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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、王冠スライムと相対する

 スライム系は、ゲル状の身体の内部に透けて見える核を破壊すれば倒せる。条件自体はとてもシンプルだ。

 問題は、攻撃がその核に到るまでの消化液の成分。


 下位モンスターである緑のスライムは弱めの酸で、普通の武器でも容易く通る。

 しかしこのメルトスライムは、魔法金属武器の攻撃ですら核に届く前に溶かしきるのだ。人体に影響がなくても、倒そうと思うと厄介なことこの上ない。


 そんな粘液にもえすの武器がどうして耐えられるのか、詳しくは知らないが、レオは気にせず柄に手を掛けて、抜刀がてらその核のひとつを切り捨てた。

 真っ二つになった核がぱかりと開いて中を晒し、制御を失った粘液が地表に零れて広がっていく。核の中には精製された魔法鉱石が見えた。


「さすがレオさん、相変わらずすげえ綺麗な切り口」

「あの鉱石がドロップ品ですね。白銀……ミスリルかな?」

「おおおおおお、無駄のない剣捌きに翻る裾……! スタイリッシュなシルエットも相俟って、とてつもなく絵になる生兄! 今日はあたしの人生の神回だぜ! はあ~ありがたや~……!」


 ミワが地面にひれ伏して拝んでいるが気にしない。気にしたら負けだ。


 レオがスライムを1体倒すと、途端にその隣にいたスライムが伸び上がり、核をブルブルと震わした。8体で合体すると王冠スライムになるというから、おそらく仲間を呼んでいるのだろう。

 返す刃でその核も切り捨てる。

 すると今度は残った2体が仲間を呼んだ。


「……やはり、王冠スライムに合体するまで際限なく仲間を呼ぶのか」

「『メルトスライムを従える王冠スライム』を倒すことが鉱山再生のプロセスの一部なんでしょうから、合体する前の状態で倒しきるってのはどっちにしろ意味ないんじゃないっすか?」

