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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、弟とハンバーグを作る

「この後は、ライネル兄様のところに行くの?」

「……いや、報告は狐が上げているし、兄貴も忙しい人間だ。わざわざ時間を取らせることもないだろう。借りてる転移魔石も後で返せば良いしな。パームとロジーの両工房のことも狐に任せて、俺たちは精霊の祠開放に向かおう」


 ジラックの件はしばらくイムカの回復待ちだ。その間にキイとクウに貴族別荘区と墓地を調査してもらえばいい。ネイと情報を共有すれば、ライネルと示し合わせてオネエと真面目辺りを送り込んでくれるだろう。


 ウィルに近付くジアレイスも心配ではあったが、マルセンのおかげであまり王都内には寄りつかないようだし、ルアンが監視もしてくれている。このまま任せていて問題ない。


 だとすれば、我々は自分たちにしかできない仕事をするまでだ。


「テムに行くならまたザインに戻る感じだね」

「そうだな。……ただ、転移魔石は使い切ってしまっている。飛んでいくことはできんな。……そうだ、たまには馬車を手配するか」

「テムに持って行く用?」

「いや、テム用のはザインで探そう。王都の馬車は高いし、街道や街中を往来する人が乗る型が多い。村からの悪路を荷運びするのに向いた馬車はあまりないんだ」

「そっか。じゃあ、ザインまでは乗り合い馬車で行くの?」

「俺ひとりなら有りだが、お前を乗せるのにそんなもん使わん。貸し切りの街道馬車を手配する」


 街道馬車とは、街と街を行き来する人々を運ぶ専用馬車だ。

 豪商が乗る物から老人の足代わりまで種類はピンキリだが、貸し切りなので気兼ねがないのがいい。

 最近ばたばたとしていたし、たまにはゆっくり馬車移動もいいだろう。そのための出費は惜しまない。


「宿駅での宿がセットになった馬車なんかもある。宿の手配が要らない分楽だし、良い馬車なら上宿と提携しているから、それでいいかもな」

「へえ、セットプランとかもあるんだ」

「とりあえず今日はもう遅いから自宅に戻って、明日出立の準備をした後で馬車を見に行こう」

「うん! 街道馬車楽しみだな。ねえ、エルドワ」

「アン!」


 馬車旅にはユウトも乗り気のようだ。エルドワを抱いたまま軽くステップを踏むように楽しそうに前を行く。

 そんなに喜ぶようなら、今後急ぎの移動でない時は、魔石を使わずに馬車を多用しても良いかもしれない。


 弟の可愛らしい反応に、兄は考える。


 そうだ、それならいっそ専用の馬車を持とうか。

 合理性を考えるレオからしたらその移動時間がもったいないところだけれど、それがユウトとほのぼのと行く道中なら話は別だ。少し考慮しよう。

 弟のためなら、金に糸目は付けない兄である。


「明日は出発早い? 今日のうちにお水とか買っておこうかな」

「馬車ならどうせ宿駅まで半日も掛からない。王都を出るのは昼過ぎで十分だから、午前中に買い物をする時間はあるぞ」

「じゃあゆっくりできるね」


 2人は寄り道をせずに真っ直ぐ自宅に向かうことにした。

 家には劣化防止ケースがあるから、そこに食材は入っている。特に何かを買って帰る必要も無いだろう。


「レオ兄さん、今日はハンバーグ食べたい」

「ああ、その材料ならあったはずだ。ユウトも手伝えよ」

「もちろん。ふふ、エルドワにも美味しいハンバーグ食べさせてあげるからね」

「アン!」


 エルドワがめっちゃ尻尾振ってる。

 見た目が犬とはいえ半魔のエルドワは、食べられないNG食材がないのがありがたい。わざわざ可不可を考えながら他のご飯を用意する手間が要らないからだ。

 逆にドッグフードのような味がない食事の方を嫌がるから、外で飯を食わせると変な目で見られるのが面倒ではあるが。


 レオたちは魔法学校からの少し長い道のりを歩き、日が暮れた頃に自宅に着いた。

 荷物を自室に置き、上着を脱いで手を洗いうがいをすると、さっそくキッチンで使用する食材を取り出す。ユウトもローブを脱いで、フリル付きエプロンを着けながら部屋を出てきた。

