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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、みんなとオアシスで一休み

 ユウトはその後も上位魔法を使いながら、時にはレオやルアンに援護されつつゲートを進んでいった。

 ランクAのゲートとは思えないほど順調なのは、敵に気付かれる前にレオが索敵してくれるのと、エルドワが最短で階段を見つけてくれるおかげだ。


 ユウトの魔法を試すのも1階あたり2回もあれば十分で、後は罠や仕掛けを解けば、地下35階には予定より早く着きそうだった。


「ユウト、止まって。そこ罠がある」

「え、ほんと? ルアンくん、よく分かるね」


 ユウトは立ち止まってルアンを振り返った。


「オレのパーティ、罠が見破れるのオレしかいないからな。場数を踏むと大体見ただけで分かるようになるよ」

「そういうものなの? 僕、いつもレオ兄さんに助けてもらっちゃうから自分で分かんないのかな。訓練のためにひとりでゲート攻略してみようかな……」

「やめろ、危ない。俺が耐えられん。許さん。どうせ必ず俺とゲートに潜るんだから、お前にその能力は必要ない」

「うん、ユウトはやめた方がいい」


 言いつつルアンは砂を少し掘って、作動板と罠を繋ぐ仕掛けを探り当て、手早く分断する。


「これって絶対向き不向きがあると思うんだよね。勘とか気配とか、定義の出来ない感覚を重視する感じ、ユウトにはないだろ?」

「あー……ない、かも」

「逆に、謎解きみたいに答えが定義されているものには強い。そういう棲み分けでいいと思うよ」

「でも、レオ兄さんは謎解きも何でも、ひとりで普通にできちゃうんだよね……」

「レオさんはバケモノだから」


 ルアンは肩を竦めて笑った。


「エルドワも感覚派かな。罠があるところちゃんと分かってるみたいだし、敵がいる場所も把握してるっぽい」

「え、そうなの?」

「まあ、そうだな。罠や敵なんかも匂いで分かっているんだろう。何も考えていないように見えて、結構周囲に気を払っている」


 レオの言葉に、ユウトは足下にいるエルドワを見る。

 ぴるぴると尻尾を振る子犬は本当に、思った以上に優秀らしい。


 ルアンが罠を解除すると、階段が近いのか、エルドワは先導して歩き出した。






 地下35階。

 ここが今回のクエストの採取対象、ピュアネクター・サボテンが生えている場所だ。サボテンはこの階にひとつしかないらしい。

 フロア自体は他と特別変わったところはないが、少しだけ砂漠の面積が広いようだった。


 時刻は夕方6時を回った頃。

 移動しつつ簡易の昼食をとってから、すでに6時間経っている。

 おまけに足場の悪い砂地を歩いているせいで疲れが出て、集中力も切れかけていたユウトたちに、レオが声を掛けた。


「近場にオアシスがある。少し休んでいくか」

「……でも、このフロアで花の蜜を採ればもう終わりでしょ? 行っちゃった方が早くない?」

「夜になると魔物が狂暴化しちゃうしな」

「ここにはジャイアント・ドゥードルバグがでる。その巣はある程度近付かないと表に現れない厄介なものでな。集中力を切らすとかなり危ない。万が一巣に落ちた時には体力も必要だ。どうせ魔物の狂暴化までは2時間あるし、一度休んで7時に発とう」


 そういうことなら否やはない。急いては事をし損じる。

 ユウトもルアンも納得して、みんなでオアシスに向かった。


 このオアシスだが、不思議なことに、涌いている泉の水が聖水になっている。おかげで魔物を寄せ付けないのだ。

 エリアとしては狭いが、多少の果物もあり、一休みするには持ってこいだった。


 レオの後について泉のほとりに行く。


「ここで軽く食事をとろう」

「え、何? ここ」


 そこには、誰かがキャンプした後の古い燃えさしのような物が残っていた。石で組まれたかまどもある。古木が切られ、6人分の切り株の椅子とテーブルもあった。


「……先に来た人がいるのかな?」

「このゲートは昔からある。そしてこの階にピュアネクター・サボテンがあることも昔から知られている。だからこの花の蜜を採るクエストは、今まで何人もの冒険者がこなしているんだ。そいつらが残していったのだろう」

「あ、もしかして、だからこのクエストの位置情報があんなに詳しかったのか? 何度も同じ場所でやってるクエストなら納得」


 言いつつ、ルアンが荷物を降ろした。そのまま袖をまくり、泉で手を洗う。料理をする気満々のようだ。

 石のかまどのところではレオがポーチから料理道具セットを取り出し、準備している。一応ユウトも午前中に買っておいた食材をポーチから取り出した。


「1時間しかないのに、料理する暇ある?」

「簡単なものならすぐ出来るよ。食材選んだのオレだし、オレが作る。レオさん、道具借りていい?」

「ああ。魔工爺様に特注で作ってもらったものだ。使い勝手は良いと思うぞ」


 そう言って差し出された道具を、ルアンがまじまじと見た。


「……何これ? 道具全部に細かい術式が彫り込んである……?」

「包丁は1回振れば汚れが落ちる。その鍋は料理の煮込み時間が10分の1で終わる。まな板は水で軽く流すだけで綺麗になる」

「何その夢のアイテム。……うわっ、マジだ! ベーコン切った包丁の脂が一振りで消える……! うそ、鍋に蓋したら速攻で水が沸騰した!」


 ルアンが料理をしながらいちいち道具に感激している。

 その後ろで、レオに食器のセットを手渡されたユウトはそれをテーブルに並べた。

 買ってきていた小さな白パンをそれぞれの皿に2個ずつ置く。

 コップには家で淹れてきておいた紅茶を注いだ。


 そこで一息つき、空を見上げる。


 日が陰って、ようやく付近の気温も下がってきた。

 バテ気味だったルアンも元気になってきたみたいで良かった。

 ただ、完全に暗くなると今度はぐんと冷えることになる。それまでにクエストが終わればいいが。


「レオ兄さん、暗くなっちゃうとサボテンの花がしぼんだりしない?」


 ここから日の入りはあっという間だ。少し気になって訊ねると、兄も隣の切り株椅子に座った。


「大丈夫だ。ピュアネクター・サボテンは夜に花が咲く。7時に向かうくらいが色々鑑みたタイミング的にちょうど良い」

「そうなんだ。……ただ、足下が暗くなるよね。アリジゴクの巣に落ちないように気を付けないと」

「唯一心配なのはそこだな。とりあえずまっすぐサボテンを見つけて、早めに切り上げたいが。……エルドワ、お前サボテンの花の香りは分かるか?」

「アン!」


 何だか自信ありげな返事だ。


「……何で知ってるんだろ」

「サボテンの花の蜜はとてもいい香りがするらしいからな。エルドワの鼻ならあたりが付くんじゃないか。時間的にそろそろ匂い始めているはずだしな」

「アン!」


 エルドワはもう一度肯定しているらしい鳴き声を上げた。


「35階はちょうど地上帰還用の魔方陣もある場所だ。そこもエルドワには分かるだろうし、ジャイアント・ドゥードルバグにさえ引っかからなければ早い」

「じゃあ、ここからはエルドワ頼みだね。よろしくね、エルドワ」

「アンアン!」


 その頭を撫でながら言うと、エルドワは任せろと言わんばかりに威勢の良い返事をした。




 この時のユウトたちは、まさかウィルの思惑にまんまとはまっているなんて思いもしなかったのだ。

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