「あ、岩陰からメルトスライムが出てきた」


 ユウトの視線の先に、メルトスライムが現れる。合わせて5体になったところでレオがもう1体倒すと、今度は残った4体がそれぞれ仲間を呼んだ。


「これで8体になるな」


 そこでレオは一旦下がり、様子を見る。

 すると周囲のあちこちから4体やって来て、計8体のスライムが場の中央に集まりだした。


 真ん中の1体のスライムが軸となり、他のスライムがそれに重なっていく。


「来た! スライムたちが、どんどん合体していく!」


 わくわくした様子のユウトが、どっかのゲームの文言みたいなことを言う。

 積み上がったスライムが接点の境をなくして融合し、それは弟の目の前で完全体となった。


「なんと、王冠スライムが現れた! ……って」


 そこまで言って、王冠スライムを見たユウトが微妙な表情で固まる。どうやらその姿に困惑しているようだ。


「お、思ってたのと違う……。なんだろう、このコレジャナイ感……」


 テンションがダダ下がりのユウトの目の前には、スライムで出来た大きなぶよぶよの人型が、王冠を被った状態で立っていた。

 もちろん身体は透けていて、頭・身体・両手・両もも・両すねと8つの核がそれぞれに点在するのが見える。

 動くとぶよぶよの身体は水の入ったゴム風船のように弾んだ。


「……何か、身体が重くてトロそうな感じだけど。ミワさん、こいつ強いの?」

「攻撃自体はそれほど強かねえが、倒せねえんだよ」

「……どれ」


 倒せないというのはどういうことか、レオは自分で確かめに行く。

 離れていた距離を詰めて、まずは王冠スライムの右腕に見える核を一刀両断した。


 どうやら核はそれぞれの部位を司るようだ。核をなくした右腕は肩から先の形を保てず、液体となって地に零れてしまう。

 何ともあっけない。

 そう思っていると、すぐに近くの岩場からメルトスライムが現れて、あっさりと右肩に融合して再生してしまった。


「……なるほど。核を潰しても次から次へと代わりが来て再生するわけか」

「再生する前に倒したいんだが、次のスライムが現れんのがめっちゃ早えんだよ」

「レオさんの太刀捌きなら、一気に行けんじゃね?」

「いや、若干でも時差があると駄目っぽい」

「身体の中央の核を破壊しちゃえば、手足や頭は分離しちゃうんじゃないんですか?」

「あの核は壊しても他の部位からすぐにスライドしてきて、なくならねえ。とにかく面倒臭えヤツなんだよ」


 確かに面倒そうだ。

 そう言えば、レオが王冠スライムを面倒だと敬遠したのは、単身だと討伐が厳しいからだった気がする。剣1本で戦うには不向きな相手なのだ。


 さて、ならばどうしようか。

 剣を構えたまま考えていると、不意に王冠スライムがこちらに向かって両手を水平に差し出した。


「おっと、攻撃来るぞ!」


 ミワの声に全員が構える。

 それと同時に王冠スライムの十指が根元から切り離され、小さなミサイルのようにこちらに飛んできた。

 レオは見定めてひらりとそれを避け、ネイはユウトを庇いつつ取り出した出席簿もどきで払いのけ、エルドワはミワの後ろに回って回避し、そしてミワは仁王立ちのまま粘液を身体で受け止めた。


「ちょ、ミワさん! 装備が溶けないのは分かるけど、来るの分かってんなら避けなさいよ!」

「どうせ避けても当たるし。それより兄のスマートな避け方を目に焼き付けた方があたしの人生が豊かになると判断した」

「すごい、徹底してる……」

「……ユウト、そこは感心するところじゃない」


 これはレオたちにとっては大した攻撃ではないが、ガイナたちが食らうと装備が溶かされて大変そうだ。主に経済的な面で。

 戦闘中に放っておけて、全く物怖じしないこのミワを案内者に選んだことは、まあ正解だったかもしれない。レオの精神的には大変よろしくないが。


「さてと……。さっきの話を勘案すると、王冠スライムは僅かでも核を壊す時差が生じると、仲間を呼んで再生してしまうわけだな。つまりこいつを討伐するには、仲間を呼ぶ暇を与えず、全部の核を同時に潰す必要がある」

「それが難しいんだよ。あたしらも来るたび試して失敗してる。溶けないハンマーを8つ用意して8人で飛び掛かっても、それだけの人数だとどうしても個人差が出てしまうしな。ダイナマイトを投げつけて一気にというのも厳しい」

「……でもさ、過去にも鉱山の再生って何度もされてるんだよね? つうことは、王冠スライムを倒した例はいくつかあるんでしょ? そん時はどうしてたんだろうね」

「ガイナに聞いたんだけど、昔は鉱山の中に溶岩溜まりがあって、そこに追い込んでたそうだ。精霊の祠が閉まった後に消えちゃったらしいけどな」


 ということは昔の事例も参考にならない。

 ここで新たな討伐法を模索するしかないということだ。


 ユウトの魔法で溶岩並の熱量を作ればどうにかなるかもしれないが、精霊が逃げてしまったこの山の上では、魔法がその威力に達するまでに精霊の力を借りられず、多大な魔力が必要になる。ガス欠を起こす可能性が高く、その後に精霊の祠を開放することも難しくなるだろう。できれば取りたくない悪手だ。


 レオは小さくため息を吐いた。

 攻撃力は大したことないが、倒せない。確かにその通りの魔物。

 討伐難度がランクAなのも頷ける。


「とりあえず、何でも試してみるしかないか……」


 コンマ何秒でも、許容される時差はないだろうか。そんなところから確認作業を始めようとして剣を構える。

 しかし、その直前にユウトが兄を止めた。


「待って、レオ兄さん。僕がどうにかできるかもしれない」


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