 相変わらず激しく似合っている。


 腰のところで結ばれた下手くそな蝶結びを綺麗に直してやると、2人でキッチンに立った。


「肉のミンチとタマネギのみじん切りは任せて良いか?」

「ん、大丈夫」


 ここには、魔工爺様に作ってもらった、風の魔法で動くフードプロセッサーがある。みじん切りなんてお手のものだ。

 他にも炎の魔法で動くオーブンや釜など、ユウトの魔力でだいぶ楽を出来るアイテムを設置していた。


 おかげで弟がキッチンに立つ機会がだいぶ多くなり、比例して可愛らしいエプロン姿を見れる機会も多くなるのは美味しい付加要素だ。これは自宅での楽しみのひとつ。エプロンの属性『愛情調味料+』も欠かせない。

 肉だねだって、ユウトが少し捏ねれば旨味が加わった。


 付け合わせにサラダとにんじんのグラッセ。そして白パン、ジャガイモのポタージュにヨーグルト。有り物ばかりだけれど十分だ。

 それぞれプレートに乗せて、エルドワの分も準備して、テーブルへと運ぶ。


 最後にお茶をコップに注いで、2人はテーブルについた。


「いただきます」

「アン!」


 ユウトが両手を合わせ、その足下でエルドワも前足を上げ、似たようなポーズをしてひと鳴きする。

 そして美味しそうに食べ始めるのを確認して、レオもナイフとフォークを手に取った。


「レオ兄さんのハンバーグ、やっぱり美味しい!」

「これはお前の愛情調味料のおかげだろ」

「僕のには、レオ兄さんの愛情調味料も入ってると思うんだよね」


 幸せそうにハンバーグを頬張りながら、ほわほわと微笑む弟に思わず兄も頬が緩む。

 きっとどんなに美味しいシェフの味付けでも、この笑顔以上の調味料はないだろう。ユウトを前に一口食べたハンバーグは、やはり何よりも絶品だ。


 2人と1匹は空腹も相俟って、その夕飯をあっという間にぺろりと平らげた。

 一息吐いて、お茶を飲みながらレオは満ち足りた空間を堪能する。

 穏やかなひとときだ。


「今度またお肉と野菜を補充しておかなくちゃね」

「そうだな。だいぶ減ってきたし。……ちょうどいい、テムで新鮮な肉と野菜を調達しよう。あそこは農業と畜産がメインだからな」

「そうなんだ? 僕たちが行った時は、あんまりそういうの無かった気がするけど」

「今は竜穴が閉じていて、マナが枯渇しているからだ」

「あ、そっか」


 その割にあまり寂れた感じがしないのは、村のリーダーがしっかりしているからだろう。ラダのガイナもそうだが、上に立つ者がきちんと村を統括して運営できれば、それなりの生活は出来る。


「以前村の近くにランクAのゲートができてしまったのも、マナが減って精霊が少なくなったせいだったのかもしれない。祠の開放が出来ればテムはまた精霊に護られるし、大きく栄えるだろう」

「だったら、だいぶいい恩返しになるね」

「正直、返しすぎだと思うがな」


 そもそも、レオがランクAゲートを潰した時点で、貸し借りはゼロだったのだ。まあ、それでもユウトが返したいと言うのだから別にいいのだけれど。


「……さて、今度の精霊の祠はどんなものだろうな。ユウト、ディアに何か聞いたか?」

「あ、うん。そうだ、テムの精霊の祠はレオ兄さんの手助けが必要になるって言ってたんだった」

「……俺の?」


 思わぬ指名にレオは目を丸くした。精霊の祠関連は、すべてユウト主体で行くものだとばかり思っていたのだ。まさかの抜擢。


「次のテムの祠には『ストレングス』が封じられてるらしいんだけど、僕だと難しいんだって。開放の時はこのペンダントをレオ兄さんに貸すね。精霊さんが直接指示を出すって言ってた」

「……精霊って、あの人型のか?」

「そうだよ」


 思わず眉を顰める。正直、あんまり良い印象のない精霊だ。おそらくあちらもレオを同じように思っているだろう。

 一言で言うなら、気にくわない。お互いにだ。

 ……まあ、だからといって協力しないなどという子供じみたことは言わないが。


「……仕方がないな。面倒なことは早く終わらせるに限る」

「これを機に、レオ兄さんと精霊さんが仲良くなってくれると嬉しいんだけどな」


 弟が無茶なことを言っている。

 間にユウトを挟んでいるからこその軋轢だというのに。

 直接やりとりをしたら、どれだけ殺伐とした空気になるだろう。想像するだにうんざりする。


 兄は眉間にしわを寄せて、お茶を一気に飲み干した。


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