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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、ミワにパンツを心配される

 バラン鉱山はラダの村からほど近い、大きな岩山だ。

 勾配はなかなかに急で、あちこちに梯子が掛けてある。坑道も多くあるが、奥の方は土で埋められているようで通れなかった。


「坑道って、どうして埋められてるんですか?」

「放っておくと、魔物が巣喰うんだとさ。あとは、鉱石が再生成される時の下準備だとガイナが言ってた。村の奴らが結構マメに山のメンテしてるらしい」

「へえ、しっかりしてんね。じゃあ今回はメンテの最中にメルトスライムが現れて、ミワさんもその駆除手伝いに呼ばれた感じなの?」

「ああ。元々親父たちの朝露探しの手伝いにもよく来てたし、ちょうど仕事が一段落付いて時間があったからな。王冠スライムまでいるとは思わなかったが」


 言いつつ、案内役として先頭を歩いていたミワが振り返った。

 すぐ後ろにネイがいて、その後ろにユウトとエルドワがいる。


「……ところでさっきから兄が見当たらないんだが」

「レオさんならすごく華麗なステップでミワさんの死角に回ってるよ」

「瞬間移動かと思うような速さでした」

「マジか!? 近くにいんの? くそう、良い山風が吹いてるから、はためく上着が見たいのに!」


 ミワがそのままぐるりと一回転するが、その視界にレオは入らない。足音もしないし、本当にいるのか疑うレベルだ。


「くっ……まあいい。王冠スライムに遭遇すれば、あたしの死角に回ってもいられまい。その瞬間までこのボルテージを高めておこう」

「王冠スライムやメルトスライムって、普通のスライムより消化液が強力なんですよね?」

「もちろんだ。なんつっても硬度の高い魔法鉱石を溶かして喰うくらいだからな。でもあたしらの作った武器防具は溶けないから心配すんな。狐目のは知らんけど」

「あー、俺もえすではジャージ装備しか作ってないもんなあ。今度ルアンの装備と合わせて通常装備作りに行くんで、お願いしゃっす」


 もえす装備は特殊な素材を組み合わせ、複合した効果が発揮される。おかげで魔法鉱石や素材1種類で作られた鎧よりも耐性が多いのだ。消化液を弾く効果は魔物の毛や皮に付いていることがほとんどで、それを金属と一緒に織り込めるもえすの技術だからこそ、耐えられるのだ。


「あ、でも気を付けろよ、弟。消化液を被って装備の中に入ると、パンツだけ溶けてノーパンになるから」

「ノーパン……」

「もえすでパンツは作ってねえからな」

「し、消化液を被る心配なら、ネイさんの方が……」

「狐目が消化液被って素っ裸になっても、特に気にしない」

「いやいや、待ちなさいよ。どう考えても見た目的に俺の素っ裸の方がユウトくんのノーパンより気になるでしょ」

「見た目ではなく、何となく弟がノーパンで恥じらう姿の方がエロい感じがする」

「ユウトをエロい目で見んじゃねえ、クソが」

「はっ! 兄の声が!」


 ミワが声のする方を振り返ったが、レオはもちろん視界には入らない。


「くっ、近くにいるのに見えないこのお預け感、たまらん!」

「そういや、レオさんだって消化液被ったらパンツ溶けるでしょ。そっちの方がミワさん的には萌えんじゃないの?」

「兄がパンツ溶けたって何の反応もしねえだろ。見えるわけでもねえし、だったらいつもと同じだ」

「あ、なるほど」


 すごくどうでもいい会話だ。

 ミワの死角を歩きながら、レオは無の状態だった。

 そもそも、兄が弟に消化液がかかるような失態をするわけがない。そんなもしもの話など、するだけ無駄だ。


「っていうか、消化液がかかったらパンツどころか、身体が溶けちゃうんじゃないんですか?」

「それが、奴らの消化液って皮膚は溶かせないんだよ。基本的には食い物になる無機物を溶かす仕様なんだろうな。餌となる鉱石がなくなって人間を襲う仕様になると、消化液も変質するらしいけど。そうでなくちゃ、鉱夫だけでメルトスライムを倒すなんて危なすぎて無理だろ」

「へえ。じゃあ、メルトスライムって特に怖い魔物じゃないんですね」

「いや、だからといって安全に倒せるってわけでもないぞ。直接攻撃に行っても普通の武器は溶かされるし、装備も溶かされるし、丸腰になったところに体当たりとかされるとかなりヤバい。段下に落とされて落下死することもあるからな。兄弟たちは平気だろうが」

