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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、エルドワと巨大ミミズを倒す

 翌日、アシュレイはもう凹んでいなかった。

 しっかりと朝食を食べた後、馬に変化しておとなしく馬車に繋がれる。


「アシュレイ、今日何だか落ち着いてるね」

「そうか?」


 ユウトは馬の鼻頭を撫でて微笑む。


「レオ兄さんが近くにいても警戒しなくなったみたい」

「……まあ、慣れたんだろ」


 当然だが昨夜のことを弟に告げる気はさらさらない。おそらく彼の足下にいるエルドワは何があったか分かっているだろうが。

 レオはテントを片付けて出発の準備を済ませると、エルドワを持ち上げた。


「そろそろ出発するぞ」

「うん。アシュレイ、今日もよろしくね」

「ヒヒン!」

「今日はテムの近くに出来たというゲートの側を通ることになる。アシュレイ、ランクA相当の魔物が出る可能性があるから、気を付けろよ」

「平気だよ、今日は僕がみんなを護るもん。レオ兄さんも見張りしてたんだからゆっくり休んでて」

「アンアン!」


 何だかユウトとエルドワがやる気だ。

 まあ、ランクAくらいなら確かにユウトたちで片付けられるが……もし万が一ゲートから出てきているのが巨大なGだったら、弟はどんな顔をするのだろう。


「……そういや、ユウトに言っていなかったな。テムの村近くに出来たゲートは昆虫系の魔物のゲートだそうだ」

「……昆虫?」

「巨大な蟻とか芋虫とか、とにかく色々出るらしい」

「色々の巨大な昆虫……」


 その色々が問題なのだが、とりあえず伏せておく。ユウトも何か不穏なものを感じている様子だけれど、彼はGの名前を口にするのも嫌なため、確認はしてこない。


「一応、ユウトのためにロバートが特殊な眼鏡を貸してくれた。タイチ母が開発した、虫がお菓子に見える眼鏡だそうだ。渡しておこう」

「え、何それ」


 レオはポーチからSweets虫くんを取り出して、ユウトに渡した。

 細くて赤いフレームの眼鏡は、女性のデザインらしい可愛らしいフォルムだ。ユウトが試しに掛けると、とても似合っている。たまには眼鏡もいい。後でこっそり写真を撮っておこう。

 そうしてガン見しつつ弟萌えをしている兄をよそに、ユウトは興味津々に辺りを見回した。


「近くに虫いないかな……あ、蟻だ」


 足下に蟻の行列を見付けて、しゃがみ込む。


「わあ、蟻がコンペイトウの行列になってる! 可愛い~! ……あれ、何だろ、マシュマロ運んでる」

「死んだ芋虫だな」

「あー……この眼鏡掛けてるとメルヘンなんだけど……」


 ユウトは眼鏡をずらして本物を確認すると、少しだけ落胆した。

 けれど、それでも十分使えると判断したのだろう。Sweets虫くんをポーチにしまった。


「これなら昆虫ゲートも平気かも。今度ロバートさんにお礼言わなきゃ」

「それで問題ないなら出発しよう」


 レオはエルドワを馬車に乗せてから、ユウトを抱え上げて御者席に座らせた。自身もその横に乗る。

 ひとまずユウトが手綱を握ったが、それを振るうことはせずに声を掛けた。


「じゃあ出発! アシュレイ、お願い」


 その声に快活にいなないて応えたアシュレイが、ゆっくりと走り始める。

 そのまま徐々にスピードを上げていき、車輪が滑らかに回り始めるとある程度のところで速度を安定させた。


「やっぱりアシュレイの走りは快適だよね。この馬車をテムに届けた後は、ラダで王都行きの客車とか引いたら良さそう。ロジーのお爺さんがいるし、これから鉱石の売買も始まるだろうし、行き来の需要あるんじゃないかな」

「……まあ、それもいいかもしれんがな」


 最初はレオもラダで仕事を作って、ガイナの元で見ていてもらえばいいのではないかと思っていた。

 しかし、昨日の一件で、この健脚と馬力パワーをただあそこに置いておくのは少しもったいないと思い始めている。ユウトを護りたいという気概があるのも大きい。


「ラダをこいつの本拠にするのは賛成だが、ちょうど俺たちの移動にも馬車が欲しいと思っていたところだ。転移魔石で一往復すると、その後3日間徒歩でしか移動ができなくなるだろう。アシュレイがいれば移動がだいぶ楽になる」

「アシュレイを僕たちの専属の馬車馬にするってこと?」

「こいつにとっては悪い話じゃないと思うぞ」

「ヒヒーン!」


 こちらの話が聞こえているのだろう、アシュレイが走りながらも肯定するようにいなないた。


「アシュレイがそれでいいならいいけど。馬車はどうするの?」

「俺たちにはこの規模の馬車は必要ない。どこかで1頭立ての中古品を買って、リサイズとリフォームをしてもらおう。……まあ、テムの一連の問題を解決した後だが」

「そっか」


 とりあえずは祠の開放やらゲートの攻略やらを済ませてからだ。もちろんユウトもそれは分かっているから、ここで考えを煮詰めようという気持ちはないようだった。あっさりと頷いて前を向く。


