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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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弟、魔物の体内に入ったエルドワに慌てる

 盛り上がった砂の中に見える空洞は、おそらくワームの口だろう。

 日陰を求めて入ってきた魔物をそのまま食べてしまうのだ。

 それは効率良くはあるが、体内を晒した無防備な状態でもある。もちろんこちらにとっては都合が良い。


 ユウトは魔力をスパイクボールの形に形成した。こちらに気付いていない敵相手ならば、スピードと威力にだけ力を傾けてこれを真っ直ぐに放てば良い。

 狙いはあの無防備な口の中。


 手のひらの前で練って凝縮した魔力を、マルセンに教わった上位の氷魔法に属性変換する。

 その冷気が周囲を包むほどに大きくなった時、ユウトはそれを手元から放った。


「アイススパイク!」


 ドン、と魔法が大気を蹴って飛び出す。ユウトを中心に砂塵が舞い上がり、全員のマントが大きく翻った。その風圧に危うく転がりかけたエルドワを、レオがむんずとつかまえる。


「うっわ、すごい反動風圧! オレも吹っ飛びそう!」

「この反作用は放った魔力に比例して大きくなる。それだけユウトの魔法の威力がでかいということだ」


 ルアンとレオが言葉を交わしたその瞬間にはもう、呻りを上げた魔法が砂漠ワームの口に到達する。

 それは魔物の体内に接触した途端に膨れ、炸裂した。


「ギュアアアアアア!」


 口の中からいくつもの氷の棘で体表まで貫かれ、ワームはたまらず砂の上に姿を現してのたうつ。その激しさに周囲が舞い上がる砂で煙った。


 砂塵の中の姿は巨大なミミズにしか見えない。目は無く、頭全部が口のようになっている。

 ユウトやルアンなら丸呑みされそうな大きさだった。


 その頭が、こちらに向かってもたげられた。

 ユウトたちの存在を認識したのだ。


 それを確認したユウトが、再び手を翳して追撃の準備をする。

 しかし魔法が発動する前に、身体を立て直した砂漠ワームが砂の中に潜ってしまった。


「ユウト、あいつこっち来るぞ、気を付けろ!」

「潜られると出てくるまで対処できまい。ユウトは後ろに下がれ」

「ん、平気。もう一撃」


 ユウトは気にせず魔法を発動する。

 今度は氷の杭だ。それを何本も空中に並べ、それを操る手のひらを地面に向けた。


「アイシクル・フォール!」


 ユウトの合図に合わせて、大きく尖った氷柱が地面に突き立てられる。一列に並んだその杭の真下から、再び砂漠ワームがもんどり打って姿を現した。

 見事にその身体に氷柱が刺さっている。


「わ、すげえユウト! 何でこいつらをピンポイントで狙えたんだ?」

「さっきのアイススパイクにクズ魔石を仕込んでおいたんだ。魔石と僕の魔力と紐付けしておけば、それを辿るだけで魔法が確実に当たる。ワームは体表がそれほど固くないみたいだったし、地面も砂で柔らかいし、行けるかなと思って」

「以前ドラゴンと戦った時に使った方法の応用か。さすがユウトは賢いな、えらいぞ」


 言いつつ、レオはエルドワを下に置いて、剣に手を掛けた。


「ただ、まだとどめにはならん。こいつは行動不能になった部分を切り離して逃げ、短時間でまた増殖して襲いかかってくる。後ろの方がまだ生きてるからな、逃げられる前に仕留めるぞ」

