兄、バラン鉱山の情報を得る
「……ところでお前たちは、あいつらの事情は知っているのか?」
「いや、詳しいことは。何かを探してるみたいで、親父がしょっちゅうバラン鉱山に登っているが」
「ひとりで?」
「もうほぼ魔法鉱石が出ない山だったから、以前はな。だが、最近はメルトスライムが出始めたんで、俺たちも一緒に行ってる。一応名目上は鉱夫だし、手に入れたドロップ鉱石でアイテムも作ってもらえるからな」
「王冠スライムも出たんですよね?」
「ああ、あいつな。難儀な敵ではあるが、倒せば大きな見返りがあるから、何とかしたいんだが……。獣人半魔とは相性が悪くて……」
そこまで言って、ガイナがぱちりと目を瞬いた。
「……鉱山に王冠スライムが出たことを知っているとは、どうやらあんたら、訳知りだな。ミワたちに会いに来たらしいが、目的を訊いてもいいか?」
「当初の目的はバラン鉱山で見つかるヒヒイロカネという魔法鉱石をミワから受け取りに来ただけなんだが」
「今の目的はミワさんに精霊の祠に案内してもらって、世界樹の葉の朝露を採ることです」
「世界樹の葉の朝露だって? あれはもう採れなくなって久しいぞ。まずは閉ざされている精霊の祠を開けるところからだし、俺たちではどうしようもない……」
「それをどうにかしようと思って」
無駄なことだと忠告する自身の言葉をユウトにさらりと受けられて、ガイナは困惑気味に脱力した。
「……どうにかなるもんなのか?」
「精霊さんが僕ならできるって言ってたから、多分出来ます」
根拠のない自信だが、何にせよ今回はユウト頼みだ。信じるしかあるまい。
「おい、お前はバラン鉱山の精霊の祠について、知っていることはあるか?」
「この辺で一番霊性の高い場所に立てられた祠ってことくらいかな。何か、偉い精霊の通り道だったらしいけど。だいぶ前に閉じられて、以来バラン鉱山は廃れちまった。それで、鉱石を掘り尽くして稼ぎのなくなった人間たちもみんな出て行ったんだ」
「ここにも、もともとは他に人がいたんですね」
「祠が閉じられたことで魔法鉱石を生み出す魔力の磁場がなくなっちゃったんじゃ、もう鉱石採れないもんねえ」
「……祠は偉い精霊の通り道、か……」
その偉い精霊というのが、おそらく今ユウトに引っ付いてる精霊だろう。
かなりの力を持っているだろうに、自力では出られないのだろうか。……やはり分割されているのがネックなのか。
「祠を閉じたのは誰なのか分からないんですか?」
「分からねえな。一時期王都の貴族の雇った鉱夫たちが来て、片っ端から魔法鉱石を掘って行ったんだけどさ、そいつらが引き上げた頃にはもう閉じてた。だから精霊が怒って、自分で閉じこもったんだと思ってたが」
「ああ、その王都の貴族の介入が、ラダの村が余所者を入れなくなった原因にもなったんだよな? 利権が絡んで結構もめたって聞いてるけど」
「まあな。ただその頃はこの村も人間が商売してたから、俺たち半魔は遠巻きに見てた感じだ。その後は村を閉じたまま人間だけが出て行ったから、ここが半魔の村になっちまった」
鉱山の他にこれと言った産業のない村だ。分かりやすい帰結と言えよう。
「もし精霊の祠が開いて精霊が集まってきたら、ここは鉱山としてまた息を吹き返すのかねえ?」
「もちろんだ。ただ、元通りになるには数十年単位で掛かる。しばらくはあちこちにちょこちょこレア鉱石が現れるくらいで、当分このままだ」
「ちょっとくらいの鉱石じゃ、メルトスライムに食べられちゃいますね」
「いや、その点は王冠スライムを倒せばいなくなるから、あいつをどうにかすれば平気だ」
「そういや、王冠スライムはメルトスライムを統べる魔物だという話だったか。倒すと恩恵があるとか言ってたが、何かあるのか?」
王冠スライムは鉱山にしか出ない。
レオは知識としてモンスターの存在は知っているが、直接対峙したことはなかった。昔はそれがドロップするレア鉱石に興味もなかったし、必要もなかったからだ。
戦いづらそうだから相手にしない。
それが王冠スライムへの認識だった。
「メルトスライムは単体でいると鉱石を溶かして食べる厄介な奴なんだが、王冠スライムに従ってる奴らは復活前の山のクズ鉱石の掃除をしてくれるんだ。坑内に取り残された鉱石を食べて、一旦山の中をまっさらにする」
「え、良い奴じゃん。だったら王冠スライムを倒す必要なくね?」
「残念ながら、あいつらがいる間は鉱山として復活出来ない。さっきユウトが言ったように、鉱石が出来たそばから食われるし、何より食う鉱石がなくなると人間を襲いだすからな」
「そ、それは怖いですね……。じゃあやっぱり倒さないと」
「ああ。何より王冠スライムを倒すと、従っていたメルトスライムが全て溶けてマナ化するのがありがたい。精霊を呼べる山になるんだ」
「それが王冠スライムを倒した恩恵か」
ディアが王冠スライムの出現を好ましい兆候と言ったのはこのことか。
バラン鉱山に精霊たちが留まる素地ができると。
「ただ、精霊の祠が開かないと、精霊を呼び出すことができないからな。……もし、ユウトがそれを解放出来るならありがたいけど」
「ふうん、ガイナたちはバラン鉱山が復活しなくても、それほど影響なさそうだけどな。また鉱石が取れ始めると人間がいっぱい来るし、面倒じゃね?」
「精霊がいない山には魔物が住み着きやすい。時々退治してはいるが、魔物が近くにいると、俺たちは魔物寄りになりがちだからな……。精霊の住む場所はマナが濃くて居心地が良いんだ。元々俺がここを本拠にしてたのは竜穴が近いからだし、山が復活してくれるならその方がいい」
ガイナは特に人間が嫌いというわけではない。むしろ、人間と上手く付き合っていくために距離を取り、腐心している。
鉱山に人間が集まるようになれば、また色々考えてやっていくのだろう。どちらにしろ、まだまだ先の話だ。
きっと昔から何度も繰り返されている山の再生。新陳代謝とはよく言ったものだ。ひとつの区切りが付き、新たな生成が始まる。
……ただ、今回のように復活を阻む面倒ごとがあることは、そうなかっただろうけれど。
「じゃあとりあえず、明日は最初に王冠スライムを倒すか。精霊の祠を調べている最中に邪魔されても面倒だ」
「うん。……合体するとこ見れるかな。ちょっとわくわく」
「ユウトくん、そういうとこちゃんと男の子だよね~」
「何かあんたら、世界樹の葉の朝露を採るって話だったけど、そのままバラン鉱山の再生してくれちゃいそうだな……。よし、まずは栄養のある飯食ってけ!」
その夜はガイナが捕ってきた鹿肉のシチューとライ麦パン、温野菜のサラダを頂いて、翌日に備えて十分な睡眠を取った。
明日は山道を行かねばならないし。
……何より、その前にミワとその親たちに会わねばならない。
朝からどっと疲れそうな気はするが、あまり考えないでおこう……。
200話達成!
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