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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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【一方その頃】ジラックの査察 3

 キイとクウを街中の聞き込みに送り出し、ネイとオネエもそれぞれ敵減らしに向かわせた。


 残るルウドルトもひとりで貴族の居住地区に行き、不正な金の流れを調べようと思っていた、のだが。

 それよりも気になることが出来てしまった。ルウドルトは即座に予定を切り替え、そちらに向かうことにした。


 まずは細い路地に入って、つけてきていた刺客を一掃する。

 その中から私兵の鎧を一揃え分剥ぎ取り、手早く着替えた。

 フェイスガードのある兜を被れば、一見で顔がバレることはない。その懐に入っていた所属証のカードも拝借して、ルウドルトは街の奥にある兵舎へ向かった。


 ジラックには王都から派遣された憲兵が駐屯する兵舎と、街の私兵の兵舎が併設され、大きな合同修練場があった。ジラックに来た時はいつもここで修練をしていたから、内部構造は把握している。


 この兵舎のある場所の一区画には、武官たちが緊急の有事の出兵に備えて居を構えていた。その中にリーデンの家もあったはず。


 そう、ルウドルトは、直接リーデンに会いに来た。

 さっきまでは彼を引きずり出して倒せばそれで良いと思っていたけれど、どうやらそんな簡単な話ではないようだからだ。

 それにリーデンの忠誠が今どこにあるのか? ルウドルトはその行方も知りたかった。


 大きな柵で囲われた屯所の入り口で、所属証を提示して中に入る。

 入ってすぐの広い修練場は、兵士が全くいなかった。


(昔は活気があり、皆で切磋琢磨したものだが……)


 今の領主になってから、憲兵は全て追い出された。今やここにいるのは領主と貴族の雇っている私兵のみ。寂しいものだ。

 兵舎には人の気配があるが、思い思いに動いていて特に統率された部隊ではなさそうだ。もしかすると、個別の傭兵ばかりなのかもしれない。


 ルウドルトは兵舎の横を抜けて、リーデンの住居に辿り着いた。

 中にある気配はひとつ。間違いなく彼のものだ。

 リーデンが昔のままの男なら、あちらもここにいるルウドルトの来訪に気付いているはず。


 ……外に引っ張り出すために殺気でも飛ばそうか。


 そう思った矢先、中の気配が動いた。






「……こいつら、何もネタになるもん持ってねえなあ」


 十何人目かの刺客を返り討ちにし、その懐を漁るけれど、めぼしい所持品は何もない。

 ネイはため息を吐いた。


 おそらくオネエの方も同様だろう。こいつらはジラックの私兵の鎧は着ているけれど、どうやらただの雇われ兵だ。

 特に惜しくもないから次々投入してくるのか。


「何人か見逃してやったから報告が行ってるだろうに、強い奴を投入してくるでもないし……」


 そこには何かネイたちが与り知らない理由があるのだろう。妙な展開に、ネイは途中から兵士たちにとどめを刺すのを止めていた。


「しかしこの分じゃ、キイとクウのとこにも刺客が行ってるかもな。まあ、そうそう攻撃が通らないから平気だろうけど」


 そう独りごちて、ネイは街中に歩む向きを変える。

 敵を減らすにしても、これは違和感がありすぎた。一度、みんなで集まって情報交換をした方がよさそうだ。


 ネイは気配を消すと、追っ手をまいてキイたちの方へ向かった。






 街中でキイとクウを見つけると、やはりネイと同様に違和感を感じたらしいオネエもすでにそこにいた。


「リーデンを引っ張り出すどころじゃねえよな。どうでもいい私兵をどんどん送り込んできて、わけ分かんねえ」

「リーダーのとこも? 何かの思惑を感じて、あたしも離脱しちゃった。ルウドルト様に報告をした方が良さそうだわ」

「キイとクウのところにも2回ほど刺客が来ましたが、統率のなっていない傭兵のようでした。街で聞いた話では、領主が各地から冒険者くずれの兵士を雇っているとか」

「なんだそりゃ。ほとんどならず者じゃねえの」


 ネイたちは領主の不正や反国王派の主導者ばかりを調べていたが、どうもジラックは軍の体系もおかしいようだ。

 元々リーデンのみが突出して強く他は駄目駄目という状態だったから、その組織自体に目を向ける必要も無かったのだけれど。


「こんな状態で、よく王都にケンカ売ろうとしてたわね」

「そうだな。……逆に、どうしてこの状態であれだけの強気でいられるんだ? いくらアホでも、まともに王都とやり合えば負けることくらい分かるだろうに」


 まだ闘技場のある頃なら、魔物を使ってどうにか王国軍と戦わせることも出来ただろう。それもなくなって、リーデンも側仕えさせずに、ルウドルトの前で横柄な態度を取れるのはどういうことか。

 ……何か、別の切り札を抱えている。

 おそらくそういうことだろう。


「……裏であのアホ領主に力を貸している奴がいるのかもしれないわね」

「力を貸してると言うよりは、取り入っていいように操っているのかもな。表に姿を現さず、自分たちが荷担している痕跡を残さない。……パームとロジーを隠れ蓑にしていたように」

「……裏にいるのは魔研、よねぇ。やっぱり」

「現状を見る限り、物理的な護りがあるとは思えねーもんな。だとすれば、術式による護りだ。そんなん普通、街の領主が使えるもんじゃないし、ほぼ確実だろ」


 まあ、最初から魔研は領主に関わっているだろうとは思っていたけれど、この歪な軍の様相が奴らの指示だとしたら、一体何を企んでいるのか。

 そしてこうなると、リーデンの立ち位置がよく分からない。


「……何か、俺らが思ってるよりジラックの内情はずっと複雑そうだな。とりあえずルウドルトが来たらもう一回算段を立て直そう」

「……そういえばルウドルト様ってどこ行ったの?」

「知らね。あいつ自分の行動については何も言ってないし」


 ルウドルトがどんな情報を持って帰ってくるのかは分からないが、とにかく一度話を整理しなくてはなるまい。

 夕暮れも近いし、ネイはここで一旦切り上げて、宿屋でルウドルトを待つことにした。

 しばらくすると、報告のためにチャラ男とコレコレもやってくる。






 それからだいぶ時間をおいて、ようやく苦々しい顔をしたルウドルトが戻ってきて。

 そこで彼がもたらした話に、全員が言葉を失うことになるのだった。


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