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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、若旦那をビビらす

 久しぶりに訪れたテムの村は、門のあちこちに破損があった。外周のかがり火は燃えかすしかない状態で、毎夜どうやって獣や魔物避けをしているのかも定かではない。


 まだ夕暮れ前だというのに村に人の気配はほとんどなく、若旦那の率いていた自警団たちしかいないようだった。


 レオたちはそんな村の入り口でアシュレイを止めると、一旦馬車を降りた。以前は開放されていた門が、昼間だというのに閉じている。

 ユウトはその門の中に声を掛けた。


「こんにちは。若旦那さんか村長さんいますか?」

「……あれ? 兄ちゃんたち! どうやってここへ?」


 門の中から顔を出したのは、以前ユウトを殺戮熊のゲートまで案内してくれた男だった。

 こちらを認めると、少し大きく門を開ける。


「村道を通って、ザインから来ました。一応物資とかも積んできたんですけど、入れてもらえますか?」

「えっ、マジでか! ちょっと待て、大丈夫だけどまずは若旦那連れてくる!」

「お願いします」


 男は踵を返すと、一目散に村長の家に駆け込んだ。

 そして、ほぼ間を置かずに若旦那と一緒に戻ってきた。

 この慌てよう、余程物資に困窮していたのだろう。若旦那はこちらに来る前に男に命じて、自警団を全員集めるように指示を出した。


「お前ら、久しぶりだな! よく来てくれた! 門を開けるから馬車ごと中に入ってくれ。今は外に馬を繋いでおくこともできん」

「お久しぶりです、若旦那さん。皆さん、無事でしたか? 近くにランクAゲートが出来たせいで、物流が滞ってるって聞きました」

「まあ、生きてるって意味なら無事だな。村の中にある畑や家畜でどうにか食料は調達できてるし。ただ、もう燃料や矢や罠が底を突きかけてて、村を魔物から護るのに難儀していたんだ。お前らが来てくれて助かった」


 レオたちは若旦那の誘導で村に入った。

 すぐに再び門が閉ざされ、あちこちから自警団の男たちが集まってくる。やはり村の中を歩き回っているのは彼らだけのようだ。

 おそらく住民は、魔物が襲ってきた時のことを考えて自宅で待機させているのだろう。


「この馬車に積んである物資は職人ギルドのロバートさんが手配してくれました。テムの村に届けて欲しいって」

「そうか……。あの人はいつもこんな小さな村まで気に掛けてくれてありがてえな。お前らも、こんな危険な道のりを馬車で来てくれてありがとな。さっそく物資を降ろしていいか?」

「あ、馬車ごと持っていっていいですよ。馬は別ですけど、この馬車は以前お世話になったお礼に差し上げようと思って持ってきたんです」

「……は?」


 急いで荷を降ろそうとしていた男たちが一瞬止まった。

 まあ、そうだろう。

 ユウトは軽く言ったが、この馬車は2頭立ての幌馬車の中でもだいぶ高級品だ。村の金では到底買えないもの。それを、以前世話になった礼だと言って持ってきたのだ。


「差し上げ……? ちょ、おま、何言ってんだ!? こ、これすげえ良い馬車だぞ!?」

「? はい。ロバートさんに付き合ってもらって、とても良い馬車を選んできました」


 ユウトは小首を傾げて、それが何か? と言わんばかりだ。

 あまりの金銭感覚の違いに若旦那が混乱をきたしている。


「職人ギルド支部長お墨付きの品質……!? いくらだ、これ……!? え、待て、理解が追いつかない。そもそも、前回世話になったのは俺らの方じゃ……?」

「……細かいことは気にするな。ユウトがどうしてもテムに恩返しがしたいと言ってのことだ、他意はない。ありがたく受け取れ」


 挙動がおかしくなっている若旦那を見かねて、レオが横から口を出した。気持ちは分かるが、いつまでも動揺している場合ではないだろう。

 もうすぐ夜になる。その前に、村を護る準備をするべきだ。

 当然彼もそんなことは弁えていて、慌てて気持ちを切り替えたようだった。


「い、いいのか……!? 今はこんな状況で大した歓待も出来ないが、ありがとうよ! よし、お前ら、馬車ごと倉庫に運んで、夜支度をするぞ! 矢の補充と欠けた装備の交換をしろ!」

