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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、鈴を手に入れる

「あの術式に関するデータは、魔界図書館にしか存在しないはず。閲覧許可も出していませんが……。そこにアクセスした者のリストを探りましょう」


 ルガルは立ち上がると、部屋の奥にある大きなスクリーンの前に立った。そこに右手を翳し、術式の帯を作るように滑らせると、スクリーンに魔界語が表示される。

 もちろんレオには読めないが、ルガルはそれを確認しながら表示をスクロールさせていった。


「……過去に許可していないデータをこじ開けた形跡がある……!? 私の大事な図書館のデータに傷を付けるとは……許さんぞ! どこのどいつだ!」

「おい、いきなり怒り出したぞ」

『魔界図書館はルガルが管理する自慢のデータベースだ。尋常ならざる愛情を注いでいるからな、無理もない』


 ルガルの手さばきが一気に早くなる。

 どうやら犯人捜しに私情が加わったようだ。

 彼がスクリーンに次々と表示するリストをレオも眺める。


「……すごい数のリストだな」

「私の素晴らしい魔界図書館へのアクセスは膨大だからな。しかし痕跡を追えば絞り込みが可能だ。そもそも、このかなり高度な鍵を掛けたデータをこじ開けられる技量を持つ者自体、それほど多くない。絶対に見付けてやる……!」


 内容はよく分からないが、色々なリストを照合しながら数が絞られていく。そしてしばらくすると、最終的に数行のリストになった。


「閲覧表示がないはずの禁忌術式と、同じ場所にあるデータに不正にアクセスしたのは4件……いずれもそのまま立ち去っているが、おそらくこのどれかだろう。さらに供物牛の制御に関するアクセスをした者……術者としての知能と実績がある者……こいつか!」


 リストが、ついに1行になる。

 ルガルはその魔族を特定した。


「こいつは?」

「ジード男爵だ。ヴァンパイア族で、魔術の扱いに長けている。こいつ、過去に何度か私のデータにハッキングを掛けてきた疑いがあったのだが、やはり何か企んでいたか……」

「男爵で吸血鬼でハッカー? よく分からんな、どういう奴だ」

『……私を閉じ込めていたゲートのボスがいたろう。あのヴァンパイア・ロードの兄弟だ』

「ってことは、またヴァルドの叔父か。……何だか胡散臭い兄弟一族だな」

「おや、お客人、ヴァルドを知っているのだな」

「……俺の弟がヴァルドの主人なんだ」

「弟……? あのヴァルドがしもべとして付き従っているということは……そうか、なるほど! それは頼もしい」


 ルガルはひとり何かを納得して、大きく頷いた。そして興味深そうにこちらを真っ直ぐ見る。


「お客人、あんたと弟の名前を教えてくれないか?」

「俺たちの名前を?」

『ルガルには名乗っておけ。今後、また魔界に来ることになった時に頼りになる』


 また魔界に来る事なんてあるのだろうか。そう思ったけれど、まだ封印された祠は他に3つある。

 再びこうして飛ばされる可能性があるならば、彼と渡りを付けておくのは有効か。


「……俺はレオ、弟はユウトだ」

「レオとユウトだな。お前たちの名前と私の魔鈴を紐付けておこう。では、これを」


 ルガルが小さな鈴を2つ差し出した。

 それを受け取ってつまみ上げたが、音は鳴らない。


「……これは?」

「お前たちが魔界に来て、何か困った時に鳴らすといい。この部屋にある魔鈴が共鳴して、一瞬でここに呼び寄せる」

「鈴を鳴らすとここに転移をするということか?」

「そうだ。魔界でしか効かないし、呼び寄せるだけの一方通行だがな。ただ、術式などと違って一切の妨害が通用しないから、御守りとして役に立つと思うぞ」


 術式妨害アンチスペルなどの結界も効かないということか。これは逃走の切り札として重宝しそうだ。

 しかし、さっきから振っているが、この鈴全然鳴らないのだが。


「……これはどうやって鳴らすんだ」

「簡単に鳴ってしまうとしょっちゅうここに来る羽目になるからな。鳴らすにはこの紐を引っかける金具を鈴に押し込む」


 言われた通りにすると、空っぽだった鈴の中にころりと金属の玉が入った。


「試しに鳴らしてみろ。どうせ転移先はこの部屋だから、今は何も起きん」


 紐を摘まんで軽く揺すれば、チリンチリンと高音が響く。

 ちゃんと鳴ることを確認して、今度は押し込んだ金具を引っ張り出すと、また音はしなくなった。これなら間違って鳴らしてしまうことはない。


「……なるほど。ありがたく頂いておく」


 レオは鈴をポーチに入れると、逸れていた話を本題に戻す。


「ところで、ジード男爵とやらはどこにいるんだ? とっととぶち殺しに行きたいのだが」

「そうだな。魔界図書館の貴重なデータをこじ開けた罪は万死に値する。ジード男爵の館までは私の翼竜に送らせよう」


 ルガルはそう言うと、レオたちを連れて部屋の奥にある扉を潜った。どうやら移動手段を準備してくれるらしい。


 ついて行った扉の先には、飛行機の格納庫のような広いスペースがあった。

 そこに、移動用の翼竜が3匹ほど繋がれており、すぐに飛び立てるようになっている。

 ルガルはそのうちの1匹に近付くと、呪文のようなものを唱えながらその身体を撫でた。


「……これでよし。レオ。この翼竜に行き先を指示したから、背中に乗っていくといい。私の言うことしか聞かんから、ジード男爵のところまで送ることしかできんが」

「そうなのか? ……まあ、それだけでもだいぶ助かる。初めて来たところで土地勘が全くないからな」

「それから、もしジード男爵を倒したら、魔界図書館のアクセスコードが入ったカードをもらっていくといい。閲覧出来るデータに制限はあるが、魔界で何か調べ物がある時に使える」

「分かった」


 レオは頷くと、翼竜の背中に乗った。

 ルガルがそれを確認して、翼竜を繋いでいた鎖を解く。するとこちらが何も指示をしていないのに、翼竜は勝手に動き出した。


「こいつ、完全に全自動か?」

「お前のいうことは何も聞かん。ただ掴まっていればいい。『レオを無事に送り届けろ』と言ってあるから、問題はないはずだ」

「……とりあえず、頼りにしておくか。……あんたには世話になったな。感謝する」

「私の大事なデータに不正アクセスした輩を退治してくれる対価だ。気にするな」


 特に空気を読まない翼竜は、そんな会話をしている間にも外に向かって歩いて行く。

 ルガルは分かっているから気にする様子もなく、離れていくレオを見送った。

 それに遅れてついてきていた精霊が、去り際にルガルに耳打ちする。


『ルガル、これから少し忙しくなるぞ』

「ええ。私の方でも監視を強めておきます。……貴方様は一刻も早い復活を」

『……まあ、その辺りは彼ら次第だな』


 精霊はそう言うと、翼竜が飛び立つ前にレオの元に飛んでいった。


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