「ところでレオ兄さん、そろそろ荷台で休んでいいよ。どうせ熟睡はできないんだろうけど、目を閉じて横になってるだけでも休まるでしょ?」

「別にここでいい。背もたれがあって目を閉じられれば、あまり変わらん」

「えー。全然違うと思うけど……」

「どちらかというと、休まり方が違うのはお前との距離によってだな」


 レオは言いつつ軽くユウトに寄り掛かった。さすがに全体重を掛けると弟の小さな身体では支えきれない。


「僕の魔力じゃレオ兄さんの睡眠不足を充填はできないよ?」

「お前が近くにいるだけで回復の質が違うんだよ」


 気分の問題と言われればそうなのだろうが、その気分が体調や思考を左右することは思いの外多いのだ。

 そのまま目を閉じると、ユウトは何も言わずに許してくれた。


 今日は天気が良い。

 ぽかぽかとした陽気の中を行く、馬車の適度な揺れもまた心地良い。そして、ユウトの甘い香り。甘い物嫌いのレオでも好もしく感じるその香りは、側にあるだけで癒やしを与えてくれた。至福だ。

 何事もなくテムまでこのまま行けたら平和なのだが。


 しかししばらく馬を走らせていると、やがて前方に魔物の気配を感じてレオは薄く目を開けた。


「わ、でっかい」

「アン」


 まだずいぶん遠くに居るが、その大きさにユウトも目視で気付いたようだ。アシュレイが馬車の速度を緩める。


「巨大ミミズかあ……。あれ、多分以前倒したサンドワームと生体は同じようなものだよね。一部をやられてもそこを切り離して逃げて、再び増殖して襲ってくる……。確か、倒しきらないとどこまでも追ってくるんだっけ? ここで倒さないとテムまでついて来ちゃう」

「アン。アンアン」

「……あれ、エルドワ、もしかして任せろって言ってる? ……そういえばサンドワームの時も、エルドワが魔石を剥ぎ取って倒したんだっけ。胃袋が取れれば、大容量ポーチの材料にもなるんだよね。アシュレイ用のポーチにいいかも」


 同じランクAゲートのサンドワームの時も、この2人で倒しきった。今回も問題ないだろう。レオは再び目を閉じる。

 もちろん何かあればすぐに飛び出すが、おそらくその必要はない。

 ユウトたちの会話に耳だけ傾ける。


「じゃあ、先制攻撃は僕がやるね。おびき寄せるための1発目は炎魔法でいいかな。近くまで来たら氷魔法で動きを止めるから、後はよろしくね」

「アン!」


 以前はエルドワが戦闘に参加するとハラハラしていたユウトだが、最近は彼に対する信頼が厚い。変化した姿を見て、その強さを確認できたからだろうか。その上、レオよりがっしりしているという人化した姿を見たせいもあるのかもしれない。


 やがてアシュレイが馬車を止めると、ユウトとエルドワが道へと降りた。

 それにレオはぱちりと目を開ける。

 弟の気配が少し離れただけで、兄は安穏と休んでいる気分ではなくなってしまうのだ。どうせ素材の剥ぎ取りもユウトにさせる気はないし、討伐が終わったら馬車を降りよう。


「ここは固い土だけど、砂漠みたいに土に潜るかな? ミミズだもんね。だとすると、地中に上から攻撃は無理かあ。だったら無属性の魔力の塊を一緒に放って、地中で属性付けをして炸裂させるかな」


 周囲の状況も見ながら、ユウトは使う魔法を指輪にインプットしていく。エルドワが魔石を剥ぎ取ってしまえば残存体力は関係ないから、巨大ミミズをここまでおびき寄せて動きを止めることだけを考えている。効率的だ。


「……ん、よし。エルドワ、始めるよ」

「アン」




 直後、サンドワームとの戦闘経験があったおかげで、あっさりと決着はついた。

 それを馬車の上から見ていたレオは、勝利を喜ぶユウトとエルドワの元へ降りていく。


「あれ、レオ兄さん、もう終わったよ?」

「素材の回収、お前にやらせるわけにいかないだろう。汚れるからそっちに行ってろ」

「あ、そっか。僕の剥ぎ取りだと価値が下がっちゃうんだね」


 初めの頃は剥ぎ取りをやりたがったユウトだが、一度やらせてだいぶ素材の価値を下げてからは無理を言わなくなった。

 ただレオが素材を取る間、好奇心が涌いたのか眼鏡を取り出して掛けている。


「あ、ミミズはあれだ、駄菓子屋で見たことある! あのヒモみたいに長いグミ……!」

「……ヒモのグミ……?」

「この色はグレープ味……? あれ、何か香りもグレープ。うわあ、めっちゃ美味しそう……!」

「ユウト、それ危険だ。取れ」


 ロバートがこの眼鏡を掛けた奴が間違って魔物に齧り付くと言っていたけれど、あながち冗談でもなさそうだ。ユウトがミミズに齧り付く姿なんて見たくない。勘弁してくれ。

 レオはさっさと素材を回収し、ざっと辺りを見回した。


「……すぐそこにゲートがあるようだな。ここはテムから馬車で30分くらいか。だいぶ近い」

「昆虫って、塀とか壁とか乗り越えてくるから厄介だよね。村が無事だと良いけど」

「虫なんて大体森の中に行くだろうが、テムは森にも隣接しているからな……。まあ、とりあえず行ってみよう」


 レオたちは馬車に乗り込むと、再びテムに向かって走り始めた。


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