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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、巨大な蚊を退治する

「範囲魔法で攻撃するのか? まだあと10階くらい下るから、今あまり魔力を使うとガス欠起こすぞ」

「うん、分かってる」


 ここまでだって、飛んでいる虫なんかはユウトが担当して倒していた。それなりに魔力残量は減っているはずだ。

 しかし弟は全然平気な様子で、指輪に魔法を込めていく。


「兄さんたちが直接攻撃して倒すのも効率が悪いし、僕が飛んできたのを範囲魔法で攻撃するのもコスパ的に良くないし。だったらこれでいいと思うんだ」

「……どうするつもりだ?」

「氷の魔法と、風の魔法を使う」


 氷と風を使った複合魔法といえば、雷の魔法だ。雷の杖(サンダーロッド)なんかに最初からセットされている雷魔法と違い、複合魔法は魔法力や熟練度によって威力が倍増する。それを水たまりに落とすつもりだろうか。

 確かに純水でなければ水は電気を通す。一撃の雷で全体に電撃が行き渡るに違いない、が。


「おそらく、サナギになっている状態のボウフラは魔法無効の殻に護られているから、魔法が効かんぞ」


 蚊が羽化する前に倒してしまおうという腹づもりなのだろうと思って言うと、しかしユウトは軽く頷いた。


「大丈夫、羽化してから倒すよ」


 言いつつ、水たまりの上空を目掛けて2つの魔法を放つ。

 そこで氷と風の魔法がぶつかって、中空に雷雲が発生した。

 次第に風が起き、水面が小波を作り始める。


「僕あんまり素早くないからさ。殺虫剤のスプレーでも逃げられちゃうし、以前、どうしたら僕でも蚊を逃がさずにやっつけられるか、調べたことがあるんだよね」


 上空でどんどんと雷雲が発達していく。雲の内部で冷やされた空気が水面の温かい空気を押し下げ、下降気流ができる。


「普通の蚊って、風速2メートル以上の風があると飛べなくなるんだって。だから壁に留まってるの見付けたら遠くから扇風機の風を当てて飛べないように押しつけて、やっつけてたんだよね」

「……つまりそれを応用して、下降気流を作って上から風を送り、羽化した瞬間に蚊を水面に押しつけるってことか。それなら飛べないな」

「うん。多分巨大な蚊でもそれなりの風があれば行けると思う。風の魔法の方を少し威力強めにして、方向調整して吹かせてるし。……まあ、強すぎると吹っ飛んじゃうんだけど、ここは下が水だから大丈夫」


 水面の小波は、次第に大波へと変化する。

 蚊の飛行速度はそれほど速くない。この風圧を耐えて岸まで辿り着くのは困難だろう。面白い、まさかこんな倒し方をするなんて。


 そろそろ頃合いと見たのか、ユウトは水たまりへと近付いて行った。当然レオもついていく。

 すると途端に大量のボウフラのサナギが水面に浮かんで来た。


 魔物というのは完成された存在。決められた刺激に対して基本的に同じ動きしかしない。周囲からの干渉に揺らがないのだ。風圧があるからといって羽化をやめたりしない。もう結果は見えた。


 サナギの背中が割れ、次々とボウフラが羽化をする。

 当然現れた蚊は羽を広げたと同時に次々と風圧で水面に押しつけられ、しばらくすると水たまり一面が蚊で埋まった。

 うん。なかなかキショい。


 ひとしきり羽化が終わったところで、ユウトは最後の仕上げに魔法を唱えた。


「サンダーボルト!」


 ここまで上空の雲の中でエネルギーを蓄えていた雷が、一気に水面を襲う。

 バリバリバリッと大気が裂けるような大音量と、ダウンバーストのような風圧と震動。レオはとっさにユウトを庇い、アシュレイもエルドワが飛ばされるところをむんずと掴まえた。


