が成立するくらいのマナは流れてしまったのだろうし、今のレオたちはその後始末をしているだけ。

 何とも屈辱的な話だ。


「ふざけやがって……!」

「今からでも残った吸血鬼たちに『そいつら禁書持ってませんよ』って言ってみましょうか」

「やめておけ、カズサ。ジアレイスたちがそれに備えていないわけがないし、その後は吸血鬼たちが禁書を探して人間界を襲うことになるよ」

「結局、精霊の祠の解放はしなくてはいけないし、吸血鬼も殺すしかない……くそっ」


 魔研にいいように動かなくてはいけない自分に腹が立つ。

 レオは歯噛みした。

 それを宥めるようにライネルが苦笑する。


「まあ、そんなに怒るものでもないよ、アレオン。祠の解放によって大精霊が完全体になったあかつきに、その力でユウトに加護をもたらすことになれば、これほど心強いことはない。そして禁書を狙う吸血鬼がいなくなれば、あれをヴァルドに渡してもいいだろう。適任の後継者が選出されれば、ユウトを通じて大精霊が儀式を執り行ってくれるかもしれん」


 こちらにも利がないわけではないのだと言いたいのだろう。

 もちろんそれを承知しているレオは、眉根を寄せたままだが大きくため息を吐いて、怒りに強ばった身体から力を抜いた。


「……分かっているが、感情的に許せんものがある」

「それはもちろん私も一緒だよ。私は魔研の連中を、世界を危険に晒す許しがたいウジ虫だと常々思っている。いや、奴らを例えるなんてウジ虫にすら失礼か。……まあ、そのうち追い詰めて追い詰めて恐怖のどん底に落として地獄を見せてやろう」

「陛下、笑顔で言うから怖いんだけど」


 ライネルは庇護下にある者にはおおらかだが、敵には容赦ない。

 その笑顔の裏にある感情を読み取ったネイは、思わず身震いした。


「奴らに目に物見せるためにはお前たちの事前調査が肝心だぞ、カズサ。ジラックの秘密をどんどん暴いて来てくれ」

「はいはい、頑張ります。リーデン殿あたりがちょろっと漏らしてくれると早いんだけどなあ」

「あいつはイムカが吐けと言っても頑なだからな」


 先日のラダの村での話では、リーデンのことはイムカが自分でどうにかすると言っていたが、さてどうなることやら。


「……あ、そういえば」


 あの日のイムカの言葉を反芻して、レオははたとここで告げるべきことを思い出した。


「ここにいる元ジラックの重臣たちが、街奪還の請願を出している話をイムカにしてきたんだった」

「そうか。それで、彼はなんと? 自分が先頭に立って行くのか?」

「いや。自分の生存を明かす前に、彼らに目標を決めさせろと」

「……目標?」


 予想外の言葉に目を瞬いたライネルに、レオはイムカの話を伝えた。

 彼が重臣たち自身に、ジラックの理想の未来を考えさせるという決断だ。それによって自分が領主から退いても気にしない、大きな視野を持った男の話に、ライネルはとても楽しげに微笑んだ。


「面白いな。昔、私がよく先代のジラック領主に会いに行っていた時、イムカはいつも市中に出掛けていてほとんど話したことがなかったんだが、もったいないことをした。そんな考えの出来る刺激的な男だったとは」

「俺もイムカと話していて、兄貴の気に入るタイプだと思った」

「うん、気に入った。そのうち直接話をしてみたいものだが……まあ、まだ時期尚早か。彼が十分回復して、元ジラック民たちの今後の目標が決まってからだな。ルウドルト、後でジラック奪還の請願を出していた者たちに今の話を伝えろ。必要なら会議室を準備してやれ」

「かしこまりました」


 さて、彼らはジラックのどんな未来を模索するのか。

 それによってイムカが領主の座から外れたとしても、おそらくライネルが彼を重用するだろうけれど。


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