「うえー、もしかしてそのしぶとさがランクAの所以?」

「それもあるが、倒し切らんとどこまでも何回も襲ってくるから危険なんだ。他の魔物と戦っている時に地面から出てきて、ぱくりとやられることもある」

「そ、それはヤダ……。じゃあ、もう一発魔法を……あれ?」


 ユウトが今一度魔法を発動しようとしたところで、足下にいたはずのエルドワが軽い足取りで砂漠ワームの方に向かっていることに気が付いた。

 何で、いつの間に。

 予想外の行動をする子犬に慌てて声を掛ける。


「え、ちょっと、エルドワ!? 危ないから戻っておいで!」

「アン!」


 しかしエルドワは振り向いて元気に返事をしたものの、そのまま未だに喘ぐようにぐねぐね動いているワームの口の中にひょいっと入っていってしまった。


「えええ!? ど、どうしよ、レオ兄さん! エルドワが……!」

「ふむ……何か考えがあるのか? 少し待ってみよう。消化されそうだったら助ければ良い」

「レオさん、エルドワが消化されそうなタイミングなんて分かんの?」

「勘だ」


 勘って、大丈夫なのだろうか。まあ、レオの勘は他の誰よりもあてにはなるけれど。


 はらはらと見ているユウトの横で、レオは剣に掛けていた手を外して腕組みをした。ルアンも様子を覗っている。


「あ、何か砂漠ワームの身体が干涸らびてきた。もしかしてこれは、切り離される前兆なのかな?」

「そうだ。有用な細胞を全て生きてる方に移して、再生不能の細胞だけを切り捨てる」

「切り離した方から素材とか採れるの?」

「いや。こうやって死んだ細胞はゴミだ。何の役にも立たん」

「何だ、つまんない」


 ユウトがエルドワを心配してそわそわしているのに、レオとルアンは至って普通だ。もしかすると2人にはエルドワが動いている気配が分かっているのかもしれない。

 一体あの子犬は、魔物の体内で何をしているんだろう。


 そう思った矢先、いきなり砂漠ワームがビクンと全身を硬直させ、耳をつんざくような声を上げた。


「ギュイイイイイイイイイイ!」


 そしてそのまま、砂埃と大きな音を立てて、砂の上に身体を落とした。

 何があったのか分からないが、もうピクリとも動かない。


「え? え? どうしたの?」

「……エルドワが仕留めたようだ」

「もう口から出てくるよ」


 わけの分からないユウトの視線の先で、ワームの口から足取りの軽いエルドワが出てきた。入っていった時とほぼ様子が変わらない。

 ただ、その口に何かを銜えていた。


 魔石だ。それも、上位魔石。


「……お前、身体の中に入って直接上位魔石を剥いで来たのか……容赦ないな。だがこれがなければ魔物は生きていられん。砂漠ワームみたいななかなか死なないタイプには覿面だな」


 エルドワの魔石を見たレオは、呆れと感心が入り交じったようなため息を吐いた。

 ユウトの足下まで来た子犬は、ぴるぴると尻尾を振っている。

 その銜えた上位魔石を受け取って、ユウトはその頭を撫でた。


「魔物を仕留めてくれてありがとうね。でも危ないことしちゃ駄目って言ったでしょ? 寿命縮みそうだから、あんまり心配させないでね」

「アン!」


 この返事は肯定なのか否定なのか。

 考え込みながら、ユウトは受け取った魔石を見た。


「……何か、この上位魔石、普通のものより複雑な色合いしてる」

「まだ生きてる魔物から剥ぎ取るとそういう色になる。街中で出回っているのは死んだ魔物から剥ぎ取った魔石だから、少し質が落ちるんだ。……とはいえ、もちろん後者の方がスタンダードだが」

「生きてる魔物から魔石を取るなんて可能なんだ? オレ、初めて見るけど」

「これはかなり珍しいから普通は見ない。魔石は魔物にとって心臓のようなものでな、生きている間は隠されているし、個体によってその場所もバラバラなんだ。それを体内に潜り込んで一発で剥ぎ取ってくるなんて、そうそう出来ることじゃないぞ」

「そうなんだ。エルドワってもしかしてすごい子なの?」

「アン!」


 エルドワは何となくドヤ顔をしている。


「こいつはとにかく鼻が利くようだ。階段も、魔石も、おそらくそれを形成する魔力の匂いを嗅ぎ分けている。これは、ゲート攻略には不可欠な存在になるかもしれん」


 レオがこんなに絶賛するなんて。

 何の気なしに預かった子犬なのに、このエルドワは一体何者なのだろう。


「とりあえずユウトの魔法も上々だし、エルドワも役立つし、思ったよりも早くクリアできるかもしれないな。砂漠ワームの素材を剥ぎ取って、次に進むぞ」

「うん、そうしよ、このゲートは暑いし無駄に広いし、出れるなら早く出たい。……素材はオレたちで剥ぐから、ユウトはそこでエルドワと見てて」

「……僕だって解体用ナイフ持ってるけど」

「こいつ、内臓ブシャーとかなるけど平気?」

「すみません、お願いします……」


 ユウトは深々とお辞儀をするしかなかった。

 レオとルアンが平気なのは、料理をする人だからなのだろうか……。まだ魚も捌けないユウトは、2人を尊敬のまなざしで見る。


 しかしブシャーしだしたので、その後はずっと後ろを向いていた。


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