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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟、冒険者ギルドの長と会う

 昼になるとルアンがやってきて、ユウトのためにとリゾットを作ってくれた。

 その料理に舌鼓を打って一服した後、レオたちはのんびりと冒険者ギルドに向かう。クエスト受付も完了報告も一番少ない時間帯だ。急ぐ必要もないだろう。


「ユウト、顔色も良さそうだな」

「うん、心配掛けてごめんね、ルアンくん。魔石も回収してくれて助かった。ちょうどいい形と大きさのがなかなか見つからないから」

「いいって、気にすんな。ユウトたちのおかげでオレのランク評価上がるし」

「クエストキャンセルのパーティ数が多いほど、難易度が高いということで成功報酬と冒険者ポイントが上乗せされるからな。今回はかなり高い見返りがあるだろう」

「そうなんだ」

「ふっふっふ、この金で自動洗浄付き食器セット作れるかも!」


 ルアンはすでにほくほく顔だ。


「そうだ、ジャイアント・ドゥードルバグの素材の売り上げの一部も後で還元してやる。それがあれば、おそらく料理道具セットも作れるぞ」

「マジで!? 親父たち喜ぶだろうなあ! でもあれって特殊な素材だろうし、何か作る材料にしないのか?」

「武器防具に使えそうな部位は売らんが、他の部分も超稀少なのは間違いない。売れば高値がつくだろう」


 必要がないと判断した部位は、すでに転移ポーチを使ってザインのロバートの元へ送ってある。おそらく前例のない納品だろうが、彼の鑑定眼なら相応の値段を付けてくれるに違いない。


 一応それぞれの素材を少量だけ手元に残しているが、必要なければ最後はウィルへの報酬に回してしまおう。


 そんな話をしているうちに、3人と1匹は冒険者ギルドに辿り着く。するとユウトがそわそわとエルドワを抱き上げた。


「ウィルさん突然変貌するから、エルドワがびっくりして噛み付いちゃうかも……」

「その方がいくらか冷静になるかもしれんがな」

「アン?」

「でもウィルさんってクエスト受付担当だろ? オレたち2階の完了報告の窓口に行くんだし、関係なくね?」

「あの男が魔物データ絡みでおとなしくしているとは思えん」


 レオは今日のウィルが絶対に2階の窓口を担当しているという確信があった。もちろん自分たちが今日来るなどとは告げていないが、彼はレオたちが来るまでずっと2階の窓口で待つのだろう。あの男はそれぐらいの狂気を持っている。


