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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、ラダの村に戻る

 残りの村までの道のりは平坦だ。

 特に問題がないからか、ユウトの羽は山を降りた時点で天使像に戻った。

 村の周りに出るのは村ネズミや昆虫系のランクD程度の魔物で、エルドワとユウトが難なく退治していく。レオたちはその後ろをいつもよりだいぶ緩い歩調で付いていった。


 その間に2度ほど定期再生魔法リジェネレイトが発動したネイは、だいぶ顔色が良くなってきたようだ。あとは飯を食って一晩休めば問題ないだろう。


 そうして歩き、かがり火が灯る頃。レオたちがようやく村に到着すると、ガイナとミワが出迎えに来た。


「おお、みんな無事だったか。ミワが大変なことが起こったみたいなこと言うから、心配してたんだ」

「弟、見つかったんか、良かったな! あのままだったらかなりヤバそうだったが……」

「ご心配お掛けしたみたいですみません。……ところで、僕たちの前にジラックの方が3人来たと思うんですけど、どうしてます?」


 ジラックの人間が3人? レオとネイはユウトに何があったかをまだ聞いていないから、怪訝な顔をする。


「ああ、彼らならとりあえず飯を食って、今は安心して爆睡してる」

「そうですか、ありがとうございます。じゃあ彼らの話は目が覚めてからでいいかな。できたらここで匿って欲しいんですけど」

「何か、そんな話をしてたな。ま、本人不在で話すことでもないし、明日でいいだろう」


 2人がユウトとガイナの話に耳を傾けていると、不意にこちらを見たミワが驚きの声を上げた。


「あー! ちょ、兄! 装備が一部破壊されてんじゃねえか! 理想の完璧なフォルムが……! 今すぐ脱げ! 速攻で直す!」

「……ここで脱げるか。これからそっちの工房に行く」

「あ、ミワさん、俺の装備も新調したいからお願い。もう使い物にならないからさあ」

「うわ、狐目の方はもう防御力0じゃねえか。兄らがこんな傷をこさえて来るなんて、何があったんだよ。……そういやちょっと前に地震が起こって、バラン鉱山の上に暗雲が立ちこめてたけど、何か敵でも出たんか?」

「ああ、うん、まあちょっとね」


 苦笑混じりに濁したネイの装備のダメージを、ミワは観察する。

 そして眉を顰めた。


「狐目のこれ、装備を貫通してんじゃねえか。結構いい素材使ってるのに、どんだけ強えの相手にして……ん? この刀痕……」


 装備に付けられた剣の傷痕を確認したミワが、一瞬黙り込んでから、ちらりとレオを見る。

 レオは意図的についっと視線を逸らした。

 そのミワの視線がネイに行くと、彼は口元に苦笑を浮かべたまま人差し指を当てて、しぃ、と小さく続く言葉を禁じる。ユウトのいるところでその話をするなということだ。


 それを察したミワは、ひどく呆れたようなため息を漏らして、「ドMだな」とこそりとネイに言った。


「とりあえず、これでバラン鉱山は再生し始めると思います」


 こちらのやりとりに気付かぬユウトは、ガイナに精霊の祠が開いたこと、山に精霊が戻ったことを報告している。


「そうか、ありがとう。お前たちの目的のものは採れたのか?」

「まだですけど、どうせ朝しか採れないみたいなので、明日の早朝に行ってみようと考えてます」

「うまく採れるといいな」

「はい」


 ユウトはにこにこと笑って、ミワを振り返った。


「ミワさん、明日の朝、世界樹の葉の朝露を採ってきますね」

「お、マジで!? 大丈夫なのか?」

「祠に居た精霊さんが、『大丈(ブイ)!』って言ってます」

「え、死語だよね? ユウトくんといる精霊さんっておっさんなの?」

「……知らん」


 多分、ユウトは意味が分からず伝えているだけだ。

 ……まあ、精霊なんて長い年月生きているわけだし、しばらく閉じ込められていたならジェネレーションギャップもあるだろう。気にするだけ無駄だ。


「世界樹の葉の朝露が手に入るなら、兄の装備補修と狐目の装備新調加工費をタダにしてやるよ! 材料は用意してもらうがな! 親父たちも賛成するはずだ。ガイナのとこに行く前に、手続きだけして行くといいぜ」