「アシュレイ、倉庫まで馬車を運んであげて」


 ユウトに言われて、アシュレイはおとなしく従った。

 一般人のために動くことを頑として認めなかった馬だが、やはり昨日のことで心境の変化があったらしい。良いことだ。

 馬車は自警団の男たちの案内で引かれていった。

 それを見送ったところで、はたとユウトが何かを思い出す。


「あ、そうだ。ロバートさんの物資とは別に、僕からも村で役立ててもらおうと思って、アイテム持ってきたんです。これも差し上げますね」

「え、他にも何か……?」


 若旦那はもはや引き気味だ。ユウトのお礼が過ぎる。

 しかしそんなことは気にせずに、ユウトはポーチからアイテムを取り出した。


「えっと、繰り返し何度でも使えるたいまつ10本と、雨でも消えずにずっと燃え続けるかがり火の種20個と、毒無効持ち以外には必ず効く猛毒の罠30個です」

「多っ! そして性能高っ! それ高級素材アイテムじゃねえか!」

「……そうなんですか? レオ兄さん、使い道の少ない雑魚素材みたいに言ってなかった?」

「そりゃ、俺たちには必要のないものだからな。だが、仮にもランクSSゲートで出た素材だし、高級に決まってるだろ」

「そうなんだ。まあいいや、最初からテムで使ってもらうために魔工のお爺さんに作ってもらったんだし。若旦那さん、どうぞ」

「まあいいやって、お前! ランクSSってどういうことだ!? それに魔工のお爺さんって……」

「今は隠居してる魔工爺様のことだ」

「元パーム工房の名匠じゃねえか! 何だその人脈!」

「ありがたい巡り合わせですよねえ」


 ユウトはほわほわと笑っている。

 自分がどれだけすごいものを持ってきたのか、いまいち分かっていない様子だ。そんなユウトに、若旦那も毒気を抜かれた。


「……うん、まあ、とりあえず、ありがたく頂いておくよ。ただ、次はこんなんいらんからな? 見返りがすごすぎてビビるわ」

「そうですか? じゃあ、次に来る時は菓子折か何かにしますね」

「ああ、その程度にしておいてくれ」


 ここで、ようやく若旦那は気が抜けたように笑った。


「何にせよ、とにかく助かったよ。じゃあ、俺らはこれから警邏をしなくちゃいけないから、お前らはウチに行ってくれ。親父も喜んで歓迎すると思う」

「村長さんもお元気なんですね」

「まあな。少ない資源で村を護るのに、だいぶ腐心して疲れてっけど」

「村に魔物は来ているのか?」

「最近は巨大ミミズが来てるな。どうにか撃退はできるんだが倒しきれなくて、何日かすると復活して襲ってくる。今日辺り来る頃だ」

「あ。それなら通りがかりに僕たちが倒してきました」

「……ん?」

「そうだな。ユウトとそこの子犬が、ついさっき退治してきた」


 どうやらあの巨大ミミズは、テムの村を襲っていたらしい。攻撃力や防御力自体はランクAのわりに大したことないが、再生力と倒しきらないといつまでも襲ってくるしつこさが奴の武器だ。

 こんな小さな村などはどんどん摩耗して物資を削られ、そのうち潰されてしまっただろう。


「そっちのバカ強い兄さんの方じゃなく、弟と子犬で倒した……?」

「ええ、通り道に居たので。あ、ザインに帰る時にゲートも潰して行きますから安心して下さいね」

「お、おう」


 驚きすぎて、若旦那は突っ込みを放棄したようだ。まあ、それが賢い。


「ミミズを倒したとはいえ、他の魔物が現れないとも限らん。警邏は続けた方がいい」

「そ、そうだな。とにかくお前らはこの後、親父のところに行ってくれ。滞在するようなら部屋も用意しよう」

「ありがとうございます」

「礼を言うのはこっちの方だっての」


 律儀に頭を下げるユウトに、若旦那は苦笑した。


「しかしこっちとしてはありがたいが、この往来が面倒な時にわざわざテムに来るなんて酔狂だな。何か目的があってのことなのか?」

「ああ、本来の目的はこの近くにある精霊の祠に行くことだ」

「精霊の祠?」


 レオの言葉に、若旦那が目をぱちくりと瞬く。

 思い当たることがない様子だ。


「……知らんのか?」

「俺は知らないな。……だが、親父は知っているかもしれん。何か儀式をする祭壇があると聞いたことがあるんだが、村の長しか入れないところだとか……。もしかすると、そこかもな」

「え、村長さんしか入れないんじゃ、僕たちは入れてもらえないかな……」

「どうだろう。まあ、親父に訊いてみてくれ」


 今回もまた、面倒臭いのだろうか。レオは内心で辟易した。

 バラン鉱山での一件のようなことは正直勘弁して欲しい。テムの祠はレオがメインで開放することになるようだが、再びユウトと引き離されたらやっていられない。あのいけ好かない精霊とタッグを組まなくてはならなそうなのも億劫だ。


「気が乗らんな……」

「レオ兄さん、精霊さんが、『黙ってやれ!』って言ってる」

「何でてめえのためなのに命令されなくちゃならんのだ、クソが!」


 やはり、この精霊とはウマが合わない。


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