兄弟、特上魔石の持ち主を知る
「次はテムに行きたい?」
「うん。近くに精霊の祠があるんだって。村長さんと若旦那には以前のお礼もしたいし……駄目かな?」
ディアと一緒に戻ってきたユウトは、レオの隣に座ると次の行き先を提案してきた。
上目遣いで可愛らしく小首を傾げてお伺いを立てる弟に、首を振れる兄ではない。レオは即座に了承する。
「構わん」
「良かった! じゃあ後で馬車とか探しに行こうね! お土産もいっぱい買おう!」
途端にぱあと破顔するユウトに、ディアもマルセンもほっこりしていた。弟の和み効果が素晴らしい。その膝の上にエルドワが移動して、同調するように尻尾をぴるぴるすると、効果はさらに倍増だ。
「子どもたちが無邪気だと癒されるねえ」
「完全同意ですわ」
子どもと言っても、もうユウトは18歳なのだが。しかしまあ、見た目が幼いから、違和感はないのが正直なところだ。
実際、ユウトは15歳くらいから、ほとんど身体的な成長をしていない。おそらく『魔物寄り』になっているからなのだが、その原因や戻し方はよくわからないのだ。
同じようにこのエルドワも通常体はどうやら成長が止まっている様子。やはり『魔物寄り』なのだろう。……これ自体、誰が何を根拠にして作った基準か分からないのだけれど。
さてこの現状は、良いのか悪いのか。
何にせよレオとしては、彼らが健やかであれば今はそれでいいと考える。
そうして少し低いところにある隣のつむじを眺めていると、不意にユウトが何かを思い出してポーチを漁った。
「あ、そうだ。そういえば、これ忘れてました。マルさん知ってます? ゲートで戦ったナイトメアが体内に持ってた魔石なんですけど」
ことりとテーブルの上に置かれた石。それを見て、マルセンが顎を擦った。
「これは……ああ、定期再生魔法の魔石か! 昔攻略の時に、一緒に行った女戦士のだ。確か、ディア先生と20年前に78階まで潜った、ランクSSの人だよ。俺はその後の再挑戦に同行したんだ」
「13年前にあのゲートにアタックした魔導師マルセンって、やっぱりマルさん本人だったんですね」
「あら、マルセンくん、私のこと助けにゲートに入ってくれてたの?」
「ディア先生には色々世話になってたしな。出来れば助けたいと思ってたし、誘いが来たから同行した。……つっても、結局50階でリタイアしちまったが」
ディアが無事に帰ってきたから笑って話せるのだ、とマルセンは肩を竦めて苦笑した。
「そうでしたのね、ありがとう。……でも私と20年前にゲートにアタックした女戦士って……? あっ、もしかして隊長さんのことかしら。あの時のパーティで戦士って言ったらあの方だけだったはずですわ。……ということは、女体化の罠に掛かったの、隊長さんだったのねえ……ちょっと見たかったですわ」
「そうそう、隊長だった。何か、『1万歩に1回転ぶ罠』だかに掛かってて、ナイトメアと戦ってる時に転けてさ。アイテム散らばらせちゃって、その魔石飲まれちゃったんだよ。おかげでごり押し効かなくなって詰んだ。睡眠無効アイテムも落として、操られて同士討ち始めるし、さんざんだったわ。まあ、死人は出なかったけど」
その隊長は精神を壊されたのではなく、眠った状態を操られただけだったようだ。強制的に脱出したことで死者が出なかったらしい。
ギルドに上がっていた報告書の件から見ても、アホ化に掛かったのもその隊長のようだし、ナイトメアが壊す価値を感じないお花畑の脳内だったのかもしれない。
「あの人ったら、そんな罠にも……。そういえばとても運の悪い方でしたわ。もしかして『夜中に必ず5回トイレに起きる罠』も隊長さんかしら」
「あ、あの人野営の時、夜中すげえトイレに起きてた!」
「まあ、期待を裏切らない方ですわ」
「その人、可哀想ですね……」
クソどうでもいい。
つうか、そんな理由で自分たちはあんな苦戦を強いられたのか。
レオは隣で律儀に気の毒がっているユウトの頭を撫でると、ため息交じりに2人に告げた。
「あんたらの知り合いなら、この魔石は持ち主に返しておいてくれ」
「もう冒険者引退しちまって、どこにいるか分かんねえよ。いいんじゃねえの、お前らが預かってても。見付けたら返せば良いだろ」
「そうね、あちこち歩き回るあなたたちの方が、隊長さんに会う可能性は高いですし。見付けたらよろしく伝えておいて下さいな」
「引退した方なんですか……。隊長さんってお名前は?」
「名前? えーと、何だっけ。クリスなんちゃら……」
「クリスほにゃららですわね……。すごく長い名前で……まあ、クリスさんで分かると思いますわ」
「クリスなんとかさん……? とりあえず探してみます」
一時期とはいえ同じパーティにいた隊長だというのに、ずいぶんアバウトだ。まあ、こちらも適当に気に掛けておけばいいだろう。積極的に探してやる義理はない。
ユウトのいる世界を護るには、そんな暇はないのだから。
さて、ここでの話はもう終わりだ。
雑談の混じり始めた会話に見切りを付けて、レオはさっさと立ち上がった。
「帰るぞ、ユウト」
「あ、うん。ディアさん、マルさん、お邪魔しました」
「おう、もう行くのか。テムまで気を付けてな」
「またいつでもいらっしゃいね」
「はい、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、ユウトはすぐにレオの後を付いてくる。
それを確認して、兄は控え室を出た。




