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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、グレータードラゴンを召喚する

 レオが片膝をつき、手のひらを床に当てる。途端に周囲にぶわっと魔力の渦が巻いた。

 その足下に魔方陣が現れ、輝く。

 そう、これは召喚だ。


「出でよ、キリイル・クルウラ!」


 レオが呼びかけると、光の柱が立ってその上空に大きな竜が現れた。グレータードラゴンだ。その咆吼は、空気だけでなくこの空間ごと震わす。その圧力に押されつつ、ネイが納得の声を上げた。


「なるほど、キイとクウか! これならいける……!」


 キリイル・クルウラはこのグレータードラゴンの名前。キイとクウの真名の組み合わせだ。成竜としてはまだ大きさが足りないが、それでも羽を広げると10メートルは軽く越す。


 その炎のブレスは世界を焼き尽くす業火、氷のブレスは世界を静寂に陥れる猛吹雪。

 人型でいるときのあの穏やかさが嘘のような強大さだ。

 ばさりと羽ばたくだけで、部屋の中に嵐が起こるようだった。


「イ、イ、イ……!」


 突然現れた竜に興奮したのだろうか。テンペスト・ゴーストが奇妙な声を発しながら、上位雷撃の魔法を仕掛けてくる。さすがゴースト系最高ランクだけあって、普通の魔物なら消し炭になる威力だ。

 しかし、その魔法はドラゴンの鱗に弾かれた。


「うはあ、魔造生物ごときじゃ相手になんないっすね」

「……キイとクウは魔研の数少ない実験成功例だからな。その強さはかなりのものだ」


 魔研の成果にあやかるのも何か腑に落ちない気がするが、当のキイとクウがその力をレオのために使いたいというのだから、気にするのも馬鹿らしい。

 レオは頭上のドラゴンに指示を出した。


「キリイル・クルウラ、あのテンペスト・ゴーストを始末してくれ」

「グォウ!」


 魔物らしい返事をした竜は、すぐにブレスの体勢に入る。

 ゴースト系には浄化の炎がテッパンだ。

 テンペスト・ゴーストがそれをキャンセルしようと矢継ぎ早に大きな魔法を仕掛けてくる。が、グレータードラゴンには何の影響もない。

 時折レオたちにも流れ弾が飛んでくるものの、それはネイが魔法反射で全て打ち返した。


「あー、これは楽。キイとクウがいれば最下層まで安泰じゃないですか? ブレスを吐いてもらえばあっという間」

「そうもいかん。キイとクウは魔研の実験によって比類無き強さのドラゴンになったが、その副作用で合体竜化していられる時間がかなり短いんだ。おそらく、30分もない」

「ええ!? 短っ! ……じゃあ、この戦いが終わったら帰るくらいですね」

「それでも十分な働きはしてくれる」


 元々レオは、他人の強さをアテにするような戦いは好まない。こんなふうに、本当に必要な時に頼りになればそれでいい。

 その点で、キイとクウはだいぶレオと相性がいいと言えた。


「……そろそろだな」


 若干の準備を整えたドラゴンの口の中に炎が見える。

 その体内には不浄を焼き尽くす炎が渦巻いている。ゲート内は少しマナが溜まりづらいが、問題なさそうだ。

 

