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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、弟萌えが過ぎる

 ユウトが差し出した精霊のペンダントを渋々着けると、すでに人型の精霊はテーブルの上で腕を組みあぐらをかいて、不遜げにレオを見ていた。


「……俺がわざわざ貴様の一部を解放しに行ってやるというのに、何だそのクソ偉そうな態度」

『仕方がない。私の方が偉いからな。それに私の解放はユウトの解放にも繋がる。お前が拒否出来る立場ではないのだ。黙ってやれ、クソが』

「……まあいい、不愉快なことは速攻で終わらせるに限る。早く可愛いユウトと戯れたいからとっとと内容を言え、クソが」

『私だってお前より可愛いユウトとずっとしゃべってたいわ、クソが』

「まるっと同意して返すわ、クソが!」

「ちょ、レオ兄さん、クソクソ言い過ぎ。何の話してるの?」


 会話の内容が聞こえないユウトが、困惑気味にレオを宥める。そんな弟の顔を眺めることでどうにか平常心を取り戻すと、兄は再び精霊に視線を戻した。

 そうだ、クソの擦り合いをしている場合ではない。話を進めよう。


「……用件」

『お前には魔界に飛んでもらう』

「色々端折りすぎて着地点が訳分からんわ、クソが!」

『今から説明する。ここからの内容はユウトに知られないように注意しろ』

「……チッ、分かった」


 まあ、ユウトを介さないということは、そういうことだろう。いきなり突拍子もないことを言い出したが、とりあえず説明はしてくれるようだ。レオは不満げにだが頷いた。


「とりあえずあの魔物を倒すと、何が起こるんだ?」

『バラン鉱山でユウトが飛ばされたのと同じような、転移の罠が発動する。生け贄を必要とする、人間版の降魔術式のようなものだな』

「今度は俺が転移するということか」

『そうだ。それも、転移先はユウトが前に行ったところではない。魔界だ』


 魔界。瘴気が強く、人間が行くと気が触れると言うが。

 先日バラン鉱山の頂上で魔尖塔の瘴気を浴びた際に、ひどく闘争本能を煽られたことを思い出す。大丈夫なのか?

 その懸念を口に出そうとして、しかし向かいで聞いているユウトに知られないようにとなると難しくて押し黙る。

 それが分かっている精霊は、こちらの問いを待たずに続けた。


『もちろんだが、向こうでは私がお前をサポートする。ユウトから世界樹の木で出来た天使像を借りていくのを忘れるな』

「……そこで俺は何をすれば良いんだ?」

『精霊の祠に封印を掛けている術士を倒す』

「ああ、それは明快だな」


 その敵が魔法の効かない相手なのだろうか。何にしろ、行ってそいつを倒せばいいというだけなら分かりやすい。

 やはりユウトと引き離される羽目になるのがムカつくけれど、事前に分かっているなら精神的な負担はずっと減る。戦うのも自分だけというのが気楽だ。可愛い弟を危険な魔界に連れて行くのは問題だし、我慢してとっとと終わらせよう。

 そう思っていると、ただし、と精霊がまた続けた。


『問題はこの世界に戻ってくる方法だ。祠ごと異世界にずらされていたユウトの時と違い、開放したら終わりではない。敵を倒した後に、魔界の数少ない竜穴を探しに行かないとならん。人間や半魔はそこから精霊の助けを借りて世界を移動するのだ』

