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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、弟に恐れおののく

「……エイジ・ドレイン?」

「そうです。年齢をドレインされるというとても珍しい罠ですが、おそらくこの宝箱の鍵はあらゆる種類の罠を網羅しているのでしょう。これはまだマシな方だったかもしれません」


 ヴァルドの説明に、レオはユウトを見た。

 今、弟はエルドワと絨毯の上でころころ転がって遊んでいる。

 何故だが魔女っ子コスチュームもそのまま子供用になっていて、服がなくて困るという事態にならなかったのだけは助かった。

 しかし、どうすればいいのだ、これは。


「まさか、開錠を試しただけで罠が発動するとは……。前に来たパーティも、きっとこれで掛かった罠を解くために、危険を承知で何度も鍵開けに挑戦する羽目になったんでしょうね。俺たちも、もゆるちゃんを戻すために絶対宝箱を開けなくちゃならない状況になっちゃったし」

「彼らが立て札に発動した罠をメモしていたのは、そうして試して、残っている罠を推察するためか。後はどんな罠が発動するのか……」


 ネイが鍵の内側のピンを探ったところ、全部で50くらいの罠があるようだ。そのうちの20以上を前のパーティが試してくれているが、まだ残りが30近くある。無事に開錠出来る気がしない。


「でも今回はダメージものじゃなく、もゆるちゃんがさらに可愛くなるだけで済んで良かったかも。ダメージものだったら、俺がソードさんに殺されてた、マジで。俺のせいじゃないのに」

