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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、呼び出される

 レオは、不死者の中でも幽体の敵が嫌いだ。苦手というよりも、とにかく嫌いだ。この腹が立つほどの手応えの無さ。

 通常攻撃のダメージは0か1,レオとネイはクリティカルを狙って出せるが、それでも100がいいところだ。ランクS級魔物の体力を考えると、先はまだまだ長い。


「うわっと、あぶねっ!」

「くそ、どかどかと走り回って鬱陶しい」


 馬の魔物はこちらに睡眠が効かないと分かってから、魔法と蹄を使い分けて攻撃を仕掛けてきている。氷の魔法を放ちつつ、レオたちを踏みつぶすか蹴り飛ばすかしようと駆け回る。

 2人はそれを追いはせずに待ち受けて、地道な体力削りを続けていた。


 自分たちが動くと、ナイトメアの行動範囲も変わるのだ。万が一奴の行動範囲が村の方まで及ぶと、ユウトたちが見つかりかねない。ここから動くわけにはいかなかった。


「これ、想像以上に時間が掛かりそうだなあ」

「まだ30分も経ってないぞ。愚痴を言う前に集中しろ。近くに来た時に、最大限の手数を打ち込めるようにな」

「分かってますけど……ん? あれ?」


 不意に、ネイが眉を顰めて馬を見る。それに気付いて、レオもナイトメアの大きな身体に目を向けた。

 視線の先、少し離れたところにいる魔物の身体が、魔法の薄い緑色の膜に覆われていく。

 2人はその魔法の正体に気付いて唖然とした。

 それは過去に、高ランクのゲートで何度か見たことのある魔法だったのだ。


「……な、ちょっと待て、あれは……」

定期再生魔法リジェネレイト……! 嘘でしょ!?」


 ネイが呟いたのと同時にナイトメアの魔法の膜が弾け、今までレオたちが地道に与えたダメージが回復してしまう。

 ……最悪だ。思わず2人は脱力しかけてしまった。

 今まで与えたダメージどころか、これから与えるダメージも回復されることが確定したからだ。


 この定期再生魔法というのは回復魔法の上位に当たる。

 回復魔法は1回ごとに詠唱が必要だが、こちらは1回詠唱すれば常時発動となり、一定時間ごとに自動的に体力が回復するのだ。当然、僧侶や賢者系でも修得者が限られる上位魔法。

 間違ってもナイトメアが使える魔法ではない。


「何でこいつがこんな魔法持ってんのよ!?」

「知るか。……それより、今ので俺たちの攻撃では埒があかないことが判明した。早急に他の策を考えないといかん」


 他の策、と言っても、取れる手段は限られている。

 ……頼りはユウトしかいない。


 再び縦横無尽に駆け回り始めた馬の魔物を避けながら、2人は剣を収めた。どうせ攻撃したところで焼け石に水だ。


「定期再生魔法の周期はおそらく30分に1回。その間に倒すしかない」

「回避されるの覚悟で、もゆるちゃんにでかい魔法をぶち込んでもらうとかしないと……。魔力節約して小さいのちまちま当てても間に合わないし」

「あとは俺たちの武器に属性魔法も掛けて、一気呵成で行くしかあるまい」

「そうですね。……ただこいつダメージ食らったら、回復するまで30分間走って逃げ回る可能性が……」


 確率回避を持つ上に逃げ回られると、正直討伐は難しい。もちろん倒せる可能性はあるが、体力と根気と多大な魔力が必要となる。

 とにかくユウトの負担が大きすぎるのが問題だ。


「予定より早いが、ヴァルドを呼び出して加勢してもらうか……」

「それも考えましたけど、ヴァルドが睡眠無効を持ってる前提じゃないと危ないですよ。あいつメンタル弱そうですもん。すぐ壊されそう」


 確かに、召喚している時のヴァルドは自信満々だが、あの農場にいる状態の彼も同一人物だと思うと、メンタル的に頼りになる気がしない。最悪の場合、悪夢によって恐怖心や劣等感を煽られて、操られることもあり得るのだ。そんなことになって、あれを敵に回すようなことは勘弁願いたい。


 半吸血鬼なのだし状態異常には耐性がありそうではあるが、無効が付いていないとやはりキツい。


「キイとクウも難しいな。彼らもあらゆる属性に耐性は高いが、無効は炎と毒しか付いていない」

「結局、頼みの綱はもゆるちゃんしかいないってことですね……」

「……そうだな」


 こうなっては是非もない。どれだけユウトの労力を減らしつつダメージを与え、ナイトメアを倒せるか。

 レオは思考をそちらにシフトする。


「……とりあえず、次の定期再生魔法が発動するまで、このまま避けていくぞ。その後の30分で仕留める。まず、もゆるの魔法で俺の武器に属性を付けてもらおう。そしてとにかく馬の脚を狙う」