「こっちから飛ばされるのと同じ転移の術式は使えないのか?」

『こちらの世界の降魔術式同様、人間を転移させる術式も魔界の禁忌術だ。使える者は限られているし、そもそもその数少ない術士を倒しに行くのだから無理に決まっている』

「面倒臭えな……」


 敵を倒すよりも、どうやらその後の竜穴探しの方が時間が掛かりそうだ。


「レオ兄さん、もしかしてあの牛を倒すと掛かる術って、また異世界に飛ばされる罠なの?」


 不意に、こちらの話を断片的に聞いていたユウトが口を挟んできた。少し心配げな顔だ。


「ああ」


 レオは端的に返す。弟が飛んだのとは全然違う先だが、異世界には違いないから嘘は吐いていない。


「俺だけで行って、向こうで祠を封印している敵を倒して帰ってくる。……ただ、竜穴を使って戻ってくるらしいんだが、それを探さなくてはいけないらしい」

「竜穴……。そっか、今回はそっちの世界に竜穴を引き込んでるんじゃなくて、封印して塞いでるだけなんだね」

「そのようだな」

「竜穴ならエネルギーの流れを見付ければいいんでしょ? だったら、エルドワが探せるんじゃない?」


 ああ、確かにエルドワならその嗅覚で竜穴を発見してくれるかもしれない。

 しかし当の犬耳少年は、ふるふると首を振った。


「ダメ。エルドワはユウトの側を離れない」

「そうだな。俺としても、エルドワが護っていなければユウトをひとりで置いていくわけにはいかん」

「えー、じゃあ何か他に方法は……あ! そうだ、これ!」


 ユウトははたと何かを思い立って、ハーフパンツの後ろポケットを漁った。

 そして取り出したのは、タイチ母に作ってもらった通信機だ。


「通信機がどうした?」

「これさ、確か今居る場所を表示する時、一番近くの竜穴からの距離と方角で計るって言ってたじゃない? ってことは、今自分のいる位置から、竜穴のある場所が逆算出来るんじゃないかな」

「……ああ! なるほど……!」


 ユウトに言われて、自身も胸ポケットから通信機を出して起動し、今居る場所の地図を見る。

 すると確かに、一番近い竜穴からの距離が座標として表示されていた。ちなみに今はテムの竜穴は閉じているから、バラン鉱山からの座標が載っている。


「これを見ながら探せば、問題なく見付かるな。さすがユウト、賢いぞ」

「賢いのはこれを作ったタイチさんのお母さんだけどね」


 兄の欲目に弟は苦笑した。

 しかし通信機の機能が使えることを思い出してくれたのが、ありがたいことには違いない。レオはそれをしまい、ユウトの頭を撫でた。


「これなら安心して行って帰って来れる。ユウトのいない世界なんぞ、一秒も長く居たくないからな。……ユウト、エルドワと一緒に良い子にしてるんだぞ」

「もう、何その子ども扱い。レオ兄さんこそ、精霊さんとケンカしちゃ駄目だよ?」


 少し厳しい顔で窘められたが、絶対無理なので回答は控える。

 ……まあ何だ、ユウトはこんな顔も可愛い。


「それよりも、こいつがユウトから天使像を借りていけと言ってる。預かっていいか?」

「あ、これ? うん、もちろん。どうせ他にも依り代があるし」


 話を変えると、ユウトはすぐに流されてくれる。

 下げていた天使像を外し、それをレオに手渡した。そして、今は見えない精霊に語りかけるように願いを託す。


「精霊さん、レオ兄さんのこと護ってね」

『不本意だが仕方がない、可愛いユウトのためだ。こんな可愛げのない男と同行なんてマジで嫌だけど、魔界にユウトを連れて行く訳にはいかないからな。ああ、不愉快』

「ユウトに聞こえないからって本音で愚痴んじゃねえよ。それこそ全科白まるっと同意して返すわ、クソが」


 可愛らしいユウトの科白だけを耳に残して、レオは天使像をベルトに括り付けて立ち上がった。

 この精霊と直接語るこの状況を長く続けるのはまっぴらごめんだ。することが決まればとっとと行って、とっとと帰って来たい。


「もう行くの?」

「ああ。エルドワ、ユウトを頼むぞ」

「うん。任せて」


 レオの言葉にきりっとした顔をしたエルドワは、部屋を出る前に子犬へと戻った。ユウトがそれを抱き上げる。

 洞窟まで一緒に来る気のようだ。


「お前がすることは特にない。村の中で待っていていいぞ」

「ん、そうなんだけど……何となくここにいても心許ないって言うか……。レオ兄さんと離れてる時間は、できるだけ少ない方が良いなあって」


 ちょ、待て、俺の弟クッッッッッッソ可愛いんですけど!!

 子供じみた自身の発言に少し恥じらって赤くなっているのが眼福なんだけどどうしよう。


「俺も完全同意だ。速攻で行ってくる」

「うん、祠の前で待ってるから。……早く帰って来てね?」

「……ああくそ、離れるのが辛すぎる!」


 上目遣いに見上げられて、ヤバい、俺の弟がマジで激カワ過ぎる。超天使ですありがとうございます。

 レオは感極まってユウトをがばっと抱き締める。


『……お前、顔がヤバいぞ。弟萌えが過ぎる』


 そんな兄に、テーブルの上から精霊が突っ込んだ。


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