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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、ハートが消えるのを嫌がる

 レオたちはもえすで作ってもらったユウトのブローチを受け取った後、その足で王都に移動していた。


 ライネルに報告があるし、ディアやマルセンにも会わなくてはならないからだ。特に竜穴の開放に関する話はディアに相談するべきだろう。

 ジラックで活動中のネイの報告を待つにも、王都の方が都合が良かった。


「いらっしゃい、可愛い弟たちよ。エルドワも。久しぶりに会えて嬉しいよ」

「こんにちは、ライネル兄様」

「アン!」

「ユウトとエルドワは相変わらず礼儀正しいね、良い子だ」

「勝手にユウトに触るな、兄貴」

「お前が触らせてくれないから、ユウトを2倍触るんだよ」


 王家の秘密の抜け道を使って王宮に入ると、出迎えたライネルはエルドワごとユウトを腕に抱き込んで可愛がる。少しイラッとするが、あの愛情表現を自分に向けられたら面倒なので、仕方なく我慢した。


 この長兄は聡い男だ。レオが本当に気分を害するようなことはしない。次兄がこの弟をどれだけ大事にしているか知っているからだ。

 ユウトもライネルに可愛がられることは純粋に喜んでいるし、レオがやめろと言ったところでやめないのだから腹を立てるだけ無駄だろう。


「……先日、狐がラダからの報告書を持ってきたと思うんだが」

「ああ、うん。目を通したよ。アレオンは確認していないのかい? 見るかな?」

「……とりあえず、くれ」

「ネイさんに、僕が見てきた異世界の話も兄様に直接した方が良いって言われたんですけど」

「そうだね、その話も聞きたいな。……ルウドルト、お茶の用意を。茶菓子も付けてね」

「かしこまりました」


 ライネルがルウドルトに言いつけて、レオたちをソファに促す。

 いつものように長兄の向かいに弟2人が座る形だ。ただ、いつの間にかエルドワがライネルの膝の上に持って行かれていたが、人懐こいもふもふ子犬は特に嫌がることなくそこに落ち着いた。


「これが報告書だよ。……何か大変なことがあったようだね。当日は王都まで揺れたよ」

「……だろうな」


 世界滅亡の象徴が登場したのだ。おそらく世界全体に波動が行き渡ったに違いない。

 その時この世界にいなかったユウトは何のことかと首を傾げたが。


「では、アレオンが報告書を読んでいる間に、ユウトの話を聞こうかな。転移させられた先の世界の話をしてくれるかい?」

「はい」


 ライネルに請われ、弟は姿勢を正して説明を始めた。

 レオも報告書を捲りながら、その内容に耳を傾ける。まあ、当日の夜に聞いた内容とほぼ同じだ。

 ただ、同じ話を聞いていても、ライネルの反応は少し違った。


「またも上位悪魔と魔研の接点か……。やはりあの禁書に閉じ込められている魔族に何か関わりが……」

「……何だ?」


 その反応に訝しんで報告書から顔を上げる。

 するとライネルはエルドワを手慰みに撫でながら、しばし眉を顰めて考え事をした。


「……以前闘技場の地下で、チャラ男が手に入れてきた禁書を覚えているか」

「ああ。何かすごい魔族が閉じ込められているらしい魔書だろう。兄貴の方で調べてくれてるやつだな」

「未だ解読ランクが高すぎてどんな魔物が封印されているのか分からないんだが、逆に考えるとおそらく魔界の支配階級の魔族ではないかと推察できるんだ」

「兄様、支配階級の魔族って?」

「魔界には明確なヒエラルキーがあってな。頂点の魔王、その下に公爵デュークたる四天王、侯爵マーキスたる十二体の悪魔がいる。もちろんその下にも数多の爵位はあるが、支配階級と言われる絶対的権限を持つのはこれらの魔族だ」

「魔界の中で、とっても偉い地位の魔族ってことですね」

「禁書に閉じ込められているのがその内のひとりだと?」

「おそらく。……そして、これを餌に魔研が魔族と協力関係を結んでいた可能性がある」


 もちろんこれはまだ根拠のない仮説だろう。

 しかし、納得はいく。ヴァンパイア・ロードや上位悪魔がそう簡単に人間と交渉をするわけがないのだ。余程大きな見返りがない限り。


「ユウトの話の中で出たルガルという悪魔は、侯爵のひとりだ。その部下の悪魔が魔研と協力をしていたというのも含みを感じるな」

「……魔界の魔族の名前や地位って分かってるんですね」

「魔界は変革の少ない世界だ。同じ魔族が長い年月同じ地位にいることが多い。半魔や下位魔物からもたらされる情報でいくらかまとめ上げられている。……それに皮肉な話だが、5年前に魔研で押収された資料などから、かなり詳しい情報も手に入っているんだよ」

「確かに、皮肉な話だ」


 レオは肩を竦めた。

 でも本来魔研の企てがなく平穏に生きていたなら、必要のなかった情報でもあるのだ。これもまた、皮肉な話。


 そのタイミングでルウドルトがお茶を持ってきて、一度話が途切れる。

 レオは目を通した資料をテーブルの隅に放り投げて、ソファに寄り掛かった。


 ネイの報告書にはレオと戦った件は記載されていない。まあ、特に報告する必要もないだろう。レオの危うさをライネルに知らせるだけであり、兄に余計な警戒心を抱かせる。そうなるとレオの暴走を恐れ、おそらくユウトへの監視が厳しくなるのだ。弟の自由を妨げる、それは避けたい。