「はあ? もゆるがダメージ受けて、貴様が無傷なのがどう考えてもおかしいだろう。その状況が許せん」

「ひどい! でもその不条理なとこも好きですけど!」

「鍵のピン全部押し込んで死ね」


 レオはそうネイに吐き捨てて、再びユウトを見た。


 本当に小さい。おそらく4歳児くらいだろう。転がっているからパンツが見えているが、このくらいだと微笑ましい。

 ……いや、和んでいる場合ではないか。

 それにしても可愛すぎるんだが。何だこの生き物。


 複雑な思いで弟を見ていると、ヴァルドもそちらを見た。


「この状態では、今日中に下の階に進めそうにはありませんね。私も制限時間いっぱいですので、そろそろ戻ります」

「もうそんな時間か……。まあ俺たちも、宝箱が開いても開かなくても今日はここまでにするか。敵が出ないから、野営するにはもってこいだしな」

「吸血鬼の倒し方のヒントはまた明日、ここから進めたらにしましょう」


 そう言って、ヴァルドがユウトの元に歩いて行く。

 そして小さな身体をひょいと抱き上げた。


「もゆるさん、私はそろそろ戻りますね」

「……ばるどさん、かえっちゃうの?」


 舌っ足らずで、こてんと首を傾げるのが可愛らしい。ヴァルドはその頭を撫でた。


「明日また呼んで下さい。もゆるさんのためなら喜んで飛んできますので」

「ん、またあちたきてね、ばるどさん」

「はい。また明日」


 その身体を降ろして、ヴァルドは少し緩んでしまった頬の筋肉を引き締めると、レオとネイに一礼をして魔方陣の中に消えていった。

 それを見届けたユウトが、ぱたぱたとレオの元に走ってくる。

 いつもならそれを歓迎する兄なのだが、今日ばかりは少々及び腰だった。


「にいに、だっこ」


 ヴァルドにされたのと同じようにして欲しいのだろう。手を伸ばして、笑顔でだっこをせがんでくる。

 やばい、『にいに』の破壊力がすごい。レオは思わず一歩後ずさった。


「だ、駄目だもゆる……! 俺に近付くな! 死ぬぞ!」

「ちぬ?」


 きょとんと見上げるユウトの可愛らしさが半端ない。

 さらに一歩後ずさったレオに、隣で見ていたネイが怪訝そうに訊ねた。


「……ソードさん、何言ってんすか? 意味分かんなくてもゆるちゃんもぽかーんですよ」

「馬鹿野郎! こんなに小さくて細くて可愛いんだぞ! 俺が触ったら骨が折れるかもしれんし、抱っこしたら抱き潰してしまうに違いない! 危険すぎる……!」

「あー、幼児の扱い方分かんないってことですか。確かにソードさんと幼児って結びつかないもんなあ。もゆるちゃん、こっちおいで」


 どんな屈強な魔物相手でも怯みもしないレオが、こんな小さな子ども相手に戦々恐々としているのだから面白い。

 ネイは内心で苦笑しながら、素直にこちらに寄ってきたユウトを抱き上げた。


「うわ、ほんと小っちゃ軽い。でもまあ、ちゃんと俺たちの記憶あるし現在の状況分かってるし、おとなしくて良い子だし、扱いやすいわ」

「ぼく、ちぬ?」

「んーん、ちなないちなない。ふふ、舌っ足らずなの可愛いなあ。……さて、にいににも抱っこしてもらおう」


 言いつつ、ネイはレオの正面に立つ。

 おそらくユウトはレオに抱っこしてもらうのが一番安心できるだろうし、彼が変に緊張していると子どもも不安になってしまう。とっとと慣れてもらわなければ。

 ……まあ、その反応が面白そうだから見てみたいという理由でもあるが、ネイは妙に構えたレオに指示をした。


「ソードさん、腕を曲げて。こうやって……そのまま固定してて下さいね」

「き、貴様、何を……! ちょっと待て、心の準備が!」


 子どもを支える形で腕を固定させ、そこに小さなユウトを乗せてやる。途端にレオの身体がガチガチに固まったが、ユウトは安心したようにその胸にもたれた。


「ど、どうすればいいんだ、これは……!?」

「逆の手でこう、背中を支えてあげて下さい。エルドワだって普通に抱けるんですから、大丈夫でしょ」

「エルドワはああ見えて剛の者だぞ、こんなに細くて甘い匂いのする弟とは違う!」


 テンパり方が半端ない。レオのこんな姿を見るのは初めてだ。マジで面白い。

 手のやり場に困っておたおたする主を見ながら、ネイはついやに下がりそうになる顔を懸命に堪えた。


「もゆるちゃん、にいにに抱っこしてもらえて良かったね」

「うん! ぼく、にいにだいちゅき」

「くっ……!」


 ユウトの笑顔に、レオが膝から崩れ落ちた。もちろんだが、弟を取り落とすようなことはない。


「おやおや、どうしました、にいに?」

「か、可愛すぎて、萌え死ぬ……!」

「にいに、だいじょぶ? ちんじゃだめ」

「ちなん!」


 ユウトに心配そうに見上げられ、レオがたまらず抱きしめた。もちろん抱き潰すようなことはなく、結局何があったって弟を傷付けるようなことはできないくせにと、ネイは笑って肩を竦めた。


「さて、にいにがもゆるちゃんの抱っこに成功したところで、とりあえず一旦休んで作戦会議しません? 集中力が続かないし、発動する可能性のある残りの罠を予測しておきたいので」

「貴様がにいに呼びするな。……まあ、30階近く下ってきた後だしな。今日は終わりにして、少し現状をまとめよう。もゆるも早めに寝かしてやりたいし」


 レオはそう言って、若干名残惜しげにユウトを絨毯の上に降ろした。


「もゆる、俺たちは今からテントと夕飯の準備をするから、エルドワと一緒に遊んでいろ。危ないことはするなよ」

「はあい」


 良い子の返事をしたユウトは、再びエルドワと戯れる。幼女(?)と子犬、何とも和む光景だ。

 いつものユウトももちろん可愛らしいが、子ども特有の、あの庇護欲を刺激する非力さとちんまり具合がたまらない。


 ……いやいや、ドレインの罠に掛かってしまったという深刻な状況のはずなのに、これではいかん。もっと危機意識を持たなければ。


 そう思いつつも、レオは後でインスタントカメラのフィルムを全部使い切る勢いでユウトの姿を写真に収めようと決めていた。

 今度、ライネルとタイチに見せびらかそう。




 レオとネイが野営の準備をしている間、ユウトはエルドワと広いフロアを走り回っていた。

 ふかふかの絨毯は転んでも全然痛くない。

 時々転がってはきゃっきゃっとはしゃいで、また起き上がる。


 しかしそれに飽きると、ユウトはエルドワを伴って宝箱の所に行った。


「エルドワ、たからばこにさわったら、めーだよ?」

「アン!」

「あけるのすごくむずかちいんだって」


 宝箱は危ないから触っちゃ駄目、と認識している。ユウトは立て札の方を眺めた。

 幼児だが、ここまでの記憶はあるから文字は読める。ただ、思考回路が4歳児だ。深くは考えず、そこの字面だけを読み上げた。


「すすみたくば、このたからばこをあけよ。なにがおこるかはうんしだい……」


 瞳を瞬かせて、数度それを読む。


「もゆる!」


 そうしていると、不意にレオに呼ばれた。どうやら晩ご飯ができたようだ。

 ユウトは振り返り、立て札への興味は一切忘れて、「はあい」と返事をした。


「エルドワ、にいにのところまで、きょうそう!」

「アン!」


 そのまま2人は走り出し、弟を待っていたレオに飛びついた。


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