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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、パームとロジーの真実を知る

 シュロの木を出ると、ユウトたちはそのままもえすに向かった。

 タイチから紹介状を受け取るためだ。

 レオはついでに、ラダの村のことと彼の親についても聞きたいらしい。

 いつものように隣家から入り、二階を通じてもえすの店内に入る。


「いらっしゃい、レオさん、ユウトくん。エルドワ様もご機嫌麗しゅう。本日も素晴らしい毛並みでございます」

「エルドワへのへりくだり方がすごいな……まあいい。昨日言ってた紹介状はできているか?」

「できてるけど、受け取りに来るの早いね。はい、これ。ラダの村の入り口で渡して。そこに姉貴がいれば呼び出してもらえるし、もしバラン鉱山に行ってれば待たせてくれると思う」


 レオが受け取った紹介状は、美少女キャラの描かれた封筒だ。

 それを見た2人は思わず閉口したが、逆に考えれば紛れもないタイチの紹介だと分かるからいいのかもしれない。とりあえず無理矢理納得したらしい兄が、それを無表情でポーチに突っ込んだ。


「……ところで、ロバートに聞いたんだが、ラダの村にはお前たちの親がいるそうだな?」

「え? ああ、うん。俺の母さんと姉貴の父さんがいる。あと爺ちゃんも」

「やはり、ロジーの先代もそこにいるのか」


 そうすると、ロジー鍛冶工房の再生は十分可能だ。二代揃っているなら説得もしやすい。


「……今日はどちらかというとこっちが本題だ。実は、王都のパーム工房とロジー鍛冶工房を再興しようと考えている」

「王都の……って、爺ちゃんたちの工房を?」


 タイチはぱちくりと目を瞬いた。


「今、工房は放棄された状態だ。職人ギルドもそれを惜しんでいる。……ただ、お前たちは継ぐ気がないだろう? それで、今は街に工房を持っていないお前たちの親に打診してみようという話になった」

「あ、そういう……。しかし、母さんと叔父さんか……。多分すんなりは頷かないよ?」

「魔工のお爺さんも一筋縄では行かないって言ってましたね。頑固な方なんですか? やっぱり王都には帰りたくないのかな……」

「んーまあ、頑固は頑固なんだけど、こう……俺が言うのも何だけど、俺と姉貴の親なんだよね」


 その言葉に、隣にいるレオがすごく嫌そうな顔をした。


「……お前らと同系なのか」

「似てるとはよく言われる。見た目じゃなく、性格的にね」

「そっちが問題なんだが……」

「ラダの村では何をなさってるんですか? やっぱり鍛冶・道具屋? 村だと農具しか扱わなそうですけど」

「鉱山が近くてツルハシとかも必須だから一応鍛冶もしてるけど、メインは鉱夫とトレジャーハント、かなあ」


 鉱夫とトレジャーハント。ちょっと意味が分からない。スライム狩りのことだろうか。あれもある意味、ドロップアイテムがお宝ではある。


「多分、母さんたちは王都に帰りたくない、とかはない。ただ、王都に帰る前に手に入れたいお宝があるんだ。それを見つけるまではどこにも行かん! 的な感じ」

「ああ、他人の意見を聞き入れなさそうな感じ、お前らの親っぽい」

「でもそれってつまり、お宝さえ手に入れば王都に戻るってことですよね」

「そう簡単に行けば話は早いんだけどね……。それを探してかれこれ十年余りだよ」

「……それは王都を出てからずっとということか」

「そうなるよね」


 タイチは大きくため息を吐いた。


「俺は資金の援助しかしてやれないけど、姉貴は時々手伝いに行く。今回は王冠スライムが出てちょっとわいわいしてるけど、毎年何の成果も上がんないんだよね」


 やはり、タイチたちはラダの村……というか、親に資金援助をしているようだ。

 ……仕事を半ば放り出して宝探しをしている親に?

 どうもそこには我々が与り知らぬ事情がある様子だった。


「……タイチさんのお母さんたちが探している宝物って?」

「世界樹の葉の朝露っていう、浄化薬。毒や病原菌から呪詛まで、人体に悪影響を及ぼす全てのものを浄化する薬だよ」

「世界樹の葉の朝露? なんでまたそんなものを十年も掛けて……」

「俺の父さんと姉貴の母さんに飲ませるため」

「それって、今ジラックに収監されてる、魔工のお爺さんの息子さんと娘さん……」


 ユウトはそこから導かれる答えに、目を丸くした。

 あれ、それって、つまり。


「もしかして、あの人たちは何か悪いものの影響を受けてああなったってことですか!?」

「少なくとも、母さんと叔父さん、俺と姉貴はそう思ってる。……爺さんは自分の息子と娘のやらかした悪行に参っちゃってて、実は操られてるとか、そんな希望は全く持ってないみたいだけど」

「待て、そうなると話の前提がだいぶ変わってくるんだが」


 さすがにレオも困惑している。

 魔研に誑かされ、安易な金稼ぎをし、名店の名を貶めて潰した浅はかな二代目。それに愛想を尽かして出て行ったそれぞれの伴侶。縁を切ってザインで店を始めた娘と息子。

 その認識で動いていても全く違和感がなかったし、以前のネイの話とも一致していた。それなのに。


 彼らがジラックに収監された時は自業自得だと思ったが、そもそもその前提が違ったのか。


「タイチさんのお母さんとミワさんのお父さんって、それぞれ旦那さんと奥さんが嫌になって、一緒に出て行ったんじゃ……?」

「そうだよ。変わっちゃった相手が嫌すぎて、母さんと叔父さんはその頃からどうにかしないとって互いに相談してたんだ。そして、十余年前バラン鉱山にある世界樹の葉の朝露の話を知って、2人で向かった」

