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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、弟とはぐれる

「今日はヴァンパイア・ロードの討伐が目標だ。念のため、ヴァルドはボスの直前まで召喚しないことにする」

「ソードさん、吸血鬼が出たらどうするんですか?」

「昨日のうちに倒し方のヒントは聞いている。エルドワでも対応できると言っていたから、どうにかなるだろう」

「アン!」


 朝食を終えた後の、全員での最終確認。今日はゲートの完全クリアが目標だ。

 皆十分に回復し、最後ということでやる気もある。

 これならきっと大丈夫だ。


「まさか、こんなにサクサク降りてこれると思っていませんでしたわ……。皆様、本当にお強いのですね」

「あー、それよかエルドワの存在が大きいよね。最短距離を行けるから、敵との遭遇を最少に抑えられるし」

「それでも素晴らしいですわ。もうヴァンパイア・ロードが目前だなんて……」


 ディアは感心しきりだ。少しウキウキしているようにも見える。

 まもなく久しぶりの地上に出られるからだろうか。


「あんた、わざわざ俺たちのボス戦に付き合う必要はないんだぞ。どうせ今日中に終わるし、脱出アイテムがあるから先に行って地上で待っていてもいい」


 ボス戦については、ヴァルドがいるからそれほど問題視はしていない。もともと当てにしていなかった戦力だし、ユウト以外を護る気がほぼ無いレオは、特に彼女を巻き込む必要もないだろうと提案した。

 しかしディアは、やんわりとそれを退ける。


「申し訳ございませんが、元々このゲート攻略への誘いを請けたのは、私にも相応の理由がございますの。ボスをボッコボコにする心づもりですので、ご一緒させて下さいませ」

「相応の理由?」

「私の大事な精霊が術に掛けられて、一部ここに捕まってますの。それを解放したいのですわ」


 なるほど、彼女は精霊使いだ。

 本来使役する精霊の一部が捕まっているということなのだろう。つまり、今のディアの魔法は本意気でないということ。

 ……ランクSSゲートの敵を殲滅する魔力があるというのに、実際はもっと強いわけだ。魔法学校を12歳で卒業したという魔法力は、伊達ではないということか。


「精霊使いって、普通の魔法と何が違うんですか?」

「普通の魔法は精霊と術者の間でギブアンドテイクなのですけど、精霊使いはギブアンドギブって感じですわ。精霊と信頼や友情、愛情で繋がっていますの。だから、精霊『使い』というのは少し語弊がありますのよ。私は精霊に助けてもらっているだけですの」

「へえ、信頼で繋がってるって素敵ですね」

「……あなたも、精霊に愛される素質を持っているみたいですわ。精霊が集って来ている……うふふ、もゆるちゃんにはまだ見えないかしら?」


 ディアは意味深に微笑むと、ユウトの頭を撫でて話を切り上げた。


「とにかく、私もボス戦に参戦させて頂きますわ。どうぞよしなに」

「……まあいいだろう。ここから先、何があるか分からんから気を付けろ。ボスのフロアまであと10階……どんな罠があるか予想が付かん」

「宝箱の罠ひとつ取っても、ここのボス性格悪そうだもんね~。絶対まだ罠フロアあるよね」

「モンスタールームみたいに、分かりやすい罠だといいんですけど」


 罠はきっとある。

 しかし、ヴァルドが言っていたように必ず活路があるのなら、全員で当たればどうにかなるだろう。

 レオたちは気を引き締めて、下り階段を降りた。


 下るほどに敵の数は多くなり、フロアも無駄に広く、同じような景色の通路と扉がずらずらと並ぶ。

 けれど、エルドワがいるおかげでそれほど影響はない。

 この子犬がいなかったらこの部屋を全部確認しながら進まなくてはならないかと思うとぞっとするが、その恩恵を受けている今、考えるだけ無駄だろう。


 パーティは最小限の戦闘だけをこなして、どんどん進んだ。


 途中、何体かの吸血鬼に遭ったけれど、ヴァルドから奴らは攻撃をかわすために数体のコウモリに変化すること、その中で一番最初に飛び立ったものがコアとなる魔石を内包していることを聞いていた。