「あー、それは助かるねえ。俺、この装備以外はジャージしか持ち歩いてないし、できるだけ早く欲しいんだよね」

「実は狐目の装備は、試しに属性や術式を組んでみてあるんだよ。デザインだけさっぱり浮かばないんだが、その辺のモブ並に普通の見た目装備ならすぐできる」

「モブ並……微妙……」


 やはり、ミワはネイを強くすることに興味はあるが、見た目には全く興味がないらしい。ネイはちょっと複雑な表情だ。


「カボチャパンツの王子様衣装とか作られるよりずっといいだろうが。とっとと行くぞ」

「はーい……」


 レオの方こそ本当は目立たないモブ装備の方が良かった。

 自分の装備を作った時の理不尽な受注っぷりを思い出して、ため息を吐く。今となってはこの目立つ装備にもだいぶ慣れたけれど。


「僕は行っても邪魔かな。エルドワと先にガイナさんのところに行ってた方がいい?」

「いや、弟も来い。兄とセットで来るとタイチ母が喜ぶし、弟にも礼として何か作ってやろう」

「え、いいんですか?」

「作ってもらえ、ユウト。相応の危険は冒して祠の開放をしたんだ。今後も取引をするなら、正当な対価はもらっておくべきだ」

「ん、それじゃお言葉に甘えて」


 結局は全員でミワに付いていくことになった。

 まあ、とりあえず手続きのみだから、それほど時間も掛からないだろう。

 鍛冶・道具屋の扉を潜ると、ミワの父がカウンターで出迎えた。


「おお、皆さんお揃いで。世界樹の葉の朝露の首尾はどうだ?」

「明日の朝、採りに行ってくれるってよ。その礼に装備の新調や修繕なんかをしてやることにした。構わねえよな?」

「そうか! 恩に報いるのは当然だ、もちろん構わねえよ。じゃあそこに座って、1人ずつオーダーを聞こうじゃねえか。おい、義姉さん、お茶出してくれ!」


 ミワ父がタイチ母に声を掛ける。するとカウンターの奥から女性が身体を弾ませながら走ってきた。


「はいはい、お客さん? 何人分必要かしら……あら、尊い兄弟ご一行様ね!」


 何か知らないうちによく分からないパーティ名が付けられている。

 そこに突っ込みを入れる前に、こちらを確認した彼女は再びカウンターの奥にお茶を汲みに行ってしまった。……まあいいか。


「さて、最初は誰からだい?」

「……狐、貴様が先に行け。一番最初に必要なのは貴様の装備だからな」

「俺でいいんですか? じゃあ失礼して」


 まずはネイがカウンターに行き、レオはユウトとエルドワを伴って待合用の長椅子に並んで座った。


 ネイの装備はすでにミワが素案を持っているから、デザイン以外は問題なく決まるだろう。時間が掛かりそうなのは、何を作るか決まっていないユウトのものかもしれない。


「ユウト、何を作ってもらうか決めた?」

「ん、まだ何も考えてないけど……。でも僕のより、兄さんの防御もっと上げて欲しいな」


 言いつつ、鋭利な刃物で斬られた痕のある肩を撫でられた。

 俺の弟は何とも可愛いことを言う。お返しにその頭を撫でる。


「もう傷は痛くない?」

「全然だ。お前が回復ヒールを掛けてくれたからな」

「……レオ兄さんとネイさんがあんなひどい傷を負うことがあるなんて思わなかった。僕もいたら、少しは役に立てたかもしれないのに……ごめんね」


 眉尻をへにゃりと下げるユウトに、この傷の理由を知られたら何と言われるだろう。ちょっと申し訳ない気分になる。

 レオは自身の動揺を誤魔化すように、ことさら優しく弟の頬を撫でた。


「……お前がいなくなったから、若干冷静さを欠いてしまっただけだ。ユウトが居てくれれば、もうこんなことにはならない」


 実際は若干どころの話ではないが、そんなことは口が裂けても言えない。


「僕もレオ兄さんの側を離れたいわけじゃないけど、今回みたいな突然の転移罠は回避が難しいよね……。せめて離れてても連絡が取れる手段があればなあ」

「スマホとか携帯みたいにか」

「トランシーバー的なものでもいいかな。レオ兄さんと連絡が取れれば、僕はそれで安心だし」


 確かに、そんなものがあればいくらか安心出来るかもしれない。

 動力を電気でなく魔力として、術式を組めば作れないだろうか。

 タイチや魔工爺様あたりならどうにかできそうだが……。


 そう思いながらユウトの頬をなだめるように撫でていると、レオは不意に視線を感じてカウンターの方を見た。

 ……タイチ母が、半分隠れつつこちらをキラキラした目でガン見している。……うん、何というか、タイチの母だ。


 レオと目が合うと、彼女はどこかそわそわウキウキした様子を隠すことなくお茶のトレイを持ってやって来た。


 ……そう言えば、この女性も一時はパーム工房の後継を任された職人だった。ちょっと交渉してみようか。


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