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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、その密かな目的

 10分もせずにルアンが野菜スープと玉子のフィリングを作ってくれて、みんなで頂く。

 ユウトがその滋味溢れる美味しさにほくほくと笑み、エルドワも少し冷ました具だくさんの野菜スープが入った器に頭を突っ込んで、夢中で食べていた。


 それをルアンが満足げに眺め、自身も食事を始める。

 ちなみにレオは黙々と食事をしていたが、ユウト以外に反応しないのはいつものことだから、彼女は特に気にしていない。


「ルアンくんの料理、お出汁が効いてて美味しいよね」

「ウチのパーティおっさんばっかりだからさ、塩分控えめの料理にしてんの。だから塩は最小限で、出汁とかスパイスとか酢で色々工夫するんだよね。おかげで素材の味を生かすことを覚えたかな」

「……普通の野営で使うのは、荷物と手間の観点から干し肉とパンと木の実くらいだが、お前たちのとこはちゃんと料理するんだな」

「だって干し肉の塩分すごいし、その食事にオレが耐えらんないから。おかげで荷物が増えちゃうけど、みんなもちゃんとしたご飯の方がいいって言うよ」


 レオはルアンの言葉をちょっと微笑ましく思う。

 もちろん塩分控えめにしたい思いはあるだろうが、ダグラスたちは冒険者。本来なら探索のセオリーどおり、荷物は極力減らしたいはずだ。野宿が必要な長丁場ならなおさら。それなりのベテランパーティだし、干し肉が嫌だなんて言うまい。


 しかしみんな、まだ15歳で栄養の必要なルアンに、そんな簡素で偏った食事をさせたくないのだろう。たとえ荷物が増えたとしても。

 全員が彼女を娘のように可愛がっている証拠だ。


 ずいぶんと甘やかされている、と思いつつ、自分もユウトのためならそのくらい平気で甘やかす自覚があるから、レオは何も突っ込まない。


 まあとりあえず、今回の呼び出しの謝礼にルアンにはもえす装備をやるつもりだが、その1つ目は大容量のポーチにしてやろうとレオは考えた。さっきの戦いでいい素材も採れている。


 そんな会話をしながら食事を終えると、ユウトがみんなの食器を重ねてまとめた。


「……さすがに、聖水の泉で食器を洗うのは申し訳ないかな」

「いいんじゃないか? きっと今までここを使った人たちもやってると思うよ」

「うん、まあ、そうなんだけど」

「ユウト、それは洗わずに食器を入れてきたケースに戻していい。ケースを閉じると自動洗浄されるようになってる。野営では水は貴重だからな」

「うっそ、マジ!? ウチのパーティにも欲しい……!」

「魔工翁のとこで作ってもらえ。もう設計資料はあるはずだし、ランクAのクエストで少し頑張って稼げば作れる」

「ほんと? よし、がんばろ」


 ルアンはユウトと一緒にケースに食器を戻して、その蓋を閉め、留め金を掛けた。途端にケースの中から水音が聞こえて、2人がワクワクと仕上がりを待つ。うん、微笑ましい。


「終わるまで留め金が外れないようになってるんだね」

「まー途中で開けたら周囲が水浸しになりそうだもんな」

「あれ、温風まで出てる……? 食器乾燥までしてくれるんだ、すごい!」

「お、ユウト、終わったみたいだぞ」

「うん、開けてみるね」


 留め金を外し、ユウトがケースを開けた。

 するとそこには、ピカピカになった食器が一滴の水を残すことなく鎮座していた。一体どういう機構なのだろう。

 まあ、原理が分からなくても使えれば問題ないのだけれど。


「すっげー! これあったら親父たちでも片付けできるな!」

「今は食事の片付けもルアンくんなんだ?」

「だって洗わせても雑だから無駄だもん。どうせもっかいやり直しになるし」


 それは仕方がない、冒険者は基本的にがさつだ。ルアンのようにきっちりしている方が珍しい。叱られるおっさんたちがちょっと気の毒だ。

 ……いや、小言を言いながらも食事の世話をしてくれる娘に、親父たちはやに下がっているかもしれないが。


 はしゃぐ2人から食器セットを受け取ってポーチにしまうと、レオは星が瞬き始めた空を見上げた。


「だいぶ暗くなってきた。あと5分ほど食休みをしたら出発するぞ」

「ご飯食べたし、涼しくなってきたし、元気出た! オレはいつでも行けるよ」

「思ったより月明かりが明るいね、魔法も当てやすいかも」

「涼しくなると昼間は砂地に隠れていた魔物も活動を始める。月明かりがあると敵にも見つかりやすい。気を付けて行くぞ」


 レオは言いつつ、視線を空からユウトへ戻す。

 そして何かを確かめるように手を伸ばし、手のひらで弟の頬から目元を擦った。

 それを受けた彼が、可愛らしく小首を傾げる。


「どうかした?」

「……ここまで大きい上位魔法を連発して来たが、魔力の残量はどうだ」

「ん? ……よく分かんない。少し怠い感じはするけど」

「そうか……」


 その返事に、レオは僅かに眉を顰めた。


 ずっと以前、彼が暗黒児ダークチャイルドと呼ばれていた頃。

 ゲートの深部で魔法を連発していたユウトが、突然魔力切れで気を失う場面が何度もあった。

 どうも彼は自身の魔力量を把握できていないようなのだ。


(まだ平気だと思うが、そろそろ気を付けないと)


 今のこのユウトは、極限まで魔力を使ったことがない。その上限の感覚を掴ませることも、今回のレオの目的のひとつだった。


 ……実は今回、レオはいくつかの目的を持ってゲートに入っている。

 もちろんメインはユウトの魔法の試用だが、他にもエルドワの持つ能力の確認。

 それから、ユウトの魔力を上限まで使わせて、その感覚を教えること。


 そして、ゲートが別世界扱いなら、外の世界にユウトがいない今、魔尖塔は現れているのか。まだ現れていないとして、ユウトが魔力を極限まで使い切った時、世界の魔力バランスが崩れるのか。それを確認すること。


 ライネルに言ったら危険すぎて絶対許可されないような行動を、レオは決行していた。リスクはあるが、これを確認しておかないと、ユウトは不条理に行動を制限されてしまうからだ。

 それは絶対許さない。もう彼を無理に繋ぐようなことは。


 かと言って、この行為で世界が危機にさらされる可能性をよしとしているわけではない。レオはおそらく大丈夫だろうという確信の元に動いていた。


「……さて、そろそろ出発するか」


 レオが立ち上がると、ユウトとルアンもそれに続く。

 エルドワもユウトの足下に来た。


「じゃあ、ピュアネクター・サボテン探しからだね。エルドワ、よろしくね。頼りにしてるよ」

「アン!」


 屈んだユウトに頭を撫でられて、エルドワは元気に返事をした。

 尻尾めっちゃ振ってる。


「やる気満々だな、エルドワ。意気込みすぎてアリジゴクの巣に突っ込むなよ」


 それを見て、からかうようにルアンが笑った。


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