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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、タイチ母に目を付けられる

 でかい。


 それがラダの村唯一の鍛冶・道具屋の店主である彼らの第一印象だった。

 4人のうち一応ひとりだけは、ぽっちゃり気味の普通サイズの女性がいたが。


「おおう……何なの、この圧迫感と息苦しさ……。そんなに狭くないはずの部屋が、サウナに感じる……」

「想像通りと言えば、想像通りか……。父親どころか祖父まで筋肉ダルマだとは思わなかったが。おまけにミワよりでかい……」


 おそらく身長としてはレオの方が高いが、質量は圧倒的にミワたちの方が上だ。

 仕事前のウォーミングアップとかで、朝からハンマーの素振りを500回こなしたと言う。筋肉ダルマ3人して汗みずくで、湯気が出ていた。この暑苦しさ、勘弁して欲しい。


「いらっしゃい。いつもウチの子たちがお世話になってます。タイチの母です」


 まずは身体に丸みのある女性が挨拶をした。雰囲気は確かにタイチに似ている。

 その隣でミワが自身の親たちを指差した。


「こっちがあたしの親父とジジイ」


 見れば分かる。それ以外の何ものでもない。


「は、初めまして、ユウトです。こっちが兄のレオと、仲間のネイさん。エルドワは知ってると思いますけど」


 そんなぽっちゃりと三代筋肉にユウトが律儀に挨拶をする。小さなユウトが相対すると、弟が半魔であることを差し引いても、まるで違う種族のようだ。


「おお、こんなとこまでよく来た、ちんまいの。そっちの兄ちゃんはいい筋肉を付けてるな。娘の装備が映えている」

「それで、このユウなんとか言う、小っこくて可愛いのがミワの嫁か?」

「そういう来客じゃねえし、そもそも何であたしが嫁もらうんだよ。ボケてんのかジジイ。つか、この可愛いのは男だから。……ん? いや待て、それなら問題ないのか。ただ、ウェディングドレス着るの弟の方になりそうだけど」