 ちなみに、魔尖塔の件はありのままに書いてあった。つまりは正体不明ということだ。

 分かっているのはユウトがいなくなった世界に現れたということ、そして、ユウトが戻った途端に消え、後日見に行ったら芥のひとつも残さず無くなっていたということ。エルドワも確認して反応がなかったのだから、本当に消え去ったのだ。


 ……熟々、この世界におけるユウトの重要性にうんざりする。

 ただほのぼのと2人で平和な毎日を過ごし、普通の人生を歩ませてやりたいのに。


 レオは不機嫌な顔のまま、ルウドルトが用意してくれた紅茶に手を伸ばした。

 そんな兄に気付いた弟が、どうしたのかと小首を傾げて、しわの寄ったレオの眉間を撫でる。その指先の優しさに絆されて、つい眉間のこわばりを解いた兄は、手近にあった小ぶりな焼き菓子をつまんで弟の小さな口に放り込んだ。


 その甘さにユウトが微笑む。レオが欲しいのはこれだけの世界だ。


 しかし、周りはそれで放っておいてはくれなかった。

 給仕を終えたルウドルトが、ライネルに書類を渡したのだ。


「陛下、ジラックにいる狐からの緊急書簡です」

「カズサから? 地下牢に飛んできた魔工翁の子どもの件か?」

「いえ。イムカ殿救出の件です」

「……ふむ。この件はアレオンの方に報告が行くと思っていたが、私に何か……」


 書類に目を通すライネルに、ユウトが目を丸くする。


「ここの地下牢に、タイチさんのお父さんとミワさんのお母さんが飛んで来たんですか?」

「ん? ああ、カズサ……いや、ネイか。彼がジラックで救出した2人を何ちゃら金庫(仮)で飛ばすから保護をしてくれと言うことでな。昨晩地下牢に入っていたんだ」

「そっか、お二人は助かったんですね! 良かった……!」


 そちらは問題なく終わるだろうと思っていたから、レオは特に気にしていなかった。

 問題はイムカの方だったわけだが。ライネルに連絡が行った時点で、嫌な予感しかしない。

 書類を確認し終えた長兄は、それを次兄に渡しながらその内容を告げた。


「アレオン、狐からお前に伝えて欲しいと」

「……何だ」

「ユウトを借りたいからジラックに送ってって」

「断る」


 即、ぶった切る。

 それにライネルが苦笑した。


「だよねえ。私が説得したところでアレオンが頷くわけないのに」

「待って下さい。ネイさん、ジラックに人助けで行ってるんですよね? 必要だったら僕、すぐに行きますけど」

「……狐の思惑は、こうして陛下から言わせることでユウト様の耳にも入れるのが目的だったと思われます」

「あ、なるほど、賢い。アレオンに直接申し入れても、そのまま書類破かれて終わりだからね」

「……小賢しい」


 すでに耳に入れてしまったユウトは、行く気満々だ。


「別にレオ兄さんはライネル兄様とゆっくりしてて良いよ。僕だけジラックに行ってくるから転移魔石貸して」

「ふざけたことを言うんじゃない。危ない目にあったらどうするんだ」

「平気だよ、ネイさんいるし。通信機があるんだから、離れてても話は出来るでしょ?」

「嫌だ。ハートマークが消える。何より、考えても見ろ。お前だけを呼ぶということは、俺が行くと不都合なことをやらせるつもりだぞ、あのクソ狐」

「ネイさんは僕に嫌なことさせたりしないもん」


 こういう時のユウトは強情だ。こうなると、レオが折れる以外に手はない。これ以上駄々を捏ねると、『兄さん嫌い』攻撃が来る。あれは駄目だ。死にたくなる。


「……分かった。ならば俺も行く。それならいいだろう」

「カズサはアレオンに来て欲しくなさそうだぞ」

「知るか!」

「うん、じゃあ一緒に行こう。ネイさんはレオ兄さんのこと大好きだし、嫌がらないでしょ」

「……時と場合によると思うけどねえ」


 悪意のないユウトの笑顔に、ライネルが苦笑する。

 結局こうなることを、ネイも知っている気はするけれど。


「狐たちはイムカ殿を救出し、現在はキイとクウの家に潜伏しているようです。殿下、何かご準備するものは?」

「おそらくラダ経由で戻る羽目になる。転移魔石がひとつ足りなくなるから、用意してくれ」

「かしこまりました」

「アン」

「エルドワも、一緒に行くよね」


 ジラックに行くことが決まると、ライネルの膝の上にいたエルドワがユウトの足元にやってくる。

 やはり他人にも懐こいとはいえ、姫の側から離れるつもりはないようだ。ユウトはそのころころもふもふを抱き上げた。


「殿下、転移魔石です。お気を付けて」

「ああ」

「アレオン、あまりカズサを虐めるんじゃないぞ」

「……してねえ」


 最近殺しかけたばかりだが。

 でも基本は喜ばれるのが嫌だから我慢している。


「ユウトも、気を付けてね」

「はい、ライネル兄様」

「行くぞ、ユウト」


 レオはライネルに頭を撫でられてほわほわ笑っているユウトを問答無用で抱き上げた。

 自分の宝物を取り返すように。

 その次兄の独占欲に苦笑する長兄を無視して、レオは1つ目の転移魔石を使い、ジラックへと飛んだ。


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