 想像以上の威力。これはあんな蚊ごときひとたまりもない。

 ただの氷魔法と風魔法でここまでやるとは驚きだ。コスパの良さもそうだが、合理性も優秀。さすが俺の弟。


「うわあ、雷の威力上げすぎた……ごめんねレオ兄さん。ありがと」

「問題ない。それより一撃で全滅だな。すごいぞ」


 雷の衝撃と風圧でこの辺りまで飛び散った蚊の死骸の間に、下りの階段が現れる。このフロアをクリアした証拠だ。


「蚊の1匹1匹は大した強さじゃなかったからね。……兄さん、何してるの?」


 レオはユウトを一旦腕の中から開放すると、蚊の腹袋を剥ぎ取り始めた。水たまりの中のをいちいち取りには行かないが、陸に上がったものだけ回収する。


「蚊の腹袋は携帯用の水筒に加工できるんだ。軽くて畳めるし、漏れもなく膨らむから容量も大きい。ただ、基本的に蚊は炎魔法で倒すことが多くてな。燃えてしまうから、この素材は中々出回らないんだ。おそらくロバートのところに送ってやれば、すぐに買い手が付く」

「へえ、そうなんだ」

「このサナギの抜け殻も、魔法無効の効果が付いた素材になる。アシュレイとエルドワ用に少し残して、後は売ってしまおう」


 転移ポーチにぽいぽいと素材を突っ込んで、レオはユウトの元に戻った。


「では、進むぞ」

「うん。……次の中ボスフロアで野営かな? どのくらい降りればあるだろ」

「俺の感覚では、一度ボスフロアがあるとそこから10階は何もないイメージだ。おそらく38階以降だろうな」

「ふうん。ゲートって、そういう決まり事みたいなこと多いよね。5階ごとに脱出用の方陣置いたり、中ボスフロアには他の魔物を配置しなかったり」

「決まり事……そうだな」


 魔界と人間界が協力関係だと精霊は言っていた。このゲートももしかすると何か取り決めがあって、意味を持って存在しているのか。

 輪廻の中にいる者が知る必要のない事なのかもしれないけれど。


 だとすると、ゲートとはまた違うジアレイスたちの作っている世界は、取り決めから外れた世界なのだろうか。

 人間界にも、魔界にも属さない世界。

 決められた制約のある世界のバランスを崩し、その存在で双方の関係にくさびを入れようとしているのかもしれない。


 ……世界に関しては、まだまだ分からないことだらけだ。


「何にせよ、前に進もう。出来るだけ進めば、明日が楽になる」


 今はそれ以上考えても仕方がないと、レオはすぐに思考を切り替えた。

 再びエルドワが先頭を行く。

 下り階段を降りると、そこからはトンボや蝉などのフロアだった。


 背の高い草の上をトンボが行き交い、木には蝉がたくさん留まっている。他にもカミキリムシやカマキリなどもいた。ちょっと攻撃が痛そうな奴らが増えてきたか。


「ひゃあ、蝉がこっちに気付いてオシッコかけてきた!」

「気を付けろ、ユウト。酸だから被ると溶ける。もえす装備は平気だが、皮膚に付くと大変だ」

「ん。エルドワとアシュレイも、装備ないから気を付けてね」

「アン」

「大丈夫だ」


 エルドワは当然そんなヘマはしないし、アシュレイも対魔物は慣れた様子だ。時折こちらに向かってくる巨大虫を、ユウトに近付く前に潰している。

 彼は馬なせいか、特に足技の威力がすごい。


 ランクAの甲殻を持つ昆虫を、蹴りだけで殻ごと叩き潰す。そのたびにユウトが筋肉賛美をするのだけがちょっといただけないけれど、まあ、盾としては十分役割を果たしていた。


「それにしても、だんだん虫の密度が高くなってきたな。さっきの蚊みたいに、ランクより数で押す蟻やら蜘蛛やらの大量発生もあるかもしれん」

「僕、まだ魔法の余力あるから、範囲魔法いけるよ」

「頼りにしているが、節約しつつな」

「ん」


 最短でとはいえこれだけの階層を、限られた魔力量で戦っているのだ。本来ならすでにガス欠していてもおかしくない。

 最少の魔力で効率的に戦うユウトは、自身の持っている力をどう使えば最大限の効果が発揮出来るか、常に考えているようだった。


 こうして周りに護られていてくれながらも、多様な自分の武器を増やし、弟はどんどん強くなる。

 その力の先に、世界の命運なんてものがなければいいのだけれど。




 さらにどんどん進むと、次の中ボスのフロアに当たったのは、地下40階だった。


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