「そうなんですか」


 そうなのだ。このメルトスライムや王冠スライムと戦うには、しっかりとした『溶けない武器・装備』が必要になる。

 つまり、今回ネイは攻撃の役に立たない。ユウトの護りに専念させるしかない。


「直接攻撃では武器が溶けて倒せないメルトスライムを、鉱夫の皆さんはどうやって倒してるんです?」

「採石ン時に使うダイナマイトとかで吹っ飛ばす。ランク自体は低い魔物だからな」

「うは、ワイルドだなあ。でも山の地形変えちゃうし、危ないし、コストもかさみそう」

「そうなんだよ。その点、あたしが持ってるハンマーとツルハシは溶けねえから、直接攻撃に行けるんで重宝されてる。こっちの方がアイテムドロップ率が高い気がするしな」


 ダイナマイトで吹っ飛ばせるなら、メルトスライムはユウトの魔法で余裕だ。問題は王冠スライム。

 その倒し方はどうだったか。

 昔そのデータを見た時に面倒臭いと思って除外したわけだが、どうせ戦わないのだからと流し見た内容はうろ覚えだ。確かランクはA。それなりに強い。


 まあ、面倒な魔物なのは間違いないだろう。




「お、メルトスライムのお出ましだぞ」


 しばらく山道を行くと、途中に飴色をしたスライムが現れた。それに気付いたミワがこちらを振り返る。

 レオの戦闘を期待している顔だ。


「最初だし、まずは兄の出番じゃね?」

「ユウト」

「あ、うん。ファイヤー・ボール!」


 しかし兄が出るまでもない。弟が速攻で焼いた。


「ちょ、期待を潰すの早い!」

「いいからとっとと進め」


 文句を言うミワを死角から急き立てる。

 早いことバラン鉱山をクリアして、ミワと別れてユウトの隣を普通に歩きたい。すでに精神的に疲れ気味なのだ。


 そこからも何体かのメルトスライムと遭遇したが、すべてユウトが一撃で倒した。ミワは不満げだが気にしない。

 そうして進むと、少し開けた場所で、メルトスライムが4匹ほど集まっているところに遭遇した。


「おっ? さっきまで1匹ずつしか出てこなかったメルトスライムが、4匹一緒にいる……。これってもしかしてかな?」

「あー、これこれ。王冠スライムには何度か遭遇したけど、最初はいつも4匹の集団なんだ。合体した王冠スライムが、あたしらが倒しきれずに帰ったあとにまた解体してるんだろうな」

「ってことは、合体の瞬間が見られるんですね!」


 ユウトが瞳をきらきらさせている。可愛い。


「これでようやく、本気で兄の出番だな!」


 ミワも瞳をきらきらさせている。腹立たしい。


 しかしここに来てミワの視線を気にしている場合ではない。レオは彼女の死角に入るのをやめ、ユウトの隣に立った。


「初撃は俺が行く。ユウトは状況を見て援護を頼む。狐、ユウトを完璧に護れよ」

「気を付けてね、レオ兄さん」

「ユウトくんのことは任せて下さい。エルドワは?」

「自由にさせておけ。エルドワは無機物を持ってないし、消化液が効かないから問題ない」

「アン」


 ゲートに入る時以外はブーツは脱がせるようにしたし、元々エルドワは特に溶けるものがない。おそらく勝手に動いてくれるだろう。


「ミワさんは?」

「あたしはパンツまで自作だから気にすんな。溶けるものもないし、消化液を被ろうが何しようが、生兄の戦いぶりをガン見している。……ふふふ、ようやく視界に入った兄に、密かにテンション爆上げだぜ……!」

「こう言ってるから放っておけ。そもそも精霊の祠までの案内役をガイナでなくミワにさせたのも、道中で先導させてもスライムから護る必要がないからだしな」

「あ、そういうことですか」


 レオは不愉快な表情を隠さず言い放ったが、ミワはそんなこと気にもしていない。腹立たしい。

 彼女を案内役にした理由に納得したネイが、苦笑して肩を竦めた。


 兄は再び視線を弟に戻し、その頬を撫でて苛ついた心を落ち着ける。ユウトはいつだってレオの精神安定剤だ。


「とりあえず、まずは王冠スライムの撃破だ。行くぞ」

「うん、頑張ろうね」


 軽く言葉を交わすと、レオはひらりと踵を返し、敵を定めて駆けだした。


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