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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、弟を置いて中ボスに挑む

 ゲート攻略2日目。

 今日の目標は、本格的に不死者の出始めるフロアの手前、50階だ。攻略資料によると、そこには固定モンスター、いわゆる中ボスがいるらしい。


 食事も休養も十分に取った3人と1匹は、余力を保ちつつそこに向かって最短距離を進んでいた。

 どんどん敵は強くなってくるけれど、最低限の魔物しか相手にしなければどうということもない。ほとんどが出会い頭にレオによって葬られてしまうから、1日目と進むスピードはそれほど変わらなかった。


「もう太陽が地平に落ちそう……。だいぶ暗くなったね」

「出てくる敵も夜行性のものが多くなってきたようだ。蛾やネズミやコウモリ……地上では雑魚だが、ここにいるのは見た目が似ているだけで別物だ。はるかに厄介だから気を付けろ」

「うん。……50階にはどんな魔物が出るの?」

「50階に出るのはナイトメアだね。まあ、全員睡眠無効付いてるから、どうにかなるかな」


 殿を歩くネイが、ウィルにもらった攻略資料のまとめを眺めながら答える。


 ナイトメアとは、悪夢を司る半幽体の大きな黒い馬の魔物だ。

 強度の睡眠魔法を持っており、眠らせた敵の夢に潜り込んで、圧倒的な優位による精神攻撃を仕掛け、魔力を削る。

 未熟な者だとトラウマを植え付けられたり、無気力にさせられたり、挙げ句は精神を破壊されることもある難敵だ。


 ただ、眠りさえしなければごり押しで倒せるモンスターでもある。

 半幽体だけあって物理攻撃が効きづらい上に魔法回避が高いという面倒な相手だが、このメンバーなら行けるだろう。

 レオは50階まではそれほど心配していなかった。


「エルドワは大丈夫なのかな?」

「アン?」


 しかし、ユウトの疑問に、そう言えばと振り返る。

 弟の足下を歩いている子犬。何の装備もしていない、ただのころころもふもふ毛玉だ。

 さすがに睡眠無効を持たずに強魔法を掛けられたら、眠ってしまうかもしれない。


「……ナイトメア戦の間は、エルドワを外しておいた方がいいかもしれないな。どうせ50階には1匹しか敵が出ないと言うし、どこかに隠れていれば平気だろう」

「アンアン? アンアンアン! アン! アンアンアンアンアンアン!」

「うは、エルドワめっちゃソードさんに反論してるけど、何言ってんだか分かんねえ~」

「……エルドワ、戦えるの?」

「アン!」


 とりあえず、本人(犬)は戦う気満々の様子だ。


「お前、睡眠無効持ってるのか?」

「アーン?」

「何、『持ってませんがそれが何か?』みたいな顔してるんだ。無いなら駄目だぞ。危ない」

「ウー……アンアンアン!」

「怒っても無駄だ」

「エルドワ、兄さんは心配して言ってくれてるんだから、言うこと聞いて。ね?」

「……キュウン」


 ユウトに諭されて、ようやくエルドワが引き下がる。それを見たネイが苦笑した。


「さすがに自ら従属を誓った騎士は、姫には逆らえないね」

「……僕、姫じゃないですけど」

「分かってるけど、立ち位置的な話でさ」


 姫か。

 ヴァルドといいエルドワといい、高位の魔物の血を引く半魔が、何故進んでユウトに従属したがるのだろう。キイとクウも最初、ユウトを『あの方』と呼んでいた。そう考えると弟には本当に、そういう高貴な血が入っているのかもしれない。


 ……まあ、今そんなことを考えても意味のないことか。


 レオは再び下り階段を目指して歩き出した。






 そして辿り着いた50階。

 妙に静かなフロアには、半分暗くなりつつも、半分夕焼けで血のように赤く染まった空が広がっていた。地平ぎりぎりに、かろうじて残る太陽の欠片。次の階からは完全に隠れてしまうのだろう。


