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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄、ウィルのテンションがウザい

 危うい。


 レオは眉間にしわを寄せた。

 降魔術式の発動がなくなったと思っていたけれど、それは絶対ではない。ウィルのような卓越した記憶力があれば、詠唱は可能なのだ。

 魔法と違って、術式発動には大きな魔力は必要ないのだから。


 今回の接触だけでは、まだウィルはジアレイスの考える候補の1人に上がったにすぎない。しかし、もし店主などから聞き出して彼の類い希なる記憶力を知ったなら。

 ウィルを引き込もうと画策される可能性は高い。


「……ジアレイスは、おそらくお前を魔研の一員にしようと考えている」

「私は魔物に大変な興味はありますが、実験に使ったり生体を歪めたりするような行為は嫌悪対象です。誘われてもお断りします」

「断れる状況ならそうだろう。だがジアレイスたちは禁書をいくつも持ち出している。人間を操る技術がないとも限らん。……かつて、あの子がそうだったように」


 ユウトが魔研に囚われていた頃も、奴らは禁書の知識で作った使役の首輪を彼に填めていた。あれが半魔だけでなく人間にも効果があるのかは謎だが、それに近い物があっても驚かない。


「私は研究職でもなんでもありません。こんな私を引き込んでも意味がないと思いますが」

「いや。お前の記憶力は奴らにとって、すぐにでも欲しい能力だ。……まあ、王都にいればそうそう手出しは出来まいが、奴らとの接触は極力避けた方がいい。気を付けろ」

「私の記憶力が、彼らの何の役に立つと?」

「……多分、降魔術式発動のために、4人目の詠唱者として使おうと考えている」


 そう告げると、ウィルは一瞬目を瞠り、それから僅かに思案したようだった。


「それはつまり、今の彼らは降魔術式を使える人数でなく、私を加えればその術が使えると、そういうわけですね」

「そうだ」

「確か、降魔術式は生け贄の必要な術だと理解しているのですが」

「ああ、生け贄か餌だな」

「つまり魔研が今後また、術を発動する心づもりだということに他ならないわけですよね。でしたら、術式用の贄だって今から確保しておくのではないでしょうか」


 ウィルの言葉で、レオは彼が何を言わんとしているのかを察して目を丸くした。

 そこには思い至っていなかった。


「そうか、店主たちが生け贄として、その時まで生かされる可能性もあるということか」

「処分する予定の人間なら、贄として使っても外部に漏れないでしょう。ジアレイスたちは今まで見る限り目立つ問題行動を避けている様子ですし、人を拐かすようなあからさまな犯罪を犯すリスクを取るより、そちらを選択する確率の方が高い」

「なるほど。……まあ、王都からの査察には店主たちを断罪して処分したと言うだろうが、領主宅の地下辺りに閉じ込めておけば分からんしな」


 魔界からの魔物召喚の生け贄としては強さのランクが圧倒的に足りないが、この世界からの召喚の餌としてならば条件はかなり緩い。半魔ひとりで何回分かを賄えるくらいの生命力で足りるのならば、一般的な人間でも数人をまとめれば餌として使えるだろう。


「となると、やはり俺たちはしばらくは下手な手出しをしないでおいた方が良さそうだ。ジラックにいる仲間に連絡だけ入れておこう」

「私はいかが致しましょうか?」

「とりあえず、お前は魔研からの接触に気を付けろ。それから、未だに思惑がよく分からんジアレイスについての考察をして欲しい。内密な話もあるし、悪いが昼間に時間を作れるか? できればジアレイスのことをよく知る男の話も直接聞いてもらった方がいい」

「承知しました。ちなみに、その男とはどなたですか」

「魔法学校講師のマルセンだ」

「ああ、あの方ですか。了解です」


 ウィルはマルセンの名前に軽く頷いて請け合った。どうやら彼を知っているようだ。

 どういう伝手かと思ったが、考えてみればマルセンも数年前まではランクAの冒険者だった。顔見知りなのは当然か。


 そう納得して、レオはその話を終えた。


「ところで話は変わるが、明日の早朝にお前のところにランクAのクエストを受けに行こうと思っている。報酬代わりに、お前の欲しいデータか素材のモンスターを討伐して来るから、好きなのを選んでおいてくれ。ルアンが依頼を取りに行く」

「……何ですって?」


 あ。これだけで途端にウィルの瞳が輝いた。

 つい今し方まで感情が死んでたみたいだったのに。


「私の欲しいデータの魔物……ランクAなら何でもよろしいのでしょうか?」

「構わん。特に目当てのモンスターがいるわけじゃない。ユウトの実戦練習だし、どんな魔物にも対応できるようにしないとならんしな」

「多少難敵でも?」

「問題ない」


 ランクAで、尚且つ未だにモンスターデータが揃っていない魔物なんて、難敵に決まっている。それは承知の上だ。

 ユウトの魔法を試すなら、簡単に退治できるような敵では意味がないのだからそれで構わない。


 ユウトがメインで戦ってそれをレオとルアンで補助する形なら、多少面倒な相手でも大して危険も無いだろう。


「データの欲しい魔物……ああ、色々いるから迷う……!」

「今後、いくつかのランクAクエストを受けるつもりだ。1種類に絞る必要はないぞ」

「マ、マジですか……!? やはりレオさんたちは神だった……!」

「それやめろ。拝むな。無駄にテンション上げんな。ウザい」


 目の前に魔物の素材やデータがあるわけじゃなくてもこれか。

 クエストを終えて帰ってきた後にどんなテンションになるかと考えただけで鬱陶しい。前回もユウトを泣かせたし。


「そう言えば、お友達のルアンさんですが、職業盗賊でしたね。もしかして、アイテムスティールも可能ですか?」

「ああ。まだランクBだが、盗賊としての職業センスはなかなかのものだからな。成功率は高いと思うぞ」

「それはありがたい! ランクAモンスターからのアイテムスティールはかなり難しいので、未だに図鑑に空欄が多くて……。その辺りを加味しながら、良いクエストを見繕っておきます! ご期待下さい!」


 意気込みがすごい。

 きっと今、彼の頭の中では優先順位を探って、ものすごい量の魔物データのソートが行われているんだろう。


「じゃあ、明日ルアンに直接お前の受付に取りに行かせる。準備だけしておいてくれ」

「かしこまりました!」


 ものすごく良い笑顔でびしっと敬礼したウィルと、ちょっと目を合わせたくないレオだった。


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