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【書籍化企画進行中】異世界最強兄は弟に甘すぎる~無愛想兄と天使な弟の英雄譚~  作者: 北崎七瀬


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兄弟を取り巻く人たち【ウィル】2

 店主とジアレイスの力関係は歴然だった。

 今まで幾度となく金銭的な窮地を救われた店主がジアレイスを見る目は、信頼というよりは依存、執着を感じさせる。そう、邪教に心酔した信者とでも言えばしっくりくるだろうか。


 ウィルはその歪な関係を見て、店主への説得を諦めた。

 この完全なる洗脳状態では、いくら魔研の思惑を並べ立て、彼の身の危険を語ったところで無駄だ。逆に店主を反発させ、ジアレイスたちへの執着を強固にさせるだけ。

 今の店主には、この男の見下した視線すら、高尚なものに見えているに違いない。


 ウィルは早々に思考を切り替えて、ジアレイスのみへと関心を移した。


「あなたがおじさんの取引のお相手ですか? 家を引き払うような出立を、何故こんなに急ぐ必要が? ジラックで何か喫緊の事態が起きたと考えるのが普通でしょう」

「……貴様は何者だ。パームの関係者か?」

「いえ、近所に住む者です。中を覗いたらいきなり店を畳んでいたので、誰かに誑かされているのではないかと思いまして」

「……ふん、若造には商売の駆け引きなんぞ分かるまい。関係者でないのなら立ち去れ」


 軽く挑発してみたが、ジアレイスは感情的な反応はしないようだ。図星を突かれて動揺する様子も見せない。

 おそらく一般人など相手にしていないのだろうが、それでも思慮深さが感じられる。刹那的な反応を見せない人間というのは、なかなかに誘導が厄介だ。


「ウィル、導師様に失礼な口をきくな! 用がないならどこかに行け!」


 逆に、店主の方は分かりやすい。

 知り合いがジアレイスの機嫌を損ねることで、自分にとばっちりが来るのを恐れている。信頼ではなく、依存の証だ。自分の方からしっかり手を握ってしまっている。これを放させるのは現時点では不可能だ。


 こちらの店主だけではない。ロジー鍛冶工房の店主もきっと同じ状態だろう。2人は同じ男を崇めるライバル同士の狂信者みたいなものだ。

 一体、ジアレイスたちはいつから彼らに目を付けて、その依存心を手玉に取り、利用して操っていたのか。そう考えると店主たちも哀れではあるのだが。


「……ああ、すみません。確かに失礼だったかもしれませんね。今回のお仕事ではジラックの領主様もおじさんを歓迎して下さっているという話でしたから、まさか誑かされたりするわけがありませんか」

「何……? 領主の話をしたのか……」


 大した抑止力にはならないだろうが、少しだけ揺さぶりを掛けてみる。

 するとジアレイスは今度は忌々しげな表情を隠さず、軽はずみにその名をウィルに告げた店主を睨んだ。


「も、申し訳ございません……」


 それだけで竦み上がる店主。まるで看守と囚人のようだ。


「もしかして、かなり内密なお仕事でしたか。ご安心下さい、おじさんはその内容については一切しゃべっていません。……それにしても、おじさんが高位の導師様や領主様と懇ろだったなんて知りませんでした」


 ウィルの言葉にジアレイスが不愉快そうに顔を顰める。

 それでいい。

 裏での繋がりを知られれば、店主をジラックに着いてすぐには処分しづらいだろう。騙してジラックに呼び出しているなら尚更だ。

 もちろんこれで処分回避はできまいが、その決行日が1日2日延びるだけでも、事態は変わる可能性がある。この駆け引きはきっと無駄にはならない。


 ただ、これ以上の突っ込みは、ウィルの身を脅かすことになりかねなかった。

 引き際は弁えている。

 ウィルは何も知らない振りをして、自分の言葉に肯定も否定も受けないうちに話を変えた。


「ところで導師様は、ずいぶん高位の方ですね。そのローブ、深部の宝箱からしか出現しない術士専用装備でしょう。詠唱補助が付いていたはずですが」

「……ほう、お前はこれが見ただけで分かるのか?」

「一応、要識別アイテム鑑定の資格を持っているので。とてもレアなものですよね。常人では手が出ない代物です」

「ふん、よく知っているな」


 話題を振って、その反応を見て分析する。

 この男、単純な持ち上げには簡単に乗ってくるようだ。少しだけ掘り下げてみよう。


「普段はどのようなお仕事をなさっているんですか? 何か研究機関のようなものでしょうか?」

「愚問だ。高位の術士が簡単に人に言える仕事をしていると思うか」


 さすが、そつのない答え。簡単に誘導されてはくれない。

 しかし機嫌は下がらないところを見ると、この問答自体は不快ではないらしい。

 その様子を観察していると、予想外で、逆に話しかけられた。


「……お前、未鑑定アイテムの識別ができると言ったな。鑑定のランクは」

「一応Sまでできます」

「……ほう。だいぶ優秀な男のようだ。確か、あの資格を取るには大した情報記憶が必要だったはずだが」

「私は記憶ものが得意な方ですので」

「……そうか、ふん、それは使えそうだ」


 何だろう。いきなりこちらに興味を持ち始めた。

 珍しい資格を持っているからか? その視線は、ウィルを品定めしているようだった。

 想定外の反応は、ウィルの持つひな型から外れている。


 ……これは、仕切り直した方が良さそうだ。

 呑まれるつもりはないが、すでに会話の手綱を握り損ねている。


 ウィルはジアレイスから視線を外し、そこで話を切り上げることにした。


「……さて、そちらは急ぎの出立だというのに、余計な話でお二人の邪魔をしてしまってすみませんでした。私はこれで失礼します。……おじさん、お達者で」


 ひとつお辞儀をし、店主とジアレイスを残してウィルはさっさと外に出る。


 どうせこれ以上ここで自分に出来ることはもう何もなかった。

 次にするべき事と言えば、レオたちに闘技場の破壊を確認して、ジアレイスとの邂逅、パーム工房店主たちのジラック行きを報告することだ。


 とりあえず打てる手は打ったし、何よりジアレイスと直接相対できた。

 ここからはさらに考察を繰り返し、仮説を立て、レオたちに確率の高い道筋を提示すればいい。


 ……その報酬に、少しだけランクS素材あたりを頂けたら、それでいいのだ。


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