「よし、行くぞ」


 妙な緊張感を持ってギルドの扉を開ける。

 想像通り、クエストの受付にウィルの姿はなかった。


「あ、窓口にいない」


 ルアンもきょろきょろと確認をする。ウィルの『あの状態』を見たことのない彼女は、そのまま平気で正面にある2階への階段に向かった。

 躊躇いのない足取りだ。

 彼女はレオたちをおいて、先に2階に上ってしまった。


 そしてちょっとの間を空けて、すぐに戻ってくる。


「なあ、報告窓口にもいないけど」

「え? そうなの?」


 ユウトがどこか拍子抜けしたような、安堵したような表情で訊き返した。そのままルアンと一緒に2階に駆け上がる。

 レオはそれを急ぐことなく追った。


 もしかすると、今日のウィルは休みなのかもしれない。

 どちらにしろ彼にジャイアント・ドゥードルバグのデータを与えなくてはいけないが、もし今日が休みなら紙にでも書いて明日渡してもらえばいいか。

 そうすれば、あのハイテンションに付き合わずに済む。


 そんなことを考えながら2階のフロアに出ると、確かに窓口にウィルの姿はなかった。


「別に、このまま完了報告していいんだよな?」

「構わんだろう。ピュアネクター・サボテンの花の蜜だけ納品して帰るぞ」


 ルアンを窓口に促して、レオたちもその後ろに付く。報告には冒険者ポイント付与のためパーティ全員のギルドカードが必要なのだ。

 現在報告をしている冒険者はほとんどいない。ルアンは適当な窓口に向かった。


「クエスト完了の受付お願いします」

「はい、ご苦労様です。まずは依頼書と納入品、もしくは討伐証拠品を提示して下さい」

「えっと、はい、これ依頼書です」


 ルアンはポーチからクエストの依頼書を取り出して受付に渡すと、それから花の蜜を取り出そうとした。

 が、納入品を取り出す前に、目の前の担当者が「うわっ」と声を上げて立ち上がる。周囲の視線が、一斉に受付に集まった。


「ちょ、申し訳ありません、お待ち下さい! この報告は……おい! 誰か、応接室にお通しして! ギルド長にも連絡を!」

「え? あの、オレたちが何か……?」

「いえ、あなた方には何の問題もないんです! ただ、ウィルが……」


 ウィルの名前で、レオはあからさまに顔を顰める。

 やっぱりいるのかよ。

 おまけにどうやら我々の納品を待って、応接室にいるっぽい。さらに、ギルド長まで絡んできている……。面倒臭いことになってきた。


「ギルド長って、王都の冒険者ギルドで一番偉い人だよね……?」

「……王都どころか、エルダール王国の冒険者ギルドの中で一番偉い奴だ」

「えっ!? そ、そんな人が何で絡んで来てるの……?」

「さあな」


 おろおろするユウトの肩を落ち着かせるようにさすりながら、周囲の反応を見る。

 最初は何事かとこちらを見ていた受付や冒険者たちは、ウィルの名前が出た時点でどこかそわそわと視線を逸らした。とりあえず、関わりたくないと思っているようだ。変に興味を持たれるよりその方がありがたいが、嫌な予感しかしない。


「……ルアン、冒険者ギルド長がどんな奴か知っているか」

「詳しくは知らない。ただ、女の人だってことしか」

「女?」

「ライネル陛下が国王になった時に全ギルドの長が配属されたんだけど、冒険者ギルドは女の人だったんだって。そのおかげで母さんが、冒険者ギルドは主婦でも働きやすいって喜んでた」


 ……ライネルが配属したギルド長なら、変な人間ではないか。

 それに一応の安堵を得て、案内に出てきた事務の女性を見た。


「応接室にご案内いたします。どうぞ、こちらに」


 彼女に連れられ、報告受付カウンターの横を通って、奥にある通路を進む。そして3階へ上がり、応接室のプレートが掛かった部屋の前に来た。


「中でお待ち下さい。間もなくギルド長も参ります」


 事務の女性は扉をノックして開けるとレオたちだけを部屋の中へ通し、自身はささっとそのまま扉を閉めて行ってしまった。

 彼女も、できれば関わりたくないと思っているのかもしれない。


「お帰りなさい、皆さん」


 応接室の中では思った通り、ウィルが待っていた。

 今はまだいつもどおりの無表情だ。


「そちらにお座り下さい。ピュアネクター・サボテンの花の蜜採取クエストの完了受付をさせて頂きます」

「お、おう」


 かなり身構えていたレオたちは、あまりに普通のウィルの様子にちょっと戸惑う。

 とりあえず促されて、彼の向かい側のソファに座った。

 そこでルアンがポーチから花の蜜を出す。


「これ、納入品」

「ふむ。夜間の素材で量も十分。不純物も混じっていない。報酬ランク++を付けておきますね」

「やった! ボーナス付く! 食器セット作るぞ~!」

「さらに、こちらの依頼はクエストキャンセルが8件入っていましたので、1件につき難度補正5%、計40%の報酬と冒険者ポイントが上乗せされます」

「わ、そんなに? すごい」


 何だかすごくまともに手続きが進んでいる。逆に違和感。

 これだったら、別に窓口での報告で良かった気がするが。


「……おい。何で俺たちはわざわざここに案内されたんだ」


 単刀直入に訊ねると、ウィルは無表情のまま答えた。


「あなた方が報告に来るのを待つために4・5日完了報告の窓口に移りたいと言ったら、ここに押し込められました」

「……意味が分からんのだが」

「こいつ、特殊な納品を見ると窓口で突然豹変するから迷惑なのよ」


 ウィルの後ろの扉が開いて、ひとりの女が入ってきた。

 ウェーブの掛かったピンクベージュの髪を後ろでひとつに束ね、弧を描いた唇の赤がとても印象的な女性。豊満な胸と柔らかなラインの腰回りがやけに際立つ。

 ダイナマイトボディの美女と言って差し支えないだろう。

 どうやら彼女が冒険者ギルドの長だ。


 レオはその姿を見て眉を顰めた。……その顔を知っていたからだ。


「イレーナ……お前がギルド長だったのか……」

「あら……、どこかで見た顔がいるわね。うふ、可愛らしい仲間を連れているじゃない」


 イレーナはこちらを認めるとにこりと笑って、ウィルの隣のソファに優雅に座った。


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