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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、魔物を倒したのもつかの間

 ジャイアント・ドゥードルバグの感知エリア内に入ると、敵は大きな岩を顎ではさんで投げつけてきた。

 レオとルアンはそれを上手く躱しながら巣の中央まで近付き、最初に配置してあった足場に乗り移る。


 よし、ここからは足場が固定されているから戦いやすい。

 2人は剣を取り出した。


「ルアン、ここまで来れば岩の攻撃はないが、大顎ではさまれないように気を付けろ」

「うん、平気。こいつ、動きはそんなに早くないし」

「油断するな。はさまれて毒液を注入されたら一発で死ぬぞ」


 こちらの攻撃が当たる場所というのは、同時に敵の攻撃も届く場所ということだ。こいつは近接攻撃に特化した魔物、何をしてくるか分からない。


 とりあえずジャイアント・ドゥードルバグの正面にはレオが陣取り、裏側にはルアンが立って、互いに隙を探った。


「念のため真後ろには立つな、ルアン。こいつは前には移動できないが、後ろには進める」

「了解」


 ルアンは足場を軽やかに移動する。さすが、盗賊だけあって身軽だ。彼女はアリジゴクの死角から、まずは様子見の一撃を繰り出した。


 頭部を狙ってルアンの短剣の切っ先が弧を描く。

 いい角度だ、とレオは思ったが、しかし次の瞬間、彼女の剣は固い金属に当たったような音を立てて跳ね返った。


「うっわ、何!? 固い!」


 ジャイアント・ドゥードルバグには傷ひとつ付いていない。

 ただ魔物は攻撃に気が付いて、振り向きざまにルアンに向かって毒液を吐き掛けた。


「わわっ、危なっ!」


 足場を飛んでルアンがそれを回避した隙に、今度はレオが後ろから頭を落としに行く。

 しっかりと剣を振りかぶり、頭と身体の継ぎ目を狙って飛び掛かった。


「……ちっ」


 しかし、もえすで作ってもらった剣だというのに、ルアンと同じように完璧に跳ね返されたことに舌打ちする。腹いせがてらその身体を足蹴にして、その反動で足場に戻ったレオに、また毒液が浴びせられた。

 それを避けて後方にひとつだけある足場に飛び退く。


「レオさん! こいつめっちゃ固いんだけど! 近接なら行けるんじゃなかったの!?」

「……もしかすると、攻撃が通るのは砂の中に埋まっている腹部分だけかもしれん。俺が以前に倒した時は無我夢中でどこに攻撃を当てたか覚えてないが、砂の中だったのは間違いなかった」

「えええ……砂から上の部分は攻撃入れられないってこと……?」


 このジャイアント・ドゥードルバグがランクAのゲートにいる魔物にしては動きがトロいのは、表に出ている部分がどんな攻撃も効かないからなのだろう。急いで対応する必要がないのだ。

 それもただ物質的に固いわけじゃない。レオの剣ですら1ミリの傷も付かないということは、その部分に魔法による防護がなされているのだ。


 魔法反射といい防護魔法といい、厄介極まりない。


「こうなると方法は2つ。こいつの埋まってる部分を砂から力尽くで引っ張り出すか、こっちが砂に落ちて腹を裂いてくるか」

「どっちも難儀だなあ~。ていうかさ、この固さって本当に地表部分だけなの? レオさんが倒したジャイアント・ドゥードルバグとは個体差があるとか、ないのかな? 砂に落ちて剣が通らなかったりしたら、完全死亡コースなんですけど」

「おそらくそれはない。こいつには、餌が落ちてきた時の僅かな震動を感じる毛が生えているんだが、それが腹にだけあるんだ。頭の方は固すぎて感覚が薄いから、餌が落ちてくることを感知できないんだろう。つまり、腹だけは防護魔法によるコーティングがされていない」

「あ、なるほど。身体のつくりにも意味があるんだ」


 そんな会話をしている間にも、大顎を振り回した攻撃が来る。それを足場を使って慎重に避けながら、2人は魔物を観察した。


「砂に落ちんのやだなあ……」

「頭の継ぎ目にロープでも引っかけてつり上げることは可能だが、そうなると足場に掛かる重さを支えるユウトの魔力が一気に消費される。今の状態でもどれだけ保つか分からないから、無理はできん」

「うえぇ、結局落ちるの一択じゃん」


 言いつつルアンは魔物を牽制するように、剣で1・2撃を加える。

 レオの方を向いていたジャイアント・ドゥードルバグが、ぐるりと彼女に方向転換した。


 地表に見えている足は4本。この回転は地中にある他2本の足でなしているのだろうか。

 地中はどうなっている?