 吸血鬼はすぐに場所を変えて人型に戻ってしまうが、その前に攻撃を加えれば数ターンで倒せる。


 ヴァルドほどあっさりとは行かないものの、ドレインを発動させない手数と、呼び寄せられた死霊の殲滅ができれば問題は無い。

 レオたちは効率的な戦いを試行錯誤しながら、次のフロアに降りる階段を目指した。


 そして辿り着いた125階。


 ヴァンパイア・ロードの部屋まであと3階と迫ったそのフロアで、パーティはその罠に掛けられた。






「……最悪だ」

「ですねえ」


 絶望したように呟いたレオの隣で、ネイは肩を竦める。

 ぐるりと周囲を見ると、入り組んだ通路が四方に続いていた。


「このフロアは迷路になっているみたいですね。さて、どっちに行くのが正解なのかなあ」

「……迷路なんてどうでもいい! 問題は、もゆるとパーティを分断されたことだ!」


 レオはこの上なく激昂している。

 このフロアに降りた途端、2人はユウトたちと別々に配置されたのだ。せめてネイがユウトの方にいればいくらかマシだったのだろうが、残念ながらこちらにいる。

 あちらはユウトとディア、そしてエルドワだ。


「……貴様、何でこっちにいる!? もゆるを護ってろ! いや、それよりもゆると交換しろ! チェンジだ、チェンジ!」

「無茶言わないで下さいよ。おそらく意図的に分けられてますよ、これ。怒るならゲートの主に怒って下さい」

「くそ、もゆるに何かあったら、ここのボスすり潰してやる……!」


 イライラとしたレオが迷路の壁を蹴り飛ばす。普通の石壁なら確実に穴があく威力だが、そこには傷ひとつ付かなかった。

 力尽くで突破できないように、不壊の属性が付いているのだろう。地道に迷路を辿って行かないといけないようだ。


「それほど心配しなくても、向こうはエルドワがいるから、こっちより先に出口を見つけるんじゃないですか? 通路に仕掛けられた罠も見破ってくれるし。もゆるちゃんもディアさんも、おそらく罠解除の魔法持ってるでしょ」

「敵が出た時はどうする。この分け方をされたということは、俺たちの方には物理攻撃が効かない敵、もゆるたちには魔法が効かない敵が出るに違いないんだぞ」

「それこそ、エルドワが頼りになるんじゃ? 多分子犬だから適当に当てられたんでしょうが、エルドワが向こうにいるのは大きいですよ」

「まあ、確かにそうだが……。エルドワは強いのは間違いないが、色々未知数だからな……」


 この辺りの敵から物理攻撃を一発食らったら、簡単にやられてしまいそうなユウトとディア。

 それをあの子犬1匹で護りきれるだろうか。


「……とりあえずここで心配していても始まらないか。もゆるたちとの合流を目指そう。……くそっ、この壁、気配なんかも遮断してるな。方向の見当もつかん」

「オーソドックスに壁に印付けながら行きますか。壁が移動しちゃったりしたらアウトですけど」

「ここまでのボスの性格の悪さを考えたら、この壁は絶対動く。無駄だ」

「じゃあ、勘頼りで歩きますか?」

「とりあえずはそれでいく。どうせ、この迷路は俺たちを敵のいる場所へ誘導するだろう。敵を倒せば何かヒントが見つかるかもしれん。エルドワもいないのだし、俺たちは必死に出口を探すだけ無駄だ」


 レオはそう言って、さっさと歩き出した。

 割り切りが早い……というのもあるだろうが、とにかく早くユウトと合流したいのだろう。

 まあ、特にその歩みを止める理由もない。

 ネイもレオに従って、先の見えない迷路を歩き出した。

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