「……それも、駆け落ちだと聞いたんだが」

「あー、違うよ。あの2人、俺と姉貴みたいな関係なの。気心は知れてるけど決して恋愛対象にはならない感じ。だけどそれに腹を立てて、互いの伴侶が誑かして駆け落ちしたって吹聴したのは父さんと叔母さんだから、王都でまことしやかに言われてるけど」


 なるほど。伴侶に逃げられた本人たちが言っていたのでは、さすがにネイの情報が間違っていても仕方がない。

 この件に関しては面白そうだから趣味で調べていただけという話だし、わざわざラダまで2人を追って行って、裏取りなんてしていないだろう。


「俺たちも今の父さんたちが嫌すぎて出てきた」

「親子の縁を切ってですか?」

「それも父さんたちが『出て行くならお前らなんか俺の子どもじゃねえ! 絶縁する!』って言って、それが広まってるだけ」

「そういえば以前見たことがあるが、気性が荒そうな感じだったな。従業員を蹴り飛ばしてたし」

「……昔は全然違ったんだけどね」


 そう言ってタイチは肩を竦めた。


「ザインではすでに爺さんが隠居してたから、そこを頼ってさ。そんでここを作った。母さんたちが世界樹の葉の朝露を探してるのは知ってたし、体力的には役に立たないけどせめて資金は出したいじゃん」

「ここでお店をやってるのはそういう理由だったんですね」

「まあ、萌えとの出会いもあったからだけど」

「余計なことは言わんでいい」


 レオは腕を組み、軽く息を吐く。

 そうしながら、今手に入れた情報を整理しているようだった。

 ユウトはそんな兄を眺めて、やはり今回の旅もお遣いだけでは済みそうにないと理解する。


「……魔工のお爺さんが、タイチさんのお母さんたちを後継として説得するのに賛成と言ったのは、きっともう無駄な希望を持つのは諦めて王都に戻るようにってことなんでしょうね」

「言っとくけど、俺の母さんたちは諦めて帰るってことはないよ。何のために今まで離婚もせずに頑張ってるかって話」

「つまり、手っ取り早く説得するなら、世界樹の葉の朝露を手に入れるべきってことですね」


 もちろん、ユウトたちにそこまで世話をしてやる義理はない。

 ただ、レオがそれを解決することに価値を感じるか否かだ。


「……お前は、何でこの話の詳細を俺たちにした?」


 不意に、レオがタイチに訊ねる。


「これは、今まで表に漏らしたことのない情報だろう。村と鉱山から余所者を排除し、意図的にずっと情報を閉じていた。……おそらく、彼らを変えた悪しき者の妨害を阻止するためだな?」


 その指摘に、タイチは苦笑をした。


「やっぱ鋭いなあ。……確かに、これは俺たちだけの秘密だった。だけどさ、レオさんたちがラダとバラン鉱山に行くなら、千載一遇のチャンスかなと思って」

「チャンスですか?」

「もはや俺たちだけじゃ事態は動かないんだ。それに、時間もない。……父さんたちが収監されたのは正直、これ以上の悪事ができないから少しは助かる。しかし、決して安心はできない。王都と違って、ジラックの政治は横暴でワンマンだ。いつ処分されるか分からないからね」


 そう言って、タイチは腕を組む。


「それに今情報が漏れたところで、妨害はないと思う。父さんたちはもう用なしになって、追いやられたに違いないから」

「だから情報を明かして、俺たちに事態を打開させようと?」

「少し知恵を貸してくれるだけでもいいんだよ。レオさんもユウトくんも俺たちとは違った知識を持ってるし。今はバラン鉱山で見つかった精霊の祠がどうしても攻略できないらしくてさ」

「精霊の祠?」


 タイチの言葉に、ユウトが反応した。

 精霊……だったら、ディアを連れて行くのが早いかもしれない。


「それなら、精霊使いの知り合いがいますけど」

「精霊使い……!? ほんとに? それならどうにかしてくれるかも!」

「……ディアを連れて行く気か」


 ユウトが出した人物に、レオは何だか複雑そうな顔をする。


「一緒に行ってくれるかは分かんないけど、ヒントくらいはくれるんじゃないかな。ラダの村に行く時にどうせ王都に寄るでしょ?」

「まあ、そうだが。……仕方がないな。これで解決出来るなら話は早いし、手を貸すか……」

「やった! ありがとうございます、レオさん、ユウトくん!」


 タイチが手放しで喜び、ユウトもほっとする。

 やっぱり知り合いの窮地には手を貸したい。まあ、弟がどうしても手助けしたいと言えば、兄は大概渋々でも付き合ってくれるのだけれど。


「レオさん、全てが解決したあかつきには、ユウトくんのローブの犬耳と尻尾が気分によって動く機能を付けますから!」

「……マジか……! よし、任せておけ!」


 ……あ、いきなりやる気になった。


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