「……何か、不気味だね」

「不死者がいると分かっているゲートだぞ。今までが明るすぎたんだ。お化け屋敷に入ると思って、気にせずにいろ」

「お化け屋敷、そもそも苦手なんだもん……」


 そう言って眉尻を下げる弟は可愛らしいが、泣き言を言ったところで詮無いことだ。ただ宥めるように頭を撫でた。


「フロアの奥にナイトメアがいる気配がするな。一応、モンスターデータを確認しておこう。もゆるも、最初にどんな敵か、何が効くか分かっていれば過度に恐れることは無くなるだろうし」

「……ナイトメアも不死者なの?」

「半分だけ幽体だな。まあ、こいつは誰かの夢に入り込まない限りは、実体が消えることはない。直接攻撃が効きづらいのが難点だが、とりあえず普通に戦える」

「それから、攻撃魔法は全般的に効くんだけど、回避率が半端ないらしいんだよね。資料によると、この階で魔術師が魔力使い果たして戻るパーティが多かったみたい。すぐに再突入しないとナイトメアがリスポーンしてもう一度戦う羽目になるし、ここは魔術師温存した方が良いってウィルも言ってたよ」


 確かに、時間は掛かるが直接攻撃でごり押しで行けるのだから、その方がいいかもしれない。

 ゲートでの野営による休息は、体力は満タンまで回復するが、魔力は30%くらいしか回復しないのだ。これはゲートの中に、魔力を供給してくれる精霊が少ないからということらしい。


「だったら、もゆるもエルドワと一緒に隠れていてもいいかもな」

「そうですね。武器に属性付けてもらうにも、ダメージは行くけど高確率で回避されるようになっちゃうし……魔法にはあんまり頼れない相手ですからね」

「……僕、ナイトメア戦で役に立たない感じ?」


 ユウトの言葉に、レオは強く首を振った。


「違う。お前が役立たずなどということがあるわけがない。言うなれば、誰が行っても一長一短の攻撃しか出来ないということだ。その中で、俺たちはもゆるを温存する選択をしたというだけの話だよ」

「まあ、大したダメージ通せない時点で、俺もソードさんも役立たずみたいなもんだしね。ナイトメアはランクS、さすがに面倒な相手だわ」


 面倒というか、面倒臭い相手だ。ナイトメアは結局、直接攻撃と魔法攻撃でごり押しする以外の攻略方法がまだ確立されていない。

 いや、時間と魔力はとても掛かるものの、これで倒せるだけマシなのかもしれないが。


「2人だけで平気なの?」

「大丈夫だ。ただ、おそらくナイトメアを倒すのに数時間掛かる。黙って待っているのも大変だろうが、辛抱してくれ」

「す、数時間?」

「少しずつ体力削っていかないといけないからねえ。魔力の方が数値がずっと少ないから、そっちを削げるといいんだけど」


 魔力を削ぐには、魔法を使わせるか、魔力にダメージの行く攻撃をするかくらいしか方法がない。

 知力の高いナイトメアは魔力を使い切って昏倒することなどないし、レオたちはナイトメアのように魔力にダメージの行く攻撃方法なんて持っていない。地道に体力を削るよりほかないのだ。


「……そろそろナイトメアの感知範囲に入るな。もゆる、エルドワを連れてそこの民家に隠れていろ」

「うん……兄さんも先生も、気を付けてね。もし僕の力も使えるようだったら呼んでね」

「アンアン!」

「そうだね、ここなら大声出せば聞こえそうだし。もゆるちゃんたちの助けが欲しかったら呼ぶよ」


 ナイトメアのいる場所から少し離れたところでユウトたちと別れる。他に魔物がいないと分かっているから安心だ。

 ユウトとエルドワが建物の中に入るのを確認して、レオとネイはフロアの奥に進んだ。


 村の外れ、夕焼けの赤が照らす湖面の縁。

 そこに揺らめく大きな黒い影がある。こちらを認めたその瞳も深い赤。静かだったフロアに、馬のいななきが響き渡る。


「行くぞ」

「りょーかい」


 レオたちはここからの長丁場を思い、少し億劫な気持ちで剣の柄に手を掛けた。


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