 これだけスムーズに魔物が方向転換できるのだから、砂地が固くないのは確かだ。レオたちが落ちれば、だいぶ埋まってしまうだろう。

 その上ジャイアント・ドゥードルバグは落ちた獲物にガンガン砂を掛けてパニックを起こさせることもする。

 昔レオが巣に落ちた時も、頭まで砂に埋められてしまって、がむしゃらに暴れて振った剣がたまたまその腹に刺さったから助かったようなものだった。


 最初から覚悟の上で落ちればいくらか違うが、視界も動きも制限された状態では、攻撃を当てるのも一苦労だ。

 もっと何か良い方法はないだろうか。


 そう考えていたレオは、不意に視界に入ったものに気が付いた。


 岩だ。

 さっきここに近付くまでの間にジャイアント・ドゥードルバグがレオたちに投げつけていたいくつもの岩が、巣の斜面を滑って底に集まってきたのだ。

 そういえばこいつ、この岩はどこから取り出したんだろう。

 この砂地にこんなものを置けば、重みで地中にどんどん沈んでしまうはずだが。


 もしかして、この岩を置いておくために、地盤が固い部分があるのか?


 見た目では分かりづらいが、斜面の傾斜角が違うのか、岩は真っ直ぐジャイアント・ドゥードルバグの方には来ずに、少し離れたところで地中に消えていった。全ての岩が、同じ場所で沈んでいく。

 おそらくあそこが、岩の保管場所。


 注意深く観察していれば、最後の岩は浅いところで下の岩と当たり、ゴトンと音を立てた。上に砂は掛かったが、地表ぎりぎりまで岩があるのが分かる。


 見つけた、重みを気にしなくていい絶好の足場。 


 レオはポーチから手探りで魔法のロープを取り出した。

 魔法は使えないレオだが、重みや力だけでは切れないロープはそれだけで役に立つから持っている。

 その先端に輪っかを作り、ルアンに声を掛けた。


「ルアン、こいつを後ろから引き倒して地上に引きずり出す。もう少し左側の足場に移動して、気を引いててくれ」

「っとと、はい、了解!」


 敵の毒液を躱しながらルアンが移動する。レオは岩のある場所を背中側に合わせると、その頭に後ろから輪っかを通し、身体との継ぎ目にロープを引っかけた。


 そのままユウトの作ってくれた足場を飛び降り、岩のある場所へ移る。

 思った通り、そこはしっかり踏ん張れる足場になっていた。


「よし!」


 ジャイアント・ドゥードルバグの身体を魔法のロープで力尽くで引き倒す。

 足下の砂地を自ら柔らかくしていたせいで、踏ん張りの利かない魔物は砂煙を立て、簡単に背中からズンッと倒れる。

 すでに腹が見えているが、さらに力を込めて引けば、その身体は地表で完全に露わになった。


「やった、レオさんさすが! アイテムスティール!」


 速攻でアイテムスティールを掛けるルアンもさすがだ。

 直後にレオも剣を振りかぶり、その腹部に思いっきり突き立てた。

 腹は頭の固さが嘘みたいに柔い。そのまま腹を裂く。


「ギィーーーーーー!」


 ジャイアント・ドゥードルバグは、大顎をガチガチと鳴らした後、ようやく動かなくなった。

 同時に2人が肩の力を抜く。


「わああ、勝った! 良かった! 砂まみれになんなかった!」

「とりあえずはどうにかなったな。じゃあ、後はメインのクエスト、ピュアネクター・サボテンの花の蜜の採取と行くか……っ!?」


 そうルアンに告げた時、不意に近くに別の魔物の気配を感じてレオは振り向いた。

 こっちに集中していたせいで、今まで気付かなかった。

 と言っても自分たちの方じゃない。ユウトとエルドワのいる場所だ。


 唸り、吠えるエルドワの鳴き声が聞こえる。


「ユウト!」


 レオが呼び掛けたのと同時に、ここから見えないところで大きな魔法が炸裂する。

 まずい、もうユウトに大きな魔法を唱える余力はほとんどないはず。


 再びエルドワの鳴き声がして、今までユウトの魔力で浮いていた魔石の足場が、ぽとぽとと砂の上に落ちた。


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