「……言って良い冗談と悪い冗談がある」

「うおっ!? ちょ、兄の殺気すげえ! マジすぎて隣で狐目が鼻血出してる! 申し訳ありませんでした!」


 無表情のままものすごい殺気を飛ばしたレオに、速攻でミワが謝罪を入れる。それに気付かないユウトがきょとんとして、とりあえずネイにティッシュを差し出した。

 それから、目の据わっているレオを振り返る。


「僕、嫁とか行かないけど」

「……分かってる」 


 別に本気にしているわけではない。その頭を優しく撫でて一応の落ち着きを取り戻し、翡翠色の瞳を見おろしたまま、まろい頬を擽る。

 すると不意に妙な視線を感じて、レオは顔を上げた。


 ぱちりと、タイチの母と目が合う。


「と、尊い……」


 ……何か、目が輝いてるんですけど。

 そして口元を両手で覆い、ぷるぷる震えつつ頬を上気させている。


 レオが怪訝な顔をすると、それに気付いたミワが「ああ」と声を上げた。


「タイチ母の反応は気にするな。ちょっと遅咲きの腐女子でな」

「……フジョシ?」

「禁断の扉……っちゅうか、迷宮ジャンク品の店で禁断の雑誌を開いてしまったんだ」

「……禁書か?」

「ある意味、そう。まあ、とりあえず直接的な害はない。多分」


 よく分からないが無視した方が良さそうだ。

 何かを期待するようなタイチ母の視線が鬱陶しいが、それよりレオはとっとと話を済ませようと、ネイに目配せして前に出るように促した。

 殺気はもう収めたから鼻血も止まっただろう。

 早くしろ、というレオの視線に、ネイはやれやれといった様子で肩を竦めた。


「……ミワさん、もう親御さんたちにはお話し済み?」

「ああ。簡潔に言えば、世界樹の葉の朝露を兄弟たちがゲットして、親父たちを王都の店に帰すってことだろ?」

「そんな感じ。皆さん、それで納得してるの?」

「ジジイだけ義理人情の観点から渋ってる」

「……義理人情?」

「自分たちを快く受け入れてくれた村の人たちを置いていくのが忍びないって」

「快く? ……ガイナはすげえ拒んだって言っていたが」

「いやいや、そんなことはないぞ」


 レオの言葉に、筋肉ダルマの爺さんが手刀を切って入ってきた。


「余所者を受け入れる気はないと言うのでな、ちょうど俺らも余所者から隠れて事を進めたかったから、めっちゃ気が合うなと思ってな。彼らも同じ気持ちだったんだろう、門の前で村人総出で出迎えてくれたよ。全員とハグして挨拶した良い思い出」


 うん。多分それ違う。


「その頃は村の門は木製で、壊れていてな。村の者たちが『門が壊れているせいで怪物が入り込んだ!』と慌てていたから、それはいかんと鋼鉄製の門を作ってやったわ。怪物は村のどこに行ったか知らんがな」

「ちょ、あの門作ったの、爺さんかよ!」

「以来、村の門が怪物に破られたことはない」

「ジジイ、ドヤ顔やめろ」


 破られてはいないが、怪物はずっと中にいる。話の通じない怪物が。なるほど、そうして都合の良い解釈をしたまま住み着いたわけだ。

 まあ、その後は円満にやっているようだからいいけれど。


「村に愛着があるなら、爺さんだけ残ったらどうだ。精霊の祠を開放出来れば、ゆっくりだが鉱山にレア魔法鉱石が生成されはじめる。それを使ってここで鍛冶をしたり、王都やザインに鉱石を送ったりすればいい」


 ガイナたちも、今となってはその方が助かるだろう。この爺さんはその腕は魔工翁と並び称された鍛冶屋だ。彼がいれば、半魔ユニオンの武器防具が充実するに違いない。


「それもいいかもしれんな。王都は人が多すぎて疲れるし」

「でもジジイ、ひとりだと食事の準備もできねえだろ」

「だったらお爺さん、弟子の方に住み込みで来てもらったらどうかしら」

「お弟子さんがいるんですか?」

「ええ。鍛冶を覚えたいっていう男の子が。ガイナさんが他の街から連れて来た子でね。今は一人暮らしだから、家のこと全部できるのよ。……ああ、弟子と一つ屋根の下なんて、師匠がお爺さんじゃなければ滾る設定なのに……」


 弟子の住み込みを提案したタイチ母が最後にぼそぼそと何か言ったが、多分突っ込まない方がいいんだろう。


「ミワ父とタイチ母は、王都に戻るつもりでOKなのかな?」

「ジラックに収監されている二人を元に戻して救い出せれば、当然仕事に戻るのはやぶさかではない」

「私も旦那が戻ってくれば問題ないわ。……あとはまあ、王都の方が大きな迷宮ジャンク品の店があるから嬉しいし」

「タイチ母の動機が不純だが、気持ちは分かるぜ……」


 迷宮ジャンク品店の、雑誌コーナー常連のミワが頷く。

 思惑は色々あるようだが、とりあえずレオたちがバラン鉱山で万事上手くやって、世界樹の葉の朝露を手に入れることができれば解決しそうだ。


 ならばもうここにいる必要はない。


「そうと決まれば出発しよう。ミワ、道案内をしろ」

「おう、任せろ! くうう~……兄に冷徹な声で命令されるの痺れるぜ……! おまけに道中では動く生兄見放題! 何というあたし得……!」

「狐、ミワに馬車馬用の遮眼革ブリンカー着けとけ」

「そんなことしたら、おそらくミワさんはレオさんガン見しかしないですよ」

「兄に向かって馬車馬のごとく脇目も振らず突進するぜ!」

「するな。うぜえ」


 レオは頭痛を感じてこめかみを押さえた。

 ……今日は一日、先が思いやられる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 遅れましたが200話達成おめでとうございます〜! この作品はちょうど暇している頃に更新されるので、いつも助かっています。日々の癒しです笑 悪役はいるものの、今のところ直接ヘイトを稼ぎに来ては…
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