「脚を潰して逃げられないようにするんですね」

「そうだ。移動を封じたら、今度はお前も加わって頭を狙え。こっちは気絶スタン狙いだ。気絶すれば、確率回避が出来なくなるからな」


 自身の身体能力による回避と違って、確率回避は常時発動の魔法の一種だ。つまり、気絶すれば自ずと魔法は解ける。

 確率回避さえ解ければ、首を落とすのは一撃でいけるのだ。


「気絶かあ……余程上手く攻撃を当てないとですね。確率回避で芯をずらされちゃうから、30分以内に行けるかどうか……」

「今考えられる効率的な攻撃はこれくらいだ。残り10分になっても目処が立たない時は、もゆるに魔法攻撃も加えてもらう」

「了解です。じゃあ、もゆるちゃん呼びます?」

「……大声はやめろよ。ナイトメアに気付かれる」

「はいはい。窓の陰からこっちの様子見てるみたいだし、合図送れば来てくれると思いますよ、っと」


 言うなり、2人は飛び退く。その間をナイトメアが駆け抜けて行った。勢い余ってだいぶ大きく通り過ぎていく。

 ネイはその隙に村の民家を振り返り、ユウトに手を振って合図を送った。






 レンガ造りの民家の二階に上がり、ユウトはエルドワを抱いて窓からこっそり外を眺めていた。

 最初こそ敵を攻撃していた2人が、剣を収めて敵を避けながら何やら話し合っている。もしかするとイレギュラーがあったのかもしれないと、ユウトはハラハラしながら見ていた。


 あのめちゃくちゃ強い2人が攻めあぐねている。この戦い、大丈夫なのだろうか。


 窓際でそわそわしていると、不意にネイがこちらを向いた。そしてユウトに向かって、手招きをする。どうやら呼んでいるみたいだ。

 何かユウトでも役に立てるようなことが出来たのかもしれない。

 もちろん、呼ばれたのは自分だけ。エルドワは危ないから連れて行けない。


「エルドワ、ごめんね、ここでおとなしく待ってて。僕は呼ばれたから行ってくるよ」

「アン? アンアンアン。アンアン」

「もしかして、ついてくるって言ってる? 駄目だよ、睡眠無効ないんだから。悪夢見せられて、精神的にやられちゃうんだって」

「アンアン。アンアンアンアンアン。アンアンアン? アンアン。アン」

「……説得してるんだろうけど、長すぎてもはや何言ってるのか分かんないなあ……。とにかく、エルドワは来ちゃ駄目。良い子にしてて」


 ユウトはエルドワを腕の中から降ろすとその頭をひと撫でして、ひとりで一階に降りた。音を立てないようにこっそりと扉を出る。

 そして駆け回るナイトメアが遠くに走って行った隙に、急いでレオたちと合流した。


「兄さん、先生、何かあった?」

「話は後だ。もゆる、ナイトメアが回復をしたら、すぐに俺の武器に属性魔法を掛けてくれ。炎でいい」

「え、ナイトメアって回復するの?」

「モンスターデータには載ってないんだけどね、回復しやがったのよ。おかげで俺たちの通常攻撃が全く役に立たないの」


 なるほど、それで回避されるの覚悟で、ダメージの通る魔法の属性を付けることにしたわけか。

 納得したユウトは、魔法発動のタイミングを見極めるため、回復するという馬の魔物を観察した。


 そんなユウトを認めたナイトメアが、不意に脚を止めていななく。その足下に魔力の渦が巻いた。


「魔力が巻いてる……回復が来るかな?」

「いや、これはもゆるに睡眠魔法を掛ける気だ」

「あ……ホントだ」


 魔物の魔力が移動してきてユウトの身体を取り囲み、そして霧散する。

 確かに睡眠の魔法だ。効きはしないが、掛けられた感覚は分かる。


「もゆるちゃんにも睡眠が効かないのが分かったから、また突っ込んでくるよ」

「貴様、俺があいつの脚を折るまでもゆるをしっかり護れ」

「もちろんです」


 再びこちらを蹴散らそうと駆け回り始める馬。ユウトはネイに誘導されて、どうにかその攻撃を避けた。

 それを何回か繰り返す。

 そうしているうちに、ナイトメアが薄緑の魔法の膜で覆われていくのに気が付いた。


「……あれは何?」

「来た、定期再生魔法だ。回復するぞ。もゆる、俺の武器に属性を付ける準備を」

「あ、うん」


 ユウトは慌ててレオに向かって手を翳す。

 そしてナイトメアの魔法の膜が弾け、回復するのと同時に、レオの剣に属性を付けた。


「……ここから30分が勝負か」


 刀身がぶわりと燃え上がった剣を、兄が一振りする。彼はそれを両手で構え直すと、集中力を高めるように静かに長い息を吐いた。


「……行くぞ」


 一陣の風が吹く。

 呟いた次の瞬間には、レオはナイトメアの脚下に潜り込んでいた。


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