「やれ」

「グォオオオオオオ!」


 レオの一言で、テンペスト・ゴーストに向かってブレスが吐き出された。それなりに離れている自分たちも、肌を焼かれそうな熱。

 範囲攻撃であるため、敵は周囲の家具や壁ごと燃え上がる。

 浄化の炎は、一度魔力に引火してしまえば消すことは適わない。

 唯一聖属性の者には効かないという話だが、今ここでそれを心配するのは無意味だろう。


 果たして幽霊は炎に焼き尽くされ、最後に甲高い悲鳴を上げて灰となり。コアになっていた上位魔石がその上に落ちた。


「おお~……さすが、グレータードラゴン。強えわ~」

「……よくやった、キイ、クウ。助かった」


 飛んでいたドラゴンが、その巨体にそぐわない丁寧さでふうわりと床に降りる。

 レオは労うようにその鼻頭を軽く撫でると、上位魔石を取りに行った。

 そして拾ったそのまま、竜に向かって魔石を放り投げる。


 それを器用に口でキャッチしたドラゴンは、そのままガリガリと咀嚼して美味しそうに飲み込んだ。


「うわ、上位魔石食った」

「俺はもゆると違って魔力がないし、血の代償を与えられないからな。報酬代わりだ。……ご苦労だった、もう戻っていいぞ」

「グワウ!」


 レオの期待に応えられて嬉しそうにひと鳴きした竜は、再び現れた魔方陣を使って満足げに消えた。

 これでこの空間は攻略完了だ。だいぶ楽をさせてもらった。


「もゆるちゃんたちの方はどうなってますかね?」

「俺たちの方がこの程度だったんだから、あちらばかりがすごい敵ってことはないだろう。……まあ何にせよ、急ぎ合流するに越したことはない。ゲートを出るぞ」


 レオはもうここには興味が無いとばかりに出口に向かう。

 ネイも戦利品のテンペスト・ゴーストの灰だけを拾って、そのまま彼に続いた。






「兄さん!」

「もゆる!」


 ゲートを出ると迷路の壁がなくなっており、そこはただの広いフロアになっていた。

 少し離れたところにユウトたちを見つける。すぐにあちらも気が付いて、大きなリボンとスカートを揺らしながら駆け寄ってくるのが可愛らしい。いつも通りの弟に、レオは心底安堵した。


「ちゃんと敵を倒せたか。怪我はしてないか?」

「ん、全然問題ないよ。戦闘後にディアさんが精霊さんにすごい説教されてて、時間掛かっちゃったけど」


 精霊に説教? よく分からないが、まあユウトが無事ならどうでもいい。

 ……それよりも。あのライオン並にでかい犬の魔物はもしかして。


「……あれ、エルドワか」

「あ、うん、そう。めっちゃ強かった。でも中身はエルドワまんま。尻尾もふもふで可愛いよ」


 確かにまんまエルドワだ。あの見た目でめっちゃ尻尾振ってる。


「あいつはあのまま、最下層まで行けそうか?」

「大丈夫じゃないかな? 一応、ヴァルドさんと同じくらいの量の血をあげたから」

「なら頼りにできるかもな……まあとりあえず、急ごうか」


 フロアの中心には下り階段が出現していた。

 もうヴァンパイア・ロードは目の前だ。ここでゆっくりするよりは、とっととクリアしてしまった方がいい。


「もゆる、ここでヴァルドも呼び出してしまえ。ボスのフロア前にそんな暇がないかもしれん」

「そっか、どうせもうすぐだもんね」


 ユウトは再び指に針を刺して、零れた血をブラッドストーンに塗りつけた。

 いつものようにヴァルドを召喚する。

 臣下の礼を取ったヴァルドが、ユウトの指を舐めて癒すのに怒るレオはお約束だ。


「本日でこのゲートもクリアですね。最後まで尽力させて頂きます」

「今日もよろしくお願いします、ヴァルドさん」

「お任せ下さい。今の私はものすごく調子が良いので」

「……本当に、ツヤツヤしてやがるな。……もゆるの血のおかげか」

「もちろんです。もゆるさんの血は例えるなら、私の錆びた身体に入ってきた、最高品質の潤滑油みたいなものでしょうか」


 艶やかに微笑んでそう言うヴァルドの醸す魔力は、確かに強くなっている。

 弟の指を舐め回した効果だと思うと複雑だが、とりあえず今はユウトの下僕が強くなっていることを歓迎しておくべきだろう。


「ところで、エルドワももゆるさんの血を摂取したのですね」


 不意に、ヴァルドがエルドワを振り返った。それにユウトが頷く。


「ヴァルドさんの召喚に使うのと同じくらいの血を与えてみたんですけど。エルドワも5時間くらい変化していられるんですか?」

「いえ、エルドワの場合まだ成長期ですので、そちらに魔力が取られてしまいます。おそらく変化していられるのは2時間程度かと」

「2時間か、結構短いな……。でもまあ、ボスフロアの直前ぐらいまで保てば十分か」


 エルドワは最初の計画時点で、ボス戦での戦力としてはアテにしていない。無理をする必要はないだろう。

 それに、追加の戦力としてはディアもいる。

 負ける気はしない。


「とりあえず進むか。何にせよ時間がもったいないのは確かだ。エルドワ、ボスフロアまで先導を頼む」

「ガアウ!」


 いつもと違う子犬(?)の返事に違和感ありありだが、再び集結したパーティは、エルドワに付いて下り階段を降りていった。

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